−「低身長症」には、一定の基準があるのですか?

低身長症とは、身長が同性・同年齢の子どもの平均身長と比べて、マイナス2SD以下の場合をいいます。SDとは統計で使われる「標準偏差」で、この場合は子どもの身長のバラツキ程度を表しています。通常、プラスSDとマイナスSDの間に、全体の約95%が入ることから、マイナス2SD以下の身長を指すわけです。実際にチェックするときは、日本人の子どもの平均身長値を曲線でつないで作られた男女別の標準成長曲線を用い、このグラフにお子さんの身長の値を正確にプロット(点を書き込む)していくことで、平均からどれくらいはなれているかを調べることができます。標準成長曲線は当院にございます無料でさしあげています

−子どもの身長を測るときの注意点を教えてください。

身長をグラフに記す場合には、1カ月間でも大きな違いがある場合があり、月齢の身長までしっかり書き入れるよう心がけてください。また、測る時刻によってもかなりの誤差が出ます。継続的に測る場合は、測る時刻を一定にすることが大切で「夜眠る前」が原則です。

−低身長症を引き起こす主な原因は何でしょうか?

さまざまな原因が考えられます。遺伝的な因子の原因による「家族性低身長症」、胎内で発育が悪かったという「胎内発育不全性低身長症」、「思春期が普通より遅いための低身長症」など病的とは考えられない低身長症や成長ホルモン足りない「成長ホルモン分泌不全性低身長症」、女子特有の染色体異常による「ターナー症候群」、甲状腺ホルモンの異常による「甲状腺機能低下症」など病的な原因による低身長症です。低身長症のうち、ほとんどは健康に問題がなく、体質的なものです。また、病的な低身長でも10〜15%は治療が可能な低身長症で、「成長ホルモン分泌不全性低身長症」と「ターナー症候群」がこれにあたります。

最終身長を伸ばすためには早期発見・早期治療がカギ

−なぜ早期発見・早期治療が大切なのでしょうか?

その理由には大きく二つあります。一つは、低身長症は成長速度が遅いわけですから、発見が遅れれば遅れるほど標準的な身長との差は開いて、せっかく治療しても取り戻すことが難しくなってくるからです。もう一つは、低身長症の裏に重大な病気が隠されていた場合、それを早い段階で見つけて、早く治療することが大事だからです。

−診察はどのような内容なのですか?

お子さんの生まれた時の状態、生まれてからの成長発育歴、ご両親の身長などから低身長症の程度を診断します。結果により、尿・血液・左手のレントゲン検査(骨年齢検査)などを行います。これらの検査の結果、成長ホルモンの分泌の異常が疑われると、成長ホルモンの分泌を促す薬剤を投与して、血液中の成長ホルモン濃度が上昇するかどうかを検査する精密検査が必要です。
成長ホルモンは、時間の経過と共に、血液中の濃度が上昇しますので、薬剤投与前と投与後の2時間の間に5回採血します。これを負荷試験といい、体質によっては正常でも、薬剤の刺激に全く反応しないこともあるため、少なくとも二つ以上の負荷試験で上昇のみられない場合を成長ホルモン分泌不全といいます。検査する時期は、お子さんの「低身長の程度」「聞き分けの良さ」「年齢」の3点を勘案して決め、2歳以下では負担も大きいので、入院をおすすめしています。

成長ホルモン分泌不全には自己注射方法で対応

−治療方法の具体的な内容について教えてください。

成長ホルモンの分泌が悪い場合、不足している成長ホルモンを自己注射方法で補います。成長ホルモンは年齢に応じ、夜寝る前に毎日、あるいは2日に1回注射する必要があります。そのため自己注射が認められています。医師の適切な指示により、小さいうちはお父さん、お母さんが注射をし、自分でできるようになったら本人が行います。

−治療期間や伸びの程度はどれくらいですか?

治療の期間には個人差があります。ふつうは骨の成長が止まる、つまり骨髄腺が閉じる年齢(一般に男子では17歳、女子では15歳くらい)まで続けます。また、伸びの程度もさまざまな条件が関係してきますが、当院の女の患者さんで、マイナス3SD以下のお子さんが2歳1カ月、身長が74センチのとき治療を始め、13歳まで続けて158センチまで伸びたケースがあります。これはかなり伸びた例ですが、一般的にホルモン不足が重症なほど成長率も高いといえます。

−副作用の心配は?

成長ホルモンは原則として安全な治療薬ですが、副作用が全くないとは言えません。治療中はもちろん、治療後も定期的に検査を行うなど、副作用がないかを調べる必要があります。

−治療の費用はどれくらいかかるのでしょうか?

成長ホルモンは高価な薬ですが一定の条件を満たせばすべて公費でまかなわれます。しかし近年、小児慢性特有疾患の設定基準が難しくなり、成長ホルモン分泌不全性の低身長症では治療開始時の身長がマイナス2.5SD以下でないと認定されなくなり、また、身長が156.4センチ、女子145.4センチに達すると認定が終了し、後は一部自己負担が必要な場合があります。

自己診断や思い込みをせず専門医に早めに相談を

本人はもちろん、ご両親にとっても低身長症はデリケートな問題で、心のケアが非常に重要です。また、社会全体も温かい目で見つめてあげることが大事でしょうね。治療にあたっては、親も子も納得して、根気よく続けることが大切ですが、なかには思春期に入ると「なぜ、自分だけが毎日注射しなければならないのか」と拒否するケースもでてきます。専門医は心のケア面でも、治療中や後々のフォローの面でも豊かな経験を積んでいます。もし、お子さんの身長がマイナス2SDを下回っていれば何らかの病気が疑われますので自分だけで悩まず、当院またはお近くの専門医に相談されることをおすすめいたします。