小又川沢登りに


岸田川水系・小又川本流沢登り(H16.9.11〜12)   雲水

  参加者:CL敏夫さん・SLNさん(加古川山友)・裕美子さん・武子さん・雲水(以上5名)
  稲美役場4:00発→小ヅッコ下・入渓7:45→五滝上杣道17:00(泊)
  杣道7:45→桂の滝上10:30→林道14:00→稲美役場着17:30

 加古川山友会の沢登りに誘いを受け、当初は大台ヶ原の東の川へ行く予定であったが、南海沖で地震が頻発し、 入渓中に地震にでも遭えば大変なことになる、その上天候も悪そうなので、 目的地を兵庫県西北部扇の山山麓・岸田川の支流小又川に変更する。
いなみ山の会3名と加古川山友会3名の合同パーティでの挑戦となる予定であったが、 最終的には加古川山友から1名が抜け5名となった。
 稲美町役場4時出発、福崎から播但道を北上R9号を千谷で左折、 上山高原を抜け鳥取県境近くの小ヅッコ小屋下に自転車をデポし、入渓場所の海上集落を抜けた道路脇に駐車、 支度を調え農道から小又川へ降る。
本日の装備は、県下で一番難しい沢と言うこともあって、50mザイル2本にハーケン、ボルト、ハンマー、 あぶみ等用意する念の入れよう、行程も1泊2日を要する計画である。
 小又川は、昆虫の化石がでる所として知られており、地質は、火山地帯特有の黒い岩に礫が混じった地層を成し、 多雪地帯と言うこともあり沢は深く切れ込み、滝は全て深い釜を持ち垂直の壁となり行く手を遮っている。
谷中は狭いゴルジュが続き遡行は困難を極め、一度雨でも降ろうものなら一気に増水して逃げ場すら無い。
 沢筋には「しわがらの滝」「桂の滝」「五滝」等名のある滝が懸かり、 それら全てを登攀し完全遡行に成功したパーティは何組あるのだろうか?。
 事実桂の滝前には遡行を断念した大阪の沢グループの敗退記念プレートが掛かっていた。 記録を調べてみても殆ど出てこない、唯一「ひょうご山蹊記」の著者、加古川の川崎航洋さんの詳しい記録が有るのみ。 はたして我々は完登出来るのであろうか、期待は大きく脹らみいよいよ挑戦を始める。

 農道を降りてゆくと棚田が広がり、刈り入れ前の田圃の脇を通って行くがすぐに踏み跡が無くなる、 下草を掻き分け北へ降って行くがついには藪漕ぎ状態となり水音が近付いたので強引に沢に降りる。 前日まで雨が降っていたこともあり水量は一寸多め。 小さな堰堤を越えやがて右岸から赤土谷が3m程の滝を懸けて落ち合う、更に詰め登ると黒い岩肌に簾状の滝が現れる。
いよいよ本格的にゴルジュが始まるようだ。
 朝日に水飛沫が眩しく輝き水の冷たさも全く気にならない。良い天気と良きメンバーににも恵まれ、今年最高の沢登りである。 一カ所高巻きをし懸垂で谷に戻るが、さしたる難しい所もなく順調に遡上し「しわがらの滝」に着く。
2〜30mの垂壁に囲まれた洞穴の中にその滝は掛かっている、外からは一見して判らないが、洞 窟に入って初めて滝と判る。高さは15m位か、釜を持ち上部から一気に落ちている。 小さなホールド、スタンスは有るがとても登れる代物ではない。中間少し下にハーケンが打ってある。
記録では一人が釜に入りその肩にもう一人が乗りあぶみを掛け人工登攀すると書いてあるのだが、 そのハーケンにすら届かない。その上にもハーケンやボルトは見あたらない、おそらく長い年月を経て錆びて抜け落ちたものと思われる。
岩の性質上リスが無く、ボルトの連打しか登る方法は無さそうである。

しわがらの滝 ゴルジュをへつり
しわがらの滝で記念撮影 ゴルジュをへつり


1本30分として最低6本は必要、つまり3時間以上掛かる計算になる。 ゴルジュが始まったばかりでこの有様、後のことを考えここは巻くしかないと判断。 少し下流の右岸にルンゼがあり、これを利用して高巻こうと考えたが、そのすぐ横にこの滝への観賞道が降りてきているのが判り、 これを利用して尾根まで登る。
 上山高原への林道の道すがら滝見の看板が有ったのを思い出した。 このまま辿れば林道へ抜けてしまうので尾根を越えた辺りから南に斜面を横切るように藪を漕ぎながら獣道と覚しき道を拾って進む、 昔は炭焼きの杣道であったのか沢と平行している。
「しわがらの滝」を過ぎたと思われる所で尾根を降るがあと少しの所でゴルジュの壁に遮られて降れない。 立木にザイルを2本セットし20mの懸垂で沢身に降り立つ。トップが上部を偵察し遡行可能か確かめ大丈夫と判り全員懸垂で降りる。
ゴルジュの中は、幅1m程のロート状で2〜3m程の滝が無数に懸かりしかも全てが深い釜を持っている。

釜を泳いで 懸垂で戻る
釜を泳いで小滝を越える しわがらの滝の高巻き(懸垂で戻る)


時々5〜6mの滝もあり、ザイルを付け空荷で登りザックを引き上げたり、釜を泳いで滝身に取り付いたり 、チョックストーン滝を突っ張りで抜けたりと、ありとあらゆる技術を駆使しての沢登りはホントに楽しい。
次はどんな滝が出てくるのか、ワクワクしながらただひたすら狭いゴルジュを遡上する。
 最初のゴルジュ帯もそろそろ終わりになる頃10m程の滝が現れた。 私がトップで挑戦する、垂直の岩壁にハーケンが打ってありこれを頼りによじ登る。 大峰の芦廼瀬遡行用に買った軽量コンパクトな「あぶみ」を初めて使用した。 落ち口へのトラバースを振り子の要領で抜け後続を確保。水圧に抗してザックを吊り上げるのが大変、 上下四人掛かりでやっと引き上げる。次の7m滝は、Nさんがトップで、水際をシャワークライムで抜ける。 7m滝のすぐ上に二つ目の関門15m滝が待ちかまえている。
川崎さんの記録によると一段下の釜横から右岸の壁を40m程登りトラバースし懸垂で落口すぐ上に至るとある。 ここまですでに6時間以上掛かっている。時刻も3時を過ぎ、そろそろビバーク地を考えなければいけない頃である。 両岸とも立っていて立木すら無い、記録にあるルートを試みるがテラスからリッジを5m程登るがそれ以上は登れない。 引き返すか巻いて登るか決断を迫られる。
CLが捲いて登ることを決断し、Nさんがトップで空荷でザイルを付け泥壁を10m程慎重にトラバースし上部の立木を目指して草付きの泥の斜面を2本のバイルでジリジリと登る。
この間ビレーを取る立木1本すら無い、勿論スリップしたらゴルジュまで一直線に落ちるだろう。
待っている我々もこれに賭けるしかない、姿が見えなくなってから既に20分以上経っているが未だザイルが伸びていく。 50mでは足らなくなりもう一本継ぎ足す。更にザイルが伸び70m程でやっと止まり立木に固定された様である。 暫くして懸垂で下まで降りてきた、全員プルージック登攀開始。
敏夫CL、裕美子さん、武子さん、Nさん、そして最後が私。余ったザイルを体に巻き付け重いザックを担ぎヌルヌルの壁を何度も滑りそうになりながら一歩一歩よじ登る、 泥の中に生えているギボウシの根元を押さえながら30m程上がると灌木も現れ少しは楽しなる、 とはいえスリップは致命傷に為りかねないので更に慎重に行動する。
やっとザイルを固定してある所まで来たが休めるような所ではない。汗が噴き出し喉はカラカラ、 何とか平らな場所を求めて更に登り続けなくてはならない。時間にして2時間ほど掛かり杣道に到達。 沢で待っているときは寒くて震えていたがこの登りで一気に汗をかき暑くなる。
暫く南下し尾根を回り込んだところが少し広く、しかも近くにはルンゼに水も確保できる場所を見つけ、 ここを本日のねぐらと決める。予定では桂の滝を越えた河原でビバークであったが、 その「桂の滝」までも辿り着けなかった。行動時間10時間以上費やしてここまでがやっとの状態である。 なんと難しい沢なのか、残りの行程を考えると本当に辿り着けるのか不安になる。
 広場と言っても杣道の上である、少し傾斜しているが何とか寝ることは可能である。
 もう少しで夕暮れを迎える頃シートを広げタープを張り夕食の準備に掛かる。アルファー米に鳥釜飯、 すき焼き風牛丼と海藻サラダ。準備も整い薪を集めささやかに焚き火を燃やし濡れた服を乾かす。
ワインに焼酎、ウイスキーと飲むには事欠かない、出来るだけ装備は軽い方が良いのだが、 加古川山友のメンバーにはそれすら厭わないのであろうか。 重い荷物を担ぎ、難しい滝を登り藪を漕ぎ本当にお疲れ様です。
 焚き火を囲み本日の健闘を讃え全員で乾杯。後はいつもの調子で話に花が咲く。 木々の間から星が瞬き、明日も晴天が期待できそうだ。いつしか焚き火も下火になり寝ることにする、 しかしそこは傾斜地、寝ている間に谷底へ落ちてしまう。立木にザイルを固定し、 それに自分自身を巻き付け寝ることになる。こんな経験は滅多に有るものではないが何事も経験が大事である。

垂直のルンゼ 滝を直登
桂の滝を高巻きする垂直のルンゼ 冷たさをものともせず滝を直登


 12日6時起床、快晴。軽い朝食を済ませ7:45出発。杣道は尾根を回り込んで下へ降りて行く、 所々にトラロープがあり、この道が桂の滝への観賞道であるようだ。
4〜50mの岩壁に囲まれた場所に出る。正面には堂々と落ちる桂の滝、左の黒い岩壁からも簾のような滝、 勿論どれもまったく登れない。大木の幹にハーケンが打ち込んであり、プレートが風に揺れていた。
大阪のある沢登りグループがここまで来たが、幾度となく続く高巻きに疲れ果て撤退したと書いてあった。
 我々はまだ諦めないで完登を目指す。ガイドに記されている黒い滝の左のルンゼが上部へ抜ける登路である。 チムニー状のルンゼに取り付くためガレ場を登る、取り付きから垂直のチムニーを抜ける箇所がこのルートの核心部、 私の実力からして無理なので、ここは山友の実力者Nさんに登場願う。
空荷ながら登り始めから難しくハーケンを打つが効きが悪く体重を懸けると抜けてしまった。 少し上に昔のアイスハーケンを使う。今度は効いたようでシュリンゲに足を入れあぶみの要領で一段上がる、 さらにもう一本使いチムニーを抜ける。ここからはボロボロの岩に手こずりながらもジリジリ高度を稼ぐ。 上の岩にハーケンが打ってあり、これにランニングを取り核心部を抜け、 草付きの斜面を更に上昇を続け50mザイル一杯で上の杣道に到達、ビレイを取る。
続いて私がもう一本のザイルを着け登攀開始。ザイルに確保されているとはいえ、とても厳しい。
後続の為あぶみを2カ所セット。 登るにつれ牽いているザイルがとてつもなく重たい。屈曲しているので仕方ないが登るのに倍の力がいる。 2本目のザイルもセットし二人で後続を確保する。 武子さん、続いて裕美子さん、最後にハーケンを回収しながら敏夫CLが登り終了。 裕美子さんには少々厳しいのではと心配したが、流石根性で突破、大健闘でした。
 この登りには2時間半を費やし、更に黒い滝のルンゼを横切り桂の滝を越えた所から藪漕ぎで下降し遂に沢へ戻る。 桂の滝だけで3時間以上掛かってしまった。これで最大の難関は越えたことになり、少し安心。 ゆっくりと休憩し腹ごしらえを済ませまだまだ続くゴルジュを行く。
今までよりは沢も広くなり難しい滝も無く、滝登りを楽しみながら遡行を続ける。 枝沢が左右から入ってくるが全て本流を行き、そして最後の難敵6mハング滝を迎える。
ここはハング下を抜け流芯をシャワーを浴びながら登る所で、フィナーレを飾るに相応しい滝である。 暑くなった体を一気に冷やしてくれる。ここでザイルをしまい後は本流を忠実に詰める、だんだん水流が細くなり、ついには枯れた沢を詰めていくと林道を走る車の音が聞こえてきて、枯れた滝を避け右上へ灌木を掴みながら急な斜面を這い登り遂に林道へ飛び出す。時間は午後2時を指し6時間の苦闘の末の完登である。昨日から延べ14時間掛かった事になる。予定していた地点より少し西に出たが大変満足した沢登りであった。
 林道を少し東へ戻り、デポしておいた自転車を回収し、快晴の秋空の下上山林道を快適にダウンヒル、 車に戻り自転車を積み込み、小ヅッコ下へ取って返す。
いつもの村岡温泉で汗を流し、稲美町へ凱旋した。
 今回の沢登りは、今までにない難しい沢でした。 CL敏夫さんを始め、加古川山友のN廣さん、本当に有り難うございました。 裕美子さん、武子さん、お付き合い頂き有り難うございました。 これからも訓練を続け、全てトップで行けるよう頑張ります。これからもご指導をお願い致します。

敏夫CLの報告

 11日晴れ07:45地元の人に「昨日は大雨だったのでくれぐれも気を付ける様に」との忠告を受け 海上林道脇の農作業小屋から農道に沿って下って行くと道はすぐに消え急な樹林帯の中を棘に傷つけられながら小又川右岸に降り立つ。
08:00左岸上部には豊かに実った稲が何段もの棚田を広げている。
二段十m滝 高巻きから懸垂で
二段十m滝 高巻きから懸垂で十m滝上へ

小さなコンクリートの堰堤を2つ越えると右岸より5m余りの小さな滝を懸けた赤土谷が入り込む。 谷は深く両岸は立ち太陽の恵みは受けられそうにない。川幅が急に狭まり絶壁に囲まれたゴルジュが始まる。 上部がハングした薄暗い右岸を濡れた岩棚に沿って進むと前方に二段10m余りの滝が現れる。 前日の大雨の為に水量が異常に多く離れていても全身に飛沫が降りかかる。 ザイルを付けて滝壺に入りルートを探すがとても登れそうにない。 下流に引き返しゴルジュの切目から右岸の急峻な草付を登り落口に向かってトラバースを行い草付の岩場を20mの懸垂で薄暗い谷底に降り立つ。
谷は中央がインゼル状となっており流れは左右に分れ上部で合流し又一つになる。右岸にルートを取りナメ状の滑り易い滝を登る。
やがてゴルジュは開け圧迫感から開放されるが直ぐに両岸の狭まり岩壁が高く垂直に立ってくると 緑色も鮮やかな蔦や苔類が岩壁を全面に覆い尽くしシワガラの滝が近いことを教えてくれる。
滝音が聞こえるが前方は行止まりとなり深く大きく抉られた洞窟となっており右手直角に曲がった奥まった所に15mの滝を落としている。
シワガラの滝と呼ばれる滝は井戸の底にいるようで闇の世界である。 鈴鹿の滝洞谷の洞窟の滝に水を落としたようなもので陰気で不気味さが漂う怪異な滝である。
深く抉られた洞窟の奥は真暗闇で何も見えない。滝は黒く風化した岩壁の右半分に豊かな水量を落しており左半分はのっぺりとした手掛りのない岩場である。
深い滝壷に入り登路を探すがリスもなくハーケン、ボルトの類は一切見当たらない。
初登されて30数年が経った今、歳月がハーケン類を腐食させ元の自然な岩壁に戻したのであろうか。 落口まで登るには10数本のボルトが必要であろう。我々の手持ちのボルトは6本でしかない。 ここは潔く退却して50m下流の右岸の草付を木の根を頼りに大きく高巻きし途中手頃な太さの樹木を見つけ30mの懸垂で岩壁を抜け谷底に降り立つと狭い廊下に大木が流れ着いていた。
5mの滝は深い滝壷と淵を持っておりそこには巨木が縦に横たわっており滝の落口には此処にも流木が引っ掛かっている。
左岸の岩場にハーケンを打ち10mザイルを固定する。
ユマーリングで通過するがラストがハーケンの回収中に転落しぶら下がってしまう。 幸い指を少し切っただけで事なきを得たが一瞬緊張する。

シャワーで挑戦 小滝を幾つも越える
シャワーで挑戦する 小滝を幾つも越える


ゴルジュは幅2m程に狭まっておりこれが延々と続き小滝が連続する。 台風による豪雨のせいか流木が多く此れが流れを堰き止めて小さな滝を作り行く手を遮る。 次の出合う4mの滝は狭いが深く長い淵を持っておりN君がザイルを付けて空身で泳ぎ渡ろうとするが流れが激しく滝に辿り着けない。
此処は水泳の得意な雲水氏に任せる。水際の岩場を巧みに利用し泳ぎ渡り滝に取付き後続者をザイルで引っ張り寄せる。
10mの滝は堂々と垂直に落下しており左岸の垂壁に雲水氏が空身で取付く。
ハーケン、ボルトが6本余り連打されており完全に岩登りの領域である。 赤錆びた古いーケンにあぶみを2個セットし左斜めに登りカンテを回り込み振子トラバースで滝の落口に立つが此処が悪い。
武子さん、裕美子さんも頑張って登り切る。
ザックは全て吊り上げるが水流に叩かれて二人では重くて上がらない。 4人で張上げ落口にザックが引っ掛った所で下よりザイルで大きく揺さぶり強引に取り込む。
5人が滝上に顔を合わせたのは1時間半以上が立っていた。延々と続くゴルジュ、尽きることのない滝群。
7mの滝は胸まで浸かり左岸より空身で取付く。水際上にハーケンが打ってあり此れにあぶみを掛け水中からの第一歩を踏出す。
激しい水圧に抗いながらハーケンを打って何とか登り切る。後続者はザイルに助けられザックのままで登るが 裕美子さんが水圧に抗し切れず叩き落されて宙吊りとなりしたたか水を飲む。
狭い谷底に苔むした大木が横たわり行く手を遮る。やがてこの谷の第一の関門15mの滝が現れる。
滝は下部3m中段4m上段15mの大まかな3段で構成され、最奥の15mの滝は左に直角に曲がった場所にある。
最奥の滝壷に辿り着くが凄まじい瀑音と飛沫で目も開けられない。右岸の草付が稜となって上部の樹林帯に延びているが途中が垂直となり手が付けられない。
此処は50m余り引き返し右岸の草付に登路を求めるが岩場の上に草が張付いているだけで危険この上もない。
N君がバイルを2本両手に、地蔵の東稜のような草付の岩壁を登る。 ザイルの伸びが遅くその上50m出てもまだ止らない。更に継ぎ足し80m伸びた所でやっと止る。
彼はザック回収の為、懸垂ユマーリングで下降する。後続者は間隔を取り全員ユマーリングで時間を稼ぐ。 太陽は稜線に隠れ谷間は翳りが漂い始めた。途中何箇所か支点が取られていたがもしトップが墜落していればとても支え切れなかったであろう。
50度はあろう悪い草付の岩場を何度かスリップをしながらも固定されたザイルに助けられ大木に括り付けられた終了点に辿り着く。
腕時計を見ると、なんとこのピッチで2時間半も費やしていた。 尚も上に追い上げられ、荒れ果てた杣道に出る。太陽は国境稜線に隠れた。
少し進んだ所に5人が集まれる場所を見つけ今夜のねぐらとする。
17:30近くルンゼに僅かに水が流れており時間をかけて水を集める。 全員濡鼠、河原で豪勢な焚火を囲み楽しい宴会を計画していたが甘い考えは見事に崩れ去る。
このままでは寒くて叶わぬので小さな枯れ枝を集め貧弱ながらも焚火が出来上がる。 各自持参のワイン、焼酎、ウイスキーで乾杯。身体が焚火と酒とで温まってくると生気が甦る。
「こんな筈ではなかった、今頃は桂の滝の上で豪勢な宴会だったのになあ」と愚痴が出る。
アルコールはゆっくりと体内に回り女性陣の活躍に賞賛の声が上がる。 段々とメートルが上がり「明日も頑張ろう」とリーダーを喜ばせるような嬉しいことを言ってくれる。
漆黒の空間に煙が漂い楽しい時間が流れていく。タープを張り寝場所を作るが傾斜がありその上 場所狭いのでずり落ちると谷底に転落する恐れがあるので木にザイルを固定し 全員ハーネスで確保を取りシュラフカバーに潜り込む。21:30天空には月が輝いていた。

 12日快晴06:00起床。
目が覚めると足元は崖淵からはみ出しており恐怖に瞬時に目が覚める。 女性陣はザイルで確保の睡眠は初めての経験で仲中眠れなかったらしい。
コーヒーを沸かし軽い朝食をとり07:30出発する。今日も快晴である。足元より桂の滝音が聞えてくる。 杣道は直ぐに消えルンゼに懸かる滝を横切り急なブッシュの中を木の根を頼りに下ると流木の散乱した谷筋に出る。 流木に邪魔されながら遡ると桂の滝の滝壷に出る。
桂の滝は40mはあろうか、天空より白布を懸けたように一条と流れとなり一気呵成に落下している。 両岸の垂壁は草に覆われて黄緑色が鮮やかである。落口を見上げるが余りにも角度が大きく首が痛い。
左手に大木が茂り太い幹には無残にもハーケンが根元まで打ち込まれ木札が風に揺れていた。
木札には「ホワイトバード沢登り隊、桂の滝を見て敗退、メンバー5人の名前」が書かれていた。
桂の滝の左には溶岩質の黒い岩壁に幅広い滝が懸かっている。

その左にあるルンゼを詰めると落石、流木の散乱した薄暗いチムニーに突き当たる。 取付きは立っており水が少し流れている。此処まで踏跡もなく、最近登られた形跡は全く感じられない。
N君が空身で取付くが1m登った所でハングに阻まれ前に進めない。 止むを得ずアイスハーケンを2本叩き込にあぶみで乗り越すがその上部は20センチ程のクラックが垂直に走り登攀は困難を極める。
此処が登攀成功の分かれ目であろう。薄刃のハーケンを打ち込みずり上がると茶色に錆びたた古い残置ハーケンがあった。
30mで岩場は終わり50m一杯で樹林帯に入るがルートは散石、朽ち果てた木々重なり落石の恐怖で一杯である。 ザイルが触れるだけで落石が起こりヘルメットに何度か落石を受けた。
雲水さん、武子さん、裕美子さんの順で登る。武子さんは安定した大きな動作で軽快に登る。
ラストはハーケンの回収を試みるが根元まで入ったアイスハーケンはハンマーで叩こうがびくともしない。 仕方なく記念に置いて行く。このピッチに2時間30分を要した。
水が流れる黒いルンゼを渡り棘とブッシュに覆われた支稜を横切り急な斜面を樹木を頼りに下降を続ける。 何度か滑り落ちるが幸い木の枝で命拾いをする。
少し開けた桂の滝の落口の上部川床に出でる。
10:30 核心部を抜けた安堵感からか空腹を覚え一息入れる。女性陣の顔に安心感が漂う。 この穏やかな扇ノ山山域に何故にこのような峻険な谷が存在するのだろう。
取付きから此処までほぼ連続して狭いゴルジュを形成しており此れは大山の甲川に良く似ている。
  川は狭いゴルジュを連ねて居る為に遡行中、万が一大雨にでも見舞われたら逃場がなく無事生還できるかどうか疑わしい。 好天に恵まれることこそが遡行成功の秘訣であろう。
やがてゴルジュは荒々しい岩壁から緑に覆われた草付に変わる。 大きなチョックストーンを持つ二段の滝は腰まで滝壷に浸かり右岸に足場を求め水流を楽しみながら登りきる。
右岸より10mの滝を落とす枝沢が入ってくると谷は最後の難滝を迎える。6mの滝は曝流と化している。 右岸上部が大きく被さっておりトップは空身で流芯に出るのにハーケンを打ち込み此れに体重をかけ一気に流芯に出て登りきる。
凄い水圧で息が出来なくなる。その上冷たくて心臓が麻痺しそうだ。 叩き落されそうになりながらも何とか落口に立つ。何と裕美子さんはハイカラなカラーの水中眼鏡を付けて取付き、 激しい水圧に耐え難所を登りきる。
此処でザイルを納め流木の多い荒れた谷筋を進むと赤茶けたナメを持った5mの滝に出くわすが簡単に直登し続く小滝も容易に越えるとやがて谷は源流の様相を見せ二俣に分かれる。
距離は長いが右の本谷を詰める。やがて水流が切れると大型トラックの古タイヤが4個現れる。 入谷以来初めて見る人工物だ。急な草付を木の根を頼りに強引に腕力で登りきると舗装された海上林道に出た。
14:00 林道を東に歩くこと200mで小ズッコ小屋への登山標識のある登山口に辿り着く。

- Copyright © 2005-2007 INAMI Alpinist Culb -
Produce by Τoshio Εnomoto