◆【山行日時】 2005年11月5日 快晴
◆【コース・タイム】(往路、鳥越峠〜烏ヶ山間の歩行時間は実際の歩行時間とはかなり異なります)
環状道路、健康の森・登山口=50分=鳥越峠=140分=烏ヶ山山頂=65分=鳥越峠=35分=環状道路
◆【詳細】
先週、黄葉を求め奥大山に出掛けたが天候がイマイチだったこともあり、自身の気持ちの中で”満喫”とまでいっていなかったことがここ数日、かなり気になっていた。
この週末がその盛りだとのこと。おまけに6日(日)の天候が芳しくないよう。
これはもう5日(土)しか日はないとみて4日(金)夜、自宅をあとに一路、大山を目指した。
奥大山スキー場での車中泊も考えたが、いざ、そこに着いてみると駐車車両なく、登山口の健康の森・入り口も同じで、さらに真っ暗闇。
もう少し足を延ばし、鍵掛峠まで来ると大きなキャンピングカーが一台。
時季が時季だけに環状道路の夜間の車の往来の多さから、ここでの車中泊は少し躊躇するところでもあったが、キャンピングカーがあったことで、迷わず今日の寝床をここに決めた。(水洗トイレあり)
空に月はなく、うす雲が広がる程度で星も見えていたが、一方で大山南壁は巨大な屏風と化し、その黒々とした姿を不気味に横たえていた。
夜中、1時過ぎに山口ナンバーの数台の車が到着した以外、思案していたような車の往来は一切なく、早朝、数台の車が行き交うまで静かな夜を過ごせた。
今日は夜の明けきらぬうちに歩き出すため、暗いうちに朝食を摂ったら健康の森・登山口へ急ぐ(駐車車両なし)。
準備を整えたら歩き始める。
つい10日ほど前歩いた道だが、月明かりがないことや登山路がブナの森を縫って付けられていること、おまけに地形的な問題もありヘッドランプの明かりなしでは歩けない状態。小さな明かりだけを頼りに歩くのは何とも不安だ。
それでも文殊堂からの道と合流する頃には少しづつながら東の空が明るくなりだした。右折したらトラバース気味に緩やかにブナ林帯を歩く。

辺りが明るくなってきたことで歩行に不自由はなくなってきたが、さりとてゆっくりとしてはいられない。
というのも、朝日に照らされた東壁を見ることが今回の最大の目的だからだ。
計算上は鳥越峠に着く頃日の出を迎えるはずだから(現実には見ることは出来ないが)、のんびり歩くわけには行かないのだ。
予定通り、ちょうど日の出の頃、鳥越峠着。
ここからは『通行止め』の標識を横目に、尾根上を烏ヶ山方面へ向かう。
この時期なら峠からでも槍の先がわずかに望めるが、高度を上げるに従いそれや槍尾根全体、また象ヶ鼻方面への稜線も目に入るようになる。
上方に立ち枯れのブナ林を見るようになり振り返ると、背後には朝日を浴びた東壁が広がった。

東壁にはすでに朝日が当たり、時間の経過とともにこちらの尾根の影が次第に低くなる。
やがてはキリン峠付近や先ほどいた鳥越峠にも陽が当たるようになった。
その影の下り方のゆっくりさに実際の時間はそう長い時間ではなかっただろうが、こちらにはスローモーションを見ているようで、ずいぶん長い時間にも感じられた。
しかし、先日は素晴らしかったキリン峠上のクサモミジや地獄谷上部・キリン尾根方面の黄葉がほぼ終わっているといってよい状態になっていたことは、少し残念な部分だった。

それでも、
「今日は快晴だ!」
ブナ林帯のササ原をや潅木を漕いで東進。
このあと、立ち枯れのブナ林のピークを2度ほど越す。
(左画像)
ようやく尾根上から烏ヶ山を望めるようになるものの、思いのほか遠い。
なおも藪を漕ぐと、先ほどは尾根の右手に顔を出したカラスの山頂が今度はずいぶんと大きさを増して尾根の左手に顔を覗かせるようになった。
背後には東壁が大きく広がり左手には大休峠〜矢筈〜甲

ヶ山も望める。
烏谷を左に見る小ピークに立つと烏ヶ山・本峰が聳えるように目の前に立ちふさがる。
「どこを登る・・・?」
一瞬、鳥越峠の「通行禁止」の標識が頭をよぎりたじろいだが、踏み跡をたどるとルートは本峰を南から巻くように付けられていた。
ここからは、これまで見えていた地獄谷方面に代わり南方面の展望が開け、目の前のピナクル越しに広がる木谷の樹林帯や大山山腹の黄葉が見事だ。(左画像)

登山口も指呼の距離のように見え、まだ朝早いにもかかわらず駐車場に駐車した多くの車やすでに往来の激しい環状道路がよく見える。
背後の大山はといえば、槍ヶ峰はいつの間にか槍尾根の一部と化し、その鋭鋒を即座には確認できなくなってしまったが、代わりに天狗ヶ峰〜剣ヶ峰〜弥山の主稜線がくっきりと姿を現せた。(右画像)
三鈷峰も振子山の奥に小さいながら山頂部を覗かせる。
山頂直下のトラバースはフィックス・ロープの手も借り、慎重に歩けば特に問題はない。
最後まで気を抜かず、短く急登すれば本峰に到着だ。

山頂の奇岩の上から眺める360度の大パノラマは、素晴らしいのひと言に尽きる。
西には、誰が何と言おうと主役中の主役、大きな大山山塊が居座り、南へと大きな裾野を広げる様子がまるで絵に描いたように広がる。
ここからは錦秋模様が一目瞭然。
すでに標高が高い地点ではほとんどの樹々は落葉し、すっかり晩秋の装いだが、視線を下げると渋滞中の環状道路の走る標高800メートル付近がもっとも色づきがいいようだ。
奥大山スキー場にも沢山人がいるのが確認できる。
車で走っている人はきっと渋滞のイライラを鮮やかな黄葉で紛らせているに違いないだろう。
北に目をやれば矢筈ヶ山と甲ヶ山がちょうど重なり合い、小矢筈がちょこんと右の肩に顔を出す。

稜線上方には日本海の水平線と下方には海岸線。
東を見れば、遥か遠くに馴染み深い山容の扇ノ山はじめ氷ノ山や三室山の兵庫の山々。
目の前の南峰の左に擬宝珠山、皆ガ山と上蒜山、下蒜山。(左画像)
蒜山盆地には雲海がかかりその奥に那岐連山や泉山。
南には山腹を米子道が走る大山南面の展望台、三平山やその奥にアンテナの立つ朝鍋鷲ヶ山、右に毛無山と左には三角帽子の星山。
さらに奥にも中国山地の山々も見えるが、悲しいかなここまでは山座同定不可。
わずかにモヤがかかったようにも感じられるが兎に角、見通しはよく、ここからの展望は主役の大山が見えることで、むしろ大山からのそれよりも素晴らしいかもしれないと感じた。

あまりの素晴らしさに朝早起きしたご褒美と、とんでもなく長居したが、長々と山頂からの景色を楽しんだらそろそろ重い腰を上げ、下山する。
山頂に居るあいだに山頂に到着する人は10人程度いたが、その誰もが鏡ヶ成・キャンプ場や新小屋峠からのルートの方で、こちらが歩いてきた鳥越峠から到着する人はいなかった。
上りの際ももちろんそうだったが、下りではスリップしないようさらに細心の注意を払い歩く。
ここでの転倒は最悪の結果を意味するだけに、フィックス・ロープの存在は大変ありがたい。(右画像)

三鈷峰や振子山を正面に見て、最難所ともいえる烏谷を見下ろす足場の悪い地点をクリアーすれば一息つく。
スッパリ切れ落ちた烏谷をぐるりと巻くように過ぎ、尾根の派生する小ピークまで来れば危険箇所は終わり。
これからしばらく、ある時は潅木、またある時はササを漕ぎながらのイライラ歩行だが、その後、ブナ林越しの巨大スクリーンに映し出される大山東壁を目にすれば、そんなことは即座に自己の記憶から消え去った(表題画像)。
槍ヶ峰が次第に高くなり、緩やかに下るようになると鳥越峠。

結局、尾根上では誰にも会わなかったが、峠直前でひとり歩きの女性に出会ったのに続き、ここでは4人のグループ。
しばらく休もうと腰を下ろしていると、このグループのうちの1人の女性が、しきりに持参の単眼鏡を覗きキリン峠の方向を見上げては、
「てっきり尾根の上に大きな岩があるのかと思ったら、へ〜、あれも大山の一部なの?!」
こんな話をしながらも、
「実際のところ、そこはどうなっているのだろう?」
と、興味津々な様子がアリアリ。
どうも納得いかない様子なのに、そのまま下山されそうな雰囲気だったので、つい
「もう20分も登ればそれは大きく見えるようになり、もっと素晴らしい景色が広がりますよ。」
こうアドバイスしてしまった。
彼らは素直にこちらの云うことを聴いてくださり烏ヶ山方面へ向かわれたが、さてあの女性はその後、心のモヤモヤは晴れただろうか。
峠をあとにすれば、時折、烏ヶ山方面が梢越しに見えるものの、それ以外はほとんど展望は得られない。

それでも文殊越え分岐が近づくにつれ、うちのカミさんが持っているCDの中で、聴き覚えのある曲が笛の音となってこの樹林の中を響いてくるではないか。
はじめは、
「へ〜っ、こんなところで・・・」
と、感心したが、次第に大きくなるその音色をよく聴いてみると、
「何で、平原綾香やねん?!」
その他にも何曲か。
分岐まで来ると3人の人が傍らのブナの倒木に腰掛け、たて笛を気持ちよさそうに吹かれていた。

確かに吹いているほうは気持ちいいだろうが、聴く側とすれば
「もう少し流暢に吹いてもらえれば満点なんだが・・・。」
ちょっと複雑な気分。(ごめんなさい)
「ま〜、展望はあまりないので、ここは耳で楽しませてもらったらそれはそれでよしとしよう。」
ルートを左へとり短く烏ヶ山・山頂部を仰ぎ見ると、そこから見たとおり、真っ盛りの黄葉の只中を歩くようになる。
のんびりとしばらく歩くとやがて環状道路が見えてきた。
やがて目にしたのは満車状態の駐車場と渋滞中の環状道路。
これまでの静けさが嘘のような喧騒がそこにはあった。
山頂から見たあの広大なブナの森から一歩アスファルトの上に足を置いた瞬間、空想の世界から現実に引き戻された気がした。
それでも、稜線上から見た素晴らしい光景に、先日のモヤモヤはかなり晴れた山行となったことには違いなかった。
渋滞する環状道路の車列や賑わう奥大山スキー場の観光客を横目に家路に着いた。
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