嘘と本当の間に




哀れな女だった。
イボイノシシみたいな小悪党に攫われたのもともかく、待つ者も居ない女だった。
女が欲しくてイボイノシシから奪った女達は、全員家族が有り帰る場所も有ったのに、その女だけは違っていた。
聞けば数ヶ月前に結婚したばかりの亭主を亡くしたらしい。
天涯孤独のその女を手元に置こうと思った理由は、確かに只の同情だったのかもしれない。





「よう、。」
「ジュウザ。久しぶりね。」
「悪ぃ。最近色々立て込んでてな。」

ここは俺の隠れ家ともいえる村。
その中の一軒の家に、俺はを住まわせていた。
早いもので、もうここに連れて来てから半年程になる。
俺がここに来るペースは、その時の気分と状況次第だ。
ちなみに今日は、実に二週間ぶりだったりする。


「食事は?」
「そうだな。貰おうか。」
「分かった。すぐ用意するわね。」

にこりと微笑んで、は台所に立った。
さすが元人妻、料理する姿が様になっている。
こうしてが食事を拵えるのを待っていると、まるで恋人か夫婦ごっこでもしているようだ。
俺の場合は所詮上っ面だけだがよ。
帰って来れば、こうして食事を用意して待っていてくれる女がいる。
死んだ亭主は果報者だったな。

しかし、この若さと器量で早くも後家とは、可哀相な話だ。
つい強引に連れて来てしまったが、俺は最近ふと考え込む時がある。
は本当にこれで満足しているのだろうか、と。



。お前よぉ、いつまでここに居るつもりだ?」
「なぁに急に?ここに居ろって言ったのは貴方でしょ?」
「まぁそうだけどよ・・・・。別に出て行けってんじゃねぇけど、お前まだ若いんだし、もう一度身を固める気はないのか?」

は俺の質問に答えず、笑って鍋をかき回すだけだった。
余計な世話だったか。
でも俺は、気にせずに居られないんだ。
が他人のように思えなくて。





夜も更けた頃、俺は必ずを求める。

「は・・・・ぁん・・・・・」

初めて身体を許してくれたのは、いつだったか。
多分三ヶ月程前だったと思う。
自分で言うのも何だが、俺は飽き性だ。
同じ女を三ヶ月も抱けば、普通ならもういい加減飽きている頃だ。
だが、は別だった。

「んっ、あぁん・・・・・!」
「お前、ここ好きだな?」
「や、めて・・・・!そういう事言わないで・・・・・!」

恥ずかしそうに顔を顰めるの、茂みに隠れた花芽を指で刺激しながら、俺はその表情と身体の感度を愉しんだ。

ガキとババァにゃ興味はねぇが、年頃の器量良しならば大抵落としてきた。
それこそ、未亡人でない正真正銘の人妻を寝取った事もある。
それも、何の罪悪感も無しにだ。

だが、このだけは違う。

抱いて夢中になるのに、心の中で何処かが痛む。
神聖な何かを冒しているように。
そう思うのは、が彼女に似ているからだろうか。
それとも、俺に似ているからだろうか。





「・・・・・ジュウザ?どうしたの?」
「ん?ああ、いや、何でもねぇ。」

ふと一瞬上の空になっていた事を誤魔化すように、俺はの太腿を持ち上げて、秘部の中心から溢れている蜜を啜り始めた。

「ひっぁ・・・・・!あぅっ・・・・・!」

この声も、顔も、髪の色も長さも、彼女とは違う。
同じなのは、性別と年齢ぐらいだ。
それでも尚似ていると思うのは、雰囲気のせいだろうか。
全てをすっぽりと受け入れるような、誰をも赦すような。
実際の側に居ると、この空っぽの心は幾らか安らぎを取り戻し、満たされる。
俺にとっては奇跡に近い事だ。
死んだものと思って忘れたつもりの彼女の影に、未だ囚われている俺にとっては。



「ん、あんっ!は・・・ぁ・・・・・」

いくら啜っても、蜜は後から後から湧いてくる。
本当に良い身体だ。
最初の頃は多少固かったが、今はすっかり俺に馴染んだようだ。

衣食住の心配をさせずに、優しく扱ってやりゃ、女は警戒心を解く。
それはも同じで、時が経つにつれて笑顔を見せてくれるようになり、下らない世間話なんかにも反応するようになって、そして。
こうして身体も開いてくれるようになった。

を抱いていると、このままずっとこうしていられたらと思う。
苦い思い出は葬ってしまって、このまま本当にに溺れてしまえたら、と。
でもきっと、それは出来ないんだろうな。



「あ、ん・・・・、くぅッ・・・・・・!ジュ・・・・・ザ・・・・・!」
「何だ、もう欲しいのか?」

わなわなと身体を震わせてせがむに、俺はわざと意地悪く勿体つけて囁く。
それでもは、恥ずかしそうにしつつも素直に頷く。
この位までには、心を許してくれている。
でも。

「ふ、あぁぁっ・・・・!」

卑猥な音を立てて俺を飲み込みながら喘いでいても、は何処か違う所を見ている。
死んだ亭主の事でも考えているのか?
そう思うと、何故だか無性に腹が立つ。
今お前を抱いているのは俺だと思い知らせたくなって、ついムキになっちまう。


「あっあぁん!!」
「余所見するなよ、ほら。」

腰を持ち上げ、太腿を大きく割り開いて深くの身体を抉りながら、俺は少し自嘲する。

他の誰かの事を忘れられないのは、お互い様なのにな。
勝手なもんだな、男ってやつはよ。
お前には俺だけを見ていて欲しいなんて思うのは、やっぱズルいか?

「あっあっあっ・・・・!んぅ、はぅっ!」
「ふぅっ・・・・、くっ・・・・!」

俺の存在を思い知らせるように激しく突いていると、流石に余計な事は考えられなくなったのか、は甘く鋭い声で啼き始めた。

どんな男だったか知らねぇけど、よっぽど惚れてたんだな。
俺が彼女の事を口にしないのと同じように、お前も亭主の事を話さないのは、多分俺と同じ、まだ忘れきれていないからだろうな。
本当に、俺達は似たもの同士だと思うよ。



・・・・・。お前、俺が好きか?」
「・・・・好き、よ・・・・・」
「ふっ・・・・、そうかよ。」
「どうしたの、急に?」
「何でもねぇ。さ、そろそろいくぜ。久しぶりなもんで、今日はちっとばかし溜まってんだ。悪いな。もう我慢出来ねぇ。」
「あ、あんんっ・・・・!!」

目線の先で揺れている胸の先端に吸い付いて、俺は狂ったように腰を振った。

好きなのは本当だ。
最初は同情だったかもしれないが、今じゃ愛してると言っても良い位かもしれない。
だが、俺もお前も過去に囚われている以上、互いに溺れきる事は出来ないんだろうな。
嘘にも本当にも出来ない愛を、ただ可能な限り、延々と紡いでいくしか出来ないんだろうな。
本当、俺達は下らねぇ似たもの同士だぜ。


じっと考えると侘しくなっちまうから、俺はの身体に夢中になる。
荒い息と嬌声を吐く唇を、甘い香りを発する首筋を舐め回し、身体の奥深くまで繋がって、頭ん中が真っ白になるまで。





なぁ
所詮『恋愛ごっこ』に過ぎねぇがよ。
なるべく長く俺を好きでいてくれなんて願ったら、やっぱ卑怯か?





「ん・・・・・」
「あ、起きた、ジュウザ?」
「ああ・・・・・。ダリィ・・・・・。今何時だ?」
「もうお昼よ。本当に朝弱いわね。」
「俺ぁ夜行性なんだ・・・・・。腹減った・・・・」
「ふふ。だろうと思った。朝ご飯食べるでしょ?もうお昼ご飯になっちゃうけど。」
「おう。」

ベッドの中でのあられもない姿が嘘のように、はすっきりとした表情と身なりで台所に立っていた。
いつもと変わらねぇ、寝起きの光景だ。
俺はその様子を、まだ半分寝ぼけた目でぼんやりと見ていた。

「ねぇ、ジュウザ。」
「あん?」
「知ってる?あなた時々寝言で『ユリア』って言うのよ。」
「へ・・・・・え・・・・・。ははは、俺そんな事言ってるか?」
「言ってる。」

端を綻ばせたの口元から、急に彼女の名が飛び出してきて、俺はつい動揺しちまった。

「ま、俺ぁモテるからな。そう妬くなよ、。」
「あら、妬いてなんかないわ。」
「ほ〜う、意地張るところも可愛いじゃねぇか?」
「やだ、からかわないで!意地なんかじゃないわよ。・・・・・だって貴方、いつも哀しそうな声でそう呼ぶから。」

ふわりと微笑む
何だかまるで全部見透かされているみたいで、決まりが悪い。
それにしても、そんな寝言を言ってるなんて、全然気付かなかったぜ。

でもな、
お前だって知っているか?
俺が寝た振りしている間に、お前は時々ロケットのペンダントを開いてじっと見ているだろう?
切なそうな瞳でよ。
俺は気付いているんだぜ?

「そんな話はどうでも良いからよ。早いとこメシにしてくれよ。」
「ふふ、はいはい。」



嘘でも本当でもない、中途半端な愛し方しか出来ないのはお互い様だから。
だからもう少し、出来るだけ、こうして側に居てくれよ。

過去の古傷に蓋をしてしまうように、俺は話をはぐらかすと、脱ぎ散らかしていた服を身に着けた。




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後書き

なんーじゃ、この中途半端な話(乾笑)。
甘い話をご希望だったのに、微妙に(っていうかかなり?)違ってて
済みません(汗)!
リクエスト下さったキャンディ様、どうも有難うございました!