オークション     津木林 洋


 今号の西村さんの作品の中に、インターネットで物を売りさばく女性が登場していたが、個人が自分の持っている物を処分するサイトが存在する。オークションサイトである。
 私も三年程前からたまにオークションを利用して、欲しい物を買っている。私の買う物はほとんどがパソコンの部品だが、オークションサイトには玩具から不動産に至るまで、ありとあらゆる物が売られている。大手のオークションサイトには、常時数百万点の物が出品されているらしい。
 オークションというのは高く売りたい人にとっては、なかなかうまいシステムになっている。終了間近になると、入札金額が上がっていくのである。人間の心理を巧みに突いたシステムとも言える。
 私も最初の頃その心理につけ込まれて、高い買い物をしたことがある。サブのパソコンの処理速度を上げようと思って、CPUアップグレードキットを探したが、すでに市販されておらず、中古パーツ屋をいくつか当たったが、見当たらなかった。それでものは試しとオークションサイトを覗いてみると、たった一つだけそれが出ていた。値段も安い。これはもうけたと私は思った。私は入札金額を入れ、落札できるのを楽しみにしていた。
 ところが終了日の終了時刻が近づいてくると、次々と高値が付けられ、私の金額など遙か下に行ってしまった。こんな古いものを欲しがるのは私だけだと思っていたが、やはり世の中は広い。何人もいるのである。私はここでこれを手に入れなければ、永久に手に入らないような気がして、あせってキーを叩き、高値更新をした。市販されていた時の金額はわかっており、それから送料を引いた値段が付けられる最高値だと自分では思っていた。しかし入札金額はそれを軽々と超えていく。どうしようかと思い悩んだあげく、終了時刻一分前になって、私は最高値を付けた。これでもう大丈夫だろうと思っていると、何と終了時刻がいつの間にか五分延びている。その五分の間に、別の人間に高値を更新されてしまった。私はその時はまだ自動延長というシステムを知らなかったのだ。終了時刻の五分前以内に高値更新があった場合は、終了時刻が五分延長されるのである。終了時刻ぎりぎりに入札して、トンビが油揚げをさらうような真似が出来ないようになっているのだ。このシステムがまた高値を呼ぶことになる。
 私は完全に頭に血が上ってしまい、こうなったらとことんまで行ってやるとキーを叩き続けた。結局私が市販金額の五割増しで落札したのだが、終わった時には、手に入れた喜びと同時に馬鹿なことをしたという後悔が入り混じって、どっと疲れてしまった。
 これに懲りて、私はオークションで物を買う時の自分なりのルールを作った。
 まず、絶対に欲しい物はオークションでは買わない。オークションで買うのは、この値段で手に入ればめっけもの、というくらいの物である。
 次に、中古市場での相場を調べて、それよりも送料分だけ少ない金額を自分の中の最高値と決める。決してそれよりも高い金額を付けない。
 そして、この金額で落札できればという値段を付けたら、たとえ他人に最高値を更新されても、仕方がないと思って諦める。オークションサイトは何とかして高値を付けさそうと、メールで他人の高値更新を伝えてくるが、それでページを開いては絶対にいけない。
 この三点を守るようにしてからは、割と気楽にオークションを利用できるようになった。落札できる時もあれば、出来ない時もある。出来ない時の方が多いが、それはそれで構わないのである。
 オークションで物を買うばかりでは面白くないので、物を売る方にも回ってみようかと、最近パソコン用スピーカーを売りに出した。すると、インターネットのバッタ屋で二千円ほどで買ったものが、何と五千円以上で売れたのである。どうも人気のあるスピーカーらしい。
 出品者になると入札する側とは大違いで、どれだけ金額が上がったかとしょっちゅう自分の出品ページを見てしまう。終了時刻間近になって入札金額が上がっていくと、来た来たとほくそ笑み、値段が止まると、どうした、まだ時間があるぞと画面に声をかけてしまう。何のことはない、自分はならないと決めたタイプの入札者を求めているのである。みんなが私のような入札者だったら、出品者はさぞかし面白くないだろう。立場が変わると、いかにいい加減なものになるかの見本みたいなものである。
 さあ、次はプリンターでも売りに出そうか。
 

もどる