北アルプス 奥又白池から前穂北尾根

上高地  屏風の頭から幾つもの岩峰を連ねた前穂高岳への稜線は、若い頃から一度は辿ってみたいと思っていました。
 幾度となく穂高に通い、涸沢から見上げるその稜線は、ただの憬れでしか無かったが、山岳会に入り岩登りの技術を覚え、良きパートナーに巡り逢い遂にその機会が訪れようとしている。
二年ほど前にも一度挑戦を試みたが、技術不足と準備不足で断念した。
 今回は、強力な助っ人にも恵まれ、短い準備期間ながら大変欲張ったルートで挑戦する事となった。
 多くのクライマーが前穂高の岩壁に挑む基地になっていた奥又白池から、奥又白谷をトラバースして北尾根の56のコルへ至り、北尾根を5峰から前穂高岳頂上に登り、更に南の明神岳を5峰まで辿り岳沢へ降りるというルートである。

涸沢出合  橋を渡らずに左岸の僅かな踏み跡を辿る。所々岩にマーキングがあり、ロープも張ってある。
 いつの間にかメンバーが増えている。南岳に行くという四国からの単独行者が我々に付いてきたようだ。そう言えば橋からすぐの所でルートが判らないと戻ってきた人が居たが、我々を見つけ後を付いてきたのだ。
 時々沢を辿るが、左岸沿いに踏み跡は続いている。木イチゴが沢山あり口に含むと僅かに甘みを感じる。
 暫く辿ると左から涸れ沢が合流する。ここが涸沢と本谷の分岐。名前の通り涸れ沢で水は伏流している。対岸には涸沢へ向かう登山者が列をなして登っていくのが見える。

本谷遡行  二俣を右に進む。ルートはここから沢沿いに登る様になる。所々踏み跡が在るが沢沿いの方が楽に辿れる。
 前方を望むと先行者が傾斜の増した沢を登っている。
 天気が悪くなり雨も落ちてきたので早めに雨具を着用。高度が上がったのでガスの中へ入ったようだ。
 辺り一面紅葉が拡がり綺麗だ。振り返れば、仰ぎ見るような屏風の頭も少しずつ目線の高さに近づいてきた。暫くして奥の二俣に到着、左股は狭く傾斜もある。その先には大キレットのはずだがガスに隠れて全貌は見えない。

トラバース  ここから右股を辿る。すぐに10mほどの滝が行く手を遮る様に立ちはだかる。
 直登も考えられるが、左岸に巻き道もあるので高巻く。滑りやすい斜面を灌木やシシウドを手がかりによじ登る。
 小尾根を跨ぎ落ち口へトラバースで降りるのだが、手がかりのないザレた斜面で慎重にトラバースし沢身に降り立つ。
 傾斜は益々急になり大岩を登ったり右岸に飛び移ったりしながら快適に登っていく。
 雨も本格的に降り出したようで岩は全て濡れてきた。所々苔で滑りやすい岩もあり、登山靴のメンバーは大変な様子。更に登るとカール手前の最期の滝が空から降るように降り注ぐ。最期は右に巻いてカールの下へ到着。

上部のモレーン  カールの下は傾斜も少なく僅かな踏み跡を辿って上のモレーンを目指す。雨も本降りになってきたので、急いでテン場を探し何とか二張りテント設営。四国の単独行者も平坦地を見つけテント設営。
 天気も益々悪くなる一方、慌ててテントに潜り込む。風も出てきて気温も下がり寒さも一段と厳しくなった。
 バーナーに火を着けると一気に暖かくなる。濡れた物を着替え暖かい物を口にするとようやく落ち着いた。薄暗くなってきたので早めに夕食。献立は豪華なキムチ鍋。身体が温まった所でシラフに潜り込む。夜中中風が強く吹き、テントを雨が打つ中で就寝。

雪のテン場  朝起きてみると辺り一面銀世界、天気も回復せず雪が降り続いている。食事を済ませ、狭いテントの中でパッキングを済ませ外に飛び出す。
 手早くテントを片づけモレーンを越えるため出発。昨夜からの雪で一面真っ白、ルートは雪の下。藪漕ぎの一番少なそうな所を目標に雪を掻き分け登り始める。
 足回りはアプローチシューズの為ナイロン袋で防水したがあまり効果無し、オマケに手袋は薄物一枚だけ。たちまち濡れて手が悴む。
 薮の切れ目を探し登って行くが遂に薮に突入。一典さんに上部を偵察してもらうが、横尾尾根もガスのため見えず、薮も続いているとのこと。
 尾根の最低鞍部が判らないので、進む方向すら決めかねる状態。秋山装備で藪漕ぎを続けるのは、濡れと寒さで体力を消耗し、たとえ尾根を越えられても、その先の下山ルートを見つけることが出来なければ更にリスクを背負うこととなる。

雪の沢降り  ここは潔く諦め、降ることを決断した。勿論雪の沢を降るのもリスクは高いが、この季節なら少し降れば雪は無くなる。
 先行者2名が上から降りてきた。彼らはモレーンの先で幕営していたが、やはり降るとのこと。
 通常なら沢降りも心配ないのだが、雪の降り積もった岩は滑りやすく慎重の上にも慎重に降る。
 下山ルートはほぼ右岸沿いを降った。昨日巻き登った滝の通過が問題、シュリンゲで簡易ハーネスを作り懸垂の準備で臨んだが、意外と簡単に二俣まで降ることが出来た。
 ここまで降ると雪も消え、最大の危機を脱し皆の顔に笑顔が戻った。
 やっと本谷橋まで戻り暫く休憩、お湯を沸かし行動食を食べながら今後のことを相談。明日が天気なら、徳本峠に登り噂の穂高連峰のパンラマを楽しもうと決定。降りは渋滞に難儀しながら、徳沢まで戻りテント設営。

穂高連峰  天気も回復したので、昨日決めた徳本峠に行く。
 分岐を少し入ったところにザックをデポし、水と食料と雨具を一つのザックに詰め交替で担ぎ、雪を纏った明神岳をバックに峠まで登る。
 噂に違わず素晴らしいパノラマを見ることが出来た。前穂高から吊り尾根・奥穂高・ジャンダルム・天狗のコル・西穂高のスカイライン。
 真っ青な空と雪を纏った稜線、裾野は紅葉に彩られた、所謂「三段紅葉」。滅多に見ることの出来ない素晴らしい景色を写真に納め、徳本峠小屋の前で寛ぐ。
 峠からは八ヶ岳も望め、深まり行く秋を満喫できました。

岳沢と穂高連峰  帰ってから知ったことだが、FACの仲間が前穂高頂上で遭難。同じ時南岳カールに居た我々。標高差500mが生死を分けたのか。天候の急変に対して、装備の良し悪しが生死を分けたのか。原因はまだ不明。

 ウエストンの足跡を訪ねる今回の山旅、残念ながら天候急変のため目的は達成できませんでしたが、徳本峠から南岳カールまで辿りました。彼ら一行も天狗原から槍沢を降り横尾へ戻ったそうです。もう一度季節を変えて挑戦しようと思います。

第1日目(6日) 稲美町P21:00-三木小野IC-東海北陸道-ひるがの高原(仮眠)
第2日目(7日) 高山西IC-アカンダナP5:00-上高地6:43-明神-徳沢-横尾-本谷橋8:22-涸沢出合11:52-本谷二俣12:54-南岳カール15:40(泊)
第3日目(8日) カール8:00-本谷二俣9:50-本谷橋11:18-横尾-徳沢15:15(泊)
第4日目(9日) 徳沢7:00-徳本分岐8:00-徳本峠9:30-9:45-明神-上高地12:00-アカンダナ-神ノ湯-高山西IC-往路を復走し稲美町21:30

山行期間:2006年10月6〜9日

参加者
  CL:雲水・一典・丈夫・一夫・ひろみ・裕美子 計6名