ビブリオバトル事始め     津木林 洋


 今年も同人誌の泊まり合評会の翌日なので、夕方から参加した。
 観光だけではなく文校らしいイベントを、ということだろうか、今年はビブリオバトルをするという。面白そうなので私もエントリーした。作品を書く人の集まりなので、何を書くかというより、どう書くかに焦点を当てた作品を紹介したいと思い、ミシェル・ビュトールの『心変わり』を選んだ。
 ヌーボーロマンを代表する作品で、文学史上初めて二人称の人物が登場する。昔からある書簡体小説では、あなたと呼びかける主体が作品中に存在するのに対して、この作品では存在しない。そういう意味で、初めてとなる。五十年ほど前に初めて読んだとき、そのカッコよさに痺れて、私も二人称小説に挑戦し、同人誌に載せたことがある。今まで二回読み、今回ビブリオバトルに参加するために再度読んだ。文庫本で四五〇ページの長編である。
 きみと呼ばれる中年男がパリ発ローマ行きの列車に乗り込むところから始まり、二十二時間後ローマに降り立つまでの話である。読んでいくうちに、きみが不倫をしており、ローマにいる若い愛人をパリに呼び寄せて同棲する決意をして、サプライズで彼女に伝えようとしていることが分かってくる。その決意が終盤になって崩れ、愛人に会わないと心変わりする。現在に並行して過去とか(きみの想像する)未来の時間も描かれていく。人間は様々な時間の中を同時に生きているという捉え方もヌーボー(新しい)なのだ。
 そういうことを話すつもりだったが、思ったままに喋ったら三分間ではとても無理だった。次からはきちんと原稿を作って、練習する必要があることを痛感した。
 観光で印象に残ったのは、やはり彦根城。安政の大獄に翻弄される絵師の話を書いたとき、大老の井伊直弼のことも調べた。十四男で一生花が咲かないだろうことを自嘲して名付けた「埋木舎(うもれぎのや)」に逼塞していたのが、ひょんなことから藩主になり、大老まで出世して安政の大獄を断行する。あの井伊直弼がここから彦根の町を眺めたのかと、天守閣に登って感慨にふけった。思ったより高さがあり、琵琶湖の大きさが実感できた。
 日本三大ゆるキャラの一つである、ひこにゃんにも会ってきた。大変な人気で、大勢の観光客がカメラを向けていた。彦根城といえば、井伊直弼よりもひこにゃんというのが面白い。
 
 

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