伝えたい想い




「おはようございます。朝食をお持ちいたしました。」

ノックと共に呼びかけても、返事がないのはいつもの事。
はさっさと部屋のドアを開け、中に入っていった。


「おはようございます、サウザー様。」

部屋の主は今日も既にきちんと身支度を整え、椅子に腰掛けて本を読んでおり、
が挨拶をすると、冷ややかな一瞥で応えた。これもまた、いつもの事である。
は気にせず、テキパキと朝食の配膳を始めた。


「今日はとても良いお天気ですよ。風が気持ち良くて。」

話し掛けても、返事はやはりない。
それでも、聞こえていれば良い。聞いてくれていたら、それだけで良かった。


サウザーは、南斗聖拳の中に百と八ある流派の一つ、南斗鳳凰拳の若き伝承者である。
より僅かに年上なだけの、まだ20歳にも満たない青年で、
多くの者が幼い頃から住み込みで修行しているこの道場では珍しく、
伝承者となった後でよその土地から移ってきたとの事だった。
近くの村から下働きの仕事をしに通って来ているだけのには、南斗の事はよく分からなかったが、
聞きかじったところ、鳳凰拳というのは南斗百八派の頂点に君臨する流派であるらしい。
その伝承者であるサウザーは、すなわち南斗最強の男なのだ、とも。
事実、この道場内で一番立場が強いのはサウザーだった。
多くの門下生を抱えるこの南斗道場の中には、『伝承者』の肩書を持つ者が他にも何人かいて、
それぞれに別格の待遇を受けているが、サウザーはその誰よりも抜きん出て別格だった。

だが、それでいて彼は孤独だった。

取り巻きこそ大勢従えているが、指導する事はなく、自らの拳を交えて鍛練する相手はごく限られた少数のみ。
食事はいつもこの自室で一人きりで済ませ、誰かと談笑しているところなど見た事がない。
彼の人を見る目は常に冷たく威圧的で、彼を見る人々の顔は、いつも緊張と恐怖に強張っている。
コソコソと彼の陰口を叩いている者を見聞きした事も、何度もあった。
若い身空で南斗の頂点に上り詰め、この道場にも破格の待遇で迎え入れられた彼を不快に思う者は、どうやら少なくないらしい。


「今日は野菊が綺麗に咲いているのを見つけたんですよ。ほら!」

は持参してきた野菊の花束を、誇らしげにサウザーに見せた。
『束』といってもたった3〜4本程度のそれを、サウザーは冷ややかに一瞥して鼻を鳴らした。


「・・・またか。毎朝毎朝、性懲りもなく俺の部屋にゴミを持ち込むのはやめろ。」
「でも綺麗でしょう?」
「只の雑草だ。」
「雑草でも綺麗でしょう?」
「・・・・・・・・」
「飾っておきますね。」
「フン」

勝手にしろとばかりにそっぽを向いて食事を始めたサウザーをチラリと盗み見てから、
は気付かれないように笑った。

この道場に勤めるようになって間もなく半年。
こうしてサウザーに毎朝ちょっとした届け物をするようになったのは、一体いつからだっただろう。
気が付いたら、毎朝、道場に来る途中の道に、彼への贈り物を探すようになっていた。
綺麗な野花、可愛い木の実、面白い形の石。そんな他愛のない物ばかりだが、
が何かを持って来ると、サウザーは反応する。
それがどんなにつれない反応でも、それでも嬉しくて、それ見たさに続けている内に、
気付けばもう日課のようになっていた。
自身の孤独を嘆いている節は、サウザーには全く見受けられないが、
はどうしても気にせずにはいられなかったのだ。
彼が時折、言い様のない哀しみを湛えているのに気付いた時から。



「サウザー、居るか?」

が一輪挿しの水を取り替えに行こうとしたその時、ノックと共にシュウが室内に入って来た。


「シュウ様!おはようございます!」
「やあ、君もいたのか。おはよう。」

が挨拶をすると、シュウはその優しい瞳でをまっすぐに見つめ、穏やかに微笑んだ。

シュウは南斗白鷺拳の伝承者、サウザーと同じく、若くして上り詰めた人物である。
サウザーとシュウには、共通点が多かった。
年の頃も同じならば、拳の実力も甲乙つけ難く、共に数多ある南斗の流派の中でも
別格の流派の伝承者として、周囲から一目置かれている。
これ程似通った点がありながらも、しかし二人は、全く異質な存在だった。


「相変わらず一人で飯を食っているのか。偶には食堂に顔を出したらどうだ?大勢で食べる飯は格別だぞ。」
「余計な世話だ。」

異質というよりは、相反する、と言おうか。
サウザーとシュウは、全く真逆の性格をしていた。


「何しに来た?さっさと用件を言え。」
「それなんだがな。今日の午前中に手合わせをする事になっていただろう?」
「それがどうした?」
「済まないが、明日に延期して貰えないか?今朝の稽古の時に、ちょっと問題が起きたのだ。」
「問題?」
「練習生同士が諍いを起こして、乱闘騒ぎになった。
何人か怪我人が出て、今、医務室で手当てを受けさせているところだ。」

それを聞いて、サウザーは心底退屈そうに鼻を鳴らした。


「下らん。そんな事、放っておけば良かろう。」
「そうはいかん。私の預かっている練習生達だ。」
「関わった者全員まとめて独房にでも放り込んでおけば済む話だ。何なら破門にしてしまえ。」
「まずはよく事情を聞くのが先だ。その上で、もう二度と同じ過ちを繰り返さんように教え、諭す。
懲罰はその一つの手段に過ぎん。短絡的に厳しい懲罰を課すだけでは、何の解決にもならん。
まして破門となれば尚更、それ相応の理由がなければ出来ぬ事だ。」

切々と訴えかけるシュウの瞳は、真摯だった。


「今回、問題を起こした連中は、全員まだ入門したての少年達だ。
良くも悪くも、まだ自覚がないのだ。
ここでしっかりと導けば、南斗聖拳を目指す拳士としての自覚が芽生える。
少なくとも、その可能性は十分にある。見切りをつけるのはまだ早い。
何も見切らない内から、無限の可能性を潰す権利はない。私にも、お前にも。」
「・・・・フン」

サウザーがもう一度鼻を鳴らすと、シュウは申し訳なさそうに微笑んだ。


「そういう訳だから、悪いが今日は相手が出来なくなったのだ。
午後からも練習試合の審判を務めなければならないし。
私も楽しみにしていたのだが、済まないな。」
「用はそれだけか?ならばさっさと出て行け。見ての通り、俺は食事中だ。」
「フッ、分かった分かった、食事の邪魔をしたな。」

シュウは苦笑すると、『また明日』と言い残して部屋を出て行こうとした。
その時、の持っている野菊の花束に、ふと目を留めた。


「それは何の花だ?」
「野菊です。詳しくは何と言うのかまでは分かりませんが・・・・・」
「野菊か。綺麗だな。」

瞬時に顔が火照ったのが自分で分かり、は狼狽した。
シュウが綺麗だと褒めたのは野菊の事で、自分の事ではないと頭では分かっているが、
優しい瞳でまっすぐ見つめられて『綺麗だ』などと言われては、思わず赤面してしまうのも仕方がなかった。


「あ・・・・あ、の・・・・、よ、良かったら、シュウ様にも摘んできましょうか!?」

照れ隠しに、はしどろもどろになって喋った。


「私に?」
「ええ!山道にまだ沢山咲いているので、良かったら是非!」
「そうか?ならば、頼んでも良いか?」
「はい、喜んで!」
「有り難う。楽しみにしている。」

シュウが部屋を出て行った後も、はまだ温かい余韻に浸っていた。
シュウと話していると、自然と笑顔になる。心が温まる。
皆そうなのだろう、だから皆、彼の周りに集まる。
それは言うまでもなく彼の人徳によるもの、あの優しくて誠実な人柄がそうさせているのだ。
シュウの指導を受けている門下生達は恵まれていると、は思わずにはいられなかった。


「無限の可能性かぁ・・・・・・、素敵な言葉ですね・・・・・!
あんなお師匠様がいらっしゃるのだから、将来は立派な拳士様がきっと沢山育つでしょうね!」

は心に受けた感銘を、そのまま素直に口に出した。
返事はなくとも、きっとサウザーも共感してくれるだろう、いや、当然共感しているものだと信じ込んでいた。
さながら皇帝の如く人の上に君臨しているサウザーだが、唯一シュウの事だけは一目置いている様子だからだ。


「・・・・無限の可能性だと?フン、片腹痛いわ。」

だが、サウザーの反応は違っていた。


「入門早々下らん小競り合いを起こした挙句、おめおめと傷の手当てを受けているような
甘ったれたガキ共など、クズ以外の何物でもない。どれだけ時間を掛けようが物にはならん。」
「そ、そんな・・・・・」
「お前はどうも勘違いをしているようだから、教えておいてやる。
南斗聖拳は、そこらの町道場で教えているような武術や拳法とは格が違うのだ。」

サウザーのいつになく真剣な表情に、は思わず息を呑んだ。
彼はこうして私室に居る時も常に険しい表情をしているが、それとは違う。
部屋の外にいる時の、南斗鳳凰拳伝承者としての顔だった。
彼がその顔をに見せたのは、これが初めてだった。


「南斗聖拳は誰にでも極められるような拳法ではない。
人より抜きん出た能力、天賦の才、それがなければ無理だ。
拳士としての自覚、決意、努力、そんな凡人でも持ち合わせているような最低限の要素だけではどうにもならん。
ましてそれすら持っていない者など、論外のクズだ。年齢は理由にならん。」

サウザーの言葉には、有無を言わせぬ説得力があった。
特別な場所に辿り着けるのは、ほんの一握りの特別な者だけ。それは事実だからだ。
ましてや拳法の事など、には分からない。
反論など、出来よう筈もなかった。


「クズを長々と飼っていては、道場の敷居が低くなり、更にクズ共を呼び寄せる事になる。
それがどういう事か分かるか?南斗全体の品格が落ちるという事だ。」

サウザーの気迫に、は只々圧倒されるばかりだった。
反論出来ず、かといって賛同も出来ず、どうして良いか分からずに、ただ戸惑うばかりだった。
すると、サウザーはふと我に返ったように、そして何となく決まりが悪そうに、その身に纏った緊張感を緩めた。


「・・・そうなれば、困るのはあの男だ。
入門希望者をふるいにかける作業も、馬鹿にならん手間になるのだからな。
あの男はそれを分かっていない。自分で自分の首を絞めている、愚か者だ。」

皮肉を飛ばして冷たく笑うサウザーを、は黙って見つめた。


「・・・納得がいかない、といった顔だな?」
「・・・・そういう訳では・・・・・ありませんが・・・・・」

心の中にモヤモヤとわだかまる思いを、はどうにか整理しようとした。
シュウを小馬鹿にされて腹が立っている、という訳ではない。
拳法家の在り方について云々言う気もなければ、言える立場でもない。
そうではないのだが、何かがモヤモヤと心を塞ぐのだ。
はそれをどうにか言葉にして伝えようとしたのだが。


「あの、うまく言えないんですけど、何というか、その・・・」
「構わん。お前に理解を求めるつもりなど元々ない。用が済んだらさっさと下がれ。食事の邪魔だ。」

しかしサウザーは、聞く耳を持とうとはしなかった。


「・・・・・はい・・・・・・」

そう言われては、引き下がるしかない。
はペコリと頭を下げ、退室しようとした。
出て行く間際にチラリと盗み見ると、サウザーは既に食事を再開していた。
サウザーの食事はいつも、彼の為だけに作られた特別メニューで、他の誰よりも贅沢な献立になっている。
だが、一人の部屋の、一人の食卓に並ぶそれは、何だか寒々しく、物悲しく見えた。


「・・・・・サウザー様・・・・・・!」

は思わず、叫ぶように呼び掛けた。
するとサウザーは、食事の手を止めてを見た。
その鋭く冷ややかな瞳が、『まだ何かあるのか』とウンザリしている。
自分の意見を述べる為に主の食事の邪魔をするなど、使用人としてあるまじき振舞いだと
分かってはいるが、それでもは言わずにいられなかった。


「私は・・・・・、拳法の事はよく分かりませんけど、でも・・・・、
でも・・・・・、シュウ様のお考えは、とても素晴らしいと思います。人として。」

そう、哀しかったのだ。
仮にも自分の後輩や同胞を『クズ』『愚か者』と冷徹に吐き捨ててしまうサウザーが、
自分と他者との間に躊躇いなく境界線を引き切ってしまう彼が、には堪らなく哀しかった。





















翌日、は約束した通り、シュウの為に野菊を摘んで来た。
そして、シュウの体が空く頃合いを見計らって、彼の部屋に届けた。


「有り難う。わざわざ済まなかったな。」
「そんな事。私から言い出した事ですし。」
「お陰で殺風景な部屋が明るくなった。」

花器に生けたそれを眺めて微笑んでいるシュウに、はそれとなく話を切り出した。


「あの、サウザー様とのお手合わせはこれから・・・ですか?」
「ああ。もう間もなくだ。」
「そうですか。頑張って下さいね、お二人共。」
「ああ。」
「あの・・・・、その・・・・・・」
「どうした?」

躊躇いは、シュウの温かい眼差しが和らげてくれた。
は勇気を出すと、思い切って口を開いた。


「・・・・シュウ様は、ご存知ですか?サウザー様が、何故その・・・、ああなのか。」
「ああ?」
「その・・・・、誰も寄せ付けようとしないで、いつもお一人でいらっしゃる事・・・・。
それが何故なのか、ご存知ですか?」

これまでも、シュウにサウザーに関する話を訊いた事は何度かあった。
年齢、肩書、この道場での彼の役目や立場、そういった他愛のない、当たり障りのない情報。
全て世間話のふりをして、シュウの口から聞き出した事だった。
だが、こんな立ち入った事を尋ねたのは、これが初めてだった。


「・・・・さあ。詳しい事は分からない。」

何故そんな事を知りたがるのかと茶化されるかと思ったが、
シュウの表情は真摯で、そして、何処か申し訳なさそうだった。


「一つ言えるとすれば、それがあの男の宿命、というところだろうか。」
「宿命?」
「人にはそれぞれ、持って生まれた宿命があるのだ。私にも、奴にも、そして君にも。」

宿命、という単語を耳にした事はあっても、それが何なのか、どういう事なのかを考えた事はなかった。
村の中でも、そんな話をしている人を見聞きした事はない。
宿命というものが何なのか、は全くと言って良い程分かっていなかった。
すると、それが顔に出ていたのだろうか。
シュウは可笑しそうに小さく吹き出した。


「偉そうに言ってしまったが、実は私も正直よく分かっていないのだ。
白鷺拳の伝承者になって、まだ日も浅いしな。」

一瞬の笑いの後、シュウはまた真剣な顔をした。


「だが、同じ若輩者でも、サウザーは既に己の宿命に目覚めている。それだけは確かだ。」
「サウザー様の宿命って・・・・・、何なのですか?」

はそれを訊かずにはいられなかった。


「サウザーの宿命は、将星。帝王の星だ。」
「将、星・・・・・・」

将星、帝王の星。
その言葉は、の耳に冷たく響いた。
何百、何千万の人々にひれ伏される、たった一人の特別な人間。
その重圧を分け持ってくれる人のいない、孤独な人。
そんな哀しい印象だった。


「それ故に奴は、人と肩を並べるという、私達からすれば当たり前の事が出来んのかも知れんな。」

シュウもまた同じように思っているのだろうか、その呟き声は物悲しかった。
しかしそれは一瞬の事で、シュウはまたいつものように朗らかな様子に戻った。


「だが、奴は誰も寄せ付けない訳ではないと思うぞ。」
「そう・・・ですか?」
「あれでも人に慕われるところはあるし・・・というより人を心酔させると言う方が相応しいが、
とにかく、あの男について行く者は大勢いるのだ。持って生まれたカリスマ性というものだろうか。」
「カリスマ性・・・・・」
「それに・・・・・、フフッ」

シュウは意味深に言い淀んでから、さも可笑しげに吹き出した。


「こう言っては何だが、あの男が花だの木の実だのを部屋に飾るとはな。
全く、柄にもない事をするようになったものだ。」
「うふふっ!」

も釣られて笑った。
サウザーが毎朝見せるあの迷惑そうな表情を思い出したせいもあるが、
シュウの声にごく自然な感じの親しみが込もっていたのが、とても嬉しくて。


「確かに、ちょっと似合わない感じがしなくもないですよね。
でも、ああ見えてお嫌いじゃないみたいですよ、お花とか!」
「・・・・・・・・」
「いつも迷惑そうにされますけど、でも何だかんだで受け取って下さいますし。
私が言うのも何ですけど、意外なご趣味ですよね!ふふふっ!」
「・・・・ああ、うん。ははは、そうだな・・・・。」






そうやってついさっきまで一緒に笑っていたシュウが、サウザーとの手合わせの最中に
怪我を負って医務室に運び込まれたと聞いたのは、それから程なくしての事だった。














「・・・・失礼します、サウザー様。いらっしゃいますか?」

部屋のドアをノックすると、ややあって中から返事があった。


「・・・・・・何だ」
「お話があるのですが、少しお時間を頂けませんか?」
「・・・・・・入れ」
「失礼します。」

が部屋に入ると、サウザーは椅子に腰掛けて本を読んでいた。
まるで、何事もなかったような顔で。


「シュウ様のお加減、見て参りました。
思ったよりお元気そうで、ご本人も先生も、大丈夫だと仰っていました。」
「そんな事をお前に頼んだ覚えはないがな。」
「はい、頼まれていません。だけど、気にしていらっしゃるんじゃないかと思って。」
「俺が?」
「はい。」
「俺が何故あの男の事を気にせねばならない?」

サウザーは本から目を離し、ようやくを見た。
その冷ややかな青い瞳と向き合いながら、は何と言うべきか、暫し考え込んだ。

傷を負わせたのが貴方だから、とは言えなかった。
そんな事は今更人から言われなくても、サウザー自身が一番良く分かっている筈であるし、
そもそも試合中の事故や鍛練中の怪我など、この道場では日常茶飯事である。
誰が悪い・どちらが悪いという問題ではないし、しがない下働きの娘が判定を下せる事でもない。

だがは、二人の手合わせを見学していた門下生達の話を聞いていた。
勝負の決着がついたその刹那、サウザーが更に踏み込み、シュウに深手を負わせた、と。
本来必要なかった筈のその余計な一撃は、『とどめ』以外の何物でもなかった、と。


「・・・・試合に・・・、集中しすぎただけですよね。きっと、白熱しすぎただけなんですよね。
お二人共、とてもお強いから。」

医務室には、沢山の門弟が集っていた。
皆、シュウの事が心配で居ても立ってもいられず、自発的に付き添っている様子だった。
それに対してこの部屋はいつもと同じ、サウザー以外は誰もいない。

『恐ろしい人だ。あの人には極力関わらないようにしよう。目を付けられたら大変だ。』
『いや、だからこそ自分から積極的に取り入るべきだ。』
『それに、何といっても一番の権力者だ。うまくすれば何かと引き立てて貰えるかも知れん。』
『おお、そうなれば伝承者になるのも夢ではないぞ!』
『いやいや、手合わせで殺されては元も子もないだろう。命あっての物種だ。』
『命は惜しいし、かと言ってこのまま一介の拳法家で終わりたくもないし、難しいところだな。』

門下生達の話も、いずれも恐怖心とエゴが剥き出しの、聞くに耐えない内容ばかりだった。
シュウは、サウザーに心酔している者は大勢いると言っていたが、
ならば何故、二人を取り巻く人々の言動がこうも違うのだろうか。
何故こんなに、悲しくなる位に違うのだろうか。


「・・・・・・・サウザー様」
「・・・・・何だ?」
「サウザー様も・・・・・、お弟子さん達の面倒をみられてはどうですか?」

はサウザーの冷たい瞳をまっすぐに見つめて、そう訴えかけた。


「サウザー様は、南斗で一番お強いのでしょう?でしたら、きっととても素晴らしい先生になられると思います!
そうです、そうなさるべきです!」
「・・・・・ふざけるな。何故俺がそんな下らん事をせねばならんのだ。」
「下らなくなんてありません!お弟子さん達を指導するのはとても立派なお仕事・・」
「その『お仕事』とやらに励んだ挙句、己の鍛錬が疎かになり、単なる手合わせ程度で手傷を負う。
それが立派な事なのか?」
「・・・・・・!」
「呑み込みの悪い女だな。昨日も教えてやった筈だぞ。南斗聖拳はそこらの武術や拳法とは格が違うとな。
先生だと?弟子だと?南斗聖拳の伝承者は、そんな生ぬるい師弟ごっこに興じるのが本分ではないのだ。
ましてこの俺は南斗最強の拳、南斗鳳凰拳の伝承者。他流派の三下伝承者共と一緒にするな。」

心なしか、サウザーが感情的になっているような気がした。
しかし、それ以上に感情的になっていたは、その直感を深くは考えなかった。


「それはシュウ様も同じな筈です!シュウ様だって特別な流派の伝承者で、特別なお方です!
それはサウザー様だってそう思っておいででしょう!?」
「・・・・・・!」

そこで初めて、サウザーが言葉に詰まった。


「お願いです。心を開いて下さい、サウザー様・・・・・。
そうしたらきっと、周りの人々も、そうする筈です・・・・・・。」
「・・・・・・・・」
「私、他の皆さんがサウザー様を怖がるのは、サウザー様が強すぎるからじゃないと思うんです。
そのお心が、見えないからだと思うんです。」

黙り込んだサウザーに、は切々と訴えた。


「お心が見えなくて、強さや厳しさだけしか見えないから、だから・・・・・、だから・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「だけど、サウザー様が心を開いて接するようになられたら、皆さんきっと、
サウザー様の事を慕ってくると思うんです・・・・・!
怖いから、引き立てて欲しいから、従うんじゃなくて、シュウ様のように、本当に心から憧れて、
尊敬して・・・・、そうやってサウザー様の周りに集まってくると・・」
「差し出がましい口を利くな!」

だが、その訴えは最後まで聞いては貰えなかった。
サウザーは突然声を荒げ、椅子を蹴立てての前に立ちはだかった。


「下女風情が、立場を弁えろ!」
「きゃっ・・・・・・・・!」

サウザーは、驚きと恐怖で震えているの顎をおもむろに掴み、持ち上げた。


「そんなにシュウが好きならば、俺の所にやって来てシュウ様シュウ様と騒がずに、
下女らしく黙ってさっさと奴の寝床に侍って来い!」

今までに感じた事のないショックが、の身体を駆け巡った。


「っ・・・・・・・」

それが涙となって零れ落ちると、顎を掴んでいたサウザーの手が緩んだ。


「・・・・・・・・!」

その瞬間、は踵を返して駆け出していた。
















「うっ・・・・・・、うっく・・・・・・」

人目につき難い庭の片隅まで逃げてから、は蹲って泣いていた。
涙は拭っても拭っても、後から後から溢れてきて、なかなか止まってくれなかった。


「ううっ・・・・・!」
「・・・・・・

不意に微かな足音がしたかと思うと、背中に優しい声が掛かった。


「シュウ様・・・・・・・・!」

顔を上げて振り返ると、シュウが立っていた。
は慌てて涙を拭い、もう手遅れだと知りつつも平静を装って見せた。


「どうなさったんですか、こんな所で・・・・。ちゃんと寝ていらっしゃらないと・・・」
「その為に部屋に帰る途中で、走って行く君を見掛けてな。
こんな所でどうしたというのは、こっちの台詞だ。」

言うのも憚られるが、かと言って、こんな明らかに泣き腫らした顔で『何でもない』というのも通用しない。
は弱々しい溜息を吐いてから答えた。


「・・・・・サウザー様を・・・・・、怒らせてしまいました。」
「怒らせた?何をしたのだ?」
「私が余計な事を言ったんです。」
「余計な事?」
「シュウ様みたいに、サウザー様もお弟子さん達の指導をなされば良いのに、って。」
「何故、そんな事を言ったのだ?」
「私、思ったんです。皆さんがサウザー様を怖がるのは、サウザー様のお心が見えなくて、
その強さや厳しさしか見えていないからだ、って。」
「・・・・・・・・」
「だから、サウザー様が心を開いて人に接するようになったら、
きっと皆さん、シュウ様みたいにサウザー様の事も慕うようになる筈だって思ったんです。
怖いから従うとか、引き立てて貰いたいから取り入って気に入られようとか、
そんな不純な気持ちじゃなくて、シュウ様みたいに、純粋に尊敬されて憧れられるようになる筈だ、って・・・・」
「・・・・・・・・・・・なるほど。それで、奴は何と言ったのだ?」

その質問に、は少し考えてから答えた。


「差し出がましい、立場を弁えろ、と・・・・・・」

その後に言われた事は、恥ずかしくて、まだ動揺も治まっていなくて、とてもではないが口に出来なかった。
だが、ショックで混乱の極みにある頭でも、一つだけ、冷静に理解出来る事はあった。


「当然ですよね。伝承者様と只の使用人ですもの。違いすぎる位、立場が違う・・・・。
それを私がいつの間にか、勝手に気安く考えるようになってしまっていたんですよね。」

サウザーに言われて初めて、はそれに気付いた。
そして、気付いた今、は猛烈な自己嫌悪に苛まれていた。
は、誰との間にも境界線を引いてしまうサウザーを哀しく思っていたが、
引かねばならない・越えてはならない境界線もまた、確かに存在するのだ。
それを忘れてしまっていたのは、自分の感情ばかりに捉われていたせいに他ならなかった。


「シュウ様に対しても、きっとそうなっていたと思います。すみませんでした。」

はシュウに向かって、深々と頭を下げた。


「・・・・・・・謝る必要などない」

すると、頭上から、低い呟き声が降ってきた。


「私には、君の気持ちが良く理解出来る。私ならば、君と肩を並べる事が出来る。
立場の上も下もない、お互い只の男と女として。」
「・・・・え・・・・・?」
「もう、あの男の事は放っておいたらどうだ?」
「シュウ、様・・・・・・・?」

思わず頭を上げると、真剣な瞳をしたシュウがすぐ目の前に迫っていた。
いつになく近いその距離に戸惑った瞬間。


「あの男の事は諦めて、私の気持ちに応えてくれないか?」
「え・・・・・・、ぁっ・・・・・・!?」

シュウはの両肩をそっと掴み、唇を重ねようとしてきた。


「・・・・・・・やっ・・・・・・・・!」

は咄嗟にシュウの胸を突き飛ばし、口付けを拒んでいた。
シュウの胸にはついさっき負ったばかりの深い傷があるという事を思い出したのは、
彼との間に決定的な距離が空いてしまってからだった。


「あ・・・・・・、ご、ごめんなさい・・・・・・!」

は青ざめた顔で、只々シュウに詫びた。
傷の痛みを考慮出来なかった事にも、そして、彼を拒んでしまった事に対しても。
元々ショックを受けていたところに新たな動揺が生まれ、もうどうして良いか分からなかった。


「・・・・・そう。それが、君の答えだ。」

しかし、シュウはいつも通り、優しく微笑んだ。


「え・・・・・・・・?」
「奴が何故誰も寄せ付けようとしないのか気になるのも、余計な事を言って怒らせたのも、
全てはその想い故の事だ。だろう?」
「・・・・・・・・!」

違います、とは言えなかった。


「・・・・・な・・・・・、何、で・・・・・・・・・?」
「君は心も表情も実に素直だからな。割と初めの内から気付いていた。」
「・・・・・・・!!」

絶句するを見て、シュウは楽しそうな声を上げて笑った。


「それを率直に伝えてやると良い。そうすれば、奴の機嫌も治るんじゃないか?
立場が云々というのは多分口実だ。奴が怒った本当の理由は、十中八九、他にある。」
「え・・・・・、ど、どういう事ですか?」
「そうだな、言うなれば・・・・・」
「言うなれば・・・・?」
「それは、私でも腹を立てる。・・・・という事だ。」
「え・・・・、えぇ!?で、ですからそれは具体的にどういう事なんですか!?」

が尋ねると、シュウは少々わざとらしく聞こえる程の盛大な溜息を吐いた。


「前々から思っていたが、君はどうも少し鈍い所があるな。
私が言うのも何だが、これでは幾ら何でもサウザーが少々不憫だ。」
「えぇ!?そ、そんなに、ですか・・・・!?」
「ああ。君は肝心な事に限って気が付かないようだからな。」
「か、肝心な事って何ですか!?お願いします教えて下さい!」
「駄目だ!ヒントはここまで!後は本人に訊いて来なさい!」
「そんなぁ・・・・・!」

どれだけ教えを請うても、シュウはもう何も答えてはくれず、
唇を固く引き結んだまま、微動だにしなかった。
は仕方なく、トボトボと歩き始めた。
すると、数歩歩いたところで、またシュウの声がした。


「・・・・・さっきは済まなかった。」

振り返ると、シュウが微笑んでいた。


「君に発破をかけようと、つい芝居が過ぎてしまった。」
「し・・・・芝居・・・・・?」
「ああ。申し訳ない。」
「な・・・・・、なぁんだ〜・・・・・・!!」
「はは、驚かせて悪かったな。」

正直な所、は心の片隅で安堵していた。
ホッとするなんてシュウに失礼だと思いながらも、それでも、いつも通りの彼の微笑みを見て、
芝居で良かったと、大好きな彼を傷付けるような事にならなくて良かったと、思わずにはいられなかった。
そしてそれと同時に、はようやく気付いていた。
自分が、この心に抱えた想いをどうしたいと思っているのかを。


「・・・いえ、私の方こそすみませんでした。
それに、よりにもよって怪我したところを思いっきり押してしまって・・・・・。
考えなしに、本当にすみませんでした。」
「大丈夫だ、気にしなくて良い。それより、さあ。善は急げというだろう。」
「はい。有り難うございました!」

は精一杯の感謝を込めてお辞儀をすると、足取りも軽く駆け出して行った。
己が心に住まう、たった一人の人のもとへと。


















「サウザー様、失礼します。」

決意を胸に秘め、は再度、サウザーの部屋を訪れた。


「・・・・・・・・まだ何か用か」

だが、いざサウザーを前にすると、情けない事に腰が引けた。


「あの・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・あの・・・・・」
「・・・・・・・・」
「あ・・・・の・・・・・・」

がグズグズ言い淀んでいると、サウザーは呆れた顔で溜息を吐いた。


「邪魔だ。用がないなら出て行け。」
「・・・・・・・・・」
「用もないのに気安く俺の所に来るなと言っているのが分からんのか。」

サウザーは苛立った様子で椅子から立ち上がり、足早に歩いて自ら部屋のドアを開けに行った。
そして、立ち尽くしているの腕を無遠慮に掴んだ。


「きゃっ・・・・!」
「さっさと出て行け!」

サウザーは、力ずくでを部屋から引きずり出そうとした。


「あっ・・・・」

ここまできて躊躇っている場合ではない。
今ここで叩き出されたら、もう二度と話を聞いて貰えなくなる。
そんな気がして、はありったけの勇気を振り絞って叫んだ。


「貴方が好きです!!」
「なっ・・・・!?」
「サウザー様の仰る通り、確かに私は下女です!だけど下女も人間です!感情があります!
寝床に侍れと仰るなら、私は貴方の寝床に侍りむぐ・・・」

気が付けば、はサウザーの手に口を塞がれ、部屋の中に引っ張り込まれていた。
サウザーの手は大きくて、口どころか鼻まで塞がれ、息苦しさにはジタバタともがいたが、
その拘束は固く、どれだけもがいても些かも緩まなかった。
ようやく解放されたのは、サウザーがたった今開け放したばかりのドアを閉めた後だった。


「馬鹿かお前は!?人の部屋の前で恥ずかしげもなく変な事を叫ぶな!!」

部屋を閉めきってから、サウザーはに向き直り、目を吊り上げて怒鳴った。


「変な事じゃありません!ずっと・・・・、ずっと思っていた事です!」
「っ・・・・・・・・・!」

が負けじと叫び返すと、サウザーは言葉に詰まった。


「使用人の分際で出過ぎた事を言って、お気を悪くさせた事は謝ります。
だけど私は・・・・、私、は・・・・・」

今度は、が言葉を失う番だった。
昂りすぎた感情が、涙となって突然ポロポロと零れてきたのだ。


「私が好きなのは・・・・・・、サウザー様なんです・・・・・・。
シュウ様じゃなくて・・・・・・、貴方なんです・・・・・・・・」

折角気持ちを伝えようとしているのに、ここで泣き崩れたら台無しになる。
振り絞った勇気が無駄になる。
その一念で、は溢れてくる涙をゴシゴシと拭い、どうにか落ち着きを取り戻した。


「私ずっと、サウザー様の事が気になっていました。
どうしていつも一人でいらっしゃるのか、どうして時々、とても哀しそうなお顔をなさっているのか・・・・」

告白なんて、生まれて初めての経験だった。
うまい方法を思い付くどころか、サウザーの顔さえまともに見られない。
情けなく俯きながら、気持ちのままに話すしか出来なかった。


「気が付いたら、サウザー様の事ばかり考えるようになっていました。
だけど、どうこうしようなんて考えた事はありませんでした、さっきまでは・・・・。」
「・・・・・・・・さっきまで?」
「シュウ様にキスされそうになって、ようやく気付いたんです。」

それでも不思議なもので、それは何とか、それなりに、悪くない形になった。


「確かに私はシュウ様の事が大好きですけど、だけど、そういう意味で考えた事はなくて、
私がそういう意味で好きなのは、サウザー様だけなんだ、って・・・・。
そして、出来ればサウザー様にも、私の事を好きになって貰いたいと思ってるんだ、って・・・・・」

うまく伝えきれた。
そんな達成感を感じて、はおずおずとサウザーの様子を伺った。


「・・・って、サウザー・・・様?な、何でそんな怖い顔なさってるんですか・・・・?」

そこではようやく、サウザーの顔色が変わっているのに気付いた。


「・・・・・・おのれ・・・・・」
「あ、あの・・・・・?」
「お前は俺をひっかき回すのがそんなに楽しいか!?」
「きゃあっ・・・・!」

一瞬すぎて、何が起きたのか分からなかった。
何が何だか分からない内に、はサウザーのベッドの上に押し倒されていた。
だが、この状況に動揺する暇とてなかった。
上に覆い被さっているサウザーが、明らかに感情を剥き出しにして怒鳴り始めたのである。


「黙って聞いていれば意味の分からん事ばかり!
俺の事を好きだと言いながらシュウが『大』好きだと!?どの口がそんな事をほざく!?」
「な、何でそんなに怒るんですか!?」
「これが怒らずにいられるか!それに、シュウにキスされそうになったというのは何だ!どういう事だ!!」
「で、ですからそれはお芝居で・・・・・!」
「芝居だと!?また意味の分からん事を!嘘を吐くと承知せんぞ!!」
「嘘じゃありません!シュウ様は私に発破をかける為にキスする振りをなさったんです!」
「そんな事信じられるか!」
「でしたらシュウ様に訊いてみて下さい!ご本人がそう仰ったんですから!」
「ばっ・・・、馬鹿かお前は!訊けるかそんな事!」

サウザーの剣幕に釣られてつい大声を張り上げてしまったが、怒鳴り合いが収まって
興奮が落ち着いてみると、この状況はあまりにも際どかった。


「・・・・あ・・・・あ、の・・・・・・・・」

動揺しているとは対照的に、サウザーはうろたえもしなければ、退こうともしなかった。
そんな彼に、退いて下さいとは言えなかった。
たとえ言ったところで退いてくれる気がしなかったし、何より自身が、
この状況に動揺はしても、決して嫌だとは思っていなかった。


「・・・・・・シュウ様に・・・・言われました。サウザー様が怒った理由は他にあるって・・・・。
それは私でも腹を立てる、サウザー様が不憫だって言われました。
具体的にどういう事かは、サウザー様ご本人に訊いて来い、と・・・・」

退いて下さいと頼む代わりに、は尋ねた。
分からなかったヒントの意味を。
そして、一番知りたかった事を。


「教えて・・・頂けますか・・・・?」
「・・・・・それは本気で訊いているのか?」
「は・・・・はい・・・・・・・・・。
あ、あと・・・・・、出来れば、その・・・・・・私の、さっきの話への・・・・、
その・・・・、お返事も・・・・、お聞かせ頂けたら、と・・・・」

心の底でずっと知りたいと思っていた、だけど怖くて確かめられなかった、サウザーの気持ちを。


「・・・・・救いようのない鈍さだな・・・・・・」

程なくして、溜息と共に心の底から呆れ返ったような呟き声が小さく聞こえた。


「え・・・・・?んぅっ・・・・・・・・!?」

また、動揺する暇もなかった。


「っ・・・・・は・・・・、ぁ・・・・・」

理解したのは、サウザーの唇がのそれを深く塞ぎ、離れていってからだった。


「・・・・・良かろう。今から教えてやる。その絶望的に鈍い頭でも理解出来る方法でな。」

破裂しそうな程高鳴る胸に、サウザーの辛辣な言葉がチクリと刺さった。


「ぜ、絶望的って・・・・・。私、そんなに鈍いんですか・・・・・?
シュウ様は『少し』って仰っていましたけど・・・」
「黙 れ。」
「っ・・・・!」
「とりあえず言っておく、シュウの話はするな!特に今は、絶対に!分かったな!?・・・・
「え・・・・・・?あ・・・・、わ、私の、名前・・・、今、初めて・・・」
「黙れと言った筈だ・・・・・」
「あっ、んっ・・・・・・・!」

だが、その小さなダメージは、瞬く間に掻き消えていった。
それ以上に大きな、大きな、不安と期待と喜びに包み込まれて。




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後書き

『失明前のシュウ&サウザー&ちょっと天然なヒロインとの三角関係』というリクエストを頂きました。
この3キャラで、切なく甘い話を目指して書いたのですが。
・・・・・んー。
どこで方向を間違ったのか。
天然の解釈を誤ったのか、はたまたキャラが若いからか。
書けば書く程、考えれば考える程、青春ドタバタラブストーリーにしかなりませんでした(汗)。
すみません、大目に見て下さい(汗)。
リクエスト下さったkai様、有難うございました!