第四話 午後八時、ハクと作助は、アルバイトを終えて家路に急いでいた。二人は住んでいる アパートが同じなのだ。ちなみに、二人が住んでいるアパートの住人の殆どが妖怪だ ったりする。無論、付近の人間は、そんな事は知らない。 「近くに銭湯があって助かったな」 「全くだよ。物凄い埃だったからな」 ハクは、倉庫の埃の事を思い出して苦笑した。倉庫と言うのは、大抵掃除という事を行 なっていないモノだから大変汚れていてたりする。そんな所で、作業をすれば埃まれに なるのは当たり前だった。埃で、埃で、派手に汚れたまま、帰らなければならないのか と思っていたら、倉庫の近くに銭湯があったので、これ幸いと入ってきたのだ。 ネットワーク「しろがね」で一番、貧乏なのはこの二人、ハクと作助である。無理もな い。二人はアルバイトで食いつないでいるのだから、その為二人がアルバイトを探すと きは大抵、短期間で稼げる力仕事と相場が決まっていた。 ちなみに、1番の金持ちは、神楽で莫大な金額を貯め込んでいる。一部ではあるが、 余り良くない手段で手に入れた金も混じっている。2番目はリンで、こちらの世界に来 るときに、綾香と言う九尾の白狐が、相当な金額を持たしてくれたからだ。しかし、リン の性格上、「自分の食い扶持は自分で稼ぐ」と、居酒屋で働いている。風治と千尋は、 親の保護下(風治は義理の親ではあるが)にあるので、貧乏とは言えない。武男は、店 をやっていて常連客(妖怪ばかり)が居るので食べていくには困らない。 シンシア、彼女だけは分からない。自称「フリーター」と言ってはいるのだが、拳銃や ライフルなどを入手するには、相当な金額がいる筈なのだが・・・ 「フリーター」では不 可能だ。しかし、皆は深く追求しないでいた。世の中には知らない方が良い事が少か らずに、あるのである。 「それよりもハク。頼むから水風呂に15分間も浸かるの止めてくれよな。他の客が変な目で見ていたぞ」 「あー、私はホラ、龍ですから水風呂が好きなんですよ。だからつい」 「じゃあ、普段から、お湯には浸からないのか?自宅でもその調子なのか?」 「いやぁ、チャンと沸かして入るときもありますよ。それに、私は結構温泉好きでもあ るんですよ」 「だったら、銭湯のときは普通に入ってくれ。頼むから・・・」 などと、取り留めの無い話しを二人はして歩いていたのだが、突然、二人はある臭いを 感じて立ち止まった。 「作助・・・これは・・・」 「間違い無い。血の臭いだ・・・こっちだ」 二人は、風の中に漂う微かな血の臭いを頼りに歩いて行った。別に、ほっておいても 良いのだが、二人の直感が探した方が良いと告げていた。 二人は段々強くなる血の臭いをたどっていくと、路地の奥で血まみれになって倒れて いる男を見つけた。二人は、その顔に見覚えがあった。 「鴉天狗の鞍馬さんじゃないか!!」 鞍馬鳥次郎。彼はリンと同じ店で働く料理人で、二人は何度か合っていたので良く知 っていた。二人は、駆け寄ると鞍馬を抱き起こす。その身体は数カ所に深い切り傷が あり、其処からかなりの出血をがあった。そればかりか、左手にいたっては、二の腕の 辺りで殆ど千切れかかっていた。 「う・・・うううう」 抱き起こされた鞍馬は、激痛に悲鳴を上げた。 「うく・・・あんたらは・・・しろがねの・・・うううう・・・か・・・神楽に伝えてくれ・・・・」 「喋ってはいけません!!出血が酷くなります。」 ハクと作助は応急処置をしながら注意した。鞍馬の傷は深く、中には骨にまで達してい る傷もあった。妖怪と言う強い生命力を持った存在だから、このような深手でも、まだ 生きていられるのだ。 (誰が、鞍馬さんをこんな目に合わせたんだ?) 鴉天狗の妖怪、鞍馬鳥次郎は相当な手誰である事は二人は知っていたし、実際、手 合わせをしたとき、二人とも鞍馬にことごとく負けていた。その鞍馬さんに、こんな深手 を負わすとは・・・一体誰なんだ?! 応急処置を終えると、作助は鎌イタチの妖怪、鎌田風治や鬼島神楽に携帯電話で直 ぐに「しろがね」の所にくるように連絡した。ハクは、本来の姿、白い龍の姿になると、 鞍馬と作助を乗せて、「しろがね」の飛びたっていった。 二人が重傷を負った鞍馬を連れて、居酒屋「しろがね」に到着する頃には、連絡を受け た風治と神楽がすでに到着していた。おそらく二人とも全速力でやって来たにちがい 無い。 未だに出血が止まらない鞍馬を奥の部屋に連れて行くと、風治は直ちに治療に取り 掛かった。その間に、二人は武男と神楽にこれまでの事を手短に説明した。 「一体誰なんだ。鞍馬さんにあのような深手を負わせたのは・・・」 武男はうめく様に言った。 「分かりません。しかし、1つだけ分かる事は、相手は鞍馬さんを背後から不意打ちを 仕掛けた事でしょう。それに・・・あれは間違い無く、刀傷です」 作助はそう説明するが、この場に居る全因が納得した様子ではなかった。幾ら不意 打ちを食らったとは言え、鴉天狗の鞍馬はその程度の事では、負けるような者ではな かったからだ。 そうこうしていると、勢い良く入り口の扉が開けられて、悲鳴にも似た大声と共に、一 人の女性が入ってきた。 「鞍馬が、大怪我をしたんだって!!大丈夫なのか!!」 稲垣花梨の事、リンだった。 |
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