前門の虎、後門の狼

 〜 看板息子 〜




ちゃぶ台の上に置かれた、湯気の立つ真っ白なご飯。
熱い味噌汁に卵焼き、そして昨夜の残りのおかず、ちなみに本日は野菜炒め。
ここに千堂武士とその祖母の姿が並べば、千堂家の朝の風景となる、のだが。

今朝はここにもう一人、追加メンバーが居た。



「・・・・・ほんで何でお前がここにおんねん。」

千堂は、自分の横にいそいそと正座するその『もう一人』を、横目で睨んだ。


「何でっテ、僕、昨夜からここでお世話になっていますヨ。」

『もう一人』の方は、千堂の嫌そうな横目を涼しい顔で流して、『イタダキマス』と両手を合わせた。


「昨日、『うちに泊まれ』と言ったのはお宅デス。忘れましたカ?」
「いや、それは確かにそない言うたけど・・・・!っていうかお宅って呼び方やめろやいい加減!」
「うん!グランマ、これとても美味しいデース!」
「そうかぁ。ようさん食べやぁ。」
「ハイ!ありがとゴザイマース!」
「こるぁヴォルグ!!おどれ人の話聞いとんか!!」

千堂に怒鳴られた『もう一人』、アレクサンドル・ヴォルグ・ザンギエフは、食べかけの卵焼きをきちんと食べ終えてから箸を置いた。


「フゥ、分かりませんネ。どうシテ急に怒る?昨日、ジムに訪ねて行った時ハ歓迎してくれたのに。」
「そやそや。アンタ何をそんな苦虫噛み潰したみたいな顔しとんねん、昨夜から。」

ヴォルグの援護射撃でもするかのように、横から祖母が口を挟んで来た。


「ヴォルグはんが大阪おる間はうっとこで寝泊まりするっちゅー事で、話は昨日まとまったやろ?
アンタかて納得したがな。」
「いや、それはそうやけど・・・・・!」

かつての強敵が、折角わざわざ海を越えてまで会いに来てくれたのだ。
積もる話も色々あるし、何より、費用のかさむホテル住まいを勧めるのはあんまりにも冷たい感じで気が引ける。
かといって、1泊2泊ならまだしも何泊も、最長でビザが切れるまでともなれば、なにわ拳闘会に置いてやる事も不可能だ。
だから千堂家で預かる事になったのは必然的であり、千堂自身も納得していた。


「おまけにヴォルグはん、宿賃入れるとまで言うてくれたやないかいな。
それやったらこんなボロ家よりそれこそホテル泊まった方がよっぽどええやんかっちゅーて断ったけど。」
「でもソレじゃあんまりですカラ、お店やお家の事色々手伝うという事デ話は纏まったじゃないデスか。」

そう。
生活費は労働払いにするという事で、話はあっさりと、これ以上ない程丸く収まったのである。
だが、問題はそんな事ではなかった。


「せやから、そんな事を言うとんとちゃうねん!」
「ほな何やねんな?」
「それは・・・・・・・・」

それは、ズバリ言ってしまうと、来た早々にとやたら打ち解けた感じになったのがちょっと気に食わない、という事だった。
はヴォルグに対してやたら親切にするし、ヴォルグはヴォルグでにやたら男前な微笑みを向けたり。

何というか、ちょっと、面白くない。

だが、そんな複雑な男心を、当の本人と浪速のバアちゃん相手にまさか正直に白状出来る訳がない。
そんな事を言おうものなら、ヴォルグはともかく、祖母から『小っさい男や』とでも罵られる事間違いなしだ。
そして、散々罵られたその挙句ににチクられて、からまたきっつい言葉でケッチョンケッチョンのボロクソにこき下ろされるのは火を見るより明らかである。


「そっ・・・、そやから別に何も怒ってへんっちゅーねん!」
「すまんなぁ、ヴォルグはん。気にせんといてや。このゴンタはとにかく荒っぽうて、ちょっとした事ですぐ怒りよんねん。」
「GONTA?ゴンタって何デスカ?」
「ゴンタっちゅーたら、そやなぁ・・・・、まあ、乱暴モンとか、そないな意味や。」
「Ah・・・・、I Understand.ゴンタ、ゴンタ・・・・、OK、覚えマシタ。」
何がOKじゃ!!いらん事次から次へと覚えんでええねんお前は!!」
「これ武士!!ええ加減にせんかい!アンタもはよ食べてしまいや!いつまでも片付かんやろが!!」

とにかく、起き抜けから複雑な気持ちのまま、千堂の一日は始まったのであった。














「・・・・・ほんで何でお前がここにおんねん。」

朝食後少しして、千堂はもう一度同じ台詞を口にした。
すると、言われた方のヴォルグは、ウンザリしたような顔で振り返った。


「またその質問デスカ?さっき同じ事を聞いたばかりデスヨ?」
「さっきと今とは意味がちゃうんじゃ!!何でお前が店先に座ってんねん!?」

そう。
ヴォルグは千堂商店の店先で、丸椅子に腰を掛けていたのである。
それも、ただ座って寛いでいる風ではない。
まるで店番のように見えるのだ。


「Ah,これはお手伝いデスよ。グランマに頼まれマシタ。」
「やっぱりそうか・・・・、ていうかずっと気になっとったけどグランマて何やねん!
「grandmother、『お祖母さん』という意味の英語デス。知りませんでしたカ?」
それ位知っとるわい!!お前馬鹿にしとんか!!!」

千堂が大声を張り上げても、ヴォルグはにこやかな微笑を崩さないままだった。
それがまた一層頭に来る。
千堂はヴォルグの胸倉を掴み掛からんばかりの勢いで、更に捲し立てた。


ワイが言うとんのは、何でうちのバアちゃんをグランマとか呼んどんねんっちゅー話なんじゃコルァ!!
ここは大阪じゃー!いきって英語とか使うなやゴルァ!!
「店先でガラの悪い口叩くなアホンダラ。」
「いたっ!!」

いきなり背中を棒のような固い物で叩かれて、千堂は振り返った。
後ろに居たのは、箒とちりとりを持った祖母だった。
千堂の背中をどついたのは、どうやらこの箒の柄のようだ。


「わてが『グランマ』っちゅー呼び方を気に入ったから、そない呼んでくれて頼んだだけや。
何やハイカラな感じがしてええやろ。そんな細かいどーでもええ事でいちいち人様に絡んでる暇があったら、ほれ、店先の掃除でもせんかい。」

箒とちりとりを強引に押しつけて店の奥に戻って行こうとする祖母を、千堂は慌てて引き止めた。


「ちょっ・・・、待ってやバアちゃん!」
「何や?」
「ホンマにコイツに店番させる気か!?」
「ヴォルグはんは日本語達者やし、日本円の計算もちゃんと出来はる。何も問題あらへんやろ?」
「せやかて・・・・!」
「トレーニングばーっかでろくすっぽ店の手伝いもせぇへんモンに、イチャモンつけられる筋合いはあらへん。」
「ぐっ・・・・!」

それを言われると耳が痛い。
ボクシングを何より最優先にして、孝行らしい孝行をしていないのは事実なのだ。
ぐうの音も出せない千堂に、祖母は皺深い顔をにんまりと笑わせた。


「何より、こんな男前が店番してくれたら、客がようさん入るやろ。」
「客って、うち駄菓子屋やで!?客なんかガキばっかやないかい!」
「アホか。真の狙いは大人や。まあ見ててみ。子供らからヴォルグはんの話聞いたら、母親らがすっ飛んで来るわ。
他にも通りすがりのOLさん、女学生、奥さん連中にわてらみたいな年寄り。どんな年代の女子でも、駄菓子は簡単に買える。
ヴォルグはん見てポーッとなって財布の紐緩め放題や。ヴォルグはんからケチケチ生活費徴収するより、こないした方がよっぽど実入りがええ。そない思わんか?」
なっ・・・・・!

何という商売戦略、何という商人根性だろう。
口をパクパクさせる千堂を余所に、祖母はヴォルグに小さく手を振りつつ言った。


「ほなそういう事で頼んだでぇ。ようけお客さん呼んだってやぁ。」
「ハイ、頑張りマス!」
「ちょっ、バアちゃん何処行くねん!?」
「わてはこれから老人会のメンバーでカラオケ喫茶や。偶には羽伸ばさなな。」
「コイツ一人にするんか!?ワイかてロード出たりジム行ったりしやなあかんのに・・・!」
「ああ、それやったら心配ないわ。さっきちゃんから電話あって、それやったら手伝いと様子見がてら後で遊びに来るわ〜言うてたから。
アンタは安心してろぉどでもじむでも何処でも行ったらええわ。」
なっ・・・・・!?

ヴォルグとを二人きりにさせて、安心もへったくれもない。
むしろ危機、大ピンチだ。


「という事デス。お店の方は僕が頑張りマスから、千堂はトレーニング頑張って下サイ。」
が・・・頑張れるかアホーーッッ!!!

千堂は再び、店先で大声を張り上げたのだった。















が千堂商店に顔を出したのは、それから1時間程経っての事だった。


「こんにちは〜・・・・って、おお・・・・・!」

中に入ろうとして、はいつにない店の盛況ぶりに思わず足を止めた。


「300円デス。ありがとゴザイマース。」
「ちょっとお兄さ〜ん、あの上のやつ取ってくれる〜?手ェ届かへんね〜ん。」
「これデスカ?何個デスカ?」
「もうあるだけ全部っっ!」
「お兄さ〜ん!こっちもこれ!箱ごと全部ちょうだい!」
「ハイ、ありがとゴザイマース。」
「あっ、お兄さ〜ん♪こっちもお勘定お願〜い♪」
「ハイ、すぐ行きマス。」

店の中にひしめき合う女・女・女。
そしてその中を、花から花へ飛び回る蜜蜂のようにあくせくと行き来して立ち働いているのはヴォルグ一人。
ヴォルグはただ一生懸命働いているだけなのだが、如何せん、客のヴォルグを見る眼差しがあまりにもうっとりと蕩けているので、
は一瞬、駄菓子屋でなくハーレムに迷い込んだかと錯覚してしまった。


、来たか。」
「うわっ!吃驚したー!」

の肩を背後からポンと叩いてきたのは、千堂だった。
優しげな微笑を浮かべているヴォルグとは対照的に、千堂は実に不景気な顔をしていた。


「婆ちゃんから話は聞いたけど、こらまた想像以上の繁盛っぷりやな〜。」
「・・・・おう。」

相当に面白くなさそうな千堂を見て、は苦笑した。


「何?ヴォルグさんの人気にやきもち焼いてんの?」
「そっ、そんなんとちゃうわい!」
「そうかな〜?私にはそう見えるけど?」

は飄々と千堂をからかい続けた。
何しろ千堂は、思った事がすぐ顔に出る性質である。
口でどれだけ否定しようとも、その顔を見ればすぐに分かるのだ。


「そんなブスッと膨れて外からイジイジ様子伺うなんて、アンタらしくもない。」
「だ、誰がイジイジしとんねん誰が!」
「こんな事するよか、アンタも一緒に店番したらええやん。」
「ワイは忙しいねん!充電中のヴォルグとは違って、現役バリバリでやっとるワイにはハードな練習がぎょうさん・・」
「まあそれはそうやろうけど。でもええの?このままやったら千堂商店の看板息子の座、 ヴォルグさんに奪われんで?

のその一言に、千堂は見て分かる位に硬直した。
何しろ千堂は、負けず嫌いな男である。
ボクシングは勿論の事、その他の運動でも遊びでも、たとえそれがどんなに下らない事でも、他人に負けるのを酷く嫌う。
昔から、勉強以外は大抵そうだ。

そして、勝負が好きである。
たとえどんなにしょうもない事でも、ライバルを見つけるとすぐに勝負を挑む傾向がある。
ボクシングは言うに及ばず、運動でも遊びでも、勉強以外は何だって。

こういった千堂の性質から考えれば、千堂が何を言い出すのか、には容易に察しがついた。


・・・・やったろやないけ!!勝負じゃ、ヴォルグーーーッ!!

玄関先で声高にそう叫ぶと、千堂は猛然と店の中に入って行った。
予想通りの展開ににんまりとしながら、もまた、千堂の後について行った。















ヴォルグーッ!!ワイと勝負せえ!!
「はぁ?何ですっテ?」
「せやから、どっちが売上ようけ上げれるか・・・」
「お兄さぁ〜ん♪お会計お願い♪♪」
「あ、ハイ!ありがとゴザイマース!」

店に入るや否や、千堂は鼻息も荒く勝負を挑んでいったが、ヴォルグは接客に追われていて、勝負を挑まれている事に気付いてもいない。
ヴォルグのつれない態度に千堂は益々面白くなさそうな顔になったが、やがて勇ましく鼻を鳴らすと、
ヴォルグの手元に今正に差し出されたばかりの買い物カゴを横からひったくった。


「会計やな、毎度おおきに!」

そして、会計待ちの女性客にニッと笑いかけると、勝手に会計を始めた。
先手必勝、どうやら一方的に勝負を始める事にしたようだ。


「500円な!はい毎度!おおきにな!べっぴんさんにはサービスするよって、また来たってやーっ!」
「いやん嬉しい♪ほなまた来るわなぁ♪」

いつになく愛想の良い態度で客を送り出すと、千堂はヴォルグに勝ち誇った笑みを向けた。


「どや?商売っちゅーんはこうやるんじゃ。」
「ナルホド。勉強になりマシタ。」
真面目なリアクションすんなやおもろないのう!!そんなんじゃ大阪では商売でけへんぞ!!」

一瞬脱線しかけるも、千堂はすぐに本来の目的を思い出したようだった。


「ちゅーかそんな事はどうでもええねん。勝負じゃ、ヴォルグ!どっちが売上ぎょうさん上げれるか、今から勝負じゃ!!」
「勝負デスカ?でも僕、計算を間違えないようにするのが精一杯なんですケド・・・」
「つべこべ抜かすな!勝負っちゅーたら勝負じゃ!!見とけよ、跡取り息子の実力を思い知らせたらぁ!!
千堂商店の看板息子の座はワイのもんじゃーッ!!

一方的に宣言すると、千堂は女性客の群れの中に突入していった。
ヴォルグは今ひとつ話についていけていないのか、ポカンとしている。
はまた苦笑すると、ヴォルグに歩み寄って行った。



「すいませんねぇ、ヴォルグさん。」
「あ、サン!おはようございマス!」
「おはようございます。よく眠れました?」
「ハイ、お陰さまデ。」

そう言って、ヴォルグは屈託なく笑った。


「武士に虐められたりしませんでした?ヴォルグさんにずっとあんな調子で感じ悪い態度取ってたんとちゃいます?」
「イイエ。ああ見えて、何かト親切にしてくれているんデスヨ。勿論、千堂のグランマも。」
「そうですか。それやったら良かった。」

ヴォルグとが話していると、客の渦の中から千堂の罵声が飛んで来た。


ごるあぁぁヴォルグぅ!!勝負やっちゅーてるやろ!!何をとくっ喋っとんじゃーッ!!

その怒鳴り声を聞いた二人は、互いに苦笑を浮かべた。


「ま、こういう訳なんで、すいませんけど適当に付き合ったってくれますか?」
「ハイ。何だかよく分かりませんケド、頑張りマス。」

かくして、千堂商店の看板息子の座を賭けて(?)、千堂VSヴォルグの一騎討ちが始まったのであった。








勝負が始まると、千堂商店は益々満員御礼の大混雑状態になった。
客が客を呼び、それがまた客を呼ぶ。
そうして続々と集まって来た客は、店内には入りきらず、店の外に長蛇の列を作る程になっていた。
本来は小学生以下の子供が集まる店なのだが、最早子供の入り込む余地はない。
女、女、女、どっちを向いても女性ばかり。
ワイルド系と優男系、ジャンルの違う男前二人に釣られて学生から老人まで実に幅広く集まってきていたが、やはり10代後半位から30代位までの女性が圧倒的に多かった。


「ロッキー、これちょうだ〜い☆」
「ハイ毎度!300円な!」
「ロッキー、こっちもぉ〜♪」
「ハイおおきに!」
「珍しい、今日はロッキーが店番?ツイてるわぁ♪」
「ホンマやぁ!折角やからいっぱい買うてこ☆」
「おおーっ、流石べっぴんさんは言う事ちゃうわ〜!ガンガン買うたってやぁ!」
「ロッキー!これ1箱全部ちょうだい!ほんで箱にサインしてぇ♪」
「えらいおおきに!サインやな、ちょっと待ったってやぁ!」
「ロッキー、こっちも!」
「こっちにもサインしてぇ!」
「おおきに毎度!順番な、順番!」

流石に千堂は地元の星だけあって、その人気は絶大であった。
老いも若きも皆、キャッキャと騒ぎながら千堂を囲んでいる。
それに対して千堂もまた、軽快なトークと愛想の良い笑顔で応えるものだから、客は益々気分を良くして景気良く財布をオープンするのであった。


一方、対するヴォルグはというと。


「お兄さん、名前何て言うの!?」
「え、えと、ヴォルグといいます。アレクサンドル・ヴォルグ・ザンギ・・・」
「ふーん、ほなヴォルちゃんやな☆」
「ヴォ、ヴォルちゃん・・・・?」
「ヴォルちゃんどこの国の人?」
「ろ、ロシアです・・・・。」
「へ〜!ロシア人!ほんで幾つなん?」
「ホ、ホンデイクツ?」
「歳!何歳なんって訊いてんねん!」
「え、えと、にじゅう・・」
「ちゅーかヴォルちゃん彼女おんの!?」
「え!?えと・・・」
「フリーやんな!?フリーやんな!?はいフリー決定!」
「ハーイうち彼女に立候補〜!」
「えぇ!?あ、あの・・・!」
「ヴォルちゃぁ〜ん、これ全部ちょうだぁい!」
「は、ハイ、ありがとゴザイマース!」
「あぁん、こっちもさっきからずっと待ってんねんでぇ〜!」
「ハイ、スミマセン!ありがとゴザイマース!」

見慣れない白人の青年、しかもアンニュイな雰囲気の優男系イケメンというルックス故に、尋常でない程騒ぎ立てられていた。
何処かたどたどしい日本語で『ありがとゴザイマース』などと言われて優しく微笑みかけられた日には、
若いお姉さん方は勿論の事、全身豹柄なオバチャンとてときめかずにはいられないようだ。
彼女らは皆、恍惚とし、のぼせ上がり、メロメロになって、財布をスッカスカの全開にしていったのである。



その結果。




「ほな結果発表するで〜!武士の売上、47,830円!ヴォルグさんの売上、52,960円!
よってこの勝負、ヴォルグさんの勝ち〜☆」
ちょー待てや!!何でワイの負けやねん!!

負けた千堂は、心の底から納得出来ないとばかりに猛然とに詰め寄った。


「お前、ちゃんと計算したやろうな!?勝負の前からの売上も入れとんちゃうんかい!?」
「入れてへんよ。ちゃーんと勝負開始からの売上だけで計算してるわ。」
「ぐぬぬ・・・・・・!」
「ま、残念ながらアンタの人気よりヴォルグさんの人気の方が高かったって事やな。
か〜っ、ムッカつくのうお前・・・・!!

一応は引き下がるも全く納得出来ていなさそうな千堂に、は進言した。


「さっきの2時間そこそこの勝負では、やで。もっと長い時間やっとったら、また結果も変わってくるかも知れんし。」
「・・・・・・・」
「言うてもアンタかて浪速の虎とまで言われてる有名人やねん。仕切り直してもういっぺんやったら逆転する可能性は大いにあると私は思うけどな〜。」

の言葉を聞くや否や、千堂の膨れっ面はみるみる笑顔に変わっていった。


「そ・・・そやな!そらそやわ!ワイは言うても浪速の虎やで!北欧の狼なんぞに引けは取らんわ!」
「そやそや、それでこそ浪速の虎。それでこそ千堂武士や。」
よっしゃヴォルグ!昼から仕切り直してもういっぺん勝負じゃ!今度は閉店までな!!
「はぁ・・・・・。でもお宅、トレーニングは良いんですか?」
「閉店してからやるからええ!ちゅーかお宅って呼ぶな!ええか、見とれよ!
今度はワイの圧勝やからな!ケチョンケチョンに凹ましたらぁ!!
「ハハハ、まあお互い頑張りマショウ。お菓子たくさん売れるようニ。」

千堂は気を取り直すどころか俄然闘志を滾らせ始め、ヴォルグはそんな千堂に気押されて苦笑気味ながらもニコニコしている。
この二人、ボクシング以外でもなかなか良いライバルになりそうだ。
は二人を微笑ましく眺めていたが、時計の針が正午を過ぎている事に気付くと、パンパンと手を打ち鳴らした。


「ハイハイ!ほな続きはお昼食べてからっちゅー事で!ご飯作っといたるから、その間に武士は銀行行って両替しといでや。釣り銭足らんようになるで。」
「そやな!ほな行って来るわ!おうヴォルグ!お前も来い!」
「僕もですカ?」
当たり前じゃ!何か文句あるんかコラ!?ゴチャゴチャ抜かしよったら首根っこ掴んで連れてくぞ!!

噛みつきそうな顔で怒鳴る千堂を見て、ヴォルグは小さく肩を竦めた。


「別に何も言ってませんヨ。何また急に怒ってるんデスカ?フゥ、本当にゴンタな人だ・・・・。
「あははっ!ヴォルグさん、また新しい言葉覚えはったん?」
「ハイ。今朝、グランマに教えて貰いマシタ。」
「へ〜、凄い!ホンマ頭良いんですねぇ!ほな折角やから、もっと大阪っぽい言い回し教えましょか?」
「ハイ、是非!」
いらん事教えんなコラ
「まぁまぁええやん折角やねんから。んじゃヴォルグさん、いきますよ。
『自分ほんまゴンタやなぁ』、っはい、リピートアフターミー!
ジブンホンマGONTAヤナァ。
じゃかーしゃー!!ええから早よせぇ!!行くぞ!!」
「行ってらっしゃーい♪」

千堂がヴォルグを蹴飛ばさんばかりに追い立てながら出掛けて行くのを、は手を振り振り
笑顔で見送っていたが、やがて二人の姿が完全に見えなくなると、バッグから携帯電話を取り出した。



「・・・あ、もしもし、婆ちゃん?私。うん、今休憩中。武士?ヴォルグさん連れて銀行行ったわ。
やっぱり婆ちゃんの読み通りやったで。案の定勝負になって、午前中の売上、ごっつい事になったで。軽く10万超えたわ。な?凄いやろ?
そやねん、ここで終わんの勿体ないやろ?そやから私、昼からまたやるようにけしかけてみてん。
あっさり乗ったわ。閉店まで勝負するって、自分から言うとったで。フフフッ、今日の売上総額が楽しみやな〜。
え?そんなんお礼なんかええよー!こっちこそいっつも世話になってるし。え?○○堂のどら焼き?
うわ嬉しい〜!ほなそれだけ呼ばれるわぁ♪うん、楽しみにしてる!うん、ほなね〜。」

電話を切ると、はにんまりと微笑みながら台所に入っていった。
千堂が祖母との策略に気付くのは、はてさていつの日か・・・・・・。




back



後書き

ひっっっさしぶりの続編となりました!
続編というか、シリーズ第2弾という感じです。
友達と一歩話をしていた時にフッと小ネタが浮かんだので、書いてみました。
楽しんで頂ければ嬉しいです!
折角だからと千堂のお誕生日にUPしてみた次第なんですが、誕生日要素全く無しですな(笑)。