爽やかな初秋の陽の光がさんさんと射し込む部屋の中で、シュウは一人、来るべき時に備えて佇んでいた。
温かな黄金色をしたあの光の眩しさはもう分からないが、温もりは感じる。
今日はとても良く晴れている。
きっと、素晴らしい日になるだろう。
「失礼します、シュウさん。」
軽いノックと共に、部屋に入ってきたレイの声に、シュウは振り返った。
「・・・良いところに来てくれた。ちょっと見てくれ。どこか変な所はないか?」
シュウはそう言って、軽く両腕を広げてみせた。
「いいえ、とても立派ですよ!」
「そうか、良かった。何せタキシードなど着るのは、これが初めてなものだから。」
しかも、全身真っ白ときた。
自分のその姿を想像すると何だか急に気恥ずかしくなって、
シュウははにかみながら、自分の癖毛をザクザクと指で梳いた。
「・・・まさかこんな格好をする日が来ようとはな。」
シュウの呟きを聞いたレイは、小さく笑った。
初めて聞いた、歳相応の無邪気な少年の笑い声だった。
「何故笑う?」
「すみません。同じような事をサウザーさんも仰っていたので。どうぞ。」
不意に腕に抱かされたのは、芳醇な香りのする花束だった。
しかも、いやに嵩が高い。
両腕に抱えきれない程の、これでもかと言わんばかりの、大量の花だった。
「何だ、これは?まさか奴からか?」
「まさか貴様がそこまで腑抜ける日が来ようとはな。恥の掻きついでに、これでも抱えてろ・・・と伝えるように言われました。」
今度はシュウが吹き出す番だった。
「すみません。失礼な事を。」
「いや、良いんだ。その時の奴の顔が目に浮かぶようでな。
こう、皮肉な感じに口元だけで笑っていただろう?」
「何故分かるんですか?」
「長い付き合いだからな。」
シュウはまた少し笑うと、確認をした。
「・・・・という事は、奴は来なかったのだな?」
「・・・・・すみません。」
今度の『すみません』は、本当に申し訳なさそうだった。
「是非来て欲しいと、改めてお願いはしたのですが・・・・・」
「いや、良いんだ。最初から、多分来ないだろうと思っていた。」
申し訳なさそうなレイを、シュウは笑って宥めた。
レイが責任を感じる必要は、少しもなかった。
自分から是非にと招待しておきながら可笑しな話だが、はじめからこうなる事は予想していたのだ。
「フフ・・・、如何にもあの男らしいじゃないか。」
引き出物に、嫌味のように大量の焼き菓子でも送りつけてやろう。嫌でも人に配り歩かねばならない程の量を。
そんな事を考えてつい吹き出すと、レイも釣られて小さく笑った。
「神父様が、準備が出来たらそろそろ、と。」
「分かった。」
レイが先に立ち、ドアを開けた。
このドアを出たら、いよいよだ。
高揚感と緊張を同時に感じながら、シュウはゆっくりと部屋を出て行った。
「とても綺麗よ、ちゃん!」
「そのドレス、とっても良く似合ってるわ!」
その褒め言葉に、ははにかみながら、純白のヴェールの陰に顔を隠した。
口々にを褒め、何かと世話を焼いてくれるのは、いつも花を買ってくれる得意先の店の女将や奥方達である。
花嫁の介添え役を務めようと集まってくれたのだ。
「ブーケも可愛いじゃない!」
「それ、お宅のお花で作ったんでしょ?」
「は、はい。」
「コスモスのブーケなんて、今の季節にピッタリで素敵ねぇ!」
「ありがとうございます・・・・・。」
ドレスもアクセサリーも全て借り物だったが、ブーケはが自分で拵えたものだった。
決して豪華ではなかったが、花から丹精込めて作ったものだけあって、は満足していた。
「まぁホント、折角こんなに綺麗な花嫁さんなのにねぇ〜!」
「肝心の旦那様が見れないってんだからねぇ〜!」
「ちょっと・・・・・!」
少しお喋り好きな何人かが心底悔しそうに口を滑らせ、他の人に肘で小突かれ、慌てて口を噤んだ。
「あらやだ!私ったらごめんなさい・・・・・!」
「ごめんね!悪気はなかったのよ!ただ、あんまり勿体ないと思ったんでつい・・・・!」
の夫となる人が盲目である事は、皆知っていた。
大きなハンデを抱えながらも健気に寄り添い生きていこうとする若い二人を、
周囲の大人達は皆、励まし、祝福し、そして憐れんでくれていた。
「ふふっ、良いんです。気にしないで下さい。」
しかし、当のは気にしていなかった。
大切なのは、もう戻らない過去ではなく、今、ここから続いていく、未来なのだから。
「さあ、時間よ!」
「いよいよだわね!」
「はい。行ってきます。」
程なくして、教会の扉がゆっくりと開かれた。
内側から扉を開けてくれた少年レイが、を見て、顔を輝かせて笑った。
その笑顔に微笑みで応えて、はしずしずとヴァージンロードを歩き始めた。
向こうにシュウが待っている。
こちらを見て、微笑んでいる。
まるで、この姿が見えているかのように。
― シュウ・・・・・・
一歩、一歩、足を揃えて歩いてゆく。
それを参列者席から見守ってくれているのは、まだ幼いレイ少年と、今は亡き互いの両親だ。
席上に置かれた写真の中から、優しく、温かく、微笑んで見守ってくれている。
だから、一人で歩く事は少しも寂しくなかった。
これからは、違う人生を生きるのだ。
両親の娘ではなく、シュウの妻として。
そう思うと、少しの緊張と沢山の喜びで、胸が震えた。
早く、この手を取ってほしい。
しかし、駆け出す事は許されない。
一歩、一歩、ゆっくり、静かに。
シュウはそこで待っている。
もう少し、あと少し。
「・・・・・・・・」
やがて、白い靴の爪先が見えた。
顔を上げると、シュウの手が差し伸べられた。
何も恐れる事はない。
何も後悔はしない。
力強く大きなその手は、にとっては、永遠への扉だった。
静かな山の中の、小さな家に灯りが灯ったのは、夜になってからの事だった。
「うふふっ!楽しかった〜!」
挙式の後、二人は町のレストランでごく親しい人達を招き、ささやかな披露宴を開いた。
身近な人達に沢山の祝福を受け、は本当に幸せそうだった。
こんなにはしゃいで嬉しそうなは初めてだった。
「贈り物の山だ。沢山貰ってしまったな。」
シュウは笑いながら、両腕に抱えていたものをテーブルに下ろした。
それは祝いに来てくれた人達からの、結婚祝いの品だった。
大小様々、装飾品に実用品と色々あるなか、一際存在感のあるのが、サウザーから贈られた花束だった。
「本当に見事だわ・・・・・」
が隣に来て、ふと呟いた。
うっとりとしながらも、どこか少し、悔しそうな声で。
「私のブーケとは比べ物にならないわね。」
「そんな事はないだろう。君のブーケは、皆に大好評だったじゃないか。」
「ふふっ、そんなんじゃないの。私、いじけてるんじゃないのよ。」
は、軽やかな声で笑った。
「今の私じゃ、まだこんな花を育てる事は出来ないわ。人手もないし、設備もない。」
「・・・・・・・」
「だけど私達、これからでしょ?
二人で頑張れば、これから先、どんな夢だって叶えられる・・・・・、そうでしょう?」
の指先が、シュウの左手の薬指に填められた真新しい銀の指輪をそっと撫でた。
「そう思うと、頑張ろうって、力が湧いてくるの・・・・・・」
シュウはの肩を、そっと抱き寄せた。
「・・・そうだな、私もだ。」
「ふふっ・・・・・、こんな風に改まると、何だか恥ずかしいわね!」
はにかんだの顔が、闇の中に浮かんだ。
こうして声を聞けば、がどんな顔をしているか分かる。
笑ったり、喜んだり、偶には泣いたり、怒ったり。
「あ・・・、お、お茶でも飲む!?今日は疲れたでしょう!
すぐにお風呂の仕度するから、それまでお茶でも飲んで待ってて!」
今はさしずめ、顔から火が出そう、といったところだろうか。
衣擦れの音をさせながら行ってしまうを見送り、シュウは微かに笑った。
「あ、あの・・・・・」
その途端、がまた戻って来た。
「その前に、お願いがあるんだけど・・・・・」
「何だ?」
何だか申し訳なさそうなの声に、シュウは首を傾げた。
固い指先が背中を弄るのを、は息を潜めて感じていた。
気を遣いすぎなくらいに優しく触れるから、そんなつもりはなくても、微かな吐息が思わず洩れてしまう。
「ここか・・・・・?」
「そう・・・・・、そこ・・・・・・」
小気味の良い音を僅かに立てて、ドレスの背中が開いていく。
その感覚は、に、解放感と一抹の寂しさとを与えていた。
あと少し、もう少し。
腰まで開くと、は小さく溜息を吐いた。
「ありがとう。難しかったでしょう?」
シュウの目が見えなくなって、もうすぐ一年。
日常生活で困る事は、もう殆どなくなっている。
だが、婚礼衣装という『非日常』な物の扱いには、流石のシュウも手こずるようだった。
「ごめんね、面倒な事を頼んで。」
「なかなかの強敵だった。お陰で良い訓練になった。」
自分のタキシードにも少なからず苦戦したという彼に、ウェディングドレスの背中の、
目立たないホックとファスナーを頼むのは心苦しかったのだが、シュウは少しも嫌な顔をしなかった。
それどころか、冗談さえ飛ばしてみせる。日々の生活の一事が万事、こんな調子だった。
がシュウの目の事を思い悩まなくなったのは、単に時間の経過だけではなく、
彼のこの大らかさに救われているからでもあった。
「・・・・・だけど、いざ脱ぐとなると、ちょっと名残惜しいわね。」
それは、他愛もない女心だった。
一度、美しいものを身に纏えば、肌から離すのが惜しくなる。
それが滅多にない事なら、尚更に。
「この先もう二度とこんな恰好出来ないって思ったら、何だか脱ぐのが勿体無い気がしてきちゃった。」
「ははは。確かに、そうそう着るものではないからな。」
「・・・・・それに、今日の事をずっとずっと楽しみにしてきたから。」
今日のこの日を指折り数えて待ち焦がれてきただけに、
そして、夢見た通りの素晴らしい喜びに満ちた日となっただけに、
終わってしまう寂しさもまた、ひとしおだった。
「これを脱いだら、もう終わっちゃうのね。私達の結婚式・・・・・・」
「・・・・・・」
「ふふっ・・・・、いやね、こんな事で感傷的になっちゃうなんて。
何も終わりなんかじゃないのにね。
今日も明日も明後日も、ずっとずっと一緒にいられるのにね。」
他愛のない感傷で、シュウを困らせる気はなかった。
は、つまらない事で寂しがった自分をせかせかと笑い飛ばした。
「さてと!着替えたらすぐにお茶淹れるわね!お風呂もすぐ・・」
突然、シュウに抱きしめられ、は言葉を失った。
「まだ終わってなどいないさ、私達の婚礼は・・・・・」
「あ・・・・・・・・・!」
大きく開いた背中に、シュウの唇が押し当てられる感触に、は思わず身を震わせた。
「や・・・・だ・・・・・・、どうしたの・・・・・・?」
「愛している。」
耳元に囁かれたその低い声に、背筋が甘く痺れた。
「・・・婚礼の夜に妻を抱く事に、それ以外の理由が要るのか?」
シュウの声は、からかうような笑いを含んでいた。
わざとだ。
だが、頭でそうと分かっていても、ひとたび甘く痺れてしまった身体は、もう言う事をきかなかった。
「・・・・で、も・・・・・、お茶は・・・・・・・?」
「いい。」
「・・・お風呂、入らなきゃ・・・・・」
一緒に暮らし始めて随分経ち、既に数え切れない程の夜を共にしてきている。
だが、今夜はあくまでも特別。『新婚初夜』なのだ。
としては、それなりの準備をしてから、という考えがあったのだが。
「後で一緒に入ろう。」
「そん・・・・な・・・・・」
「嫌か・・・・・?」
唇が殆ど触れ合う程近くでそんな事を訊かれては、どうしようもなかった。
「ん・・・・・・」
何度もキスを交わしながら、シュウは昼間のセレモニーの事を思い返していた。
皆がの花嫁姿を褒め称えていた。
そして、言葉を選び、或いは暗黙の内に、夫だけがその姿を見られないという皮肉な現実を、酷く残念がっていた。
「ぁ・・・・・」
しかし、目で見えずとも、触れれば分かる。
綺麗に結い上げた髪には大ぶりの華やかそうな髪飾りが挿してあり、
柔らかな耳朶にはイヤリングが揺れ、首元を飾るネックレスは真珠だろうか。
どれも普段はしない物ばかりだった。
そして、触る場所によって手触りが変わるのは、の纏っているドレスだ。
ふんわりしていたり、掌を滑るようだったり、しかしいずれも繊細な感触で。
色はきっと、早春の森に積もった淡雪のように清らかで、眩いばかりの純白なのだろう。
「シュウ・・・・・・、擽ったいわ・・・・・・・」
シュウはいつにもまして、に触れた。
指先で、唇で、の姿を確かめるように。
「こうしていると、よく分かる。とても綺麗だ・・・・・」
「・・・・ゃ・・・・だ・・・・・・・」
が、恥ずかしそうに小さく笑う。
その吐息が、シュウの唇を甘く擽り返した。
こうなると、窮屈なタキシードが本格的に煩わしくなってくる。
早くの温もりを感じたくて、シュウは自分の襟元を探った。
蝶ネクタイのホックはすぐに探り出せたが、しかし、それを外すのがうまくいかない。
「顔、少し上げて・・・・・」
苦戦していると、の手が喉元に伸びてきた。
はシュウの代わりにネクタイのホックを外し、シャツのボタンを外していった。
「・・・ありがとう。」
シャツのボタンを全て外して貰うと、シュウは微笑んでを抱き寄せた。
目が見えなくなって間もない頃は、こんな風に身の回りの世話をして貰うのを情けなく思う事もあったが、今はもう思わない。
いつの間にか、頼るべきところは素直に頼る事が出来るようになっていた。
それは、が過剰に気を遣わずにいてくれるお陰だと、シュウは思っていた。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるばかりでなく、以前と同じように頼ったり、甘えたりしてくれるからこそだと。
「・・・・・ん?」
大きく開いたドレスの背中から手を差し入れて、シュウはふと、手を止めた。
「どうしたの・・・・・?」
「これはどうなってるんだ?」
「あ・・・、そっか・・・・・・。
これ、普通の下着じゃないの。ドレス用のビスチェだから・・・・・」
「ははぁ、ビスチェ・・・・・・」
ビスチェなる物が何なのか、シュウには知る由もなかった。
すると、何がそんなに可笑しかったのか、は吹き出し、クスクスと笑い始めた。
「参ったな、そんなに可笑しいか?」
「だって・・・・・・、ふふふふっ・・・・・・!」
「むう・・・・・、すまない・・・・・・・」
恥ずかし紛れに頬を掻いていると、不意にがその手を取った。
「謝らないで。貴方のそういうところ、大好きなんだから。」
シュウの掌に、の頬が触れた。
既に手に馴染みきっている、柔らかなその感触は、シュウにとっては『幸福』そのものだった。
「貴方の手、大きくて、力強くて、温かい・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「怖い位に幸せだわ・・・・・・・・・。夢じゃないわよね・・・・・・・?」
「勿論だとも・・・・・」
断じて夢などではない。
手にした『幸福』は、紛れもなく現実のものなのだから。
「夢などであるものか・・・・・・・」
手にした幸福を噛み締めるように、シュウはをしっかりと抱きしめ、その唇に深く、口付けた。
慣れない婚礼衣装を手探りで脱がせ合い、二人はベッドに倒れ込んだ。
の首筋からは、普段はつけない香水の香りがほんのりとしていた。
楚々とした瑞々しさのあるその香りは、にとても良く似合っていた。
香りに惹かれて項や耳朶に何度も口付けていると、シュウの背中をかき抱いているの指先に、次第に力が篭ってきた。
それに応えるようにして、シュウは手を下へ伸ばした。
女性の人生一番の晴れ着は、何も外側、ドレスだけではない。
人目には触れない『内側』もまたぬかりなく美しく繊細で、そしてやはり、未知のものだった。
「何だ、これは?」
の太腿に留まっている、ドレスと良く似た手触りの小さな物に気付き、シュウは首を傾げた。
「ガーターベルトよ。ストッキングを留める為のものなの。
幸せになれるおまじないって、衣裳屋さんがプレゼントしてくれたの。」
「そうか。それは有り難い事だな。」
「これね、青いリボンがついているの。サムシングブルーっていって、
何か青いものを人目につかない部分に着けると幸せになれるんですって。」
「なるほど。だから、『幸せになれるおまじない』か。」
「それでね、これを、その・・・・、花婿がドレスの中に潜り込んで、手じゃなくて口を使って外して、
独身の男性客に向かって投げるんですって。ほら、ブーケトスの男性版みたいな感じで・・・・・」
シュウが恥ずかしがるより前に、が恥ずかしそうな笑い声を洩らした。
「そんな事、人前で恥ずかしくて出来ないでしょ?それに、ブーケトスをするのだから、
わざわざそんな事までしなくても良いかと思って、貴方には言ってなかったんだけど。」
「確かに・・・・・・」
もしにそれをしたいとねだられていたら、正直、応じる事が出来たかどうか。
多分、無理だっただろう。
幾ら婚礼の為の大切な儀式や演出だとしても、女性のスカートの中に頭を突っ込むような真似は、シュウには出来そうになかった。
「そんな事、人前ではとても出来んな。」
「でしょう?私もそんな事・・」
「だが今なら、出来なくはないな。」
「え・・・・・?」
シュウはおもむろに身体を下にずらし、の太腿に顔を近付けた。
「シュ、シュウ・・・・・?」
「これを、口を使って外せば良いんだな?」
「やっ・・・、ちょっ・・・・・・・!」
シュウはの太腿に留まっているガーターベルトを探り当て、
ひらひらと薄く繊細な手触りのそれを噛み千切らないよう気をつけて唇で挟み、下へとずらし始めた。
「ゃ・・・・・だ・・・・・・、シュウ・・・・・・」
の太腿が、小刻みに震えている。
恥じらいと、戸惑いと、擽ったさと、そして、幾ばくかの甘い疼きを感じて。
「ぁ・・・・・・」
人前ではとても出来ない真似だが、二人だけの秘め事の中でなら、少しも恥ずかしくはない。
それも、二人で一つの悦びの中に溶け込んでいく為の、ステップとなるのだから。
潜めるようなの微かな吐息だけが聞こえる中、シュウは慎重にの脚からガーターベルトを抜き去った。
そして、太腿の付け根に軽いキスをした。
「あんっ・・・・!」
ビクンと身体を震わせたをやんわりと抱え込んで、シュウはもう一方の太腿を撫でた。
「ああ、こっちにもあった。これも外せば良いのだな?」
「でも・・・・・」
「これも婚礼の儀式なのだろう?」
「ぁっ・・・・・・!」
有無を言わさず、もう片方のガーターベルトも口を使って外し、
終わった後に太腿の付け根にキスをすると、はまた身を震わせた。
より一層、甘い声を上げて。
「や・・・・ぁ・・・・・、シュウ・・・・・・・・」
太腿を、腰を、一通り撫でてから、シュウはゆっくりとの秘所に指を這わせた。
ショーツ越しに触れた其処は、確かにしっとりと濡れていた。
啜り泣くようなの甘い声に誘われて、シュウはのショーツを引き下げた。
「あん・・・・!あ・・・・っ・・・・・・!」
シュウに与えられる快感を、は身を捩って感じていた。
ついさっきまで感じていたドレスへの未練も、今はもう完全に霧散していた。
「はぁ・・んッ・・・・・!」
花芽を転がす熱い舌。
優しく、深く、内壁を捏ね回す長い指。
何より、惜しみなく与えられる熱い愛情。
今はもう、シュウの事しか感じられなかった。
「あぁっ・・・・・・・!」
きっと、とてもとても、幸福な事なのだろう。
愛する人に『妻』と呼ばれて、胸が甘く疼くのは。
取るに足りない事で寂しくなったり、ふと怖くなったりするのも。
「シュウ・・・・・・・!」
全ては、最高の幸福を手に入れたが故に。
「んっ・・・・・・、あぁっ・・・・・・・・!」
覆い被さってくるシュウの大きな身体を、はしっかりと抱きしめた。
「はぁっ・・・・・、あぁんっ・・・・・・!」
下腹部を突き上げる力強い律動に思わず背を反らせば、大きな手が胸を弄り、先端に甘く吸い付かれる。
次から次へと与えられる悦びは、を言い様もなく昂らせていった。
「・・・・・・!」
恐れも、後悔も、不安もない。
この人さえ側にいてくれたら、きっとどんな事でも乗り越えていける。
耳元に囁かれる、余裕を無くした低い声に肩を震わせながら、はそんな事を考えていた。
「あぁっ・・・、はぁっ・・・・・・・!んっ・・・・・・・!」
シュウを抱きしめる腕に、知らず知らず、力が篭る。
深く交わした口付けは、僅かな吐息さえも洩らさず、二人の間で熱く燻る。
気の遠くなるような幸福感に翻弄されながら、は夢中でシュウに伝えた。
「愛・・・してるわ・・・・・・・!」
「私もだ・・・・・、愛している・・・・・・、・・・・・・!」
「あっ・・・・・・、あぁっ・・・・・・・・!」
この人さえ、側にいてくれれば。
溢れんばかりに注ぎ込まれるシュウの熱い愛を感じながら、はそう、心から思った。