症例3 (2003.4)

80才、男性。貧血(Hb 5.2)のため入院。
輸血歴 2003年2月末頃 他院でMAPを2回輸血(単位数等は不明)
血液型 O型 Rh(D)陽性
不規則抗体検査
生食法でスクリーニングおよびパネル血球のMM型血球と(2+)の反応を示す。
MN型血球とは全く反応しない。PH依存性抗Mを疑いACD液を加えたが反応は変わらず。
クームス法はすべて陰性。

問題
患者血清中の生食法で反応する抗体は抗Mと同定して良いのでしょうか?

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追加検査
患者血球の抗原はMN型。
(輸血後なので参考値ですが、抗M血清および抗N血清との反応はしっかり出ています。
部分凝集というほどのfree cellは認めません。)
DAT(広範囲 w+、抗IgG 陰性)
熱解離 4度に冷やすと、ごくわずかにMM型血球と反応
DT解離 陰性
DTT処理血清では生食法(MM型血球との反応)陰性
従いましてこの抗体はIgM性。

MM血球、NN血球、自己血球を用いた吸収試験
MM血球で吸収できました。(4℃10分 陰性)
NN血球では吸収できず MM血球と反応(4℃10分 2+)
自己血球では吸収できず MM血球との反応(4℃10分 2+)
(輸血後ですので自己血球での吸収は参考値)

当院での輸血
4/1 生食法で反応しないMAP2単位(NN)を輸血
4/2 Hb 5.4 輸血効果がない!
4/4  Hb 5.0
4/5 生食法で反応しないMAP2単位(NN)を輸血
4/6 生食法で反応しないMAP2単位(NN)を輸血
4/7 Hb 7.4 輸血効果あり
4/9 Hb 7.0

解答
輸血後としても患者検体(血球)はM抗原がしっかりある。
これは、抗M非自己抗体?
ということでこの症例は、未解決。現時点で同定不能です。


症例 2 (2003.03)
58歳、男性。副鼻腔炎。
患者情報、20年程前に輸血歴あり
血液型 A型 Rh(D)陽性
不規則抗体スクリーニング(カラム法)
クームス法(抗IgG) 試薬血球との反応 すべて(2+)、自己対照 陰性。
不規則抗体スクリーニング(マニュアル法)
PEGクームス法    試薬血球との反応 すべて(2+)、自己対照 陰性。
フィシンクームス法  試薬血球との反応 すべて(2+)、自己対照 NT。
ブロメリン一段法  陰性 試薬血球との反応は少しざらつきがあり。

問題
以上のような結果からどのようなことが考えられますでしょうか?
また、今後どのような追加検査や臨床情報が必要になりますでしょうか?

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症例2 追加検査
別メーカーのスクリーニング血球との反応
生食法 すべて陰性、PEGクームス法 すべて(2+)

患者と同型A1血球との反応   PEGクームス法 (2+)
O型ベビー血球(i型)との反応 PEGクームス法(2+)

パネル血球との反応
(検体量の都合で4血球との反応)
生食法 すべて陰性、PEGクームス法 すべて(2+)、自己対照は陰性

抗体価測定(アルブミン加クームス法)
R1R1血球 2倍
R2R2血球 4倍
rr血球  4倍

高頻度抗原に対する抗体を疑い
血液センターさんに以下の血球と抗血清を分けてもらって検査

患者血清と高頻度抗原陰性血球との反応
PEGクームス法
Dib(-)血球(2+)
Jra(-)血球1(陰性)
Jra(-)血球2(陰性)
患者血球の高頻度抗原のチェック
Di(b+)、JMH(+)、Jra (陰性)
抗Dib (モノクロ)との反応(3+)
抗JMH(人由来)との反応 (2+)
抗Jra(モノクロ) との反応(陰性)
抗Jra(人由来) との反応(陰性)


以上の結果から今回の症例は高頻度抗原に対する抗体「抗Jra」と推測しました。
臨床医には推測される抗体名(抗Jra)と適合率が
約0.1%(文献によっては0.03%)であることを伝えました。
今回の症例は疾患が副鼻腔炎ですので
輸血になる可能性が全くないとのことで一安心でした。


症例1 (2003.04 )

86才、女性。MDS
Hb4.9のためMAP2単位がオーダーされる。
クロスマッチを実施したところ、生食法 陰性。
PEGクームス法の判定は陰性であったが、
クームスコントロール血球を加えて遠心しても凝集を認めませんでした。

問題
今回ような場合クームス法判定は「陰性」と報告して良いでしょうか?
また、クームスコントロール血球を加えても凝集を認めなかった原因として、
どのようなことが考えられるでしょうか?対処法は?

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今回ような症例の場合、クームス法判定は「判定保留」となります。
症例1 追加検査
血液検査結果
TP 5.9  ALB 2.7  A/G 比 0.88  IgG 1436
Ht 17.2  Hb 4.5  PLT 4.2万
Soluble IL-2レセプター 7030 高蛋白血漿や高グロブリン血漿ではない。
追加検査
まず、同様の方法で再検査してもクームスコントロール血球(以下C・C)添加後 陰性
別のC・C血球でも 陰性
抗IgGクームス血清とC・C血球との反応 陽性
別メーカーのPEGで再検査してもC・C血球添加後 陰性
自動洗浄機の点検 問題なし

6回洗浄でもC・C血球添加後 陰性
8回洗浄でC・C血球添加後 W+から1+
(8回も洗浄していたら結果の信用性はありませんが、とりあえずやってみました)
アルブミン加クームス法 C・C血球添加後 陽性
37℃60分クームス法(反応増強剤なし) C・C血球添加後 陽性
カラム法 C・C血球添加後 陽性 

以上のような結果になりました。
今後この患者さんはアルブミン加クームス法で検査を実施することにしました。
また、主治医に以下のようなことを確認しましたが原因となりそうなことが
分かりませんでした。
・グロブリン療法は実施されていません。
・骨髄腫などの疾患ではなくMDSとのこと。

今度は用手法での洗浄ではどうなるか確認してみます。

参考:輸血学会雑誌 平成14年8月号に高グロブリン血症患者における
PEG法の検討文献あります。


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