雪残る早春のロッキーにて

 戦闘のみならず、日常のさまざまな局面において意思の疎通は最も重要なファクターのひとつであり
そして、意思疎通のための最大の手段は言うまでもなく「言語」である。
しかしながら、数ヶ国語を自由に操るためには幼少のころからの学習や、それにともなう多くの労力が必要である。
当社の研究開発シーンにおいても、各国の有能な技術者達がその能力を遺憾なく発揮するにあたって最大の障害となったのが、意外にも「言葉の壁」であった。
そんな時、日本人技術者の一人がこぼした「翻訳コンニャクがあったらなぁ…」という一言が開発チームの職人魂に火をつけた。
主要七ヶ国語に加え、ヒンディー、スワヒリ、フィン語など、世界の90%の人口をカバーする計20ヶ国語を自在に相互変換するユニットの開発がここにスタートした。

 九官鳥、オウム等の実験段階を経て、人間への装着が可能なプロトタイプ「翻訳コンバータフェーズV」が完成、
各国首脳等、要人とのセッションにおいて重要な役割を果たす秘書室長「ヒロコ」に運用データの収集も兼ね、早速にも装着された。

 しかしながら、(あくまでも被験者サイドの)記憶媒体の極端な容量不足のため、母国語以外の言語においては英語で英検5級程度、
伊語では「トイレ(銀行)はどこですか?」等の限定された日常会話にとどまり、仏語においては「カフェ・オ・レ」、「モエ・エ・シャンドン」、
露語にいたっては「ボルシチ」、「ピロシキ」、「コアラのマーチ」等の数単語のみしか理解できない有様で、
被験者の能力に依らない補助記憶媒体の開発が急がれている。

 余談ではあるが、開発者達の間から「もっとまともな人間での実験を!」との声も上がっていることを参考までに記しておく。