作文の評価


 作文の評価をする時に皆さんはどのような方法をとっているのか気になるところです。
聴解テストや読解テストのようにペーパーの試験を採点するのとはわけが違い、四技能の評価の中でも会話能力、作
文能力の評価は数字に表しにくい分、難しいと思います。
 私自身、提出された作文や会話のテープを聞き、評価を出せと言われたら、「89.5」というように数字で表すことはでき
ず、「ABCDE」というように評価せざるを得ませんでした。

 そこで何とかもっと客観的に評価できる方法はないものかと、いろいろ調べ、下記のような方法をとり、ここ4〜5年の
間はこのように評価しています。私が尊敬するW先輩から紹介された文献の中に出ていたものなんですが、具体的に
項目に分けて採点していくので、客観的に作文を見ていくことができると思います。

 

上の作文採点用紙は「日本語テストハンドブック」日本語教育学会編 大修館書店のP320にある図です。大きく分けて
みると

  • 主旨の明確さ(10)
  • 内容(50)
  • 正確さ(40)
  • 表現意欲、積極性(+6〜−4)
  • 表現力、表現の豊かさ(+4〜−4)

以上の5つの項目に分けて採点していきます。つまり主旨が明確で内容が完璧で文法的に誤りがなければ100点がも
らえるわけです。(実際にはそんな作文にはあったことがありませんが、、)私はこれを縮小してB5の用紙に4つ作り、そ
れを学生の人数分コピーして使っているのですが、大変、便利だと感じています。利点をあげていくと

正確さの部分で長さによる減点の調整があること。つまり一生懸命たくさん書けば書くほど、学習者の誤りは増えるわ
けですが、それを調整することができるわけです。

教師が項目ごとに客観的に機械的に誤りを数えていくことで評価のばらつきを防げる。

(4)(5)の項目で微調整ができる。

などがあげられます。ただし慣れないとちょっと計算にとまどったりするかも知れません。私は学習者の作文を1回目は
正確さにまとを絞って読み、間違いの数をチェックして減点の調整をし、次に、主旨や内容にまとを絞り読みます。最後
に(4)(5)の項目で微調整をします。数字で出るので、最終的に成績を出す時にはABC,,で出しますが、その前段階の処
理として活用しています。また初級レベルでの作文と中上級レベルとの作文では評価する項目の比率が同じではおか
しいと思い、それぞれの項目の比率を変えています。初級レベルでは込み入った内容を書くこともできませんし、文法
的な正確さを重視したいので、

  • 主旨の明確さ(10)
  • 内容(40)
  • 正確さ(50)
  • 表現意欲、積極性(+6〜−4)
  • 表現力、表現の豊かさ(+4〜−4)
のような比率で計算しています。現在クラスを担当する者が3人いますので、読む人によって感じかたも違うし、評価が
分かれてしまうこともあります。それで3人がそれぞれ評価を出したあとにその点数を持ち寄り平均したものを最終的に
成績としています。このようにするのは経験のある教師と経験の少ない教師が組んだ場合、どうしても経験のある教師
の意見が強くなり、経験のある先生の主観が強くなってしまうことを防ぐためです。

 私の経験ですが、何年も前に組んだ古い先生が「この作文はBだ。」とおっしゃった時に私はもう少しいいのではと思
っても、なかなか意見が言いにくかったことがあるからです。どの評価法をとるにせよ、完璧なものはないと思います。

ですから少しでも客観的に能力を評価できる方法を考えていかなければ発展は望めません。

 上記のような方法で作文の評価をしていますが、「日本語テストハンドブック」日本語教育学会編 大修館書店
P305からP324までを御一読されることをお勧めします。また日本語教育辞典の「作文の評価」も参考になると思いま
す。

 以上作文評価の方法の紹介させていただきましたが、常に「この評価の方法でいいのか?」とか「これで正確に能力
を測定できるのか?」と考えながら、日常の業務の中で疑問をもつことが大切なような気がします。もし、「他にもっとい
い方法を知っているぞ!」とか「そんな方法より、、」という方がいらっしゃいましたら、メールでお教え下さい。


会話の評価

 作文の評価に続き、会話についてもちょっと紹介させていただきます。

会話のテストもいろいろな方法があるようですね。OPIなど優れた会話能力測定の方法もあちらこちらで紹介されてい
ますが、とりあえず、試験の内容や形式にはふれず、出てきたもの(会話の試験をして録音したテープや実際に試験官
と被験者が会話をしているのを見ながら)をどのように扱うか考えていきます。


 上記の表は会話の試験を行ったあと、録音したテープを聞きながら、記入していくのですが、評価はそれぞれの項目
で5段階、文法の項目で一番良ければ35、語彙では20というようにチェックしていきます。そして得点の合計を右下に書
き込みます。全ての項目で5の評価をあげれば、100点になります。
 これは中級で使っているものですが、私は文法的な正確さは中級段階においても重要だと考えているので、最高で35
にしてあります。教科書のレベルによって各項目の数値は変えています。初級レベルでは文法が重視されますし、レベ
ルがあがれば発音、流暢さや内容の比率が高くなります。作文と同じく、一緒に組んでいる先生と点数を持ち寄り平均
します。項目としては文法、語彙、発音、理解度、内容、態度の項目しかありませんが、現場のことを考えると、これ以
上の項目があると大変な作業になると思います。
 学習者が多い場合には、全てのテープを聞くだけで大変な作業になります。教師の元気があるうちはいいのですが、
テープの初めに録音された学生の会話と何人も聞いたあと、少し疲れが出てきたころ聞くのとでは同じ教師が聞いたも
のでも評価に差が出てくるのではないでしょうか。しかしそれでは評価される学習者がかわいそうです。ですからはっき
りとした5段階の評価の基準を作っておかなければなりません。その基準に関しては日本語教育辞典などを参考にそ
れぞれの機関で作成されるべきだと思いますので、ここでは省略させていただきます。
 それにしても評価というのは嫌な作業です。公平にしかもはっきりとした基準を設け、適正に評価できる方法をもっと
考えなければと思います。


 
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