D海が好き♪

 作者は海が大好きです。別に海洋学に興味があるわけじゃなく、ただ単に真夏の浜辺でゴロゴロしながらウダウダと昼間っからビールを飲んで昼寝するのがとても幸せで好きなんです。
 別に浜辺でなくても出来そうなんだけど、同じことを真夏の日差しを浴びながら玄関先ですると、ご近所でヒソヒソされちゃいそうだし、ベランダでやったら引き篭もりのアル中を自覚するだけだし、だいたいこの日本って国は明るい間に酔うシチュエーションが少なすぎる!だから大手を振って真昼間から裸に近い格好でしかも野外で呑めてダラダラしてもお咎め無しの夏の浜辺は作者にとって天国なんです!

 作者は車を買ってからのここ十年位は毎年夏になると琴引浜という日本海の浜に通っている。ま、今となっては琴引浜のベテランなのだが、それまでは近場でザリガニ臭い琵琶湖に単車で行ってブラックバスと一緒にチャプチャプ♪ってな感じで、シャワー代をケチってたから間違いなく皮膚にはカラカラになったミジンコなんかがへばり付いてたと思われる。

 そんな夏を過ごしてた作者が海に行きだした理由は車を購入したこともあったが、友人のG君にそそのかされて行ったのがキッカケである。

 それはとある夏の夜、G君と作者は車でブラブラしながら「暇だー!」「退屈だー!」「金が無ぇー!」と困り果てていた。その夜は台風が京都を通過する日で、普通に考えりゃ家で大人しく台風情報でも観てなさい!てな日なのに、遊びたくてウズウズしてた僕らは気合で台風を無視し、お金が掛からず楽しい事をしよう!と、知恵を絞ってた。そして散々考えたあげくの会話が以下。

G君(以下G) 「海に行こか?」
作者(以下S) 「は?」
G 「ガソリン代と海パンだけで遊べるぞ♪」
S 「でも台風やで?」
G 「エエか、よく考えてみぃ、台風は北東へ行くから、俺らは北西の海を目指すねん!」
S 「何で?」
G 「そうしたら途中ですれ違って離れてくから、着いた時には青い空と水着のネェーチャンや!!」
S 「なるほど!ウハウハやな♪」
G 「そうや!ウハウハや!」
S 「よっしゃ!出発やっ!!」

 とまあアホが掛け算になり、マトモが平方根になったような会話をしてから海パンを用意し、少量のビールを買い込んで迫りくる台風の中、僕らの頭の中は快晴の浜辺で水着のネェーチャンがウハウハ的な状態になり、家で大人しくしてる奴らはバカだよなぁ♪と思いながら、意気揚々と出発した。

 片道150kmの道のりの途中で、洗車機の中に居るような全く視界の無い状況や、UFOよりは小さいが当たれば確実にガラスが割れそうな未確認飛行物体が飛び交う中を、助手席で地図を見るだけで運転もせずに「次、右な。」「で、次をさらに右。」なんて言ってるG君は、冷静に考えりゃ「鬼」なんだが、作者がくじけそうになると、明日の朝にはウハウハ♪なんて言うもんだから誰も走ってない国道を罰ゲームに耐えるように頑張って運転した。
 なんてったってこれを乗り切ればそこは海と水着のネェーチャンが待ってるし、ウハウハの勝ち組や♪なんて考えながら。何かあっても助けてくれる人も通ってないのに・・・

 で、なんとか苦労しながら嵐を潜り抜けて目的地に着き、明るくなるまで少し時間があったので駐車場に車を止めて、車内でG君と明日のウハウハに乾杯をして仮眠をとった。雨も弱くなってたので、ものすごーい期待をしながら・・・

 そして朝になって明るくなるにつれ、嫌な現実が見えてきた。ものすごーく曇ってる・・・たまに小雨も降ってる・・・まあそのうちに晴れるやろと言いながら昼まで待ったが全然晴れない・・・前日からずーっと十二時間ぐらい車内にいる・・・明らかに−100点の負け組やん・・・と、その時、外でこんな声がした。「お父さーん、早く早くぅ〜」 見ると、小学生ぐらいの女の子が小雨の中を浮き輪を抱えて嬉しそうに走ってる。後ろから仕方なさそうにグッタリした父親が付いて行き、海の方へと行った。雨でも海が嬉しい子供と、タイミングの悪い家族サービスに後悔する父親の図である。そしてその光景を見た負け組のもう一人、G君が力一杯に言った。

「何で雨やねんっ!違うねんっ!俺が見たい水着はあんなんと違うねんっ!!!」

 その後、諦めて帰途につくのだけれど、海やら夏に合うCDばかりを張りきって持って行ったもんだから、台風を引きずった曇り空の帰り道で渋滞にハマったときは本気で凹んだ。そして自分たちのバカさ加減を思い知った・・・

 で、次の週にリベンジを果たし見事、快晴の浜辺で水着のネェーチャンがウハウハを満喫した僕らはその後、毎年、何回も海に通い色んなトホホなことがあった。
 G君は沖から戻れなくなり、あわや遭難!となりムキムキ監視員の方々に救助されたり、作者は道中で「近道発見!」と言っては地図に無い道に入り、「危険!爆破作業中!」という立て看板を無視して、Uターンも出来ないような道幅のガードレールさえ無い崖っぷちを落石を避けながら走ったりと、ハプニング経験地をUPさせて、どんどん知恵や知識を蓄えながら装備も年々充実させ、今やかなりの割合で行きから帰りまで100点満点に近い勝ち組になれるようになった。

 ま、勝ちって言っても渋滞にハマらないとか要領が良くなり、合理的で無理や無駄が無く、時間一杯を楽しめるレジャーになる程度のことなんだけね。たまにトホホな日があっても、「ま、こんな日もあるわな」ぐらいで、次の100点に期待しようって前向きな余裕もかませるようにもなった。
 ここらへんが自称、琴引浜のベテランなんである。

 これって少し人生ににてるなあ、なんて思ったりした。平穏無事や安定を否定するつもりはないけど、毎回、平均点でスルーするより大なり小なりの浮き沈みがある方がピークの時もあるわけで、この差がメリハリになって辛かったり楽しかったりするんだろうと思う。
 その回数や時間を沢山経験していくと人生のベテランになるわけで、いい歳のとり方なんだと思う。きっと作者もこの先の人生で浮き沈みがあるだろうけど、いい歳のとり方をして人生のベテランになりたいと思う。でも、辛いのや努力するのはヤダから、明日か明後日ぐらいに♪