ふにふにと音がしそうだな、赤ん坊の頬を突きながらそんなことをギルバートは思った。
「で、なんなんだ。これは」
「なんだとは可笑しな奴だな。どう見ても赤ん坊だろう。君はいつから眼が見えなくなったんだ?それとも、頭脳明晰な君は、物体の名称も意味もわからなくなったのか?」
赤ん坊を抱きながら、辛辣な言葉を吐くのは、昔からなにを考えているのかわからない友人だった。
「赤ん坊だというくらい、わかっている。いったいどうしたんだと聞いているんだ」
「私の子だ」
「…君の?」
いったいどういう心変わりだと、愕然とした思いをギルバートは抱いた。
この男は誰も信用しない。それは、今も変わらない事実だろう。なのに、いったい何処の女との子どもだというのか。
ギルバートのそんな考えに気付いたのか、男は意味深に笑う。
「これはな、出来損ないである私のクローンだ」
「クローン!?私にあれだけ聞いてきたのはこのためかっ。大体、クローンはっ」
二年前から、遺伝子操作やクローン技術を、いろいろ聞いてきた男の意図は、この赤ん坊のためだったらしい。
「良いではないか。私がここにいるのだから。問題などないさ」
詳しくは聞いたことはないが、男はある人物のクローンだった。だが、だからといって、男自身が違法であると知りながら、何故こんな真似をするのかわからなかった。

もしかしたら、この後のことを予知していたのだろうか。この男、ラウル・クルーゼは。
そんなことを思ったのは、彼の大戦で彼の死を聞いたときに。
けれど、今は男の意図が分からず、ただ疑心と困惑の目を、静かに笑う男に向けるだけだった。
 
レイと名付けられた赤ん坊と出会いは、生まれて一ヶ月後のことだった。





「ぎりゅ」 幼く、はっきりとしない発音。けれど、その声にも単語にも、ギルバートには覚えがあった。
声に振り向けば、小さな金色の姿。
「ああ、レイか。久しぶりだね」
てとてとと、駆け寄る姿をギルバートは跪いて待つ。
傍近くまで来れば、子どもはギルバートの首に腕を回して抱きついてくる。
布越しの存在をギルバートも抱きしめ、そのまま抱き上げた。腕の中に収まる柔らかい感触と温かい体温に頬が緩む。
「クルーゼはどうした?」
「此処にいる」
「久しぶりだな、今日はどうした、こんな時間帯に」
クルーゼは、ギルバートの元に昼日中は訪れなかった。まったくというわけではないが、レイと一緒のときはそれが絶対だった。
「明日から二年ほど宇宙空間(そと)に出ることになった。その間、この子を預かってほしくてね」
「二年。随分長いな」
「地球軍が最近騒がしいからな」
「戦争になるか」
ギルバートが言った言葉は疑問ではなく確認。最早、それは決定事項だった。あとはもう時間の問題だ。
「私としては、そうなってもらわないと困るんだがね」
意味深に笑う男に、ギルバートは非難の目を向ける。なにを思って彼は戦争を望むのか。
「随分物騒なことを言うな、君は」
男は笑ったまま、それを誤魔化し、そのまま軍靴を鳴らしながらこちらへと向かってくる。
男の手はギルバートの腕の中にある金色の頭を撫でて。
「いい子にしていなさい」
その言葉と赤い残像だけ残して、男は出て行った。
暫く閉ざされた扉をギルバートは見ていたが、不意に黒い髪を引っ張られる。痛みも声もない呼びかけに、目線を腕の中に移した。そこにいた子どもはにこりと笑い、また自分の名前を呼んだ。

なにを企んでいるかも分からず、ほんの少し疎遠していた男と、そのクローン。まったくあの男とは似ていない子どもに愛しさを覚えたその日は、レイが一歳になった四ヵ月後のこと。





「ラウはいつ帰ってくるの?」
ピアノの音が流れる中、そんな質問をしだしたのは男が宇宙に出て四年経ったころに。
長引く緊張感に、男は帰って来れないまま。男が云っていた二年をもう二年と八ヶ月繰り返した。
そのなかで、ギルバートは己の内に潜んだものに気付き始めていた。
「さあね、当分はまだ私と一緒かな」
自分の膝の上に座り、ピアノを弾くレイの髪を梳く。
預けられたときから、教え始めたピアノ。今では随分と上達した。
目の前にある金の髪を二つに流し分ければ、除いた白い項。
ツウと指先で撫でれば、ピアノの音は途切れ子どもは肩越しに振り返った。予想外なことに、子どもは反応したのだ。ギルバートの無意識の愛撫に肩を震わせて。
ギルバートはその事実にほくそ笑んだ。
「レイ、今日はここまでにて、お風呂に入ろうか」
まだ幼いこともあり、レイとは一緒に入浴していた。それが今、こんな形で役に立つとはギルバートは思ってもいなかった。
変わらず首筋を撫で続けるギルバートを訝しんでいたが、素直な子どもはすぐに頷いた。


泡が浮かぶバブルバス。レイのお気に入りだ。
そのレイはふーと、掌に載せた泡に息を吹きかけている。飛んだ泡はほんの少し宙に舞い、浴槽の中へと落ちていく。
ギルバートは背後からレイの細腰に腕を絡ませて、その光景を見ていた。
もう良いだろうと、ギルバートはレイの小さな腕を掴んで向かい合わせにする。子どもは突然のことに、きょとんとして腕を浮かんだ自分を見上げている。
その眼に映る男の、邪まな思いなど知らずに。
「身体を洗おう」
そう云って、握ったままの腕に泡を撫で付けた。首筋、胸、脇腹と伝っていけば、先程と同じように反応がある。こんなに幼いのに。
くすりと大人の口唇は笑みを象って、大きな掌はレイの小さなものを握りこんだ。
子どもはなにがなにかわからず、不安げに大人を見上げる。それに笑顔を返して、小さなそれをしごき始める。手に囲えるほど大きくはないので、親指と人差し指、中指で円を作り上下に動かす。けれど、どれほど刺激を与えても、小さなそれに反応はない。やはり、まだ無理かと、諦めようと円を作り上げたまま、指を抜けば、温かい空気の浴室に甘い声が響いた。
「や、はっぅ…」
手の中の存在には、やはり願った反応はない。けれど子ども自身にはある。
ギルバートは笑みを深くした。
「レイ。私にここを触られてどんな感じがする?」
シナリオどおりにいくとは、ギルバートだって思ってはいない。けれど、口八丁に丸め込む自信はあった。
「こしょ、ば、ぃ」
消えそうな、けれど甘い声で答えが返ってくる。
「レイ、これは気持ちがいいというんだよ」
こんな幼さで、性器を弄られて本当に気持ちがいいのかなどわからない。だが、事実はどうでもいい。レイにこの感覚が気持ちがいいものなのだと、刷り込めればそれでいい。そして、それを施せるのは、ギルバートだけなのだと、思わせれば。
 
なんども、なんども、大きくて長い指で小さな性器を擦り上げる。その度に上がる甘い声に、ギルバートの指は更に性器の先端を擦り、そこに爪を立てた。
「ふっ、ひゃぁ」
子どもの声は裏返り、一層甲高い響きになる。
腕の中に囲われた子どもは、前のめりに大人の胸に寄りかかる。胸に掛かる子どもの息は荒い。散々弄くったにも拘わらず、ギルバートが握りこんでいるものは、最後まで立つことはなかった。けれど子どもの様子から達ったことになるのだろうか。
レイ自身は頬を紅く染め上げ、瞳も潤んでいる。気持ちよかったのだと、ギルバートは決めつけ、子どもを逃がさないように、腕に力を込めた。
疲れている子どもに、これは二人だけの秘密だと嘯き、レイの小さな顔にキスの雨を降らす。
小振りの肉を指で辿り、行き着いた先は小さな蕾。さすがにこの歳で、この小ささで大人の汚い欲望を押し付けるのは無理かと、名残惜しくも指を引いた。
「残念だな」
子どもはそんな大人を見上げる。恐らく、男の野蛮な笑みなど霞んで見えないだろう。だから、もう一度。
「はやく大人になりなさい。私が、我慢をしてあげられるうちにね」
欲望を隠そうともしない声音で、野蛮さを孕んだ瞳で、子どもに向かい合った。

幼い、幼い子どもに情欲を覚えて、無理やり快楽を教え込み、知らしめた。
金色の子どもが、五歳のころの話。





友人が子どもを連れ帰ったのも間もなく、彼は白服を与えられた。
子どもは再び大人の手の内に舞い戻り、男の赤い瞳には狂気が宿り始めた。

「ふ…っう、んぅ」
金色の子どもが男の屋敷に預けられてから一日も欠かさず続けられる、夜の儀式。
金色の頭は、ベッドに腰掛けている男の股間に埋められ、苦しげに息をつく。頭を持ち上げようとしても、髪をわし掴む手と指がそれを許さない。
「ほら、頑張って」
愉しそうな男の声に、見上げる子どもの顔は涙に濡れている。
小さな口を大きく開いて、咥え込んでいるのは男の性器。
「おや、おや、もう限界か」
男が仕方ないねと、濡れた頬を撫でれば、子どもは咥えていたものを落として、首を振る。それはまるでなにかを恐れるように。
けれど男は気にも留めずに、子どもの頬を掴み指に力を込め、口を開かせる。そこにもう一度、自分の欲望をねじ込む。
「んんっ」
子どもは苦しげに悲鳴を上げるが、男は笑う。
「出来ないんだろう?だから、私が手伝ってあげよう」
そう云って男は子どもの頭を揺さぶった。だが、それでは飽き足らず自分の腰も子どもの口に叩き付けた。
苦しげに子どもは涙を零し、くぐもった悲鳴を上げる。
男は子どもを好いように揺さぶり、恍惚と笑う。
終わりが近付くと男は、貪欲に子ども頭を抱え込んで揺さぶり、欲望を咽喉元まで押し付け、子どもが吐き出される白濁を嚥下するまで放さなかった。
ごくりと、子どもの咽喉が鳴り、漸く手を放せば長い指から、ひらり、ひらりと何本もの金糸が床に落ちた。男はそれを見て、勿体ないと溜息を零す。
子どもは最早正気など保ってはおらず、ただ座り込んでいる。
男は子どもを見て笑う。男のそれは美しいものではあったけれど、どこか恐ろしいものだった。子どもを長い腕で抱き上げ、男が座っていた大きなベッドに寝かせる。

「次に進んでみようか。レイ」

男は愛おしそうに子どもの名前を呼んだ。
子どもの足を広げて、小さな蕾に触れる。最近では毎晩なにかを入れて慣らし始めているので、蕾は反応してひくひくと伸縮を繰り返す。
男はその様子が嬉しくてたまらない。
「レイ。興奮しているのか?こんなにやらしくなって。今日はいつもより頑張ったし、明日は私も休みだからね、ご褒美にいつもよりずっと気持ちよくしてあげよう」

「やあぁぁあっ」
鋭い悲鳴が上がり、子どもはビクビクと身体を跳ね上がらせる。
「そんなに気持ちがいいのか?レイ」
まだ、始まったばかりだよ、そう云って男は微笑みながら、子どもを貫いた玩具を抜き差しする。時折左右に回せば、より一層声は甘くなり、男の欲望は膨れ上がる。
細い足を大きく開いて、玩具を飲み込む孔を観察する。
「そろそろいい」
男はそれだけ云って、玩具を抜き取った。子どもはその刺激に再び悲鳴を上げる。子どもの目尻からは涙が零れ、シーツを濡らすが男はそんなことは気にせず、玩具をくるくると手のうちで回す。玩具は男の性器象り、その上根元の辺りには歪な模様が大きく浮き出ている。
「やっぱり、単純な模型よりも、こういう飾りがあるほうが気持ちいいだろう?」
そう云って玩具をシーツの上に転がした。その先には、太さや形状のものがいくつもある。それらにはすべて男が飾りと称したものがあった。
次はこれか、と拾い上げたのは、先程よりも随分大きなもの。ベッドサイドの引き出しから取り出したある薬を玩具の全体に掛ける。濡れて光る手の中の玩具を男は機嫌よく見て、次いで茫然自失の子どもを見遣った。瞳に力はなく、腕にも足にも、抵抗できる余力などない。
「はやく、味わいたいな、君を」
手に持っていた物体を、狭い体内に埋め込む。
やはり今度は大きすぎたのか、今の今まで茫然自失だった子どもは、悲鳴を上げて青い瞳に光を宿した。さすがにこのままでは可哀想かと、男は玩具に繋がるリモコンのスイッチを入れる。少しはこの快楽に苦痛も和らぐだろう、その考えは確かに果たせたが、レイは初めての感覚と刺激に、甘い悲鳴を上げて本気で泣きだした。
男はそれでも、意に介さない。
「まだ、足りないか」
子どもの足を細い胸に押し付けて、男はレイの心身を犯す玩具を激しく動かす。
「やあっ。やだ、やあああっ」
悲鳴を上げる子ども。押さえつけられた足をばたつかせ、手でシーツを引き寄せる。もがいて、なんとか大人から逃げようとするが、叶わない。
暫く続けていたが、子どもの体力は続かず、後は男の思うがまま、啼き続けるだけ。
「さて、私ももう限界なんだ」
玩具の振動を全開にして、男は子どもの胸元を跨ぎ、猛った欲望を子どもの口腔に捻じ込んだ。
「歯を立てるんじゃんないぞ?」
そう云って男は軽く自身の腰を揺さぶる。
けれど子どもは、息苦しさと、体内を駆け回る快楽に、堪らず歯を立ててしまう。
男はその痛みに呻き、温かい口腔から欲望を抜き取る。
軽く歯を立てられただけなのだろう。男の性器からは、血も出ていないし、噛み痕もない。だが、子どもが大人の言いつけを守らなかったのだ、お仕置きが必要だろう。
男はうっそりと笑う。

それから、男の出廷時刻まで延々とレイはベッドの上で過ごした。
男はあれから、すでに挿入された玩具を抜くこともせず、スイッチを切ることもなく後孔を広げ、レイの口腔に入れていた膨張したもので貫いた。
室内に響く悲鳴も嬌声も、男を煽る。力ない子どもは身体を激しく揺さぶられて、正気も保てず、男の狂った様を、青い瞳に映したまま、いくつもの光を零した。

子どもに正気を奪われて、大人は子どもの正気を奪った。
男は狂気に支配されて、子どもを壊した。
たった、六歳の幼子に、大人の男はすべてを奪われた。

いまもまだ、おぼえている。







星霜=年月、歳月











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