「待てっ」
視界の端に掠めたものを追う。
腰に下げた銃を取り、目の前を走る男に構える。足を止めようと、威嚇の意を込めて引き金を引く。
銃口は火を噴いて、男の耳元を掠めるはずだった。
だが、殺気に気付いたのか男は振り向く。弾丸はその容貌を隠す仮面の止め金具を弾いた。
カン、と軽快な音を立てて落ちていく仮面。

大きな爆発音が響く。続いて建物が崩れる音。地面の揺れ。
耳から得る情報でもかなりの被害のはず。

この男を早く捕らえて、避難をしなくてはいけない。補給をするという当初の予定を打ち切り、アークエンジェルの乗組員たちが出発するために、あたふたと行動を開始しだしているはず。
艦長である自分も早く行かなければ。
そんな思いに焦るが、足は地に張り付いて動けない。
背筋を流れる冷たい汗。

耳鳴りを起こすほどの爆炎の轟音。
「怖いねぇ」
間近で噴出す炎の熱が顔を、髪を、煽る。熱気は凄まじいもの。けれど、身体の芯を支配していく冷ややかさは、それを殺す。
手が震える。それは寒さ故なのか。
銃口がぶれる。こんなに震えていては外れてしまうだろう。初めて撃つわけではないのに。
狙うその先。この眼に映る、赤い炎に照らしだされた顔は。動揺を呼び起こすには、余りにも容易いもので。
なぜならば、自分たちの歯車が狂い始めたあの時から見慣れた。けれど、もう。二度と会えないはずの。

「…な、ぜ」
弱々しいこの声は、爆音に掻き消されて。

「別嬪さん?」
持ち上がる腕。握られるのは、黒い物体。向けられるのは自分へ。それは銃。
今は、殺気すら宿る双眸も、飄々とした口調も、人を食う笑みも。あの人のもの。
何故。(呼んではくれないの。私の名を)何故(敵になるの)


向け合う銃口。
重ねあう憎しみ。
どうか、今この瞬間。
正しい答えも、途も分からない、今この瞬間を、運命だと。云わないで。

「―ムウ」

この再会こそが、別離なのだと。いわないで。












再会は、別離を持ってして告げた。












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