長閑な日曜日の午後。
町の一画にあるこのピアノ教室には、日曜にも関わらず、人の気配があった。
「講師のです。どうぞ宜しくお願いします。」
「間柴久美です、宜しくお願いしま〜す!」
「幕之内一歩ですっ、宜しくお願いしますっ!」
ここは、が講師として勤めているピアノ教室である。
この場に居るのは、・間柴久美・幕之内一歩、この三人。
「な、何だか、改めて自己紹介すると照れますね、ははは・・・・」
「ふふっ、そうですね。今更自己紹介なんて必要ないですものね。」
「そうそう。私達、お互いにう〜んと顔見知りだし。ね、お兄ちゃん?」
・・・・プラス、間柴了である。
久美の言う通り、この四人は旧知の間柄だ。
間柴と久美は兄妹、そして、一歩と久美は友達以上恋人未満という、青春ラブコメディの典型のような関係にあり、間柴とは身も心も結ばれている恋人同士である。
にも関わらず、妹の久美が笑い掛けても、間柴は苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いただけだった。
「もう、お兄ちゃんたら!折角さんがピアノ教えてくれるっていうのに、もうちょっと楽しそうな顔しなさいよ!失礼でしょう!」
「うるせぇ。楽しくねぇ。」
「じゃあ何でついて来たのよ!留守番してれば良かったじゃない!」
「俺にはお前と幕之内を見張るという使命があるんだよ。」
「何の使命よ、それ!」
どうやら間柴は、いつもの如く、一歩と久美を監視する為について来たようだ。
「ま、まあまあ二人共、その辺にして!」
間柴が一歩と久美をつけ回すのがいつもの如くなら、それに対して久美が怒るのも毎度の事。
すっかり慣れっこになっているは、二人をにこやかに宥めた。
「それでは、今からレッスンを始めます。」
三人を席につかせて、はこう宣言した。
いつもは恋人であり、恋人の妹であり、恋人の妹の限りなく彼氏に近い友達である三人だが、
今日は全員の生徒である。
生徒と言っても、月謝を払って定期的に通って来る正規の生徒ではなく、このピアノ教室で催している初心者対象の無料体験レッスンの、だが。
久美がこれに興味を示し、誘われた一歩がホイホイとついて来て、いつもの如く間柴がこの二人に付きまとい添い、今に至る。
しかし、どんな経緯でここに来たとしても、生徒は生徒。
「では皆さん、ここから何か弾きたい曲を1曲選んで下さい。」
全員に1曲ずつ弾いて貰う為、は三人の前に数冊の楽譜を差し出した。
ごく有名なクラシックの曲やポピュラーミュージックばかりが載ったその曲集は、どれも初心者向けにアレンジされており、原曲でなら高い技術を要するような曲でも簡単に弾けるという優れモノである。
「あっ、『エリーゼのために』がある!この曲、昔から弾いてみたかったんだぁ!あぁ、でも他にも色々ある!どうしよう、迷っちゃう!」
「本当、迷ってしまいますよね!・・・・・あっ、『チャンピオン』がある!僕、これにしようかなぁ?」
一歩と久美は、嬉々として曲を選び始めたのだが。
「チャンピオン?・・・・・テメェでテメェに捧げる気か?随分調子乗ってんじゃねぇか、あぁ?幕之内ィィィ・・・・・・」
「す、すいません・・・・・!」
間柴は一歩にケチをつけるだけで、曲を選ぼうとしなかった。
「もー、お兄ちゃん!!幕之内さんに絡んでないで、お兄ちゃんも1曲選びなさいよ!」
「俺は弾かねぇ。」
「えーっ!?そんな事言わないでよ、了!折角なんだから。ね?お願い!」
「弾かねぇったら弾かねぇ。」
久美とがあの手この手で説得するも、間柴は頑として楽譜を手に取ろうとはしない。
その頑なな様子に、久美とは呆れ顔を見合わせた。
「ごめんなさい、さん。もう本当に、うちの兄ったら!」
「ううん、良いのよ、久美ちゃん。じゃあ了、気が向いたら声を掛けてね。」
「フン。」
としては残念極まりなかったが、こうなったらテコでも動かないのが間柴である事も良く承知している。
従って、レッスンは事実上、一歩と久美だけに対して行う事になった。
ごくごく基本的な基礎知識をレクチャーした後は、いよいよ実際にピアノを使ったレッスンに入る。
まず一番手は久美だった。
「私が伴奏をつけるから、久美さんはメロディーの部分を弾いて下さいね。」
「は〜い、宜しくお願いします♪」
「じゃあ、さん・はい。」
ポロ、ポロ、ポ、ポ、ポ、ポポン。
の合図の後、久美の右手が、ベートーベンの名曲『エリーゼのために』の出だしのフレーズを奏でた。
が、そのメロディーは実にたどたどしく、歯切れが悪い。
おまけに、最後の一音が外れている始末である。
「あぁっ、失敗しちゃった!駄目ねぇ!」
「良いの良いの、焦らないでゆっくりと、ね。じゃあもう一度。」
「はい!」
しかし、初心者なのだからこれで当然だ。
華麗に弾きこなそうと思えば、それ相応の基礎レッスンをしっかりと積み重ねなければならない。
それを敢えて大幅に省いているこの無料体験レッスンのコンセプトは、ピアノに触れて楽しむ事なのである。
「きゃあっ、また失敗しちゃった!」
「ふふっ、じゃあこの小節からもう一度ね。」
そして久美はそのコンセプト通り、ピアノに触れる事を楽しんでいた。
その姿は、一歩などにとっては、それはもう目も眩む程に可憐な訳で。
― 良いなぁ。やっぱり久美さんって可愛いなぁ・・・・・
などと思いながら、小鼻を膨らませていた。
ところが、そんな一歩の姿は、間柴の癇に酷く触る訳で。
「・・・・テメェ、スケベ面して人の妹舐めるように見てんじゃねぇよ。」
「なっ!?そっ、そんなんじゃないですよ!」
「じゃあ何だよ、その五円玉がぶち込めそうなぐらい拡がった鼻の穴は。小銭詰めてやろうか、ああ?」
「・・・・・・・・・・((((;゚Д゚)))」
「随分余裕こいてるみてぇだが、さぞかし満足に弾けるんだろうなぁ?
愉 し み だ ぜ 、テメェのピアノ。」
「ヒィィィ、勘弁して下さいよぅ・・・・!」
キュンキュンと高鳴っていた胸の鼓動は、一瞬にして恐怖と焦りから来る動悸へと取って変わられた。
女性陣の見ている所でなら庇って貰えたのだが、生憎と彼女らはレッスンに熱中しており、待機中の男性陣など視界に入っていない。
従って一歩は、自分の順番が来るまで、間柴の隣で生命の危機を感じて震え続ける事を余儀なくされたのであった。
「お待たせしました、次は幕之内さんね。どうぞ〜♪」
「はっ、はぃぃ!」
そんなこんなでやっと順番が回って来て、一歩は命拾いしたとばかりにピアノへと駆け寄った。
「えっと、曲は『THE ROSE』。ベッド・ミドラーね。」
一歩が選んだ曲は、70〜80年代のアメリカンポップス界に燦然と輝いたベッド・ミドラーの珠玉のナンバーであった。
「は、はいっ。くくく・・・久美さんが・・・・お好きなんだそうで・・・・。あっ、僕も好きなんですけど!はい!」
「ふふっ、良い曲ですもんね、これ。」
それにつけても、一歩の純情さには凄まじいものがある。
顔を真っ赤にして弁解しながらも、久美の好きな曲を弾こうとしている一歩が微笑ましくて、は思わず笑みを零した。
「じゃあ、テンポはゆっくりで良いですから、始めてみましょう。」
「はっ、はぃぃ!!」
一歩は鼻息も荒く、鍵盤に指を置いた。
そのやる気と気合は素晴らしかったのだが。
「あ、あれ?何かおかしいぞ。」
「そこは『シ』じゃなくて『ド』ですよ。じゃあ、もう一度。」
「・・・・・あ、あれ?指が・・・・」
「小指は力が入り難いでしょう?意識して、しっかりと芯まで鍵盤を押さえて下さい。」
「はっ、はいっ!」
結果はこの通り。
音感にもリズム感覚にも乏しい一歩は、久美以上にをてこずらせていた。
「あぅ〜〜っ、難しい・・・・・!」
「落ち着いて、リラックスリラックス。ほら、肩がこんなに緊張してる。もっとゆったりと構えて。」
「わっ・・・・・!」
必死になる余り、ガチガチに固くなっている一歩の肩を、は優しく撫でた。
そればかりか。
「余計な力は抜いて、指をまっすぐにストンと下ろすんです。こう。」
「あ、あわわ・・・・・」
優しく一歩の手を取って、正しい弾き方を直接その手に教えているではないか。
そして一歩は、その純情さ故に顔を真っ赤にし、明らかにを意識して狼狽している。
これを見て面白くないのは。
「・・・・・んのヤロウ・・・・・・」
これまた間柴了である。
に他意などある筈がないのは分かっているのだが、一歩の表情が気に食わないのだ。
「何勘違いしてやがんだ・・・・」
忌々しげに独り言を呟いていると、隣で久美が呆れたように言った。
「別に何も勘違いしてないでしょう。何怒ってんのよ?」
「お前はどうなんだよ?目の前でアイツが別の女に鼻の下デレデレ伸ばしてやがるんだぞ。」
俺が女なら絶対許さねぇ、だから久美だって頭に来ている筈だと、間柴は確信していたのだが、久美は意外にも涼しい表情を崩さなかった。
「別に。」
「な・・・、何でだよ。」
「別の女って、さんはお兄ちゃんの彼女じゃない。それは幕之内さんだって知ってるんだし。だから例外。」
「そ・・・・、それはそうだけど・・・・よ・・・・」
「私、さんの事信用してるもん。それに幕之内さんも・・・・、何て言うか、ああいう性格だし。凄く優しくて真面目すぎる人だから、人より純情で不器用なのよね、きっと。」
それどころか、に手を取られながら必死でピアノを弾いている一歩を、眩しげに見つめているではないか。
あわよくば、久美と結託してから一歩を引き剥がしてやろうと思っていたのに、とんだ計算外だ。
「そんなに嫉妬深いと、さんに嫌われちゃうわよ?恋愛って、相手を信用しなきゃ成り立たないわよ。」
「ケッ、うるせぇ。生意気言いやがって。一人で勝手にときめいてろ。」
「あっ、お兄ちゃんっ、何処行くの!?」
完全に鶏冠に来ていた間柴は、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、ツカツカとピアノの方へ歩み寄った。
「おいコラてめぇ、幕之内ィィ・・・・」
「はっ、はいぃぃっ・・・・!ななな、何でしょうか・・・・!?」
「さっきから黙って聞いてりゃ、何だそのド下手くそなピアノは。これじゃ幼稚園児の方がまだマシだぜ。」
「す、すいません・・・・・、僕、音楽の才能無くて・・・・・」
「才能の無ぇトーシロは黙って引っ込んでりゃ良いんだよ。とっとと散れ、オラ。」
「うぅぅ・・・・、す、すいません・・・・・」
「ちょっと、了!」
「お兄ちゃん!?」
女性陣が怒るのも構わずに、間柴は一歩を退かせると、の方を向いて言った。
「・・・・・おう、次は俺の番だ。」
「え・・・・?了、レッスン受ける気になったの?」
「んだよ、悪ぃかよ。」
「べ、別に悪くはないけど・・・・・。じゃあ、ここに座って。」
がピアノの椅子を引こうとするのを、間柴は片手で制した。
「いや、俺は弾かねぇ。お前が何か弾いてくれ。」
「え?でもそれじゃ・・・」
「ちょっと位教えて貰ったからって、すぐ弾ける訳ねぇだろ。俺は聴くレッスンを受ける。」
そう言うと、間柴はまた元の席に戻り、いつの間にかちゃっかり隣り合って座っていた一歩と久美の間に割り込んで、どっかりと腰を落ち着けた。
迷惑そうに顔を顰めている久美と青ざめている一歩、そしてふんぞり返っている間柴を見てプッと吹き出した後、はピアノの中央部に向かうように座り直した。
「・・・・分かった。じゃあ、まだ了に聞かせた事のない曲を弾くわね。」
そして、の指が、柔らかいメロディーを紡ぎ始めた。
「ああ・・・・・、素敵だったぁ〜・・・・・!何か感動しちゃった!」
「僕もです!やっぱりプロは違いますね!僕なんかとは大違いだ、ははは!」
「それを言うなら私もですよ〜!やっぱり、さすが先生ですよね、さん!本当に同じピアノで弾いてるのかしらって思う位、私達とは全然違うもの!」
レッスン終了後、の演奏にいたく感動したらしい久美と一歩は、高揚した口調でに称賛の嵐を送っていた。
「私もあんな風にピアノが弾けたら良いなぁ!今日もとっても楽しかったし、私、本格的に習っちゃおうかしら?」
「本当!?嬉しい〜!大歓迎よ!今なら入会金無料で〜す♪・・・・なーんて、営業しちゃったりして。ふふっ。」
「じゃあ、その営業に乗せられちゃおうかな〜。うふふっ!ね、どう思う、お兄ちゃん?」
どうやら久美は、半分以上本気らしい。
自分の与り知らぬ所で女同士の結び付きがより一層強まるのは気に入らないが、の仕事に貢献出来るし、久美だっての教室になら安心して預けられる。
故に、間柴は特に反対しようとは思わなかった。
「・・・・フン。勝手にしやがれ。」
「良いの!?やったー!」
「ぼ、ぼぼ、僕も習っちゃおうかなぁ〜・・・・。ぼ、僕も今日、凄く楽しかったし・・・」
「本当ですか、幕之内さん!?是非一緒に習いましょうよー!一人で習うより、幕之内さんと一緒の方が、私も長続き出来そうですし♪」
「そ、そうですかぁ?え、えへへ・・・・」
しかし、コレは話が別だ。
「そ、そうですよね。一人より二人の方が、励まし合って長く続けられそうだし!」
「でしょう!」
「それに僕も、ボクシング以外の趣味も持った方が良いかなぁと思っていたところだったんですよ。ほら、僕、無趣味だから、怪我とかしてボクシングしたくても出来ない時なんか、煮詰っちゃって困るんですよね。そんな時、他に趣味でもあったら少しは気が紛れるかなぁ、なんて。ははは!」
「そうですよ!幕之内さんは絶対、他にも趣味を見つけた方が良いと私も思います♪」
「そ、そうですか?」
「はい!そうすれば、怪我の治療中に無理をする事もなくなるだろうし。私個人としても、看護士としても、お勧めします♪」
「そ、そっかぁ・・・・・。じゃ、じゃあ僕も・・・・、くくく、久美さんと一緒にピアノ・・・・、習っちゃおうかなぁ・・・・、えへへ・・・・・」
「何が『習っちゃおうかなぁ』だ。馬鹿かテメェ。」
間柴は、ドスの利いた低い声で、久美に乗せられて浮き足立っていた一歩の心をバッサリと斬り捨てた。
「テメェみてぇな不器用な奴が、あれこれ満足にこなせると思ってやがんのか?ケッ、笑わせるぜ。」
「お、思ってません、すいません・・・・(涙)」
「ちょっと、お兄ちゃん!意地悪言わないでよ!折角幕之内さんがやる気になってるのに!」
「ケッ、何の『やる気』か分かったもんじゃねぇ。俺の見てない所でコソコソ久美と会えると思ったら大間違いだぜ、幕之内ィィィ・・・・・」
「ヒッ、ヒィィッ!!す、すいませんすいません!すいませーーーんッッ!!!」
「あっ、幕之内さんっ!・・・・・もう、お兄ちゃん!?後で覚えてなさいよ!幕之内さん、待って下さーーいっ!!」
間柴が両の眼に滾るような殺気を漲らせると、一歩は青ざめた顔を引き攣らせ、走って逃げて行った。
そして、久美がその後を追って行き、教室には間柴とだけが残された。
「もう、了ったら・・・・・。あんなに虐める事ないじゃない。」
「良いんだよ。あれ位言ってやっていい加減なんだ。良いか、幕之内の野郎が入門したいって来ても、入れるんじゃねぇぞ。」
「どうして?」
嫉妬深いと、さんに嫌われちゃうわよ?
・・・・嫌われちゃうわよ・・・・嫌われ・・・・・
「・・・・・フン」
久美の言葉が頭を木霊して、間柴は気まずそうに口を噤んだ。
「ふふっ、変な了。」
「うるせぇ。」
「そんなに久美ちゃんが心配なら、了も一緒に習いに来たら?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。あれこれ満足にこなせる程、俺は器用じゃねえんだよ。俺は、中途半端で終わる位なら最初からやらねぇ主義だ。」
「・・・・・そっか。残念。」
は小さく肩を竦めてから、不意に柔らかな眼差しで間柴を見上げた。
「・・・・でも、ちょっと意外。」
「何がだよ?」
「『下らねぇ』とか『つまんねぇ』とか言われるのかと思ってたから。」
「・・・・・・・・・別に。」
下らなくもつまらなくもない。
のひたむきな情熱が込められているピアノを聴く事は。
のピアノに対する思いを良く知る間柴は、の弾くピアノが好きだった。
「さっきの曲、何ていうんだ?」
「夢。ドビュッシーの『夢』って曲よ。」
「フ・・・ン。」
口に出しては言わないが。
「聴くレッスンなら、また受けてやるよ。無料ならな。」
「申し訳ございません。無料体験レッスンはお一人様一回限りと決まっておりまして。」
素直に口に出せないから、わざと横柄な物言いで遠回しに告げる。
すると、もまた、わざと他人行儀な喋り方をする。
これが只の図々しい客とそれに卒なく対応しているだけのスタッフなら、会話はこれで終わるだろう。
「だから・・・・・・、続きは家で個人レッスンさせて頂きたいのですが・・・・・、どうでしょう?」
そうならないのは、互いが互いの気持ちを知っているから。
二人が愛し合っているから。
「・・・・・夜、そっち行く。」
「ん・・・・」
どちらからともなく寄り添って、二人はやがて、そっと唇を重ね合わせた。
「・・・・ぼ、僕、見てはいけないものを見てしまった気がします・・・・」
「わ、私もです・・・・・」
「こ、ここで出て行ったら、やっぱり気まずいですよね・・・・・?で、でも、それじゃ入会の申し込みが出来ないし、そうなったら何の為に戻って来たのか分からなくなるし・・・・・。どどど、どうしましょう、久美さん・・・・?」
「ど、どうって・・・・・、か、帰るしかないじゃないですか・・・・・!これじゃ入会の申し込みどころじゃなさそうだし・・・・・」
・・・・・ところを、戻って来た一歩と久美に見られているなどとは、露程も知らずに。