「あ〜あ、ごっつ疲れた・・・・」
「私もや・・・・・」
強制デュエット地獄からようやく解放され、千堂とは命からがら逃げ出して来た。
そして気心の知れた同い年同士、疲れた身体を癒しながらまったりと寛いでいた。
しかし彼らを苛む者は、年配者だけではなかった。
「なあなあロッキー遊ぼうや!!」
「姉ちゃんも!!」
大好きな千堂とを大人達に奪われて面白くなかった子供達が、ここぞとばかりに駆け寄って来た。
「「遊ばへん・・・・」」
力なく答える千堂と。
しかしそんな事でこの子供達がめげるはずもなく、問答無用に二人の手を引っ張った。
「なあて!!遊ぼうや!!」
「ヒマやんか〜!!」
「おのれらだけで遊んどけや!!ワイ今しんどいねん!!」
「そうや、あんたら、あっちにジュースとお菓子あるで。食べといで!」
は子供達の注意を逸らそうとした。
しかし。
「もうさっき食べた!!今いらん!!」
「・・・・さよか。」
その目論見は一瞬にして崩れ去った。
「なあ、何かして遊ぼうや!!」
「なあロッキー!!」
「姉ちゃん〜!!」
「遊んでくれるまでずーっとここおるで!!」
「そや、ずーーっと騒いだんねん!!」
子供達は小生意気にも脅しをかけてきた。
しかし所詮は子供。すぐに飽きて何処かへ行くだろう。
そう考えた千堂とはしばらく放っておいたが、子供達は宣言した通り、二人の横で延々と騒いだ。
いや、『騒ぐ』というレベルではない。『暴れる』と言った方が正しかった。
腕を掴み、肩を揺すり、あまつさえ脇腹を擽ってくる。
「だーーーー!!やめんかおのれら!!」
「分かった!分かったから離し!!」
上機嫌の子供達と疲れた顔の大人二人という一行は、夜の公園内を散策していた。
「なあなあロッキー見て見て!!あの人らチューしてるで!!」
「あぁ?うぉっ!!!」
「ぃやっ!!」
子供達が指し示したのは、木にもたれ掛かった若いカップルの姿であった。
但し、子供達が言うような『チュー』などという生ぬるい代物ではなく、明らかにコトの最中だったのだが。
そんな事は知らない子供達は、ひたすら『チューしてる』『チューしてる』と楽しそうに騒いでいる。
「うっわ〜〜、ごっついなぁ・・・・ワイ初めて見たわ、実際人がヤッて・・・」
「言うなアホ!!」
「痛ったいの〜〜・・・、グーで殴んなや!」
は思わずまじまじと見物していた千堂に制裁を加えた。
ついでに子供達も急かして、足早に立ち去ろうとする。
「あんたら!いつまで見てんねん、早よ行くで!!」
「えーー、見ぃひんの!?」
「もうちょっと見とこうや〜!」
「アホかお前ら!!騒ぐな!気付かれるやろ!!行くぞ!!」
見ていたいのはやまやまだが、さすがに気付かれるのはマズい。
子供達の騒ぎ声でお取り込み中のところを邪魔するのも申し訳ない。
千堂とは騒ぐ子供達を引き摺りながらその場を離れた。
ギャーギャーやかましい子供達に缶ジュースを買ってやり、一行はどうにかベンチに落ち着いた。
「なあなあ、あの人らチューしとったなぁ!」
「もうええっちゅーねん、しつこいな。」
「でも変やったな。TVでやってるのと全然ちゃうかったやん。」
「ホンマやな、TVのんとちゃうかったな。」
「なあなあロッキー?」
「何や?」
「なんであの兄ちゃん後ろから抱きついてチューしてたん?」
「「!!」」
返答に非常に困る質問をされ、千堂とは気まずそうに顔を見合わせた。
「ワイ前から思っててんけど、こいつらわざとか?」
「ちゃうと思うけど・・・・。なんやしょっちゅうこんな事聞かれてるような気ぃするなぁ・・・」
「あかん、ワイこいつら悪魔に見えて来たわ・・・・」
「なぁて!何でなん!?」
「さ、さぁ、知らんわ・・・。流行りちゃう?」
「流行りやねんやったら、何でTVでやれへんの?」
「そうやそうや!!」
苦し紛れの返答では、やはりこのリトルデビル達を満足させられないようである。
「そんなん知るか!!TVはTV、あの人らはあの人らじゃ!!」
「ロッキーワケ分からん!!」
「やかましわ!!」
「やっぱり絶対変やったで、あの人ら!!」
「そうや!服もぐちゃぐちゃやったしな!」
「「!!!」」
いよいよ危なくなってきた。
子供達の指摘通り、確かに彼らの着衣は乱れていた。
ただ服と夜の闇に隠れて危険な部分が見えなかったのだけが、不幸中の幸いであった。
事がコトだけにそれは至極当然な事なのであるが、そんな一般常識をこの子供達に教える訳にはいかない。
いくら小生意気でも、一応まだ無垢な子供達なのだから。
「なあ、なんでチューすんのに服ぐちゃぐちゃにするん?」
「うっ・・・、あ、暑いからちゃうか?」
「そうかぁ?そんな暑ない思うけど。」
「いや、今日は暑い!暑いなーーーオイ!!」
しくじりそうになったを、千堂が必死でフォローした。
「そうか〜〜??」
「そうやで、暑いやん!私ジャケット着て来ぇへんかったら良かったわ!!」
いささかオーバーな演技を繰り広げる千堂と。
無理があるかと思われたが、何だかんだ言っても相手は子供。
大好きな千堂とが言う事に間違いはないと信じている。
次第に二人の猿芝居に納得し始めた。
「ふ〜ん、そっか。」
「そうやな、何やオレも暑なってきたわ。」
「「そ、そやろそやろ!!」」
「あ、でもな。」
「なんやねん、まだなんかあるんかい!」
「暑いかも知らんけど、パンツまで脱がんでもええんちゃうん?」
千堂とは、思わず先程のカップルに殺意を抱いた。
「なんであのバカップルのせいでワイらがこんな目に遭わなあかんねん・・・!」
「見えへんとこでヤれや・・・!」
「なあ、やっぱり変やんか〜!」
「あ、あんたら見間違えたんやて!!そんな訳ないやんアホやなーー!!」
『あははー!』と豪快に笑い飛ばしてみる。
しかし子供達の観察眼はなかなかに鋭いものらしく、『笑ってごまかせ作戦』は通用しなかった。
「オレちゃんと見たで!あのお姉ちゃんパンツ膝のとこまで下がっとったもん!!」
「そうや、オレも見たで!!」
「うちも!!」
「くっ・・・、こいつら・・・・!」
「こんな事だけよう見くさりやがって・・・!!」
「なあなあ、あの人ら何してたん〜〜!!??」
「なあロッキー!!」
「姉ちゃん、教えてぇやーー!!」
「なあ!」
「なぁて!!」
子供達の激しい『口撃』はもはやとどまるところを知らない。
これ以上誤魔化す術もなく、黙り込む大人二人。
追い詰められた虎が最終手段のモーションに入ったのを見て、は両手で耳を塞いだ。
「やかましゃーーー!!!このマセガキ共が!!10年早いんじゃーーーー!!!」
「あんたホンマ声でっかいなぁ・・・・」
「あのクソガキ共が悪いんじゃ・・・・」
虎の咆哮にビビった子供達が親の元に逃げ帰った後、残された二人は力なくしゃがみ込んだ。
「これやったらまだデュエットさせられてた方がマシやったな。」
「そやな・・・。あれはあれでキッツイけどな・・・。」
「今年は、作戦・・・、失敗したなぁ・・・・。」
「そやなぁ・・・・、失敗やったなぁ・・・・。」
結局大人にも子供にもまんべんなく振り回され、二人の今年度の『お花見攻防作戦』は見事玉砕に終わったのであった。