輸血医療に携わる皆さまへ                                       (最終更新日2007.4.6)

 輸血療法についての基本的事項

目次
〈適応の決定〉  〈成分輸血〉 〈適正使用〉 〈輸血検査〉 〈手術時の血液準備量〉
〈緊急時の輸血および大量輸血における例外〉 〈輸血の実施〉 〈輸血副作用〉
〈患者のフォローアップ〉 〈自己血輸血〉


輸血検査の基礎知識

目次
1. 血液型判定を誤らせる原因 2.オモテ試験・ウラ試験不一致の原因
3.交差適合試験  4.不規則抗体検査


 〔輸血療法の考え方〕
  〈適応の決定〉
 1. 補充療法
 輸血療法は、血液中の各成分(赤血球、血小板、血漿など)の機能や量が低下したときにその成分を補充することを主な目的として行われる。他の薬剤の投与によって治療可能な場合には、輸血を行うべきではない。
 2. リスクとバランス
 輸血療法は一定のリスク(免疫反応や輸血後感染症など)が伴うことから、リスクを上回る効果が期待されるかどうかを十分に考慮し、適応と輸血量を決める。
 3.  説明と同意
 輸血療法を行う際には、患者、またはその家族に理解しやすい言葉でよく説明し、同意を得た上で同意書を作成し、一部は患者に渡し、一部は診療録に保存する。


  〈成分輸血〉
 1. 製剤の選択、用法、用量
 血液中の各成分は必要量、血管内寿命、産生率などがそれぞれ異なり、また、体内に取り出され保存された場合には、その機能が生体内にある場合とは異なってくる。したがって、輸血療法に当たっては、各血液成分の持つ機能を十分考慮して、用いる製剤の種類、量、輸血の回数および間隔を決める必要がある。
 2. 成分輸血
 余分な成分による副作用や合併症をできるだけ防ぎ、循環系への負担を最小限にするとともに、限られた資源である血液製剤を有効に用いるため、全血製剤を用いる全血輸血よりも、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの各成分製剤を用いる成分輸血を輸血療法の基本とする。


  〈適正使用〉
1.赤血球製剤の使用基準
内科的適応:慢性貧血の場合にはHb 7g/dlを目安にして輸血。
外科的適応:術前投与・慣習的に行われてきた術前投与の10/30ルール(Hb10g/dl,Ht30%)は近年根拠のないもとされている。
術中投与・循環血液量の15〜20%の出血は細胞外液系輸液剤を2〜3倍輸液
・循環血液量の20〜50%の出血は輸液とともに赤血球製剤、浸透圧維持には人工膠質液
・循環血液量の50〜100%の出血は輸液・赤血球製剤に加えアルブミン製剤
・出血が24時間以内に100%以上の場合、FFP、血小板製剤の投与も考慮
術後投与・バイタルが安定していれば原則として輸液のみで対応する
不適切な輸血
1.凝固因子の補充を目的としないFFPとの併用
2.末期患者への投与

2.FFPの使用基準
PT 活性値30%以下 INR2.0以上 
APTT 基準値の2倍以上 25%以下 
フィブリノーゲン 100mg/dl未満
出血が24時間以内に循環血液量の100%以上の場合
不適切な輸血
1.循環血漿量減少の改善と補充
2.タンパク質源としての栄養補給
3.創傷治癒の促進
4.末期患者への投与
5.その他、重症感染症の治療、DICを伴わない熱傷の治療、人工心肺使用時の出血予防、非代償性肝硬変での出血予防など

3.血小板製剤の使用基準
血液疾患、造血器腫瘍・固形腫瘍の化学療法中 1〜2万/μl以下
再生不良性貧血、骨髄異型性症候群 5千/μl以下
外科的手術などの術前 5万/μl未満 
出血が24時間以内に循環血液量の100%以上の場合
人工心肺使用手術時の周術期管理 3万/μl未満
不適切な使用
末期患者への血小板輸血の考え方(単なる時間的延長のため投与は控えるべきである。)



〈輸血検査〉
 患者(受血者)については、不適合輸血を防ぐため、ABO血液型、Rho(D)血液型検査を行う。また、輸血歴や妊娠歴のある患者、輸血する可能性が高い患者では不規則抗体スクリーニングを行う。

(1)ABO血液型
 ABO血液型を検査する際には、患者血球の抗原を調べる「オモテ試験」と患者血清中の抗A抗体、抗B抗体の存在を調べる「ウラ試験」とを行う。このオモテ試験とウラ試験が一致してABO血液型を確定することができる。

(2)Rho(D)血液型
 抗D試薬を用いてRho(D)抗原の有無を検査する。

(3)交差適合試験
 交差適合試験には、患者血清と供血者血球の反応をみる「主試験」と患者血球と供血者血清の反応をみる「副試験」とがある。
 交差適合試験は、患者とABO血液型が同型の血液製剤を用いて行うが、患者がRho(D)陰性の場合にはABO血液型が同型で、かつRho(D)陰性の血液製剤を用いて行う。なお、患者が臨床的に意義のある不規則抗体をもっていることが明らかな場合には、対応する抗原をもたない血液(適合血)を用いて交差適合試験を行う。
 
  1.交差適合試験
 血液型不適合輸血を防ぐために、ABO血液型の不適合を検出でき、かつ37℃で反応する抗体を検出できる適正な方法で交差適合試験を行う。
  2.赤血球製剤と副試験
 交差適合試験の際、供血者の血液型検査と間接抗グロブリン試験を含む不規則抗体スクリーニングおよび患者の血液型検査が正しく行われていれば、副試験は省略されてもよい。
  3.血漿、血小板製剤と交差適合試験
 血漿成分製剤および赤血球をほとんど含まない血小板製剤の輸血に際しては、交差適合試験は省略してよい。ただし、供血者の血液型検査と間接抗グロブリン試験を含む不規則抗体スクリーニングおよび患者の血液型検査とを正しく行い、原則としてABO血液型の同型血液製剤を使用する。
なお、患者がRho(D)陰性の場合、特に女児、もしくは妊娠可能な女性の場合は、Rho(D)陰性の血小板製剤をできるだけ使用するように努める。Rho(D)陽性の血小板製剤をRho(D)陰性患者、とくに女児、もしくは妊娠可能な女性に用いなければならなかった場合、抗D免疫グロブリン製剤の事後の注射により、抗D抗体の産生を予防できることがある。
  4.検体の採取時期
 交差適合試験に用いる検体は輸血予定日前3日以内に採取するとが望ましい。
  5.検体のダブルチェック
 検体の取り違えをチェックするために、患者の血液型を調べるための検体は、2回別々に採取して検査に提出する。

(4)コンピュータクロスマッチ
 コンピュータクロスマッチとは、血液製剤管理コンピュータに登録された患者情報(血液型、不規則抗体検査結果など)と、血液製剤の血液型、製剤名、製造番号、有効期限などのバーコード化された製剤情報をバーコードリーダーで読みとり照合して血液製剤を出庫するシステムである。
コンピュータクロスマッチ出庫適合条件には、
1.血液型検査を2回以上実施して血液型が確定していること。
2.不規則抗体検査が輸血予定日の一定期間以内に実施され陰性(過去においても陰性)であることなどである。


 〈手術時の血液準備量〉
 血液を無駄にせず、また、輸血療法を効率化するため、合併症のない待機的手術症例では、準備する血液について次の方法を積極的に用いるべきである。
 1. タイプ・アンド・スクリーン(Type&Screen:T&S)
  直ちに輸血する必要がないと予測される待機的手術では、受血者のABO血液型、Rho(D)血液型、不規則抗体の有無をあらかじめ調べ、Rho(D)陽性で不規則抗体がない場合は、術前に交差適合試験を行わない。緊急に輪血療法が必要になった場合には、血液製剤をオモテ試験によりABO血液型のみ確認するか、あるいは交差適合試験(主試験)を生理食塩水法(迅速法)により行い、あるいはコンピュータクロスマッチを行い適合血を輸血する。
 2. 最大手術血液準備量(Maximum Surgical Blood Order Schedule:MSBOS)
  確実に輸血療法が行われると予測される待機的手術では、病院ごとに過去に行った手術から手術術式別の血液量(出血量)と準備血液量を調べ、通常は実際の平均輸血量の1.5倍程度を交差適合試験を行って準備する。

 〈緊急時の輸血および大量輸血における例外〉
 1. 緊急時の輸血
  緊急に赤血球の輸血が必要となった場合は、直ちに患者の検査用血液を採取することに努めるとともに、その状況に応じて次のように対処するが、ABO血液型の同型血液製剤を使用することを原則とする。
(1)ABO同型血液製剤の使用
  患者の最新の検体でABO血液型検査を直ちに実施し、同型の赤血球製剤を使用するとともに、引き続き交差適合試験を行う。
(2)O型赤血球製剤の使用
  患者のABO血液型検査をする余裕もない場合は、O型の赤血球製剤を使用する。しかし、できるだけ速やかにABO血液型検査を行い、同型の赤血球製剤輸血に切り替える。やむを得ずO型赤血球製剤で輸血を開始し、相当量の輸血をした後に、患者のABO血液型が決定したときは、その後の輪血については、輸血の途中で採取した最新の患者血液と同型の赤血球製剤との間で行った交差適合試験(生理食塩水法の主試験)の結果に基づいて出庫する。
(3)Rho(D)陰性の場合
  日本人のRho(D)陰性の頻度は0.5%(200人に1人)である。そのため緊急にRho(D)陰性の血液製剤を入手することは困難なことが多い。Rho(D)血液型検査の結果、Rho(D)陰性と判明したときは、Rho(D)陰性の血液製剤を輸血するように努める。とくに女児、もしくは妊娠可能な女性で、Rho(D)陽性の血液製剤を輸血した場合はできるだけ早くRho(D)陰性の血液製剤に切り替えるように努力する。
(4)事由の説明と記録
  緊急に輸血が必要となった際に、やむを得ず交差適合試験未実施の血液製剤を、あるいはRho(D)陰性患者にRho(D)陽性の血液製剤を輸血する場合には、担当医師はその理由を理解しやすい言葉で患者、またはその家族に説明した上で、同意書の作成に努め、その経過と結果を診療録に記載する。

 2. 大量輸血時の適合血
  大量輸血とは、24時間以内に患者の循環血液量と等量、またはそれ以上の輸血が行われることをいう。
(1)交差適合試験
  大量輸血後の患者にさらに輸血を必要とする場合には、交差適合試験を十分に行う時間がないことも多いが、少なくとも生理食塩水法による交差適合試験(主試験)を実施する。患者の血液は新たに採血して検査に用いる。
(2)不規則抗体が陽性の場合
患者があらかじめ不規則抗体をもっていることが明らかな場合には、抗体に対する抗原をもたない血液製剤(適合血)を選んで前述の交差適合試験を行うことに努めるが、適合血が間に合わない場合はABO同型血を輸血し、救命後に溶血性副作用に注意しながら患者の観察を続ける。


  〈輸血の実施〉
 1.輸血前
 (1) 保存法
 血液製剤の保管場所は輸血部門に限定し、各診療科(病棟)での保管はしない。
保冷庫は自記温度記録計付き並びに警報装置付きの冷蔵庫および冷凍庫に保存する。
 製剤名   保存条件
赤血球製剤  2〜6℃
新鮮凍結血漿 −20℃以下
血小板製剤  20〜24℃ 水平振とう
 (2) 病室などでの一時保管
 病棟や手術室などには実際に使用するまで持ち出さないことが原則である。全血と赤血球製剤においては、温度管理が不十分な状態では赤血球の質が低下したり、血液中に混入していた細菌が増殖したりする場合があるなど、問題が生じやすいので、病棟や手術室で一時保管する場合も厳重な温度管理の下で保管する。
 (3) 外観検査
 輸血の実施前には溶血や凝血塊、バッグの破損などの異常がないかどうかを肉眼で確かめる。
 (4) 1回1患者
 輸血の準備および実施は、1回に1患者ごとに行う。複数の受血者用の血液を1度にまとめて準備し、患者から患者へ続けて輸血することは、取り違えによる誤りをおかす原因となり危険である。
 (5) チェック項目
 事務的な過誤による血液型不適合輸血を防ぐために、輸血用血液の受け渡し時、輪血準備時および輸血実施時にそれぞれ、血液型、血液製剤製造番号、有効期限、交差適合試験などの検査結果と輸血用血液が該当患者に適合しているものであることを複数の人でチェックする。
 (6) 照合の仕方
 チェックする場合には2人で声を出し合って読み合わせをし、その旨を記録する。
 (7) 同姓同名患者
 同姓同名の患者がいる場合があり得るので、生年月日、ID番号などによる個人の識別も必要である。
 (8) 追加輸血時
 同様な注意が引き続き輸血を追加する場合にもあてはまり、追加されるそれぞれの輸血用血液についても必要である。
 (9) 輸血用の穿刺針
 成人に赤血球製剤を輸血する場合には、18G以上の針を用いる。小児の場合には、23Gで輸血することも可能であるが、細い針で輸血スピードが速い場合、溶血を起こすことがある。
 (10) 白血球除去フィルター
 白血球除去フィルターは免疫反応の抗原となりうる白血球を取り除くために用いる。蕁麻疹やアレルギーなどの輸血副作用の既往がある 患者、副作用を予防したい患者、頻回に輸血が必要になる患者などに用いる。また、近年問題になっているTRALIの予防にも役立つ。FFPは混入している白血球数が少ないため、原則的には必要がない。
 (11) 放射線照射
 GVHD予防には、リンパ球を含む輸血用血液に放射線照射をして用いることが最も効果的である。
 (12) 通常の赤血球輸血では製剤の加温は必要ない。


 2.輸血中
 (1) 輸血速度と観察
 輸血する速度は患者の状況に応じて設定するが、一般的に輸血開始時(10〜15分間)は緩やか(1ml/1分程度)にその後は1分間に5ml程度で行う。
輸血による急性反応の有無について少なくとも開始後5分間はベッドサイドで患者の状態を観察する。
 (2) 開始後の観察
 輸血開始後15分間程度観察した時点において再度様子を観察し、その後も適宜観察を行う。

 3.輸血後
 (1) 確認事項
 輸血終了後、再度、患者名、血液型および血液製剤番号を確認し、診療録に記録する。
 (2) 検体の保存
 輸血後の副作用、あるいは合併症が生じた際の原因調査と治療に役立てるため、患者血液と輸血血液のパイロット血液は少なくとも1〜2週間、4℃程度で保存しておくことが望ましい。

 4.副作用発生時の対応
 (1) 輸血の中止
 輸血による副作用と考えられる症状を認めた場合には直ちに輸血を中止する。しかし、血管は確保しておき、生理食塩水などの点滴に切り換えて必要な処置を講ずる。
 (2) 即時型副作用(輸血後短時間でおこる副作用)
 即時型副作用には、血管内溶血(ABO血液型不適合輸血、その他の血液型不適合、過温血輪血、過冷血輸血)、発熱反応(抗HLA抗体など)、アナフイラキシーショック、細菌汚染血輸血によるエンドトキシンショック(菌血症)、循環不全などがある。
 (3) 遅発型副作用(輸血後長時間を経過しておこる副作用)
遅発型副作用には、血管外溶血、感染症(肝炎、梅毒、マラリア)、輸血後紫斑病などがある。
 (4) 原因究明
 輸血副作用を認めた場合には、輸血部門に報告し、その原因を明らかにするように努め、類似の事態の再発を予防する対策に資する。

〈輸血副作用〉
輸血による副作用は、大きく、免疫学的機序によるものとそうでないものとに分かれる。
免疫学的副作用
1.溶血反応  即時型溶血反応、遅発型溶血反応
2.発熱・蕁麻疹・アナフィラキシー
3.輸血関連急性肺障害(TRALI)
4.輸血後紫斑病
非免疫学的副作用
1.輸血後GVHD
2.輸血後感染症
3.大量輸血に伴う副作用(低体温、高カリウム、クエン酸中毒、凝固障害)
4.輸血手技による副作用(空気塞栓、過剰輸血、微小凝集による循環障害、急速輸血事故)

1.即時型溶血反応 
最も重大な輸血事故は、ABO型異型輸血である。たいていの場合、患者さんや血液製剤の取り違え、思い込みによる誤発注、検査検体の取り違えといった人為的なミスが原因。しかし、異型輸血は生命に関わる重大な結果をもたらす。
ABO型異型輸血は、即時型血管内溶血を起こす。補体が活性化され、溶血を起こすとともに、補体がanaphylatoxinとして作用して、一過性の血圧上昇、胸内苦悶、呼吸困難などの症状を引き起こす。一方、抗原抗体反応によってキニン・ブラデイキニン系が活性化され、血圧を低下させると同時に、DICの引き金を引くことになる。溶血によって生じた遊離ヘモグロビンは、腎毒性が強く、腎不全を誘発する。ショック、DIC、腎不全から死亡に至る。

異型輸血の症状
1.輸血している静脈にそっての熱感
2.顔面紅潮 → 蒼白 → 不穏状態
3.胸内苦悶、呼吸困難、頻脈、腹痛、腰痛
4.発熱、悪寒戦慄、悪心嘔吐、失禁
5.チアノーゼ
6.血圧低下
7.血色素血症、血色素尿症
8.乏尿 → 無尿 → 腎不全
9.出血傾向(DIC)

これらの症状は輸血開始から10〜30分で現れる。よって、輸血開始後のこの期間、必ずベッドサイドにて患者さんの観察をすることが義務づけられている。

2.遅発型溶血反応
過去に輸血歴や妊娠歴のある患者さんで、不規則抗体によって輸血後7〜10日後に起こる溶血反応で、発熱、黄疸、溶血性貧血の症状を呈す。血管外溶血を呈する場合が多く、即時型溶血反応に比して一般的に症状は軽く、DICや腎不全を起こすことは稀で、特に治療の必要はないとされている。不規則抗体保有者に輸血が必要な場合には、抗体を同定して、適合血を準備する必要がある。予防には、過去の輸血歴や妊娠歴、出産後の新生児黄疸の程度などを問診で正しく確認することが重要。抗体価が非常に低い場合には検出不可能な場合もある。
頻度は1000〜10000単位あたりの輸血に1件程度とされている。

3.発熱・蕁麻疹・アナフィラキシー
原因には、抗血漿成分抗体、抗ペニシリン抗体などの他、白血球除去フィルターや消毒に用いられるエチレンオキサイドなどが考えられている。一番多く見られる副作用。皮膚掻痒や蕁麻疹などの症状がみられた場合、軽症であれば、輸血を中止して経過を観察する。必要に応じて、抗ヒスタミン剤やステロイド剤を投与。アナフィラキシーは、呼吸困難、全身紅潮、血管浮腫(顔面、喉頭浮腫など)、蕁麻疹のうち、複数が合わせて発現した場合、または、アレルギー性と思われる急性呼吸障害が認められた場合をいう。上記に、血圧低下、チアノーゼ、末梢循環障害が加わった場合を、アナフィラキシー様ショックと呼ぶ。直ちに輸血を中止し、症状に応じて大量輸液、酸素吸入、エピネフリン投与、アミノフィリンなどを投与。

4.輸血関連急性肺障害(TRALI)
輸血後数時間のうちに、発熱、咳、呼吸困難、血圧低下を呈し、水分負荷や心不全によらない肺浮腫を起こす。血液製剤、または受血者の血液中に存在する、抗白血球抗体(抗顆粒球抗体、抗リンパ球抗体、抗HLA抗体)が原因とされ、輸血副作用のなかでも、死亡率が高く、近年問題になっている。胸部レントゲンで、両側肺間質影の増強、肺浸潤影を呈す。呼吸・循環管理が主体の治療となるが、輸血時に白血球除去フィルターを用いることで受血者側の抗白血球抗体産生を抑制できる。血液製剤中の抗体の有無は、スクリーニングされていない。

5.輸血後紫斑病
輸血後1週間くらいで、血小板数の著明な低下が出現し、1ヶ月以上持続する状態で、輸血によって血小板特異抗原に対する抗体が産生され、受血者の血小板を破壊することが原因。治療には、ステロイド。

6.輸血後GVHD(移植片対宿主病)
HLAが、一方向にのみマッチしているために(HLA one-way match)、輸血された供血者リンパ球が排除されず、逆に受血者のHLA抗原を認識し、急速に増殖しておこる重篤な病態。輸血後1〜2週間で、肝臓(黄疸、重度の肝障害)、消化管(下痢)、骨髄(汎血球減少)、皮膚(紅斑)に重篤な障害を引き起こし、死に至る。このHLA one-way matchは、日本人では数百人に一人とされているが、近親者では確率が高く、また新鮮な血液ほどリスクが大きいとされている。採血後2週間を経過した製剤での発症も報告されている。有効な治療法は、まだ確立されていない。予防には、血液製剤への放射線照射が有効で、15〜50Gyの照射でリンパ球の増殖が抑制される。白血球除去フィルターの予防効果は、不確実。

7.輸血後感染症
輸血を介する感染症には、以下のものがある。
1.細菌感染(エルシニア菌、緑膿菌、セラチア、クレブジエラなど)
2.ウイルス感染 (HBV、HCV、HIV、HTLV-1、Parvovirus B19、CMV)
3.スピロヘータ感染(梅毒)
4.リケッチア感染
5.寄生虫感染(トキソプラズマ、バベシア、トリパノゾーマなど)
6.原虫感染(マラリア)
7.その他、プリオン
血液センターでは、梅毒検査、HBV、HCV、HIV抗体および核酸検査(NAT検査)を行っていて、抗体が陰性の期間(ウインドウ期間)は、HBVで59→34日、HCVで82→23日、HIVで22→11日と短縮された。しかし、最近すり抜け感染事例が報告されえており、100%感染を予防できるものではない。西ナイルウイルスも、輸血や臓器移植により感染することが報告され、2003年には狂牛病の輸血感染例が報告されている。


 〈患者のフォローアップ〉
 1. 輸血後肝炎
 輸血後肝炎の多くは輸血後3カ月以内(早ければ2〜3週間以内)に発症し、6カ月を超えて発症するものはまれである。このため、輸血後肝炎に罹患していないかどうかについては最低3カ月、できれば6カ月間程度、肝機能をフォローアップすることが望ましい。
 2. 輸血後2ケ月で、HIV抗体検査を行うことができる。



〈自己血輸血〉 
 自己血には、待機的手術患者で、術前に自己の血液をあらかじめ採血して保存しておく方法(貯血式)、
手術開始直前に採血し、人工膠質液を輸注する方法(希釈式)、
手術中に出血した自己の血液を回収する方法(回収式)がある。

 1. 自己血輸血の利点
(1)感染症の予防
 血液を介する感染症を合併するリスクがない。
(2)同種免疫の予防
 同種免疫などの免疫反応による副作用のリスクがない。
(3)免疫抑制作用の予防
 同種血輸血により引き起こされると考えられている免疫抑制作用を防げる。

 2. 自己血輸血の不利な点
(1)確保量の限界
 採血、または回収できる量に限界がある。
(2)循環動態への影響
 採血により循環動態などに対して悪影響を与える可能性がある。
(3)細菌汚染の危険
 細菌による汚染(とくに液状保存や回収式)に注意が必要である。
(4)人手と技術
 採血、保存、管理などに通常の輸血以上の人手や技術が必要である。

 3. 自己血輸血についての評価
(1)推奨される場合
 術前状態が良好で緊急を要しない待機的手術の場合や、とくにまれな血液型や免疫抗体がある場合には、自己血輸血の適応を積極的に検討することが推奨される。
(2)選択と組合せ
 自己血輸血の方法としては、患者の病状、術式などを考慮して術前の貯血式、術直前の希釈式、術中の回収式などの各方法を適切に選択し、または組み合わせて行うことを検討すべきである。
   

     参考資料:「血液製剤の使用にあたって 第2版 第3版」


輸血検査の基礎知識

1. 血液型判定を誤らせる原因
(1)技術的・事務的な誤り
1.採血した試験管に、患者の氏名、番号などを誤って記入する。
2.検査のとき、検体を取り間違える。
3. 血球濃度の誤り
 血球濃度が濃すぎると、抗原過剰となり相対的に抗血清の凝集力が不十分となって凝集がおこりにくくなる。血球濃度は3〜5%位がよい。
4.判定用抗血清の凝集素価の低下
 判定用抗血清の保存法や使用法が悪かったり、あるいは有効期限切れで抗体価が低下していれば判定を誤ることがある。
5.溶血反応
6.検査結果を読み間違えたり、検査結果の記載を誤る。


2.オモテ試験・ウラ試験不一致の原因
(1)赤血球側の原因

 1.赤血球上の抗原が少ないか欠如している場合
亜型(A2、A3、Am、Ax、Bm、Bx型)などの血球は被凝集性が弱く判定を誤ることがある。
遺伝性による場合。(キメラ、モザイクなど)
白血病やMDS、悪性腫瘍の患者の場合。
生後1年未満の児は、成人に比べ抗原量が十分ではない。

 2.acquired B(獲得性B)
A型の結腸癌や直腸癌の患者や感染症の患者の血球が抗Bと弱く反応し、AB型と判定されることがあり、acquired Bと名付けられている。この現象は細菌感染が原因で、大腸菌やSalmonela由来のB型活性多糖体が血球の表面に吸着してB型活性を獲得したのではないかと考えられている。また、細菌の産生するdeacetylaseが血球のA型抗原決定群のN−acetylgalactosaminに作用してacetyl基を遊離させ、galactosamin基となるため、抗Bと交差反応をおこすようになるとする報告がある。

 3.自己抗体
・温式自己抗体(Warm auto antibody)
 37℃で強く自己赤血球と反応する自己抗体で、多くの自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の患者から検出される。主としてIgGに属している。
・冷式自己抗体(Cold auto antibody)
 0〜4℃で強く自己赤血球と反応する自己抗体で、寒冷凝集素病、マイコプラズマ肺炎において、高力価のこの抗体が検出される。主としてIgMに属し、抗I特異性を示す。
・二相性自己抗体(Biphasio auto antibody)
 0〜4℃で自己赤血球と反応し、37℃に加温すると補体を活性化するとともに、抗体自身は自己赤血球から解離する。結果的に赤血球は溶血する。発作性寒冷血色素尿患者の血清中に存在するDonath Landsteiner抗体がこれに属する。IgGに属し、抗P特異性を示す。

 4.汎凝集反応(polyagglutination)
 ウイルス感染や細菌感染を受けている患者や、試験管内で血液がある種の細菌に汚染された場合では、赤血球が血液型とは無関係にどの血清によっても凝集することがある。この現象は、微生物が産生する酵素が赤血球に作用して潜在抗原を活性化し、成人血清中に存在する抗Tと反応して凝集がおこると説明されている。この酵素はneuraminidase("recepter destroying enzyme"RED)で、血球細胞膜のsialomucoprotinに作用して、neuramin酸を遊離し、T抗原をあらわす。T抗原の決定群の非還元末棉はβ−galactosyl基である。抗Tは新生児・乳児では欠けている。

(2)血清側の原因

 1. 血清中に不規則抗体が存在する場合

 2. 血清中の血液型物質の増加
 卵巣嚢腫(cystadenoma pseudomucinosum)胃癌などの悪性疾患の患者では、血清中に多量の型物質が存在することがあり、被検血球を自己血清浮遊液で型判定を行うと、血清中に存在するA、B型物質が抗A、抗B試薬と反応して血球凝集反応を阻止することがあり、型判定を誤ることがある。血球をよく洗浄し生理食塩水に浮遊して型判定を行う。

 3. 被検血清の抗A・抗B抗体価(凝集力)が弱い場合
 ウラ試験のとき、被検血清の抗Aおよび抗Bの凝集素価が低い場合には、判定を誤ることがある。とくに抗体産性が障害されている無γ−globulin血症の患者の場合や、抗体が未発達である新生児や乳児の場合には、ウラ試験で注意を要する。

 4. 寒冷凝集反応
 通常、低温でのみおこる現象である。オモテ試験では問題にならないが、ウラ試験で被検血清の寒冷凝集素価が高い場合には、検査室の温度が低いと寒冷凝集素によって血液型と無関係に凝集がおこることがある。例えば、Mycoplasma肺炎(原発性異型肺炎)・寒冷凝集素病においては、非常に高力価の寒冷凝集素が出現し、室温でも凝集を示すことがあるので注意を要する。Wienerらは寒冷抗体型の後天性溶血性貧血患者の血清中の凝集素が供血者22,000人の血液中5例の赤血球とだけ室温で反応せず、4℃でも反応が非常に弱いことを発見し、この凝集素を抗Iと命名した。抗Iと反応しない血球はi型であり、臍帯血球はi型であるが、1年半位たつと成人と同じI型となる。成人でi型の人は極めてまれである。

 5. 連銭形成
 顕微鏡で観察すると、硬貨が連なるように赤血球が一線に折り重なってみえる。多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、クリオグロブリン血症などの病気により免疫グロブリンが増加する場合、肝硬変、サルコイドーシスによりグロブリン/アルブミン比の増加する場合、あるいは感染などの原因による高フィブリノーゲン血症の場合があげられる。
 輪注用高分子溶液の、デキストラン、ヒドロキシエルデンプン(HES)、ゼラチン、ポリビニールピロリドン(PVP)、フィアブリノーゲン、免疫グロブリン製剤などが原因の場合がある。
 ※ 連銭形成は、1〜2滴の食塩水液を加えれば消失することが多い。




3.交差適合試験
〔検体〕
1. 採血後3日以内のものを用いる。
2. 溶血していてはならない
3. 全血での冷蔵庫保存は避け、血清(血漿)分離後に保存する。

〔結果の解釈〕
主試験が陽性の場合
・ABO式血液型の間違い
受血者血液の取り違い、ラベルの貼り違い、血液型判定の間違い、輸血用バッグの取り違い。
・受血者血清中に不規則抗体が存在する
・供血者血球が、直接抗グロブリン試験陽性の場合
・受血者血清中に連銭形成能が存在する場合

副試験が陽性の場合
・ABO式血液型の間違い
・受血者血球が汎血球凝集を起こしている場合
・受血者血球が直接抗グロブリン試験陽性の場合
・供血者血清中に不規則抗体が存在する場合

自己対照が陽性の場合
・生理食塩液法:寒冷自己抗体、連銭形成
・ブロメリン法:非特異反応(主試験と同程度の反応があった場合)
・抗グロブリン試験:受血者血球が直接抗グロブリン試験陽性
 温式自己抗体を保有、薬剤による感作、不適合血の輸血があった場合。

その他の偽陽性反応
・使用したガラス器具の汚染
・試薬、生理食塩液などの不備(使用期限切れ、細菌汚染など)
・検体の不備(溶血、フィブリン塊、細菌汚染)
・過剰遠心


4.不規則抗体検査
 不規則抗体とは、Landsteinerの法則に従わない赤血球抗体のことである。不規則抗体には、免疫刺激なしに発生する自然抗体と、輸血、または妊娠などの免疫刺激により産生される免疫抗体がある。
 輸血予定者については、あらかじめ不規則抗体検査を実施して、不規則抗体が陰性であることを確認しておけば輸血を計画的に行うことができる。しかし、患者に不規則抗体が存在し、交差適合試験時に不規則抗体陽性と判明した場合、適合血を準備するまでに時間がかかり、輸血予定・手術予定などを延期せざるをえないことになり、患者に臨床上影響を与えてしまうことになる。また、妊娠の場合、母児血液型不適合による新生児溶血性疾患の有無を予知するためにもこの検査が実施される。
 

〔不規則抗体検査を行う目的〕
 (1)適合血液の確保
 (2)血液型不適合による新生児溶血性疾患の予知および管理

〔不規則抗体の臨床的意義〕
(1)Rh血液型抗体(抗C、抗c、抗D、抗E、抗e)
 ● 抗DはRh系抗体の中で最も強い溶血反応を示す。
 ● 抗Eは輸血歴、妊娠歴のある患者から多く検出され臨床的にも重要である。
(2)Lewis血液型抗体(抗Lea、抗Leb)
 ● 抗Leaは時として溶血性輸血副作用を起こすことがある。
 ● 抗Lebは30℃、あるいはそれ以上で、Le(b十)血球を凝集することや、その抗体が加温後の抗グロブリン試験で反応することがある。しかし、臨床的意義は低い。
(3)MNSs血液型抗体
 ● 抗M抗体の多くは冷式のIgM自然抗体であるが、まれにIgGが大部分を占めることがあり、輸血副作用をひきおこすことがある。
 ● 抗Mが原因でおきた新生児溶血生疾患は数例ある。
 ● 抗N抗体はまれな抗体である。
 ● 抗S抗体は溶血性副作用の原因となる。
 ● 抗Sは妊婦で検出される場合には、新生児溶血性疾患をおこす可能性がある。
(4)P血液型抗体
 ● 抗P1抗体は、最も一般的に認められる冷式自然抗体である。
 この抗体は30℃以上ではまれにしか反応しないので、臨床的意義はほとんどない。
 ● 抗P1抗体は、妊婦に対して新生児溶血性疾患は実証されていない。この抗体は、主としてIgMであり、胎盤を通過することができないからである。
(5)Duffy血液型抗体(抗Fya、抗Fyb)
 ● 抗Fyaは溶血性輸血副作用の原因としてしばしば報告されている。
 ● 抗Fyaは妊婦で検出される場合には、新生児溶血性疾患をおこす可能性がある。
 ● 抗グロブリン試験によって最もよく検出される。
 ● 抗Fyaはまれな抗体である。
(6)Kidd血液型抗体(抗Jka、抗Jkb)
 ● 抗Jkaと抗Jkbは溶血性輸血副作用がある。多くは遅延型の反応を示す。
 ● 抗Jkaと抗Jkbは妊婦で検出される場合には、新生児溶血性疾患をおこす可能性がある。
 ● 抗グロブリン試験によって最もよく検出される。
(7)Diego血液型抗体(抗Dia、抗Dib)
 ● 抗Diaと抗Dibは輸血副作用および新生児溶血性疾患の原因となる。
 ● 抗グロブリン試験によって最もよく検出される。


  参考資料:「輸血検査の実際 改定第3版」

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