アイデンティティー

 

 私はレベッカ。お父さんのお仕事の都合で、住み慣れた街を離れて、新しい街に引っ越してきました。

 この街は私が前に住んでいた街よりもずっと都会で、いろんな人たちが住んでいるらしいわ。

今日はその転校初日。

どうだろう、上手くクラスになじめるかしら。ちょっぴり不安だけど、新しい場所で新しいお友達ができることに期待しているの。

大丈夫よね、前にいた街での大親友のステファニーも応援してくれたし。私の笑顔があれば大丈夫って。

「あのぅ。転校してきたレベッカです」

 恐る恐る職員室の扉を開けると、綺麗なブロンドの女の人がやってきた。この人が先生かしら。怖い人じゃなければいいけど。

「私、担任のマリアンヌよ。迷わなかったかしら、遅いから心配していたのよ」

「ええ、平気です」

よかった、優しそうな人だわ。

先生はにっこりと微笑むと、教室へ案内してくれることになった。

「緊張してる。でも、みんな明るくていい子たちだから、すぐに馴染めるわ、ベッキー」

 あれ。

 なんだろう、先生、私の名前間違ってるわ。きっと私の聞き間違いね。私、さっきちゃんとレベッカって名乗ったもの。

 私の名前は、パパとママが一緒に考えてくれた素敵なもの。私もとっても気に入っているし、大親友のステファニーもいい名前だって誉めてくれたわ。名前は私の誇りなの。

 教室に案内されると、たくさんの生徒たちが私に注目している。さすがに都会だけあって、いろんな国の子たちがいるのね。やっぱり、こうしてみんなの前に立つと緊張するわ。

「さあ、みなさん。今日は転校生を紹介するわね」

「レベッカです、よろしくお願いします」

にっこりと微笑むと、クラスのみんなが拍手をしてくれた。これなら楽しくやっていけそうだわ。安心して、ステファニー。

私は席に向かうと、周りの席の子たちが話しかけてくれた。

「はじめまして、ベッキー。あたしはジュナイア。ジュナでいいわ」

 ねえ。

「俺はジョナサンだ。ジョンでいいよ、ベッキー」

ちょっと。

「よ、よろしく」

にこやかに話しかけてくる二人に、私の笑顔は張り付いていた。

 私の名前はレベッカ。

 ステファニー、都会は怖いところです。

 


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