第三話
[目次]
IM(イメージ)ソング紹介
主要登場人物紹介
本文
次回予告
おまけ
あとがき
[IMソング紹介]
イメージOP1(一話〜三話)
「ignited―イグナイテッド―」
出典
機動戦士ガンダムSEED Destiny OP1
イメージED1(一話〜三話)
「reason」
出典
機動戦士ガンダムSEED Destiny ED1
[主要登場人物紹介]
(IV=Image Voice)
シド・クラウド IV 置鮎龍太郎
階級は少将。年は二十四歳。皇国軍宇宙艦隊副司令官の地位にある色男。性格は真面目で責任感もあり、また熱血感でもある。
「――フッ、もちろんだ。こんなところで我が命、散らすわけにはいかんからな」
セシル・ギンズバーグ IV 福山潤
階級は大尉。年は十八歳。クラウド直属の部下。基本的にシドの彼への信頼は厚いが、セシルの少々熱くなりやすいところには頭を抱えている。
「少将、俺もエスプリットで出撃します! これ以上奴らの好き勝手には!!」
シオン・ダイモンジ IV 千葉紗子
ダイモンジ美人姉妹の姉。階級は大尉。年は十九歳。セシルと同じくクラウド直属の部下。容姿端麗、頭脳明晰だが、少しプライドが高すぎるところがある。
「宇宙義賊……そんな者たちにやらせるものか!」
サクラ・ダイモンジ IV 野川さくら
ダイモンジ美人姉妹の妹。階級は中尉。年は十七歳。セシル、姉のシオンと同じくクラウド直属の部下。一見戦いに不向きな人柄・容貌であるサクラだが、正義を愛する心は非常に熱いものを持っている。
「向こうが戦うのをやめないのなら、わたしも戦います」
ファラネル・サピア IV 浅野真澄
皇国軍ニュー・ダーウィン基地作戦司令室の通信オペレーター。階級は少尉。気の強い性格をしたショートカットの少女。
「――司令官! シヴァッタ司令官、正気に戻ってください!!」
ジョン・ガーシュウィン IV 邪風林
皇国軍ニュー・ダーウィン基地に現在所属する整備班長。階級は軍曹。ダイモンジ姉妹ファンクラブの幹部の一人として知られる。
「――それはただダイモンジ姉妹の機体の整備に最大限の尽力を捧げたからだ!」
ヴォンルワール・ローレンス IV 森川智之
新たなる未来を掲げて、宇宙再構成を野心としている宇宙義賊「ローレンス団」の団長。ところで、年齢は不詳で、その素性は現在のところ明らかにされていない。非常に能力の豊富な人物である。
「――フルール君、すまんが熱いお茶を淹れてもらおうか?」
ルーン・ルクセンブルク IV 猪口由佳
ローレンス団が誇る高速巡洋艦「ローレンス」を力強く支えるメインオペレーターの一人。下で紹介するフルール・ルクセンブルクは双子の妹。妹とは違い非常に気の強い性格が特徴。ちなみに、年は十八歳。
「――おまえが割り込めといったのだろう、ローレンス」
フルール・ルクセンブルク IV まきいずみ
ローレンス団が誇る高速巡洋艦「ローレンス」を力強く支えるメインオペレーターの一人。上で紹介したルーン・ルクセンブルクは双子の姉。姉とは違い割と天然が入ったような性格だが、根はしっかりとしているらしい。当然、年齢は十八歳。
「あの〜、ローレンス様?」
[本文]
第三話
「目覚める宇宙」
第一節
(The Awaking of Space)
新西暦1182年。人類が宇宙に羽ばたいた後、早くも千年以上の月日が経過した。人類の宇宙進出、それはすなわち人為的移民用小惑星、通称VTアイランドへの移住が可能にしたのである。VTとはアイランド開発代表者であるヴェル・テール博士の名前の頭文字である。
人類はこうして宇宙に進出した。地球勢力が「オーストラリア皇国」、「アメリカ大陸同盟」、そして「ユーラシア連合国」に三分されるも、さらには各国間で戦争が行われながらも、VTアイランド創始以来締結されんところの条約により、「宇宙空間における戦闘行為は禁止」されており、このために比較的宇宙は安寧であると思われているようである。
だが、決してこれは断定できるような事柄ではない。現に宇宙空間においての戦闘行為も多くはないにしろ事実として報告されているのである。そう、宇宙とはいえ必ずしも平和が保障されているわけではないのである。
「――何っ!? アデレード基地が奇襲されただと?」
皇国軍将官専用の軍服を身にまとった長身の若者は、部下からの良くない知らせを耳にして露骨に顔をしかめた。
シド・クラウド。それが彼の名前である。弱冠二十四歳にして少将の階級を持ち、オーストラリア皇国宇宙方面軍副司令官の地位に就く極めて優秀な人物である。
さて、宇宙空間に無数に散らばるVTアイランドではあるが、現在VTアイランドはその位置関係により十二のエリアに大きく分類されている。ここはその中におけるVTアイランド・エリア4と呼称される空間にあたる。ここにオーストラリア皇国宇宙方面軍が領有するアイランド地区があり、また皇国軍の基地の一つが存在するのである。その基地――ニュー・ダーウィン基地の作戦司令室に、シド・クラウドはいた。
「……諜報部が半ば冗談めかして口にしたとは聞いていたが、まさかな……」
自軍基地強襲の情報を聞き、シドは無言で憤慨していた。本日、新西暦1182年五月十九日午前零時をもって、オーストラリア皇国、アメリカ大陸同盟、ユーラシア連合国の三ヶ国による「ダカール休戦協定」及び「三ヶ国通商条約」が失効を迎えたのである。平和の終わりがすぐさま戦争の始まりに結びつくことほど、皮肉なことはなかった。
「平和の余韻を楽しむことができないほどに戦いが待ち遠しくて堪らないのか……」
歯をかみ締めるようにシドが嘆く。そんなシドの目の前には、彼と同様に顔を曇らせた三人の少年少女の姿があった。
「……くそっ、許せねえ」
両の拳を力強く握り締めて言葉を漏らしたのは、セシル・ギンズバーグという名の少年である。階級は大尉であるが、年はまだ十八であり、シド・クラウド直属の部下である。身長は百七十センチ前半で一般的な体格をしてはいるが、驚くべき部分は別にある。それは、彼の容姿。仮にセシルが女装するとして、その後に彼が公の場に出るとしよう。この時、一見するだけでは、セシルを良く知る人物でもない限り、まさか男が女装して街中を歩いているなどとは露とも思わないだろう。まあ、この特徴がセシルのコンプレックスなのであるのだが。
「そうだな、私たちの敵は最低に卑劣な奴らであるということだ」
セシルの隣でわずかに怒りを顕わにして口を開いたのが、セシルと同様にクラウド直属の部下であるシオン・ダイモンジという名の少女である。階級は大尉、年は十九歳。セシルと同じく正義に熱い少女ではあるのだが、反対に欠点としては、これまたセシルと同じく、思い立ったらすぐに突っ走ってしまい歯止めが利かなくなるところがある。
「敵が誰であるにしても、また戦争が始まってしまうのは悲しいことです。けれど、戦いが起こった以上、わたしたちは戦わないといけませんね」
シオンの横に立つ少女、サクラ・ダイモンジは言った。ダイモンジという名字からも分かるように、サクラはシオンの妹であり年齢は十七歳、階級は中尉である。セシル、シオンと同じくクラウド直属の部下であり、心優しい性格で積極的に争いごとを好まない少女である。
「――さて、話は変わるのだが」
改めて三人の前へと向かい立ったシドは重々しく口を開いた。
「おそらくこの後、ますます地上での戦闘は激しさを増していくだろう。現在は条約により宇宙での戦闘行為は禁止されているが、最近の不穏な宇宙情勢、おまえたちも多少は知っているだろう?」
シドの言葉にセシルたちを含めた作戦司令室の一同が静まり返る。確かに、昨今宇宙での戦闘が報告されてはいるが、そのどれもが極秘事項とされ、一般兵程度ではわずかに風の噂ぐらいの知識しか有していないのである。
「おまえたちも一度くらいは耳にしたことがあるだろう、宇宙義賊という言葉をな」
シドの言葉に、周囲が急に騒々しくなる。これはつまり、誰の耳にも一度はこの言葉が入っていたことの裏返しであろう。
「宇宙義賊……彼らは最近になって頻繁にその姿を現すようになった。そして、その度に宇宙の平和に混乱を生じさせる存在となっている。正体は不明。ただ、彼らは現れるごとに必ずある台詞を口にする。『我々は宇宙に真なる義をもたらすべき存在、すなわち宇宙義賊である』と」
シドが話し終えると、周囲には沈黙が訪れた。だが、その中の一人の少年はシドの視線に自分のそれを合わせた。セシルである。
「少将、宇宙義賊と称する連中には、きっと何らかの策略があるはずです。もしかすると、国家絡みという可能性も考えられるのではないでしょうか?」
険しい表情を浮かべながらもセシルは話す。
「私もそう思います。宇宙義賊などと名のり大義名分を掲げてはいますが、所詮はただの害悪にすぎません。そのような者たちは一刻も早く排除されるべきです」
セシルに便乗する形で、シオンは断言した。
「姉さん……セシルさん……」
シオンの隣では、妹のサクラが居心地悪そうに苦笑を浮かべていた。
「うむ……おまえらの言いたいことも分からんではない。しかしな、我が国としては、積極的に戦に打って出るというのは適切な方法ではないのだ。我がオーストラリア皇国の基本理念である『中立平和』を損ねることになるからな。だから、こちら側としては、まず宇宙義賊の正体を明らかにしなければならないのだ。すべての処置はそれから考える。その結果、シオンの言うように害悪と判断できたのなら、然るべき処置をとればいい」
シドは一端間を置くと、再び口を開いた。
「私からの話は以上だ。ほら、おまえら、いつまでもボケッと突っ立ってないでさっさと任務に戻れ」
そう言って、シドは周囲に集まった人間を追い払うように、右手を前後に振った。
「それと、セシル、シオン、サクラ。おまえたちには少し話がある」
作戦司令室を立ち去ろうとしたセシルたち三人を、シドはすかさず呼び止めた。彼らには伝えておかなければならないことがあったからである。
「何でしょうか、少将?」
凛とした顔つきでシオンが答えた。その横では、サクラが穏やかな微笑みを見せていた。このシオンとサクラは姉妹ではあるが、性格はあまり似てはいない。気が強く厳しいシオンと穏やかでおしとやかなサクラ。二人に類似している点といえば、それは二人の容姿であろう。整った顔立ちと腰まで流れる豊かな髪はまさに美少女に値するものである。この皇国軍ニュー・ダーウィン基地においても、シオンとサクラは美人のダイモンジ姉妹として知れ渡っていた。
「おまえたち、Gシリーズの機体の調整のほうは順調か?」
シドがどこか深刻そうな顔をして三人に話しかけた。
Gシリーズ。これは、オーストラリア皇国宇宙開発部が「DNA計画」という名の下に、持てる技術を尽くして完成させたTBW――戦術戦闘兵器である。
TBWとは、全長十五メートルから二十メートルの人型機動兵器のことである。近年の戦争において、このTBWはもはや主力兵器とみなされるようになっているのだ。
また、DNA計画というのは、レアリック新型TBW開発計画のことであり、「DNA」とはドラマティック・ネオ・アドヴァンスの略とされている。
「はい。『Type G−1 ガルブ・エスプリット』の調整は順調です。これなら、いつ敵がやって来ても……って、それはないですが、とにかく大丈夫です」
セシルが答える。これに対して、シドは顔をしかめたまま一つ頷いた。
「私の機体、『Type G−2 グルワール』も特に問題はありません」
「わたしの『Type G−3 グラース』も状態は良好です」
シオンに続いて、サクラも手短に報告を終えた。
セシル、シオン、そしてサクラの三人はDNA計画により開発された三機のレアリック新型TBW――Gシリーズの正式なパイロットであるのだ。また、レアリックというのは少数量産機のカテゴリーのことである。
「そうか、ならよいのだがな。何故かは知らんが、嫌な予感が頭をよぎったのだ。もし今この基地が襲われでもしたら洒落にならんからな。うちの防衛部隊のランゼンでどこまでやれるか分かったものではない。何も起こらなければいいのだがな」
そう言って、シドはどこか視線を遠くに移した。そこからは何かしらの想いが感じ取れそうなものだった。
(……アデレード基地が強襲された。それはつまり、皇国が極秘に開発をすすめていたHighシリーズプロジェクトが察知されていたということか? それなら、皇国宇宙方面軍で開発されたDNA計画による新型レアリック……これも狙われたとしても何もおかしくはないということか。ユウ、ニスト……アデレードに視察に向かったと報告を受けたが、ドジを踏んだりしていないだろうな……)
心中で思考を深めていたシドだが、一つ息をついたかと思えば、ぼそりと言葉を漏らした。
「――心配ないか、あの二人なら」
オーストラリア皇国宇宙艦隊VTアイランド・エリア4駐留軍が拠点とするニュー・ダーウィン基地。この基地の格納庫にはレアリックと呼ばれる少数量産機として開発された三機の新型TBWがある。
これはDNA計画により開発されたTBWでGシリーズと呼ばれるものだ。
まず一機目、TypeG−1 ガルブ・エスプリット。この機体は皇国が初めて積極的に開発したレアリックである。三タイプ製作された試作機の中では最もスタンダードな性能を持ち、皇国軍の主力TBWであるランゼンの強化版のような機体となっている。この機体の特徴としては、両肩及び両胸に装備されている、合わせて四門の80mmマシンキャノンが挙げられる。近接戦闘において、この武器は絶大な破壊力を持つのである。
次に二機目、TypeG−2 グルワール。この機体のコンセプトは「中近距離戦闘における敵部隊への面的制圧」である。まず、中距離で敵に対して全ての火器を撃ち込み、その弾幕を抜けた敵をエスプリットと共に撃滅するという戦闘スタイルが想定されているのである。ビームガトリングガン、三六連装マイクロミサイルポッド、脚部三連装ミサイルポッドといった武装がある。
最後に三機目、TypeG−3 グラース。この機体は中遠距離での射撃戦を得意とする。その火力と性能から戦艦とも互角に渡り合うことができるのである。対艦攻撃用の武装である超高速ミサイル「ランサー」を搭載したシールド持つ。また、試製の超大型対艦ミサイルという50tもの爆薬をロケットブースターで飛ばすという非常識な、所謂『知的遊戯』的な兵器(量産機には装備される予定はない)を持つ。この他にも100mmレールガン、85mmリニアガンといった武装を持つ。
以上の三機の試作機は単独で運用するのではなく、三機一組で行動したときに最大の力を発揮出来るように設計されている。ちなみに、この三機は試作といいながら、評価試験の結果次第では即座に量産に入れる設計になっている。この点は皇国軍開発部のHighシリーズプロジェクトで生み出されたMTBW――多目的戦術戦闘兵器とは大きく異なる点であった。
「よう、セシル。せっかくで何だが、現在エスプリットは調整中だ。また出直してきな」
ニュー・ダーウィン基地にある第一格納庫。あごに髭を蓄えた中年の整備兵が正面に立つ一人の少年へと話しかけた。
「何だよ、仕事サボってるんじゃないだろうな」
その言葉に顔をしかめたのは、セシル・ギンズバーグという少年である。十八歳にして大尉であり、皇国宇宙方面軍副司令官であるシド・クラウド少将直属の部下である。
先ほど作戦司令室で少将と話した際、クラウド少将はどこか気の晴れないような表情をしていた。それがいったい何を意味するのか。そんなことを考えながら基地内を彷徨っていると、セシルの足は自然とこの格納庫に向いていたのだ。
セシルの愚痴に、その整備兵の中年男性、ジョン・ガーシュウィン軍曹はムッとした顔をしたかと思えば、どこか嫌らしい笑みを浮かべた。
「違うわい。おまえの機体の整備が不完全である理由、それはただダイモンジ姉妹の機体の整備に最大限の尽力を捧げたからだ!」
「公私混同はよくないぞ、おっさん」
声を上げて笑うジョンへとセシルは露骨に不満を漏らした。
「うるせえ。ダイモンジ姉妹は我がニュー・ダーウィン基地のホープ! そんな彼女たちが搭乗する機体に心血を注がねえで、何が男だ!? ふん、そんなにTBWの操縦がしたけりゃ、そこらへんに転がってるランゼンにでも乗りやがれ。搭乗するなりいきなり爆発なんてジョークは施してはねえがな」
「……ジョークじゃねえだろそれ。死ぬって」
呆れた表情でセシル大げさに溜め息を零した。
「おいおい、何をそんなに深く溜め息なんぞ吐いとるんだ。なぁに、後半刻もせんうちに、大方の調整が終了するだろうさ」
陽気な口調でジョンが話した。実際、この男はシド・クラウド少将直属の部下、セシル、シオン、サクラたちのTBW小隊――別名G(ジェネティック)隊の機体整備を行う隊の班長を務める下士官なのだ。彼はDNA計画を遂行するにあたり、特別に呼集された人間の一人であるので、その腕は確かなものである。
「はぁ、このダイモンジ姉妹贔屓がなけりゃ、少しはまともなおっさんなんだがな……」
「ふん! 運が悪かったと思ってあきらめるんだな。セシル、おめえの顔は美形なんだがな、生憎俺には●モの気はないんでな。せいぜいチ●ポがついて生まれてきたことを後悔しやがれ、この野郎! ……しかしまあ、もしセシルが♀なら、夢のG(=グラマー)美少女小隊が実現したのによぉ……くそったれぇ!」
気にしているコンプレックスを指摘されたセシルが腹を立てる状況なのだが、何故かジョンに逆切れ的な憤慨をされてしまった。
「俺……帰る」
完全にあきらめたような感じのセシルは、ガックリと肩を落として振り返ると、そのまま立ち去り始めた。
正直、それ以上の口論はまったくの無意味であると悟ったのだ。ジョンのダイモンジ姉妹嗜好は相当のものである。噂では、ニュー・ダーウィン基地兵士達の間で闇ながら結成されたダイモンジ姉妹ファンクラブの幹部であるということが言われているのだ。
白けた顔をしたセシルがゆっくりと格納庫出入口に向かって足を進めていると、そこから入ってくる二人の人影が目に入った。
その人影とは、噂に名高いあの姉妹。
この事件はちょうどそんな時に起こったのだ……。
宇宙。その空間内に無数に散らばる惑星――人為的移民用小惑星、通称VTアイランド。このVTアイランドというのは、そのアイランドが宇宙空間に存在する座標により、いくつかの地区に分類される。
その一つであるVTアイランド地区・エリア4。このアイランド地区はオーストラリア皇国の領土であり、皇国民はそこで生活を営んでいる。
そのエリア4にあるアイランドの一つに皇国軍のニュー・ダーウィン基地が存在した。
「――う、うーん……」
円筒の形状をしたアイランドであるが、この両端には宇宙空間を往来するための宇宙港があった。その一方にある宇宙港センターの中央管制室では、業務の枯渇によりモニターの前に座った二十歳前後の女性が欠伸を噛み殺しながら大きく伸びをした。
率直に言えば、えらく暇であった。仕事は今ない。その仕事というのが宇宙空間からの来航者の監視と港湾への手引きである。だが、本日の予定にはその来航者すらいない。それが何を意味するのかは、この女性の現在の様子を窺えば自ずと答えが見えてくる。
「激しく暇。でも、真面目に仕事しないと怒られるのよね。ただじっとここに座っているだけなのに――」
「――えっ、マジ!?」
その女性がだらりと椅子にもたれかかっていると、隣に腰を下ろしていた別の通信オペレーターが突然ハッとしたような声を上げた。
「何なの、もしかして隕石でもこちらに向かってきてるの?」
口元に笑みを浮かべながら、その女性が冗談めかして言う。もちろん、そんなに簡単に隕石が降下してくることなどまずあり得ない。
「と、とにかく、これを見てくださいよ〜!」
もう一人の女性が少し強い調子で話す。
「はいはい。分かりましたよ」
気のない返事をしながらも、その女性はもう一人の女性に示されたレーダーに目を向けた。このレーダーは宇宙空間からの入港を監視するものであり、一定の距離に近づくと反応するようになっている。一般的には、入港しようとする船のコードを認証して、その船の入港を許可するわけであるが――、
「――っ!? 船籍不明艦!」
レーダーを一目見て表情を急に強張らせたその女性は、不意に声を漏らした。
「ち、ちょっと、あなた! どうしてこんなに大事なことをすぐに報告しないのよ!?」
「そ、そんな〜、私はちゃんと言ったのに、先輩が相手にしてくれなかったんじゃないですか〜」
先輩オペレーターの憤慨に、その後輩は泣きそうな顔で口を開いた。
「とにかく、このことを早く報告しないと!」
そう言うやいなや、先輩オペレーターはニュー・ダーウィン基地との通信作業にとりかかった。
「――大変です! 宇宙港センターのほうより緊急通信が入っています」
皇国軍ニュー・ダーウィン基地。たった今、その作戦司令室に港湾からの緊急通信が入った。これを察知した司令室通信担当のファラネル・サピア少尉は中央の席に座ると当基地の司令官へと話しかけた。
「……ははっ、クラウド少将が来てからの私の立場はいったい……ふふっ、わかるやろ、私はこの基地の司令官なんやで……ははっ」
しかし、港湾センターとの通信以前にこの基地司令官、ハジーメ・シヴァッタ大佐とのコミュニケーションにファラネル少尉はつまずいた。
「――司令官! シヴァッタ司令官、正気に戻ってください!!」
ファラネル少尉が必死に語りかけるが、シヴァッタ司令官からは一向に反応が返ってこなかった。
どうしてこのような者が基地司令官という立場にいるのか。まだ軍に入ってあまり間のないファラネル少尉はそう疑わずにはいられなかった。彼女の年齢は十八歳。髪をショートカットにした活発で強気な雰囲気が漂う端正な顔立ちをした少女である。
それもあり、ファラネル少尉は過去においてのシヴァッタ大佐の活躍を知らなかったのである。ハジーメ・シヴァッタ大佐、四十五歳。今でこそ、いかにも情けなさそうな眼鏡をかけたやさ男だが、こんな彼にも過去の栄光というものがある。かつて、皇国が米大陸同盟軍とユーラシア連合国軍との板挟みになり滅亡の危機に瀕した時、「シスアード攻略作戦」と呼称されるユーラシア連合軍との戦闘において大功をなした人物なのである。これにより立身出世を遂げ、シヴァッタ大佐は現在基地司令官という地位にあるのである。
だが、昨今のシヴァッタ司令官には往年の凛々しさはない。どこか衰弱した病人にも似た状態になっていた。特に、皇国宇宙方面軍の本部より宇宙軍副司令官であるシド・クラウド少将がやって来てからは、前にも増して放心していた。
「サピア少尉、とにかく中央管制室からの通信に応答したまえ」
シヴァッタ大佐の隣に直立していたシドは、シヴァッタ大佐の呆けぶりを堪えきれず、ファラネルへと口を開いた。
「少将? は、はい、了解しました!」
その言葉に覇気のある声で答えると、ファラネルは中央管制室との通信作業に入った。すると、作戦司令室のモニターには、表情を強張らせた一人の女性の姿が映った。
『こちらは宇宙港中央管制室です。ポイントKH2400A9にて船籍不明艦を確認しました。この不明艦は当アイランドへ接近してくる模様です』
「何だと、いったいどこのどいつがそんな真似を。その船籍不明艦との通信は?」
モニター越しの報告を聞いて、若干顔をしかめたシドはその女性に向かって問いかけた。
『通信を試みましたが、相手方からの拒否信号により一向に繋がりません。ですから、そちらの方での対処を――』
モニターに映ったその女性オペレーターは話を続けるが、突然、それを遮るような雑音が響き始め、その映像にも歪みが生じ始めた。
「――えっ!? ク、クラウド少将、ジャミングです! 誰かがこの通信回線に割り込んでこようとしています」
「何っ、その相手というのはまさか――」
「少将、回線開きます!」
ファラネルの叫びとほぼ同時に、モニターに映った女性オペレーターの映像が消失した。そして、その次の瞬間には、そのモニターに別の人物の映像が出現した。
その人物の性別は男。男の顔は仮面を装着しているためにはっきりと捉えることはできないが、その雰囲気から判断するとそう年を重ねていないように思われた。
作戦司令室の一同が沈黙を保つ中、静止したままのその仮面の男はようやく口を動かした。
『――ふむ、フルール君、すまんが熱いお茶を淹れてもらおうか?』
その仮面男の第一声は、実に空気を読み違えた言葉であった。そして、モニターの左端に一人の少女が映る。この少女は特に顔を隠してなどはいなかった。頭の後ろでまとめた髪を腰に届くくらいに流した顔立ちの整った少女である。
『あの〜、ローレンス様? 多分、こちらの映像は今、向こう側に映っていると思うんですけど〜、大丈夫なんですか〜?』
その少女は口を開いた。おそらく、仮面男がフルールと呼んだのがこの少女なのだろう。作戦指令室のモニターには、フルールが仮面男の横でにっこりと笑って手を振る姿が映っていた。
『そうか……そういえばそうだったな。すっかり忘失していたよ』
『――おまえが割り込めといったのだろう、ローレンス』
突如、別の女性の声がしたかと思えば、ローレンスと呼ばれたその仮面男の右端から、また一人の少女が姿を現した。
『まあまあ、そんなに怖い顔することはないだろう、ルーン君。分かっているさ』
ローレンスがルーンと呼んだ少女を軽くなだめる。このルーンという少女の容姿は、ローレンスの左隣に立つ少女、フルールと非常に類似していた。おそらく双子なのであろう。ただ、穏やかな雰囲気のフルールと比較して、ルーンはどこかトゲのある感じをした肩口まで髪を伸ばした少女である。
『――ごほん!』
中央に座ったローレンスは一つ咳払いをした。
『聞こえているかね、オーストラリア皇国軍ニュー・ダーウィン基地、作戦司令室の諸君! 我々は宇宙に真なる義をもたらすべき存在、宇宙義賊、ローレンス団である』
口元に笑みを含みながらローレンスが口を開いた。
「その宇宙義賊とやらが、我らの皇国領に何用だ?」
宇宙義賊、ローレンス団の予想外の茶番に、最初は呆然としていたシドだったが、すでにそれからは立ち直り、極めて冷静にモニター越しでローレンスへと問いかけた。
『そんなに慌てることはないだろう、皇国宇宙方面軍副司令官のシド・クラウド少将』
「――なっ!? き、貴様」
シドが声を上げる。会ったこともない相手に名指しされるのは、たいそう気分の悪いものであった。それに加えて、このローレンスという仮面男に対する危機意識が高まった。
『まあ、そんなに邪険にしないでくれ。我々の要求はただ一つ。我らが宇宙義賊、ローレンス団が宇宙再構成を行うために、協力の証として物資を提供していただきたい。その詳細は向こう一年分のローレンス団が所持するTBWの武器・弾薬、ユニットパーツ、及び団員の食糧・水である。どうかね、クラウド少将?』
「……ける……なよ……」
ローレンスの言葉に、シドは静かに、けれど力強く何事かを呟く。
「ふざけるなぁっ!! 貴様、ローレンスとかいったな。これがどういうことなのか、分かっていての要求か!?」
シドの激昂にローレンスは両手を広げて惚けて見せた。一年分の物資を軍の貯蓄に求めるというのは、量的に言ってもあり得ないがそれだけではない。軍需物資横領罪並びに利敵行為として軍法で裁かれるのである。つまり、そもそもが不可能な要求であったのだ。
『さあね、どういうことなのだろうなあ。だが、これで我々の要求が通らないということだけははっきりしたようだ。……ローレンス団は、これより皇国軍ニュー・ダーウィン基地へ攻撃を開始する!』
「――ローレンス、貴様っ」
シドの反論の余地なく、モニターの映像は消失した。宇宙義賊、ローレンス団の唐突な戦闘宣言であった。
その直後、中央管制室からの情報を受け、レーダーを目視したファラネルはその不明艦の異変に気がついた。
「クラウド少将! 敵艦からTBWの発進を確認。数、六!!」
額から脂汗を滴らせながらファラネルが叫んだ。
「ははっ、ははっ、私は、私は……素で無視か、ふふっ、ははっ」
この状況になっても、基地司令官であるシヴァッタ大佐は一向に正気に戻らない。命令を出すべき司令官がこれでは、当基地はまさに危機に陥っているといっても過言ではなかった。
「ちっ、使えん!」
その様子を見てシドは一つ舌打ちをした。彼の地位は宇宙方面軍副司令官ではあるが、直接的な指揮権は存在しない。だから、彼の独断で命令を発することはできないのである。――しかし、
「総員、第一種戦闘配備! TBWパイロットは直ちに格納庫へ向かい、準備が完了した者から出撃せよ!! これでいいですな、シヴァッタ大佐!?」
「ふふっ、ははっ、TBWってなんや〜、ははっ、ははっ」
シドが声を張り上げて話しかけるが、シヴァッタ大佐は一向に反応を示さなかった。
今この時間にも、不明艦から出撃したTBWが当基地へと向かっているというのに、まさに絶体絶命であるかと思われた。
――そのとき、
「ええーい、しっかりしなさいよ、このサイコ司令官!!」
叫び声。それと同時に響きの良い音が生じた。
「……サ、サピア少尉?」
一瞬、何が起こったのかシドには分からなかった。だが、その光景は脳裏に焼きついていた。怖い表情したファラネルがシヴァッタ大佐に接近し、大きく振り上げた右手をもって強くその頭を叩いたのである。注目すべきは、その衝撃により、シヴァッタ大佐の頭部が縦に一回首肯したことであった。
「ははっ、ははっ、世界が回る〜、ふふっ、ははっ」
「――クラウド少将、司令官からの了承は得られました!」
そのファラネルの言葉でシドは我に返った。
「ああ。サピア少尉、各員に通達を!」
「はい。了解です、少将!」
元気良く返事をすると、ファラネルは自席へと戻り、すぐさま基地内放送のスイッチを入れて、ヘッドフォンのマイクを口元へと運んだ。
「各員に告ぐ。第一種戦闘配備発令! TBWパイロットは至急格納庫へ向かい、準備の完了した者から出撃せよ! 繰り返す――」
ファラネルが基地内への放送を行う間、シドはしばし黙考していた。何を考えていたのかというと、もちろん宇宙義賊、ローレンス団のことである。
先ほど感じた嫌な予感が見事に的中してしまったのだ。しかも、相手の戦力は未知数。これにどのように対処するべきか考えていたのである。しかし、その答は考えるまでもなかったのだ。
「――私もランゼンで出撃する。サピア少尉、サポート役は君に一任したい」
放送を終えたファラネルに、シドは口を開いた。シドはこの基地に来るにあたって、こういう状況を想定して皇国軍主力TBWランゼンを若干改造した指揮官専用機を用意していたのである。
「はい。わ、分かりました」
どこか低い調子でファラネルが答えた。その言葉を受けて、シドは司令室を立ち去ろうとしたが、少し顔を俯かせながら彼女は再び口を開いた。
「――あの、待ってください、少将」
その言葉に、シドは足を止めてファラネルのほうに振り返る。何故か彼女らしくはなく、顔を背けて落ち着きのない様子であった。
「……どうしたんだ、サピア少尉?」
「そ、その……お気をつけて」
小さめな声であったがシドの耳には十分に届いた。ファラネルは彼を気にかけてくれていたのだ。
「ありがとう。――では、行ってくる」
そんなファラネルへとわずかに笑みを漏らしたシドは、早々に司令室をあとにした。
『各員に告ぐ、第一種戦闘配備発令! TBW搭乗要員は至急格納庫へと向かい、発進準備の完了した者から出撃せよ! 繰り返す――』
皇国軍ニュー・ダーウィン基地一帯に、突然警報が鳴り響いた。同時に、基地内にいくつも設置されたスピーカーからは覇気のある女性の声が聞こえてきた。
それは当然、基地内のTBW格納庫においても同様のことであった。
「――くっ、何だっていうんだよ!? エスプリットの整備が不完全っていう時に!」
格納庫の出入り口付近。唐突な警報と放送に対して、少年、セシル・ギンズバーグは強く憤慨した。今しがた格納庫にやって来たセシルだが、整備班長のジョン・ガーシュウィン軍曹に彼の搭乗機である「Type G−1 ガルブ・エスプリット」の調整不十分を告げられ、仕方なしに立ち去ろうとした矢先にこのあり様である。
格納庫へ次々とパイロットたちが急いでやって来ては、皇国軍の主力機であるランゼンに搭乗していく様子を、セシルは見守りながら立ち尽くしていた。
「セシル、サクラ! 私たちもすぐにGシリーズで出撃するぞ」
そんな中、格納庫を去ろうとした寸前に出くわした正面に立つ二人の少女、シオン・ダイモンジとサクラ・ダイモンジのうち、姉のシオンのほうが口を開いた。
「分かりました。行きましょう、姉さん」
シオンの言葉にサクラが声を上げた。そして、二人の少女は自機に向かって足を動かそうとしたが、セシルが浮かない表情をしていることに気がついた。
「どうした、セシル。何をぐずぐずとしている!?」
厳しい口調でシオンが問う。
「え、えーと、その――」
「――待った。これは、俺から話そう」
シオンの迫力にセシルが若干たじろいでいると、早足でこちらに来たジョンが口を挟んだ。
「ジョン軍曹、どういうことだ?」
「実はな、セシルのエスプリットの調整がまだ完全じゃねえんだ。整備班のヤツらが大急ぎで行ってはいるが、どうなるかは分からねえ」
珍しく真剣な顔つきでジョンが話した。当然だ。今はふざけて良いケースではない。普段は多少不真面目な彼も、分別というのは弁えている。
「何っ? それでは私とサクラの機体はどうなっている?」
「それは安心してくれ。シオンのグルワ―ルとサクラのグラースのほうは万事抜かりない」
ジョンの言葉を受けて、シオンは一つ大きく頷いた。
「了解した! それでは、私たち二人で出撃する。サクラ?」
「はい、分かりました」
シオンの呼びかけに、サクラは快く同意した。
「シオン、サクラ……」
その二人の様子をセシルは表情を硬くしながら見ていた。そんな彼のほうに、ふと二人の少女は振り返った。
「セシル、今回は私たちにまかせておけ。整備不足で出撃して何か問題が生じたら厄介だからな。なに、心配することはない。おまえの分まで私たちが仕事をしてきてやる」
「姉さんの言うとおりです。セシルさん、あまり無理をする必要はないんですから」
二人がセシルへと口を開いた。威厳を漂わせて話すシオンと穏やかな雰囲気のサクラ。共通して言えることは、二人がセシルのことを気にかけてくれているということだ。
その気持ちは素直に嬉しかった。
「ああ。二人とも、気をつけてな」
平然を装ってセシルは話す。二人の心遣いには感謝したい。けど、やはり内心では納得のできない何かが存在した。自分だけは何を為すこともせず、快く二人を送り出すことなどできなかったのだ。
セシルの葛藤が心中で続くが、その対極では表情を真に改めたシオンとサクラが自己の搭乗機へと駆け出した。
「――くそっ!! あんなこと言われたって、ここでじっとなんてしていられるか!」
二人が去った後、セシルは憤りながら地団駄を踏んだ。それに対して、隣に立つ男は至極冷静な様子であった。
「ははっ、落ち着けや、セシル。まだだ、まだ終わったわけじゃねえんだからよっ!」
「……ジョン?」
意味深な言葉を発するジョンからは、結構な余裕が漂っているように思えた。
★
『G(ジェネティック)隊、Type G−2 グルワール、Type G−3 グラース、発進準備完了、発進お願いします。――シオン、サクラ、気をつけてね』
コクピットに乗り込んだシオンとサクラがシステムの起動を終えると、通信機から女性の声が届いた。これは、作戦司令室のオペレーターであるファラネル・サピア少尉の声だ。年齢が近いこともあり三人は仲が良いのである。
「まかせておけ、ファラ。宇宙義賊などといった不届きな輩に遅れはとらん。Type G−2 グルワール、シオン・ダイモンジ、出撃する!」
「Type G−3 グラース、サクラ・ダイモンジ、出撃します」
シオンに続いて、サクラが声を発した。TBW搭乗要員はファラネルからの情報により、このアイランドに船籍不明艦が接近してきていたが、それが実は宇宙義賊の艦であり、その艦から六機のTBWが出撃したということを知った。なので、宇宙義賊に対して否定的であったシオンは怒りを覚えたわけである。
『TBWパイロットへ、敵機は未知のTBWです。ですから、敵TBWの挙動にはいっそうの注意を払ってください』
ファラネルの声が届く。相手が誰であろうと退くつもりなど更々なかった。
「宇宙義賊……そんな者たちにやらせるものか!」
シオンは速やかに機体の起動機関をオンにする。すると瞬時に、自機の出力が高まっていき発進のスタンバイが整う。
周囲を見ると、同じく出撃するランゼンが次々とスラスターを噴射させて飛び上がっていった。
「わたしたちも続きましょう、姉さん」
「――ああ」
サクラからの通信に、シオンは力強く返答するのであった。
「おらおら、おまえら、久しぶりの戦闘だぞ。ビビッてなんかいねえだろうな!?」
「へへっ、当然だろうが! 俺たちの中で●ンタマついてねえヘタレなんかいねえよ!」
「けっ、確かにそうだ! ただ、●ンタマのねえ凶暴♀ならいるんだがな」
男たちの会話。始めから順に、ジャック、ロビンソン、マックスという名前の男である。この会話が為されているのは他でもない、TBWのコクピット内である。
宇宙義賊、ローレンス団の一員である彼らは、今しがた団長であるローレンスが発した出撃命令により、ローレンス団の量産型TBWであるヴィオラントに搭乗して出撃したのである。
目標である皇国のアイランドへと接近する中、通信回線を開いて会話を行っていたのだ。
「それを言うな、マックス! 後で痛い目を見ても知らねえぞ」
「違いねえ。だがな、今回はあいつ等に出番を与えるまでもなく、俺たちで片をつけてやろうじゃねえか!」
『う〜い!!』
ロビンソンの言葉に続いて、ジャックが口を開いた。それに反応するように、計六機のヴィオラントのパイロットからは大きな声で返事が戻ってきた。
「あー、そのことなんだがな、何かあいつ等の機体は完全に調整を終えてないようだぜ。整備の話では換装のパーツがどうとかいってたが――」
「へっ、そりゃあ、都合良いぜ! なら、この戦闘は俺たちの独壇場ってことだ!!」
『う〜い!!』
マックスの言葉に、ロビンソンが便乗する。それに対して、再びヴィオラントのパイロットであるローレンス団員たちからは大きな声が上がった。
このヴィオラントという機体は生産性を重視して軽量化が図られているために、重量は皇国軍主力機であるランゼンより軽い。そのために、ランゼンよりも機動性には優れるが防御力には劣る。また、この機体の特徴は、主武装のバスタービームガンである。この武器は通常、小口径短射程ビームガンとビームサーベルに分かれるが、この二つを組み合わせることで、大威力長射程のバスタービームガンとして使用することができるのだ。この点において、ヴィオラントは皇国軍のランゼンを大きく上回るということができた。
「さあさあ、敵さんがおいでなすったぜ!?」
ジャックが叫ぶ。その言葉のとおり、ヴィオラント六機の前方からは十数機のTBWがこちらに向かって接近してきていた。
「ではでは、俺が戦闘開始の第一砲をいただくぜ!」
そう言って、ロビンソンは自機のビームガンとビームサーベルを素早く連結させる。そして、ビームバスターガンの発射体勢へと入った。
「へへっ、ま、がんばって回避を試みてくれや、一気に逝っちまったら、おもしろくもなんともねえからなあ!? こういうのは同じなのさ。女を逝かせるのも、敵を逝かせるのもなぁっ!!」
大きく叫びながら、ロビンソンはトリガーを引いた。
「けっ、この卑猥な表現がまた堪らん! いったいおまえは誰と戦ってんだよ!?」
ロビンソンの台詞に、マックスは笑い声を上げる。そうする間にも、ロビンソンの射撃によって、皇国軍のランゼンが二、三機命中して爆発した。
敵機の大半はこの皇国軍主力機であるランゼンであったのだが、ただちょっと種類の違うTBWもいた。
その数は二機。明らかに他の機体との機動性の相違が窺い知れる。今のロビンソンの射撃も悠々と回避して見せたのだ。
「へっへ、おもしれえぇっ!! 行くぞ、ロビンソン、マックス! 他の野郎は雑魚の相手だ、いいなっ!?」
『う〜い!!』
ジャックの絶叫に団員が答える。
すかさずジャックは腰に装着されたビームサーベルを抜き放つと、前方へと勢いよくスラスターを噴かせる。ジャックに続く形でロビンソン、マックスのヴィオラントはその二機へと突貫した。
★
「――何だ、この威力は!? こんな武装をした機体が六機いるというのか」
皇国軍TBW、グルワールのコクピット内でシオンは憤慨した。敵機から先制攻撃とばかりにビーム兵器が使用された。自機の回避はそう困難なことではなかったが、その射撃の正確さと威力により、自軍のTBWであるランゼンが一気に三機も撃墜されたのだ。
「姉さん、敵機がこちらに向かって接近してきます!」
シオンの耳に、グラースに搭乗した妹のサクラの声が届く。シオンとサクラの機体に向かって、敵六機の内の三機が距離を詰めてきたのだ。
サクラのグラースも敵からの射撃を問題なく回避した。レアリックであるGシリーズのTBWと大量生産型のランゼンでは機体の運動性に大きな隔たりがあるのだ。その点を把握した上でのローレンス団側の戦闘スタイルなのであろう。
「そんなことは分かっている! ランゼン各機、私とサクラの機体であの三機を仕留める。後の三機は頼んだぞ!?」
シオンの言葉に対して、通信機からは「了解!」と言うパイロットの声が聞こえてきた。それはそれは、覇気のある声であった。
「よし、サクラ! 油断するなよ?」
「分かっています」
シオンはサクラに話し終えるのと同時に、両腕部に装備されたビームガトリングガンを敵機へと発射した。
サクラもそれに倣い、両肩部に装備された85mmリニアガンと背中のバックパックから取り出した100mmレールガンの射撃体勢に入り、照準をつけるやトリガーを引いた。
シオンとサクラ。二人のパイロットとしての技量は決して平凡ではない。そうでなければ、皇国軍の重大プロジェクトである「DNA計画」の正規パイロットになど選ばれるはずがない。一般のパイロットと比較するとその技量は極めて優れているといえた。
ただ、欠点といえば、実戦経験がないということか。シミュレーションと実戦の差異を理解していないというのは不利な点であろう。
「――ちっ、回避しただと!?」
シオンが多少驚きの含んだ声を上げた。それは、こちらに接近してきた三機の敵TBW――ローレンス団主力機のヴィオラントが全機共に俊敏な機動性をもってシオンとサクラの射撃をかわしたからである。
「おらあっっ、落ちろやぁぁっ!!」
先頭のヴィオラントを操るジャックは、相手の攻撃を回避して距離を一気に詰め、その手に携えたビームサーベルで目の前のTBW――グルワールへと斬りかかった。
「くっ、この程度で」
瞬時にビームサーベルを抜き放ち、シオンは敵機の斬撃を切り払う――が、
「――姉さん、後ろっ!?」
サクラの焦った叫びがシオンの耳に届く。敵の一機はシオンへと斬りかかり、残りの二機はシオンの乗るグルワールを通過して素早く転回した後、ビームガンの照準をシオン機へとロックしたのである。
「へへっ、もら〜い」
「さっさと、あの世に逝きなっ!」
残り二機のヴィオラントに搭乗したロビンソンとマックスは順に口を開いて、ビームガンのトリガーを強く引いた。
「――そう簡単に、やらせるものかっ!」
大きく声を発すると同時に、スラスターを噴射させてシオン機は勢いよく上昇した。その直後に、シオンが元いた位置をビームガンが交差する。サクラの助言に支えられながらも、シオンは敵TBWの三位一体の攻撃をすべて防ぎきったのだ。
「今度はこちらからいくぞ、宇宙義賊!!」
上昇したグルワールは直ちに射撃体勢へと入る。敵TBWの一機を目標に、シオンは両腕のビームガトリングガンと脚部三連装ミサイルポッドを発射した。
「これ以上、あなたたちの好き勝手にはさせません!」
シオンの射撃と並行して、狙い澄ましたようにサクラは両肩のリニアガン、両腰に構えたレールガンを時間差で射ち放った。
「――ちいっ、こ、こいつ!? うわあああっ!!」
「ロビンソン?! なにぃっ! ぐっうううっ!!」
シオンとサクラ、二人の攻撃に対して、ヴィオラントに搭乗するロビンソンとマックスはそれぞれ苦悶の声を上げた。
ロビンソンはシオンの射ったビームガトリングガンは回避したものの、ミサイルによる射撃を完全にはかわしきれずに機体の損傷を喫した。
マックスもサクラの射撃の巧みさに遅れをとった。リニアガンとレールガン、計四発を異なる軌道で、かつ発射時間を微妙にずらすことによって、相手の回避を極めて困難にさせたのである。案の定、マックスが完全に回避することは叶わず、致命的ではないにしろダメージを負った。
「これで終わりだ!」
間髪入れず、シオンが敵機へと再び銃口を向ける。――しかし、
「――ふふっ、やらせんよぉっ!!」
残り一機のヴィオラントを操るジャックは、そうはさせまいといわんばかりに、ビームガンとビームサーベルを連結させたビームバスターガンを続け様に射ち放った。
「――くっ。こいつら、中々に隙がない」
敵の射撃を回避したシオンは冷静に呟いた。グルワールの機動性をもってすれば、攻撃の回避はそう困難なことではないが、それでも直撃を食らえばそれで終わりだ。少しの油断が死の危険に繋がることに変わりはない。
「サクラ、大丈夫か?」
通信機でサクラへと連絡を入れる。サクラもシオン同様、自機の俊敏性を活かして敵の攻撃を免れた。パイロットとしての技量でいえば、サクラはまったく問題はない。だが、シオンとサクラにとってこの戦いは初めての実戦なのだ。だからこそ、シオンはサクラに心境を問おうとしたのである。
「姉さん、わたしは大丈夫です。向こうが戦うのをやめないのなら、わたしも戦います」
それに対して、サクラは力強く返答した。
「そうか、ならいい。では、手早く終わらせることにしようか?」
「はい、姉さん」
シオン機――グルワ―ルとサクラ機――グラースは横一列に並び正面の敵機へと対峙した。多少ダメージを負わせたものの、未だに一機も撃墜してはいなかった。しかしながら、二人の表情に曇りの影が見当たることはなかったのである。
一方で、宇宙義賊、ローレンス団側のヴィオラントを操縦するパイロットはというと、
「ロビンソン! マックス! 何をいいようにやられているっ?!」
怒りの表情でジャックが大きく叫んだ。
「うるせえっ! 相手が相手なんだから仕方ねえだろうがっ、ああっ!?」
「けっ、ジャックよ、そういうおめえも、自身満々で突貫しときながら、仕留められてねえじゃねえかよっ!!」
ジャックの言葉に、ロビンソンとマックスは大いに反発した。同じ仲間であるというのに、随分な不仲である。この三人は共に外見年齢で判断すると、二十歳から三十歳ぐらいである。三人全員が、どこかいかつい容姿をしていた。
そんな三人が口論を続けていると、不意に通信機から誰かの声が聞こえてきた。
『諸君、何を遊んでいるのかね?』
その声の正体、それは宇宙義賊、ローレス団の長であるヴォンルワール・ローレンスである。
「げっ、だ、団長!?」
「こ、これは、その、遊んでいたわけじゃねえっすよ、マジで」
「そ、そうっす。俺たちゃあ、真剣に敵さんを葬り去るべく努力したわけでさあっ!」
順に、ジャック、ロビンソン、マックスが口を開いた。この三人の変化といったら、面白いぐらいのものであった。先ほどまで、声を張り上げてケンカ調で話していたのに対して、団長であるローレンスへはどこか恐怖を帯びたように言葉を発するのである。
ローレンスとジャックたち、外見だけでいえばローレンスのほうが余程若々しく見えた。だが、実際のところ、ジャックたちはローレンスに文句の一つを言うことすらできなかったのである。
『ほぅ、そうか。諸君が言いたいことも分からなくはない。――だが、結果が伴っていないというのは悲しいことだ。いくらがんばろうが成果が上がらなければ意味はないのだよ。で、あるからして――』
ローレンスは一瞬言葉を止める。小休止の後、彼はゆっくりと口を動かした。
『――あの三人を出撃させる』
皇国軍ニュー・ダーウィン基地。突然の宇宙義賊ローレンス団の襲撃により、当基地に格納されたTBWは緊急発進されることになった。
主力TBWであるランゼンが三十機。それがこの基地の全TBW戦力である。ただし、現在においてはその限りではない。それに加えて、あと四機、格納庫にTBWは格納されていた。
その内の三機が、皇国宇宙開発部の「DNA計画」により生み出された新型TBWであり、レアリックと呼称されるものである。
そして、残りの一機が皇国宇宙方面軍副司令官であるシド・クラウド少将専用のTBWである「ランゼンS」であった。
「――あれは、セシル。それと、ガーシュウィン軍曹。いったい何をやっているのだ?」
基地内のTBW格納庫。シドは作戦司令室を走り去って一直線にこの場所へとやって来た。理由はもちろん、自らのTBWで出撃するためである。敵方の宇宙義賊、ローレンス団の戦力が未知数であり、言いようのない不安感のようなものが胸をよぎったので、シドはこの決断を下したのだ。
辿り着いた格納庫では、新型TBW「Type G−1 ガルブ・エスプリット」のパイロットであるセシル・ギンズバーグとその新型TBW三機を合わせた「G(ジェネティック)隊」の整備班長であるジョン・ガーシュウィンが何やら言葉を交わしていたのである。
「――どうした、セシル。何があった?」
二人のもとに足を進めたシドはセシルへと口を開いた。
「少将、どうしてここに?」
それに対する答えはなく、逆にセシルはシドへと尋ねかけた。
「私もランゼンで出撃するためだ」
シドが何のためらいもなく言葉を発した。それを受けて、セシルは一瞬言葉に詰まったような様子になったが、すぐさま真剣な表情でシドを見上げた。
「少将、俺もエスプリットで出撃します! これ以上奴らの好き勝手には!!」
セシルは声を大にしてシドへと直訴した。司令室から状況報告が格納庫にも入り、現在の戦闘状況が皇国側に不利であるという情報が入ったのである。
「おい、セシル。機体のほうは、さっきよかましにはなった。だがな、まだ、完全じゃねえんだぞ?!」
セシルに対して、ジョンが反発する。緊急発進の放送を聞いてから、整備兵が大急ぎで仕事をした苦労の甲斐もあり、半分以上は機体整備が完了したのだが、それは完全というまでには至らなかったのだ。
どうやら、何かの不具合が起こっている。それぐらいは何も知らないシドにも想像ができた。
「ガーシュウィン軍曹。どういうことなのか、まず話してもらおうか」
「は、はい! 現在、Type G−1 ガルブ・エスプリットの調整がまだ続いております。今の段階だと、80%程度の出力が限界です。それに加えて、両肩・両胸の80mmマシンキャノンは弾薬未実装の状態での出撃となります」
さすがにシド相手だからだろうか。ジョンがいつにもまして真面目な口調で話した。
「そう、か……。出力が80%にマシンキャノンが使用不可……」
あごに手をあてて、シドは黙考する。その様子から、相当頭を悩ませているような感に思われた。
発進許可が降りない。シドが思考するのを見て、セシルは半ばそのように思い込んだ。もし、自分が調整不十分のまま出撃してヘマをやらかしたら、せっかく開発した新型機が破壊されてしまう。そのリスクは大きすぎるので、だから、発進は認められない。そう判断されるのだろうと、セシルは考えたのだった。
「……セシル、私と共に出撃するか?」
――だが、実際は違った。シドの考えは別のところにあった。彼はリスクというものを、「機体」ではなく「パイロット」に見出したのだ。だから、出撃の意向をセシルへと問うたのである。
一瞬、呆然とするセシル。けど、その答は考えるまでもなく決まっていた。
「はい! この程度のマイナス、すぐにプラスに変えてみせます!!」
セシルが敬礼一つと共に、声を張り上げる。その返事を聞いて、シドは微かに笑みを漏らしながら大きく頷いた。
「ガーシュウィン軍曹、現在の格納庫における残存TBW数は?」
「はっ! 二十機であります。まもなく全機、発進準備を完了します」
「了解した。セシル、行くぞ!」
ジョンに簡単に質問した後、シドはセシルへと話しかけると、そのまま自機のランゼンSへと駆け出した。その後方からは、遅れることなくセシルが続いた。
自らのTBWに乗り込むことなどほんのわずかな時間で事足りる。そして、機体の操縦システムを立ち上げるのも、それと同様であった。
あっという間に機体の起動を完了させたシドは、通信機越しに今から出撃しようとしているものたちへと命令すべく口を開いた。
「こちらは、ランゼンS、シド・クラウドだ。ランゼンのパイロット各位に告ぐ。今から発進する者の半数は基地の防衛にあたれ。そして、もう半数は私に続け、いいな!?」
『了解!!』
その言葉に対して、すぐさま各パイロットからの返答があった。
次々とスラスターを噴射させて飛び上がっていくランゼン。そんな中、シドのコクピットに通信が入った。
『ランゼンS、並びにG(ジェネティック)隊、Type G−1 ガルブ・エスプリット、発進準備完了、発進お願いします』
司令室通信担当のファラネル・サピア少尉からの声が届いた。
「了解した。サピア少尉、引き続き通信の方を頼んだぞ」
『はい! 少将も御武運お祈りいたしております』
先ほどの作戦司令室のときもそうであったが、ファラネルは再びシドへ無事を願う言葉をかけた。
「――フッ、もちろんだ。こんなところで我が命、散らすわけにはいかんからな。シド・クラウド、ランゼンS、出るぞっ!!」
シドが威勢のいい声を上げる。それと共に、スラスターを噴射させたランゼンSは通常のランゼンを上回る機動性で飛躍した。
格納庫に残された機体はあと一機。発進を今か今かと待ち望んでいたパイロット、セシルが搭乗するエスプリットだ。
『セシル、G(ジェネティック)隊は三人合わせて一つなんでしょ。だったら、二人ともあなたが来るのを待ってるんじゃないの? ちょっと、苦戦しているみたいだから、早く行ってあげなさい』
セシルの耳に、通信機からファラネルの声が届く。シオン、サクラと仲の良いファラネルだが、当然セシルも彼女とは面識がある。いや、それよりもむしろ、この四人で会話する機会も少なくないといえた。
「ああ! そんなこと、言うまでもないことだぜ。待ってろよ、シオン、サクラ。そして、見ていろ、宇宙義賊! Type G−1 ガルブ・エスプリット、セシル・ギンズバーグ、一気に行くぜえっ!!」
そう口にするや飛び上がったエスプリットは、先立って出撃したランゼンに追いつかんばかりのスピードで、格納庫から出撃していった。
皇国宇宙軍と宇宙義賊ローレンス団。地球から距離を隔てたこの場所で、もう一つの戦いの幕が上がろうとしていた。
(第三話「目覚める宇宙」 終)
[次回予告]
宇宙
ここでもまた、争いの波が押し寄せた
皇国軍とローレンス団の戦闘の行方は
一方、地球
アデレード基地奇襲事件
この事件よる最終局面の戦闘が行われようとしていた
次回
新暦戦記ラウズ
第四話
「光と闇」
暗闇の荒野に、輝け、アーク・フォートレス!!
[おまけ]
……えっ?
今回はあまり萌えなかったって?
YUKを呼べ?
うーん
それでは
これで代替させてもらいましょう
★
現代世界。西暦2005年。この時の流れの遥か先に、あの時代が待っている。
その時代とは、新西暦時代。
新西暦1182年。再び世界を揺らがす大騒動が発生する。これにより、世界中の人々が巻き込まれ、悩み・苦しみ・泣き、といった感情に陥っていく。
だが、それはまた、別の話である。
ここでの主役は別にいた。現代世界から新西暦時代。この永き時を渡り歩いた者がいたのである。
その時を越えた者の名は、YUK(ユーク)。
この物語は、そんな時空進行者(タイムトラベラーズ)、YUKの夢と波乱に満ちたストーリーである。
★
タイムトラベラーズ局所的超番外編Vol.1
「潜入!! YUK、イントゥ ニュー・ダーウィン ベイス
〜シオン・サクラ・ファラネルのあの人好い人!?〜」
俺の名前はYUK。今は訳あって、新西暦時代を彷徨っている。どうしてそんなことをしているかってか? フッ、あんた、野暮なことは言わないほうが身のためだ。
新西暦1182年、某月某日。俺は宇宙(そら)に上がり、とあるアイランド地区へ向かっていた。十二あるアイランド地区、その中のエリア4と呼ばれるところだ。
この俺の情報網では、とある国の大統領が着々と戦争へ向けての布石を打っているということだ。この時代の地球は「オーストラリア皇国」、「アメリカ大陸同盟」、そして「ユーラシア連合国」に三分されている。
ふふっ、また戦争がおっぱじまるのかねえ。まっ、俺にはまったく関係のない話なんだがな。
とにかく、俺はその巧みな能力で、オーストラリア皇国領土であるアイランド地区・エリア4に行き、そしてその中の一つにある皇国軍基地への潜入を成功させた。
これもすべて大いなる意志のため……おっと、言葉が過ぎたか。
さて、この基地はニュー・ダーウィン基地という名称だそうだ。まあ、気長にやらせてもらうさ。
………………。
…………。
……。
さて、時が来たか。俺に残された時間は少ない。早速、計画の実行に移るとしよう。
一度しか言わねえ。俺の目的を教えてやる。
それはだな――、
「なんだ、YUKではないか」(By シオン。以下「シ」)
「どうもこんにちは、YUKさん」(By サクラ。以下「サ」)
「YUK君、こんなところで何やってんの」(By ファラネル。以下、「フ」)
三人の美少女が俺のもとに集合した。このめぐり合いはすべて、全知全能なる神の力ゆえ……なわけねえわな。俺の読み勝ちだ。
「これはこれは、シオンさんにサクラさん、そして、ファラネルさんじゃないですか。偶然ですね」(By YUK。以下「ユ」)
長年の経験か。俺にはいくつもの性格を自由自在に操るという能力が備わっていた。今、表に出しているのは、その中の一つである。
俺の目的。それは、この三人に隠されたある力を引き出すこと。
その力は、時に我々の栄養剤、生きる糧にもなるもの。
その力とは…………「萌」パワーだっ!!
……何だその目は!? 貴様、今、俺のことを馬鹿にしただろう!!
って、誰と会話してんだか。フッ、俺だって好きでこんなことをやっているわけではないのだ。
これもすべて大いなる意志のため。
さてさて、任務のほうをはじめますか。
★
テーマ
「あなたの好い人、誰ですか?」
ユ:では、早速ですが、シオンさん?
シ:おい、待て。YUK、おまえ性格が変わっていないか。
サ:どこかで、頭でも打ったんでしょうか?
フ:はうっ。サクラ、どっかのサイコ司令官のこと思い出すからやめてちょうだい。
サ:ごめんなさい、ファラさん。
シ:とにかく、私がそんな質問に答える義務はない!
ユ:そうですか。では、こちらから質問させてもらいますかねえ。
シ:勝手にしろ。
ユ:はい。ではでは、同じG(ジェネティック)隊のセシル・ギンズバーグ君なんてどうでしょうか?
シ:……なっ!?
ユ:(ニヤソ)どうしました、シオンさん?
シ:知らん! セシルがどうしたというのだ。あんな顔は女で中身は男、私は何とも思ってなんかいないぞ。
ユ:随分、ひどい言われようです、セシル君。私がこの場で一つ頭を下げておきます(ペコリ)。
サ:(クイクイ)YUKさん、YUKさん?
ユ:はい? どうかしましたか、サクラさん?
サ:姉さん。セシルさんに厳しくあたっているように見えますけど、実はああ見えて案外、セシルさんのことを信頼しているんですよ。
フ:嫌よ嫌よも、好きの内ってやつ?
シ:サクラ、ファラ! な、な、何を勝手なことを言っている!?(赤面)
ユ:まあまあ、落ち着いてください、シオンさん――、
シ:これが落ち着いていられるか――っ!!(ブンッ)
ユ:(ガツン)いたた、何も殴らなくてもいいじゃないですか。ではでは、このままシオンさんを問い詰めていると姉妹に、もとい、仕舞いに殺されてしまいそうなので、次はサクラさんです。
サ:えっ……わたし、ですか?
ユ:はい!(エッヘソ)
サ:わたしは、その……そんなことあまり考えたことがないのでわかりません(やや頬紅潮)。
ユ:ふむふむ、そんな純粋さもまた魅力の一つですね(ウンウン)。それでは、こちらから一つ質問を。
サ:なんですか?
ユ:G(ジェネティック)隊の整備班長である、ジョン・ガーシュウィン軍曹などはいかがですか(ニヤソ)?
サ:……えっ?
ユ:だから、ジョン軍曹ですよ(ニヤソ×2)?
サ:…………。
ユ:お〜い、どうしましたか、サクラさん?
シ:YUK、少し待ってやれ。
ユ:おや、シオンさん。元の状態に戻ったんですね。
シ:うるさい。それでだな、サクラのヤツは、今、自分の良心と戦っている最中なのだ。
フ:そうねえ。サクラは真面目で優しい子だからねえ。
ユ:……それは、暗にジョン軍曹のことをおっさん臭いから嫌、と言うのを憚っているだけのような――、
サ:そ、そんなことありません! そ、それは確かに、ジョンさんはおっさん臭くて、少し下品ですけど…………あっ(汗)。
ユ:ジョン軍曹、御冥福お祈りいたします(ポクポク)。
シ:おい、YUK、勝手に殺してやるな。
フ:でも、案外当たってるかも。例の会の幹部であるジョン軍曹にとって、今のサクラの発言は、Type G−3 グラースの試製超大型対艦ミサイルをまともに食らうのと同等の威力はあるかもね。
ユ:そ、それは、すごい比較ですね(汗)。
シ:ところで、ファラ。例の会というのは何だ?
フ:えっ……。それは、気にしなくていいわ(ドキッ)。
シ:そ、そうか。わかった。
ユ:まあ、結局、サクラさんはジョンさんよりはセシル君のほうが好きということでいいですよね(さり気無く)?
サ:はい、そうですね……って、ええっ!?
ユ:ふむふむ、サクラさんもセシル君に好意ありと(メモメモ)。
サ:Y、YUKさんっ!? わ、わたし、そんなこと(半泣き)。
ユ:いやあ、今のは収穫だなぁ(ニッコソ)。
シ:おい、YUK?
ユ:はい(ビクソ)?
シ:どうしておまえには分からないっ!? サクラは今泣いているんだ!!(ネタ)
ユ:そ、そんなこと、いわれても……。
サ:YUKさん、酷いです。
ユ:そ、そんなぁ(ガチョーン)。
シ:それと今、サクラも、と言ったな。勝手に私まで候補に入れてもらっては困るのだがな(ゴゴゴゴッ!)?
ユ:な、なんでしょうか、この戦闘力は? 私は、かつてないプレッシャーを感じて――、
シ&サ:私(わたし)の怒り、受け取れえええっっぃ!!!
ユ:(ドカーン)あ〜れ〜ぇっ(キラソ)!!
フ:へえ、随分高くまで飛んでるわねぇ(遠い目)。
シ:自業自得だ。
サ:そうです。
ユ:(フラフラ)くっ、私をここまで追い詰めるとは、中々やりますね。
フ:あ、YUK君、戻ってきた。
ユ:そうです。まだ、私はファラネルさんからは何も聞いていないから、逝くわけにはいかないんです。
フ:え、わ、私は別にいいわよ。どうせサブキャラだし(ボソリ)。
ユ:ファラネルさん! そんなに自分を卑下するものではありません!!
フ:って、どうして怒ってるのよ、YUK君。
ユ:い、いや、すいません。つい私事なので、興奮してしまいました。
フ:私事?
ユ:いえいえいえ!? なんでもありません、イエッサー!
フ:変なの(ジトリ)。
ユ:そんな変な目で見ないでください。とにかく、ずばり、ファラネルさんに質問です! あなたの好い人誰ですか?
フ:え、えーと、それは……(ドキドキ)。
ユ:ずばり、言います! 現在、このニュー・ダーウィン基地にやって来ている皇国宇宙方面軍副司令官のシド・クラウド――
フ:え、そ、それは……(モジモジ赤面)。
ユ:――の影に隠れて放心してしまったやさ男、ハジーメ・シヴァッタ大佐でファイナルアンサーッ!!
フ:……そ、そんな、私とクラウド少将では釣り合いが……って、へっ、今、なんて……?(ピクピク)。
ユ:いや、だから、シヴァッタ大佐(ニヤソ)。
フ:(ブチッ)ふ、ふーん。(サラリ)シオン、サクラ。
シ:うむ(コックリ)。
サ:ええ(ニッコリ)。
ユ:へ、へ? なんなんですか、いったい何を――?
シ&サ&フ:この世界(新西暦時代)から消え失せろぉぉぉっっぅ!!!
ユ:ぎ、ぎゃあああっ! も、萌の唯一神、モッエー(誰だよ、それ)に栄光あれ〜〜〜!!
★
こうして
YUKの今回の任務は終了した
犠牲は大きかった
だが
収穫もあった
その後
彼はこのことに関してこう語った
「――フッ、燃え+萌えはモエモエで〜す!!(殴られたショックにより一時的にK違い化)」と
時空進行者(タイムトラベラーズ)、YUK
彼の歩みはまだ
止まることを許されない
★
タイムトラベラーズ局所的超番外編Vol.1
「潜入!! YUK、イントゥ ニュー・ダーウィン ベイス
〜シオン・サクラ・ファラネルのあの人好い人!?〜」
タイムトラベラーズ:YUK
収穫萌ポイント:60
次回の活躍に期待する
(おまけ 終)
[あとがき]
どうもどうも、YUKでございます。前回の『Non−Reversible Season〜プレリュード〜』から約二週間。自分でも思っていた以上のスピードで、今回の『新暦戦記ラウズ』第三話が完成してしまいました。
まず、第一に遺憾であるのが、主人公が出てこなかった、ということです。この作品の主人公はシンヤ・ミナヅキ。オーストラリア皇国アデレード基地駐留軍のHighシリーズプロジェクトのMTBW、ラウズのパイロットなのですが、今回は宇宙編オンリーになってしまいました。後のストーリーとして、この地球編と宇宙編は繋がってくるとかこないとかですが、とにかく主人公が登場しなかったというのが遺憾です。ですが、次の第四話は地球編メインの話なので大丈夫です。多分。
では、とりあえず、この三話についてコメントを少し。この話の中では、宇宙では戦闘行為が禁止されているのですが、それを破って戦闘を行うローレンス団。それを阻止しようとする皇国軍。とにかく、物語の早い時点において、この時代の争いは地球だけではないのだ、ということを示しておきたかったという意図がありました。未だ謎のヴェールに包まれたローレンス団。宇宙編にも注目です!
次に「おまけ」について。今回の三話はどちらかというとシリアスモードが入っていたので、パーッと騒ぎたかったというのが本音です。謎なYUK作品「タイムトラベラーズ」の番外編で私、YUKが時空進行者となり活躍したわけであります(バカ)。あんまり面白くなかったのなら恐縮です(ペコリ)。
それでは、また今度、このあとがきの場でお会いしましょう。次は、おそらく、久しぶりに『天使のきまぐれ――Angel Fancy――』の続編を書こうかなとか思っています。結構、短いです。なんせ、ショート推理だから。長編推理用のネタ、募集中です。ラウズ四話は構想練りつつまたその内に。
最後に、この作品を読んでくださった皆様に、敬意と感謝を。
ではでは、私たちの新西暦時代(あした)を共に覗き見んことを。
2005年5月19日
著者 YUK
設定協力 HIR