中国の新インターネット公民運動

9月10日付け『中時電子報』に掲載された張鉄志氏のコラムでは、最近インターネットで話題を
集めている中国のドキュメンタリー『老媽蹄花』を紹介している。

このドキュメンタリーは中国の公民と国家との闘争に関するもので、中国の現状を生々しく抉っ
ている。
発端は四川省の環境保護活動家・譚作人氏が四川大地震によって明らかになった建築物の
手抜き工事と犠牲になった学生の数を調査したために政府に国家煽動顛覆罪で起訴されたこ
とであった。今年8月に成都で譚氏の裁判が行われ、北京オリンピックの際にメインスタジアム
の顧問を務めたアーチスト・艾未未氏は、著名なロックミュージシャン・左小祖咒氏、それに以
前に艾氏と地震で犠牲になった児童の調査をしたことがあるボランティアとともに、この裁判に
証人として出廷する予定であった。

ところが、裁判当日の深夜に成都のホテルに宿泊していた艾氏らのもとに40〜50名の警官が
やってきた。艾氏は暗闇の中で、法律を執行するのならばまずは証明書を見せるよう警察に
要求したが、結果的に警察に殴られたあげく裁判が終了するまでホテルに軟禁されてしまっ
た。

その後、艾氏らは警察に出向き軟禁事件について談判するとともに、この一件で逮捕された
仲間の釈放を要求した。ドキュメンタリーの中では警察側が責任逃れをする様子が撮影されて
いる。その責任のなすり合いに艾氏らはしばしばなす術を無くしてしまうとはいえ、このドキュメ
ンタリーでは、迷宮のような国家権力機構と対峙して、艾氏や譚作人氏の弁護士・浦志強氏が
正義感あふれる激しい言葉で恐れることなく警察と公民の権利を語り、憲法や法律を語ってい
る。

またこのコラムでは、このドキュメンタリーでは出てこないが、譚作人氏が獄中で不思議な葉書
きを受け取ったことを紹介している。葉書きには「譚作人、君のお母さんがご飯を食べに帰って
おいでといっている。」とあった。こうした葉書きは、国際恩赦組織などの人権機構が政治犯や
死刑囚を励ます、或いは権力に圧力をかけて政治的支援を行うなどの目的で行っているのと
同様の目的で送られていると思われ、中国国内ではこうした「一人葉書き一枚」運動を通じて
釈放された人もいる。

2007年6月に百万人に上るアモイ市民が携帯メールを通じて「散歩」に参加し、PX化学工業製
品工場に抗議した。これが初めてのインターネットによって動員された集団行動であり、インタ
ーネット公民運動は中国の公民運動の重要なパワーになりつつある。
 今年6月にイランでツイッターが如何に革命を推進したか報道されたちょうどその時、中国で
もツイッターと「ご飯」葉書き運動がネット上でリアルタイムの情報を発表、交換する際の重要
な道具になっていた。湖北省巴東県の「ケ玉嬌事件」、7月のウルムチ騒動の時にも、これら
は情報発信の手段となった。もっともこれによって「ご飯」葉書き運動が封鎖される破目になっ
たのだが。

 また、こうした積極的なインターネット活動家以外に、より多くのネットユーザーはインターネッ
トを通じて政府に対して問責したり公民への責任を要求するなど、公民の権利を行使してい
る。1年前にはインターネット上で発表された批判記事によって江蘇省の地区委員会書記が停
職に追い込まれたし、昨年12月には南京の不動産管理局の局長が1本1500人民元の高級タ
バコを吸っている写真をネット上で暴露されて職を解かれた。今年になってからも29歳で最年
少市長になった人物がネットユーザーに論文の盗作を指摘されて批判を浴びた。こうした動き
から多くの人が2008年を「ネット問責元年」と呼んでいる。

 こうした運動は常に成功するわけではなく誹謗中傷罪で逮捕された例もあるが、これが目下
中国で進行しているインターネット公民運動であって、公民はネットを通じて政府の責任を求
め、政治犯に声援を送り、情報を伝え、団結している。彼らは自らの公民の権利を奪い返し、
国家に対してミクロ且つマクロな力くらべを行っているのである。

『老媽蹄花』の一場面は正に中国でおこっている対決の縮図である。ほの暗い部屋で艾未未
氏らが対峙していたのは暗闇で横暴に振舞う国家権力と常に起こりうる暴力であったが、それ
でも彼らはこの暗闇で模索しつつ公民のあるべき権利を奪取しようとしていた。艾未未氏曰く、
自分は楽観視している、この社会はいずれ光に照らし出されると信じていると。

なお、『老媽蹄花』はYOUTUBEで視聴可能である。但し使用言語は中国語で字幕なし。警察関
係者の話す中国語は四川方言の影響が強くかなり聞き取りづらい。
2009年9月13日




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