HOPELESS LOVE




「失礼いたします、ミュウ様。そろそろおやすみのお支度を・・・・」
「今日は結構よ。」
「・・・・畏まりました。他に御用はございますか?」
「いいえ。下がってよろしい。」
「では失礼いたします。」


ミュウ様は今夜も・・・・


寝支度を断られる夜、ミュウは決まってジャコウ総督の元へ向かう。
度々こんな夜が訪れるようになってしばらく経つ。
最初の頃、気付かずにうっかり詮索して窘められて以来、ミュウが寝支度を断った時はすぐに引き下がるという暗黙のルールが出来た。
そしてもう一つ。

はミュウの部屋を出て、ある場所へ向かう。
こんな日は、彼は必ず其処に居る。
必ず・・・・




電気の光が煌々と輝いているのは、ジャコウ総督が使用する場所のみ。
他は全て夜の闇に包まれている。
その闇に溶けるようにして佇む一人の男。
は、その男を少し離れた場所からそっと見守る。

ファルコ様・・・・・。


15の時、行き倒れ寸前だったところを彼に拾われてこの中央帝都へ連れて来られた。
以来、彼の最愛の女性ミュウの側仕えとして働き、もう2年になる。
2年の間に、命の恩義はいつしか恋へと姿を変えていた。




ミュウがジャコウ総督の私室に入って行くのが見えた。
大人と呼ぶにはまだ早いでも、それが何を意味するかぐらい分かる。
しかし理由は分からない。
ミュウは自分を一人の人間として扱ってくれるし、それなりに信頼もしてくれているが、心の内を明かしてくれたことはない。
そしてそれはファルコも同じであった。


闇に包まれていても、ファルコの表情が歪んでいるのが分かる。
彼の苦しげな表情を見る度に、何も出来ない自分が恨めしくなる。
自分の未熟さと無力さを呪いたくなる。
辛そうな彼の為に何かしたくても、自分には何も出来ない。
せめてこうして影から見守ることしか・・・・

「誰だ?そこで何をしている?」
「!」

ファルコがに気付き、近付いて来る。
その右足が泣いている。

か。以前からしばしば誰かがここに居るのは感付いていたが、お前だったとはな。こんな所で何をしている?」
「あ・・・、あの、申し訳ありません、その・・・・」

苦しむ貴方の姿を見守っていたなんて言えない。

「・・・・まあ良い。ここはお前のような娘の来る所ではない。早々に立ち去れ。」

冷たいファルコの声が、の心に突き刺さる。
まるでこの密やかな想いを否定されたようで泣きたくなる。


「どうした?早く去らぬか。」
「・・・・ファルコ様、私は何も出来ませんか?」
「どういう意味だ?」
「私は、ファルコ様の為に何も出来ませんか?ファルコ様のお辛そうなご様子をこれ以上見ていられないんです!」
・・・・」

感情が昂る余り、の瞳から涙が零れる。
ファルコは一瞬驚いたように口ごもったが、すぐにその大きな手での涙を拭った。

「ならばミュウに誠心誠意尽くしてやってくれ。」
「それだけ、ですか・・・?」
「それだけで十分だ。」

ファルコは、小さな子供を諭すように穏やかな笑みを浮かべて言う。

ああ、やっぱり。
やっぱり私では駄目なのですね・・・・

「・・・・・っ、ひっ、・・・っく・・・」
「泣くな。」
「ファルコ様、私・・・・」
「もう何も言うな。さあ、自分の部屋に戻りなさい。」

優しいが逆らいがたい声で言われ、は自室に戻らざるを得なくなった。
涙を拭ってファルコに一礼し、無言で立ち去ろうとするを、ファルコの声が呼び止めた。

「お前はまだ若い。いつか必ず自分に相応しい相手が見つかる。」
「・・・・失礼します。」

ファルコの言葉に振り返ることなく、は急ぎ足で自室へ戻った。
布団代わりの粗末な布を頭から被ると、堪えていた涙が後から後から溢れて来る。
同室の他の者に気付かれぬよう、は声を押し殺して泣いた。


ズルい。
そんな風に言わないで。
『相応しい相手』なんて欲しくない。
貴方じゃないと駄目なのに。


やはりどうあっても自分の想いが叶うことはない。
どんなに願っても、彼の愛を得ることは出来ない。
心が張り裂けそうに痛い。


「ファルコ様・・・・・」

小さく呟いた愛する人の名は、誰の耳にも届くことなく、夜の闇に溶けて消えた。




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後書き

初元斗です!
まるで恋する女子生徒と想いを寄せられる教師(?)のようになっちまいました(爆)。
ヒロインの小娘っぷりが炸裂しています(笑)。そしてファルコもありがちな年上男になってしまいました(笑)。
予告はしていたけれど、やっぱりチープですね(爆)。
nicola様、こんなもんしか書けない私を許して下さいーーー(謝)!!!