◆【山行日時】 2004年1月25日 風雪
◆【詳細】
二週前、今年の初滑りに出掛けた氷ノ山。
その際は稜線でもブッシュが顔を覗かせ、思い通り滑るにはいささか積雪量が少なく感じられたことと、それ以上に天候に恵まれなかったことも手伝い、もう少し雪が積もったら「近々再訪を」と思っていたので、悪天は承知の上で出掛けてみた・・・。
いつものように、ゲレンデトップまでリフトで運んでもらい、ここからツボ足で歩き始めるが、これに先立ちリフトのおじさんと短く話すと、荒天にもかかわらず数名上がったとのこと。
今日は午後から冬型気圧配置が強まり、ここ数日の積雪に加えさらに降雪がありそうなのでラッセルも覚悟の上で来たが、この言葉に少しばかり気が緩んだ。
それはよかったのだが気になったのは
「登山届は出した?」
この言葉だった。
このおじさんとは何度か話したことがあるが、かつてこんな言葉を聞いたことがなく、
「今日に限ってどうしてこんなことを聞くのだろう?」
少し不思議な気もしたが、今日のこの天候下、尚且つ単独なので心の中の不安がついこの言葉になって出たのだろうか。
届けは出してないものの、山に入ることはそれなりのところに伝えてあるので、二つ返事とまでは行かないまでも
「出しましたよ」。
こう答え、おじさんの不安を取り消しリフト降り場を後にする。
歩き出すと思ったとおり新雪の登高だが、考えていたほどひどくなく先行者の足跡がしっかりとあるのでラッセルの心配はすぐに取り越し苦労になった。
しばらく登り植林帯を抜けると潅木帯となり、辺りが明るくなって来る。
登り始めから雪は降っていたので、少しばかり辺りが明るくなったからといって相変わらずガスは垂れ込め展望があるわけではないが、すでにブナの森はすぐ間近。小さな雪庇を慎重に通過すれば、やがてブナの森に着く。
ここからはシール登高に切り替え、先日とならずいぶん積雪量の増えた感の雪原を行く。
緩やかに登ると三ノ丸南の大雪原に出るが、木々がなくなるとともに風当たりがきつくなり先行のトレースはほとんど消えかかってルートが判りづらい。
当面の目標物の鳥取側・展望所を目指し慎重に歩く・・・。
しばらくすると、想像以上に左手に突如その屋根が現れた。
「これでも東寄りだったか。」
自分では出来るだけ北向きに歩いたつもりだったので直接展望所に出るか、悪くても少し東側付近に出ると思っていたが、思った以上に東側を歩いて来たことにいささか驚いた。
一度展望所へ向かい、再度方向を確認し避難小屋を目指す。さすがにここは問題なく歩け、ほどなく三角赤屋根の避難小屋に着くことが出来た。
リニューアルなった小屋に入ると、入山前にゲレンデ脇の道路で出会っていたプロガイドのK氏率いる先行の4人パーティーが休憩中だった。
K氏とは昨年来、ここ氷ノ山で何度か顔を合わせたことがあり氏もこちらのことを承知してくれているので、談笑するうち下山のルートについて相談してみる。
彼らも「特にこのルートで下山」ということもなさそうだったので、
「もし、わさび谷滑降されるなら同行させてもらってもいいですか?」
こう尋ねてみると、とりあえず了承して下さり念願だった割には案外あっさりとも言える、とんだ荒天下のわさび谷滑降と相なった。
ここに来るまでに今日の氷ノ山山頂行きは無理と判断していたこともあり、これまで以上の消化不良で下山を強いられるのかと思っていただけに、この返事に思わぬご馳走が目の前にぶら下がることになった。
しばらく休憩の後小屋をあとにし滑降地点へ向かう。
シールを外し滑降態勢に入ったら滑降スタート。
始めしばらくは潅木の細い枝の気になる急斜面も次第に厄介モノも少なくなり手ごろな斜面になる。
雪は降り続くものの、むしろこれくらいの新雪のほうが”下手っぴ”のこちらには滑りやすかったのかもしれない。
やがて沢芯を滑るようになると、ほとんど枝を気にせず滑れるようになる。
時折立ち止まり見上げれば、とてつもなく大きな樹が目に飛び込み、この森の奥深さに感心する。
ブナやトチの大木を見ながらの滑降がしばらく続き、何度となく新雪に足を取られながらも自分なりに『わさび谷』を堪能する。
次第に谷は細くなり、小さな流れが現れると右岸に滑り込み植林帯をトラバース気味に滑る。
再度沢筋に出て、もうしばらく余韻を楽しみながら滑るとフィナーレは近い。
ほんの小さな沢なのに最後の障害として大きく立ちはだかる沢をもんどり打ちながらも辛うじて渡り(跳び)切るとゲレンデ脇の林道に出て、わさび谷滑降は無事終了した。