静かなるドン

 

 この街には対立する二つの高校があった。

 北に猪鹿蝶高校。

 南に松竹梅高校。

 そして今日、長年抗争を続けてきた両校に決着がつけられようとしていた。

 ちょうどこの地区を南北に分ける橋の、川を挟んで両校の生徒たちが集結している。人相の悪そうな学生たち。各々、伝統的な釘バットや木刀、チェーン、一体どこから持ってきたのか鎧甲冑など、物々しい雰囲気に包まれている。まさに一触即発。

 そんな中、橋の中心でにらみ合う二人の生徒がいた。

 北の猪鹿蝶高校の番長、花札。

 南の松竹梅高校の番長、清酒。

「おうおう、清酒。ついに決着つける時が来たぜ!」

「おらおら、花札。てめぇの鼻っ柱折ってやるぜ!」

 二人は額と額をぶつけ合いながら、ガンを飛ばしあった。

 戦いはすでに始まっているのだ。番長同士のぶつかり合いに、後ろで控えていた生徒たちのボルテージも盛り上がる。

 そんな二人の間に、一人の男が割って入った。どちらの高校の制服でもない。黒い皮のライダースーツ。その背中には武闘連合と刺繍されていた。

「そいじゃ、始めるか。立会人は、武闘連合総長、武藤が勤めさせてもらう」

 静まり返る生徒たち。花札と清酒もいったん離れる。それを確認して、武藤は手持ち花火を取り出した。

「勝負はタイマン。誰も手出しするんじゃねぇぞ。この花火が消えた瞬間から、開始だ。いいな?」

 二人は無言で頷いた。腰の辺りに拳を作り、その瞬間を待つ。

 ぼっ。火が灯される。

 ばちばち。花火が鮮やかに爆ぜる。

 じりじり。火の命が消えようとしていた。

 ぽとり。灰が落ちた。

『うおらああああああああああああああああああああああ!』

 長い雄たけびを上げ、二人は走り出す。そして、腰だめに構えた拳を同時に放つ。

「ドン!」

「パッパ!」

「パリン、グリン、チリン!」

パー、グー、チョキ。

「チリン、グリン、パリン!」

チョキ、グー、パー。

パー同士。そして同時にこう叫ぶ。

『ドン!』

 かくして、タイマンドンパッパ勝負は日没まで行われた。




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