八つ峰と源治郎尾根


 8月2〜5日
参加者:CL敏夫さん・SL雲水・明宏さん(3名)

 一昨年の長治郎谷雪渓から剣岳登頂に続き、今年は八ッ峰から剣岳を登る山行が計画された。
 このコースは、剣岳のバリエーションルートの中でも距離と所要時間が長いより困難なルートなので、自分には荷が重いように感じたが、いずれは挑戦したいルートでもあり思い切って参加することに決めた。
 私個人の目標は、剣岳や穂高岳にしろ、「先人が初めて登ったルートから、その頂に登ってみたい」、というものである。
 近年少しづつ注目されるようになってきたのですが、クラシックルートからのアルパインクライミングは、一般ルートからの登山とどの様な違いがあるのか? この答えが私にとっての登山の原点になっているからです。
 なぜなら、沢登りや藪こぎと同様ルートは自ら切り開いて行くものであると考えているからです。
 さて、ひちめんどくさい前置きはこのくらいにして、八ッ峰縦走に参加するに際して、自分としては十分な下調べも行い、そのルートの概略を頭に詰め込み、装備の選択を済ませ、いよいよその当日となった。
 参加メンバーは、敏夫さんCLと明宏さん、私の3名で8月2日稲美町役場午後7時集合、敏夫さんの車で出発。
ルートは滝野社ICから舞鶴道を小浜西ICで降りR27を敦賀まで走り、北陸自動車道を立山ICで降り千寿が原(現在は立山)に翌日0時20分に到着、さすがにシーズンとあってか駐車場はほぼ満車状態、線路脇にスペースを見つけ朝まで仮眠する。
 寝付きが悪くウトウト状態で5時を迎え、いつものごとくトイレと朝食を済ませケーブルカーの前に並ぶ。
前回は千寿が原から直通バスで室堂まで行ったので、今回初めてケーブルを利用した。
美女平からはバスに乗り継ぎ8時室堂へ到着。
ここは相変わらず人が多い、観光の人たちや散策をする人、大きなザックを担いだ人、様々な人が行き交う所だ、外へ出なければ梅田の地下街とあまり変わりはない。
 一般的に登山といえば、まず登りから始まり下りで終わるのだが、室堂から剣岳登山の場合はまったく逆で、下りから始まって最後は登りで終わる少し変わったコースである。
 ターミナルを出て水を補給し出発、本日の予定は剣沢のテント場までなので気楽に歩ける、天気もよく快晴立山三山も大日岳もよく見える。
雷鳥沢を隔てて別山乗越しが望め、剣御前小屋が遙か遠くに見える。
二十sのザックを担ぎあの小屋まで登るのが本日のハイライト、雷鳥沢を渡ったところで休憩。
ここからは、それぞれが自分のペースで登ることとなり別山乗越しへは年齢の順番に到着、例年になく雪が多く残っており、岩と雪の殿堂「剣岳」にも雪渓が多い。
展望を楽しんでから眼下に見える剣沢のテント場目指し一投足で到着、テントの数も思ったより少ないようである。
設営の申し込みを済ませ水場とトイレを確認し平らな場所を探しテント設営、明日からの山行に備えのんびりと「トカゲ」を決めこむ。
 目の前には岩壁を纏った剣岳が迫り一般ルートですらどこを登るのか見当もつかない、さすが日本で最後まで一般の登山者を寄せ付けなかった岩山だと感じ入った。
 頂上から右側へ切り立った岩峰が幾重にも続き、その一番右端に明日登る八ッ峰が見える。
八ッ峰とは言うもののそのピークはそれ以上の数が確認できる、本当に登れるのだろうか不安がよぎる、まあなるようにしかならないのだから悩んでも仕方がない、今日はゆっくり英気を養い明日がんばろう。

 八ッ峰上半部登攀

 4日朝3時起床、朝食を手早く済ませ、登攀道具とアイゼンピッケル、捨て縄4本、ビバーク用食料、ツエルト、ローソク、水2.5l、行動食、雨具などパッキング、ハーネスを着け、メットにヘッドランプ、装備完了いざ出発。
例年ならベースから剱沢右岸のガレ場を下り雪渓に降りるのだが例年になく雪が多くテン場からアイゼンを着け雪渓を下る。
途中の滝場を左に避け、剣山荘からのルートを合わせ快適に雪渓を下る。
武蔵谷、平蔵谷、次に長治郎谷出合いに45分で到着、一息入れる。
ここから長治郎谷を詰め最初のルンゼ出合まで30分、CL敏夫さんが偵察、ここはマイナーピークからのルンゼなのでもう少し登る。
T・U峰間ルンゼに着くがルンゼは雪渓で埋まり途中が切れて取り付けない。
T峰から登ることは出来ないのでX・Yのコルから上半分に変更、さらに雪渓を詰める。
 前回はガスのため見通しが利かず予定どおりに行かなかったが、今日は天気も良く稜線までハッキリと見え、池ノ谷のコル、長治郎のコル、熊の岩も確認できた。
 X・Yのコルへのルンゼに入り、急なガレを落石に気を配りながらコルに到着。
X・Yのコルは八ッ峰の中間地点、ここで上半部と下半部に分けられる。
三の窓側からも急な雪渓が来ている、東側には三の窓雪渓と池ノ平小屋や平の池、仙人池と仙人ヒュッテが見下ろせ黒部川を越えて後立山連峰が連なる、西側には源治郎尾根の向こうに別山から立山三山が望める。
休憩を取りいよいよ登攀開始、私が先頭で、明宏さん敏夫CLの順でスタート、コルから右へトラバースし登りやすそうな所を選んでぐんぐん登る。
北穂のゴジラの背の時よりも緊張していたのか、やたらと喉が渇く。
Y峰はロッククライミングで最も人気のあるCフェース・Dフェースをはじめ五つの岩峰からなるピーク、冬用のフィックスザイルもありRCの下降路が入り乱れルートファインデングに注意がいる。
岩登りは三級程度であるが踏跡を丁寧に拾って行かないと行き詰まることになる。
足許には高山植物が咲き乱れてはいるが、落ち着いて見る余裕がない。
高度感もあり快適な岩登りが味わえる素晴らしいコースである。
Dフェースの頭付近でピッチを切り休憩をする、展望は360度の大パノラマ白馬岳から鹿島槍、黒部源流の山々、遠くは槍ヶ岳まで見渡せ、後には剣岳頂上、ホントに素晴らしいの一語に尽きる景色、デジカメを持参したが前回の赤木沢山行の時雨に濡れたのが悪かったのか途中で調子が悪くなり残念ながらこの景色を撮ることが出来なかった。
 Y峰の下りはクライムダウン、慎重に慎重に下る。
浮き石に注意しながら足許やホールドを確かめ一歩一歩下りる、ミスは絶対許されない、ミスは即死に繋がる。
コルから七峰へ登り次のコルへは懸垂下降で下りる。
チンネの左稜線がすぐ傍に見え1パーティが取り付いているのが望めた。
一昨年仙人池から望んだ裏剱の日本離れしたその稜線の先にチンネとクレオパトラニードルを望めたが、今その稜線に居るのだ。
ホントに信じられないが針の様に尖ったそのニードルが目と鼻の先しかも足下に見えるのだ。
感激に浸ってばかりいる訳にはいかない、まだまだ先がある。
Z・[のコルから右に明瞭なトラバース道がチンネの方へ続いている、これを辿りガリーを詰め八ッ峰の頭に着いた。
ここから池ノ谷のコルへ下るコースは一旦池ノ谷のガリーに下りそのガリーを登り返しコルに至るのだが、これがまた大変なルートで一歩一歩歩くたび足許の岩が崩れガリーを落下していく、傾斜も半端ではない。
少し下ったところに残置ハーケンにシュリンゲを見つけこれを利用して懸垂下降する。
狭い傾斜地に三人ともビレイを取りザイルをセット、まず敏夫CLが下降、下降と共に岩が足許から崩れる、落石の音をガレ場に響かせながら下り岩陰に待避。
その間一歩たりとも動くことが出来ない、なぜなら動くと落石が起こり下へ懸垂中の敏夫CLを直撃することになる。
次に私が下り最後に明宏さんが下る。
そしてザイルを回収しなくてはならないのだが、これがまた大変。
ザイルを引くと同時に落石が起こり我々目掛けて石が飛んでくる、もう少しの所でザイルが岩に挟まりそれを外しに落石に注意しながら登る、やっとザイルを回収一安心、ほんの一登りで池ノ谷乗越しに到着、がっちりと握手無事登れた喜びを噛みしめる。
 X・Yのコル取り付きから4時間かかった、喉はカラカラで水を1.5l消費、こんなにも喉が渇くとは想像できなかった、これも良い経験になった。
脱水症状でフラフラになりながら北方稜線を剣岳頂上を目指す。
稜線上を通るものと思っていたが実際は剱沢側をトラバースする様に踏跡は続き長治郎のコルへは大きく下りコル直下の雪渓のランドクラフトの中を登る。
長治郎のコルは、一昨年来たときとは全く様子が違う、やはり残雪が多くコルまで雪渓が来ている。
池ノ谷のコルからやっとの事で頂上到着2時間も掛かってしまう。
熱中症ぎみでフラフラするので1時間30分ほど休み別山尾根ルートを下ることに変更、長い下りをテン場目指したんたんと下り5時半到着、13時間に及ぶ一日が終了。
多くの反省点のあるバリエーション山行でした。


 源治郎尾根登攀

 八ッ峰が上半だけになったので、追加で源治郎尾根も登ることになる。
夜中に雨が降っていたので半ば諦めていたが、天気も何とか持ちそうと判断、昨日同様装備を調えヘッドランプで出発。
昨日と違うのはビバーク用具不要でかなり軽くなったザック位。
ザイル担当の明宏さんはあまり変化がない様だ。
平蔵谷出合からすぐで源治郎尾根取り付き地点に到着。
 女性を含む防衛大学のパーティがすでに登り始めていた。
アイゼンを外しいよいよ登攀開始、草付きの踏跡を辿り小さなルンゼ入り口に到着、先行パーティが居たが時間が掛かりそうなので先に行かせてもらう。
補助ロープが架けてあるが沢登りで慣れた我々は強引に突破、急傾斜を木登りの様にグングン高度を稼ぐ、暫くして少し開けたテラス状で休憩。
追い越した防衛大学パーティが追いつき右の開けたルンゼにルートを求め進んでいったがすぐ戻ってきた。
又暫く木登り混じりの岩登りを続ける。
天気は今のところ心配いらない様で高度が増すにつれ周りの景色が拡がる。
先行する防衛大学パーティに離されたり追いついたりしながら第一峰に到着。
相変わらず水分補給が追いつかず喉が渇く。
昨晩降った雨が木の葉に着いている、この水滴をすすりながら登ってきた。
第一峰の頭で少し休憩、段々と雲行きが怪しくなってきた。
正面に聳える第二峰の上部はガスに隠れ、切り立った岩峰を先行パーティが登っているのが見える。
我々もその後を追う様にコルまで急下降、二峰の登りに掛かる。
正面から眺めた岩峰は左側が岩登りのルートになっている岩壁で平蔵谷へ切れ落ち、右側は這松混じりの岩尾根、この岩尾根を登る。
三級より易しくルートファインデングも問題なし、昨日八ッ峰を登ったことで余裕を持って登れた。
次第に傾斜も落ち大きな岩峰に着いた、ここが第二峰である。
この先が30m切れ落ちた下降点になっている、先行パーティがすでに下降を始めているが人数が多いため30分ほど待たされる。
そうこうしているうちについに雨が落ちてきた。
夕立の様な雨に慌てて雨具を着用、長治郎雪渓側に熊の岩が下に見え雨に打たれたテントが3張。
ここは幕営禁止のはず。
後に知ったことだがこの不届き者は丹波の山岳会と登山研修所のパーティだったようである。
 先行パーティが下降を終えザイルを回収、我々の番である。
支点は鉄で出来ておりセルフ用のザイルまでセットしてある、さすがに行き届いたルートであると感心する。
まず始めに敏夫CLが下降、続いて私が下降、セルフビレイをセットし一段下がったテラスで雨に濡れたザイルをルベルソ(ペツル製ビレイディバイス2800円)にセットしコルに向け懸垂下降開始、一気に30mの懸垂下降は生まれて初めて、なんと気持ちの良いことか。
全員無事下降終了ザイルを回収し、雨の中スリップに注意しながら登攀再開。
コルからのエスケープルートが長治郎雪渓側にあるらしいがこの斜面を降りる方が危険な気がする。
ルートはガレたルンゼを登るのだが、先ほどの雨で水が流れているところもあり、落石とスリップに細心の注意を払いながらトップで登っていく。
雨に濡れた岩場は踏跡すら消えてしまいルートファインディングが難しくなる。
上部はガスのため視界が悪くルートが解りずらい。
ガレたルンゼを詰め左へ岩壁を回り込むとそこはお花畑が一面に拡がっている、晴れていたなら天上の楽園と言ったところか。
踏跡が錯綜しどれを取れば最短でいけるか悩みながらさらに登る、相変わらず落石には充分注意をしているがそれでも落石を起こし「落!」を何度も叫ぶ。
すぐ下を登る明宏さんには悪いが、当たったら御免。
この様なガレ場を登下降する場合の注意としては、先行者のすぐ後を歩くか、少し離れて歩くかどちらかである、何故なら、すぐ後なら落ちた石はあまり動いていないのでダメージが少なく、離れていれば避けることが出来るからである。
 ガスのため視界の悪い中尚も登攀を続ける、雨は降っていないが、幸いあまり喉が渇かない。
もう少しで頂上のはずだが視界が利かず解らない、うまい具合に雪田に出くわす、暫く休憩し水も少し減ってきているので雪をポリタンに補給する。
剣頂上の南斜面を岩登りしているパーティであろうか近くで人の声が聞こえる、あと30分ほどで頂上到着と予想し出発、しかしものの5分ほどで到着あっけない幕切れであった。
何はともあれ源治郎尾根を登ってしまったのだ。
敏夫CL、明宏さん、有り難う。
一度に2つのバリエーションを登れた。
体力的に一寸きついルートで気弱になり半ば投げ出したい衝動に駆られながらも、敏夫CLの叱咤激励と明宏さんのサポートがあっての成功だと思います。
気力と体力どちらも大切ですが、続く限り挑戦したいと思います、来年は奥穂高のバリエーションにも挑戦しようと思います、これに懲りずお付き合いをお願い致します。


 今回で三度目の頂上であるが、一度も景色を見たことがない、穂高の女神は何時も素晴らしいパノラマを見せてくれるが、剣の女神は意地悪なのか頂上はいつもガスの中であった。
 一昨年の長治郎雪渓から剣岳、昨年の北穂高東陵ゴジラの背、今年の八ッ峰上半部と源治郎尾根。
はたして来年は奥穂高南陵を登れるだろうか?きっと穂高の女神は微笑んでくれると信じています。
誰かご一緒してください。



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