W-ウエストンと上条嘉門次の足跡を尋ねて


藪山雲水

 ここ数年の夏は、北アを中心にアルパインクライミングを楽しんでいます。
 2004年の夏の目標を、ウォルター・ウエストンとガイドの上条嘉門次が日本で始めて奥穂高岳に登ったルート(奥穂南陵)を辿ることに決めた。
 登攀時期を梅雨明け十日に絞り、21日夜出発3泊4日の日程で挑戦しました。
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トリコニー下のお花畑 トリコニーの岩峰を

 メンバーは昨年も一緒の明宏さんと敏夫さんに加え、一典さん、ひろみさん、武子さんの3名が加わり6名、2パーティでの山行となりました。
 奥穂高南陵だけでは少し物足りないので、すぐ隣のコブ尾根を加えた計画が纏まり、本番に備え雪彦山地蔵岳東陵、六甲堡塁岩、高御位山で岩登りのトレーニングを入念に行う。
 トレーニングの総仕上げに参加者全員で雪彦の地蔵岳東陵を登り、パーティの息もピッタリ、装備の分配を決め装備重量20kg程で出発の当日を迎えた。
 7月21日午後8時稲美町役場出発、三木小野ICから東海北陸道飛騨清見ICを経て、平湯温泉アカンダナ駐車場午前1時過ぎ到着。ゲートが開く2時30分入場、始発のバスまで仮眠。
 朝一番の上高地行きバスに乗り30分ほどでターミナル到着、沢山の登山者に混じり出発準備を整え、朝食を摂った後岳沢へ向け歩き出す。
 昨日までは雨が続いていたのだが、今日から夏本番を迎え快晴が続く予想。昨年はよく雨に泣かされたが、今年は年の初めから天気に恵まれ、山の神様も味方してくれます。
 徐々に傾斜が増す岳沢への道は30数年振り、5ピッチ2時間半ほどで岳樺に囲まれた赤い屋根の岳沢ヒュッテ(2180m)に着き、テントの手続きを終え早速テントを設営、ダンロップV8を担ぎ上げた甲斐があり6人でゆったり目のテント生活が始まる。
 岳沢ヒュッテのテラスで暫く休み、明日からの登攀に備え取着点確認のため、明宏・敏夫・ひろみ班はコブ沢へ、一典・武子・雲水班は南陵へ下見に出る。
 ガイドに従い大滝へ向け沢を暫く詰めると雪渓が現れる、傾斜はさほどではないが雪渓の所々に薄いところがあり気を配りながら登る。扇沢出合から少し傾斜 が強くなり安全を考えアイゼン装着し大滝前まで詰める。ガイドに寄れば大滝手前の左ルンゼに取り着きとあるが大きくシュルンドが口を開けルンゼに取り着け ない。少し戻り幅の狭いところから沢に降りガラガラの左ルンゼを落石に注意を払い詰めるが上部で往き詰まり元へ戻る。一典さんが少し右の凹角に挑戦するが これもだめ、最後は大滝の左上へ踏み跡がありこれを辿り目的のルンゼへ斜上するバンドを抜けるとルンゼに出ることを確認し雪渓を降る。
コブ沢へ偵察に出た明宏班が既に戻っており全員揃ってテラスで乾杯。
 夕方から食事の準備を始めるのだが、ここ岳沢には水が流れていない。雪渓もずいぶん離れており当て出来ない、仕方ないがヒュッテで買うのだがこれが又高い(1g100円)。
 今回の食事当番はひろみさん、仕事柄か献立も超豪華、キャベツにキュウリ、玉葱ジャガイモ、オクラ、素麺、漬け物、味付け海苔、調味料等々材料が次々と出てくる。本当に重たい材料を担ぎ上げ有り難うございました、そしてお疲れ様でした。
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岳沢と霞沢岳・焼岳・乗鞍を望む 南陵を快適に登攀

 23日、いよいよ活動開始。朝3時起床食事を済ませ、登攀準備を整え4時半コブ尾根班出発、続いて南陵班4時45分出発。

 昨日小屋の従業員から聞いていた南陵取着き地点を扇沢側ルンゼに変更して取り付くがこれが大変なルートでいきなりの這松の藪漕ぎを強いられる。傾斜に加 え岳樺と這松の密生を乗込み潜り抜けの悪戦苦闘、小さなピークまで1時間以上費やす。このままでは目的のルンゼにはいつ着くか判らず、昨日のルートに変更 することに決める。元へ戻るには不可能、このピークから大滝側へ降りるしかなく、下降点を探し少しクライムダウン。小さなテラスの立木に捨縄をセットし私 が最初に懸垂下降、50米ザイル一杯で斜面に降り立ち回収テストもOK、全員下降終了し再度ルンゼに向け登り返す。大滝上から斜上バンドを伝い目的のルン ゼに出る。後はルンゼに沿ってひたすら登る、振り返れば足下に我々の赤いテントが小さく見え、その先には霞沢岳、焼岳、乗鞍岳、御岳が雲一つ無い青空に ハッキリと見える。沢登りで鍛えたメンバーには快適な登攀を楽しめた。
 最後までルンゼを詰めると草着きのスラブに出る、ここは右に捲くように登るとある。
捲きに入るがここでも這松の藪漕ぎとなる、右に左に猛烈な密藪、取り着きの藪より傾斜が加わり、這松の壁を登っている様な状態が続く。先頭を行く一典さん の頑張りで岩稜基部下の草の斜面に出る。そこは一面のお花畑が拡がり展望は言うこと無し、下から見上げるとトリコニーの下に小さな緑のテラスが確認出来る 所で、山上の花園と言ったところか。
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ナイフエッジを越えて 南陵の頭にて

 ここで一息入れ更に上部の岩稜目指し登るとやっと踏み跡が現れた。これまで随分時間を費やしやっと顕著な稜線に到達することが出来た。
 カッパ橋から見上げると、穂高連峰の吊り尾根の真ん中に3つの岩峰が確認できる。これが南陵のハイライト「トリコニー」である、かってウエストンと嘉門次が辿ったであろうルートで、我々は今その右端の岩峰に下に到達したのである。
 ここからは打って変わって快適な岩稜登攀が続く、チムニーを抜けたりナイフエッジを渡ったり、一カ所だけ難しいところが有ったがノーザイルで全員切り抜 ける。このために地蔵岳東陵や堡塁岩で練習してきたことが活かされ、素晴らしいアルパインクライミングを楽しむ余裕が生まれるのである。
 谷を隔てた西側のコブ尾根には明宏・敏夫・ひろみ班が聳え立つコブの岩峰を登っているのが確認できる、しかも声まで聞こえてくる。よくもまあ登れるものだと感心している場合ではない、明日は我々も挑戦する予定である。
 我々はトリコニーの岩峰を難なくクリアし、南陵の頭へ向け更に稜線を登る。といってもホールドスタンスともしっかりしているのでグングン高度が上がり、 周りの景色も替わり前穂高や明神と肩を並べるようになってきた、しかし時間もお昼を過ぎガスが掛かりはじめ頂上付近は見えなくなってしまった。奥穂高の頂 上付近から声が聞こえる様になり南陵の頭が近づいてきたことが感じられる。傾斜も更に緩やかになりお花畑も一面に拡がる。最後にゆっくりと休憩し一登りで 吊り尾根に午後1時頃到着、標高差約千米を予定より2時間遅れ実に8時間の行動で達成できたが、達成感より疲労の方が勝り大喜び出来ない結果となってし まった。
 何はともあれ、クラッシックな南陵を登れたことは事実で、又一つ我が登山記録に残る山行であることも又事実である。
 私の我が侭に付き合い同行してくれた良き仲間に感謝いたします、今後とも60才まではクラシックなアルパインに挑戦したいと思っています。来年以降も我が侭にお付き合い願います。


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