北ア 奥又白池から前穂北尾根

松高ルンゼ  屏風の頭から幾つもの岩峰を連ねた前穂高岳への稜線は、若い頃からの憧れで、一度は辿ってみたいと思っていました。
 幾度となく穂高に通い、涸沢から見上げるその稜線は、ただ憬れでしか無かったが、山岳会に入り岩登りの技術を覚え、良きパートナーに巡り逢い遂にその機会が訪れようとしている。
二年ほど前にも涸沢から一度挑戦を試みたが、技術不足と準備不足で断念した。
 今回は、強力な助っ人にも恵まれ、短い準備期間ながら大変欲張ったルートで挑戦する事となった。
 多くのクライマーが前穂高の岩壁に挑む基地になっていた奥又白池から、奥又白谷をトラバースして北尾根の56のコルへ至り、北尾根を5峰から前穂高岳頂上に登り、更に南の明神岳を5峰まで辿り岳沢へ降りるというルートである。

ルンゼ上部  当然の事ながら一日では無理なコース、途中1泊か2泊をツエルト・ビバークが必要なルートに決め、装備を出来るだけ切り詰めての挑戦である。
 稲美町を21時出発。三木小野ICから山陽・中国・名神・東海北陸道飛騨清見ICを通り高山西ICで高速道を降り、平湯温泉アカンダナ駐車場ゲート到着車の中で仮眠。
 朝6時入場し6時30分発上高地行き乗車。朝7時上高地到着、早速食堂で朝定食を注文。
 朝日に輝く西穂から天狗のコルまでの稜線がガスの切れ目から姿を現す。
 食事を済ませ登山計画書を提出し7時半出発。
 平日の為登山者は少ない。紅葉にはまだ少し早く青空だけが秋の気配を感じさせる。
 後十日もすれば涸沢の紅葉を見ようと大勢の写真家や登山者が訪れ、涸沢への道も大勢の人で溢れる事だろう。

5峰  通い慣れた横尾までの遊歩道をゆっくりのペースで歩く。明神に近づく頃梓川から望む明神岳の鋭鋒が目に飛び込んでくる。
 最南峰から切れ落ちるS字ルンゼやわさび谷、更に5峰から明神主峰へと続くスカイライン、いつ見ても圧倒される。
 今日は特に天気も良く、明るい陽射しを浴びながら2時間ほどで徳沢に到着。新村橋を右岸に渡り、奥又白谷に沿って樹林帯の中を登り、パノラマコース分岐で休憩し、いよいよ松高ルンゼ入り口に到着。
 航洋さんの提案で、中畠新道を登る予定を松高ルンゼに変更。覚悟を決め松高ルンゼに取り付く。
 すると、突然ルンゼから人が降りてくるではないか、しかも単独の女性。話を聞けば、中畠新道の入り口が解らず昇りかけたが難しく引き返してきたと言う。
 ルンゼの右に沿って急峻な岩稜が降りている、その末端の岩壁にレリーフが取り付けてあり、すぐ上の木にテープが結んであるのを確認し、これに沿って登るのだよと教える。

奥又分岐  今頃のルンゼには雪渓もなく水もほとんど流れていない。
 ルンゼ中央は浮き石もほとんど無く快適に昇って行けるが、左右の草付きに近づく程浮き石が多く、落石には十分注意が必要だ。
 急峻なルンゼを一直線に詰める。見下ろせば奥又出合が足許に小さく広がる。
なおも昇り続ける、さしものルンゼも漸く詰めになり、右へ草付きを昇ると稜線に出た。
中畠新道と合わさると傾斜も落ち、ナナカマドや紅花イチゴの中を昇るようになり、右に56のコルへの踏跡を分け、暫く登るとヒョッコリと奥又白池に到着。
 写真でしか見たことがなかったが、やっと本物にご対面。標高で2500m程、なぜこんな所にと思う。

奥又白池  ここからの眺めは素晴らしい。足許には梓川と新村橋、長塀尾根から蝶が岳、常念岳。南に続く六百山、霞沢岳。
 多くのクライマーが命を賭け挑戦した前穂高から明神の岩壁が目の前に拡がる。
 中又白谷源頭を少し降ると少しだが水も確保できるのを確認し、夕暮れまで時間があるので茶臼の頭(2535m)へ登る。
 南へ奥又尾根末端をトラバースし茶臼の頭へ向け踏跡を辿る。コルから岩混じりの稜線を一登りで頭頂上。
 ここからの展望は素晴らしく、下又白谷源頭の明神主峰から長七の頭への明神東稜や岩壁が迫りくる。
 尾根の末端にひょうたん池も見える。奥又白池から北尾根末端と屏風の頭、その奥には槍ヶ岳の鋭い頂、後立山連峰の峰々までよく見える。
 暫し展望を楽しみ脳裏に焼き付け池まで戻る。

茶臼から奥又白池  明日の準備のため水を確保し、それぞれ自分の寝床を作る。といってもツエルトを張るのだが支柱になる木もない。
 出発前好日山荘でツエルト用の簡易支柱を購入したのでこれを中心に三方向に張る。
 寝床も出来上がり夕食用にお湯を沸かし夕食とする。
 風も収まり、ガスも晴れ渡り、我々だけの湖畔でゆっくりとした時間を過ごせた。
 夜半冷え込みがきつく寒くなったので全てを着込む。
 ツエルトの中は、蒸発した自分の水分で露がびっしり、ゴアテックスのカバーのお陰で濡れることはないが注意が必要だ。
 朝までぐっすりよく寝ました。
 夜中に外へ出ると冬の星座のオリオン座と頭上には昴が輝き、素晴らしい星空。感動!!。

奥又白谷上部  翌朝3時半起床のつもりが寝過ごし4時まで寝てしまった。
 お湯を沸かし朝食を簡単に済ませ、装備を片づけいよいよ前穂高北尾根登攀である。
 ヘッドランプもいらない明るさの中、奥又白谷へ踏み跡を辿る。道は良く踏まれており、モルゲンロートに輝く前穂東壁を正面に進む。
 早い時期なら雪渓が残り、緊張を要するトラバースとなるはずだが、今は雪渓もなく簡単に奥又白谷のガレ場を降り対岸の尾根末端へ向けて更に降る。
 4峰からの岩尾根を回り込み5峰からの尾根を目指しガレ沢を登り尾根に這い上がる。
 急登につぐ急登、踏み跡を追う。所々不明瞭な箇所もあるが、忠実に尾根を辿ると漸く傾斜も落ち、最近崩壊が激しい56のコルからのルンゼを落石に注意を払いながらトラバースし、やっとコルに到着。

奥又上部トラバース  3リットルの水を担いでのこの登りはかなり堪えたが、念願のコルまでようやく辿り着いた。
 コルからは涸沢カールと奥穂高さら北穂高、遙かに槍の穂先までも一望、見慣れた風景が広がる。
 一息入れここからハーネスを着け登攀となる。
 岩稜を慎重に登る。2級上クラスの岩登りだが高度感と不安定な岩に気をつけながらグイグイと快適に登る。
 5峰を越え4峰を越え少し降り34のコルに到着。稜線から見る景色は雄大で素晴らしい。
 東側は全て雲海、これが本当の雲上の岩登りである。
 写真のようにここからは本格的な岩登りとなる。
 一段上がった所にハーケンが打ってある場所でセルフビレーを取り、航洋さんがトップで登攀開始

3峰の岩峰  8mm×40mのダブルロープを着け、35m程ザイルが延びた所でピッチを切る。
 上からOKのコールがあり、明宏さんと時間差で同時に登り始める。
 一旦奥又側へ出て凹角状を真上に登る、意外とホールドもスタンスも豊富にあり、すんなりと登れた。
 次のピッチは大きなチムニーを避け、涸沢側の岩屑の詰まった不安定な浮き石の多い凹角を抜け、左のカンテを登る。傾斜の落ちた岩だらけのテラスに着く。
 これより上はザイル無しでも登れた。結局ザイルを使ったのはこの2ピッチだけ、涸沢側をトラバースぎみにルートを取り登りやすい所を選んで行く。
 3峰のピークと2峰のピークの区別も付かないまま2峰の頭に出る。
 恐竜の背中の様な細長いナイフエッジの2峰からは10mの下降となる。2箇所ほど懸垂為の支点があるが、航洋さんの指示でクライムダウンで降りる。

前穂高頂上  慎重に足場を見ると手がかりも多く問題なく下降できた。
 残すところ頂上のみ、目の前の頂上へは一登りで到着。三角点でがっちり握手を交わし、憧れであった前穂高北尾根登攀を達成した喜びに雄叫びを上げたい気分だが、NHKの撮影クルーが居たので諦める。
 奥又白池を出発して6時間、緊張の連続と一寸重めの荷物を担いでの行動で3リトルの水を消費し、残り少なくなった水に不安を覚える。
 長めの休憩と食事を済ませ、後半の明神岳縦走に腰を上げる。
 明神主峰へは、重太郎新道と別れて稜線を降る。前穂の3本槍を回り込み更に降る。前半で力を使い果たした様で思うように降れない。
 これからのルートを考えるとこの状態では足手まといになり、今日中に5峰を越えることが難しいと判断し、奥明神沢手前で二人にこのことを告げる。

涸沢と前尾根  二人はまだまだ余裕があるので、このまま縦走を続けてもらい、私はここから前穂高へ登り返し、重太郎新道を降りれば夕方までに小梨平に戻ることが出来ると判断、上高地の小梨平で落ち合うことにし、二人と別れて前穂へ登り返す。
 ここから前穂まではガレた斜面を踏跡を辿りながら登り返すが、疲れ果てた自分には、この登りは特に堪える。
 一歩一歩が重く、少し登っては休みを繰り返しやっと頂上に到着。振り返れば明神主峰の稜線に二人の姿が見える。ちょっと悔しいがこの辺が限界なのかと感じる。
 今度はもう少しザックを軽くして挑戦してみようと誓う。
 一般道とはいえさすがに重太郎新道、いざ降るとなると疲れた体には厳しい。紀美子平までも長く感じられる。
 紀美子平で休憩をし、残り少なくなった水を飲み干し、岳沢ヒュッテに向かう。景色は相変わらず雄大で、雲海に浮かぶ白山や御岳まで見晴らせる。
 岳沢展望台、雷鳥平、かもしかの立場、と過ぎ真下にヒュッテの赤い屋根が近づき、太陽が西に傾きかけた頃小屋到着。

二峰頂上 さすがにこれから降ろうという登山者はいない。
 350円の牛乳を一気に飲み干し、リンゴをかじりながら上高地へ向けひたすら降る。
 疲れた足で転倒しないよう十分注意をし、薄暗くなりかけた頃ようやく上高地への林道に降り着いた。
 誰も居ない林道を疲れた足を引きづりながら歩き、明かりが灯る山小屋や旅館を横目に河童橋を渡り小梨平に辿り着いた。
 明神縦走の二人に判りやすい様入り口に近い広場に、ヘッデンを点灯しツエルトを張る。
 ここ小梨平はキャンプ場、この時期もう誰もキャンプをする者など居ない。
 やっと落ち着きツエルトに潜り込みバーナーでお湯を沸かし夕食の準備を始める。夕食といってもフリーズドライの五目ご飯にジャガイモのスープ。
 さあ食べようとした矢先外で声がする。こんな時間に下山する者がいるのかと思っていると、名前を呼ぶ声がする。なんとその声は明神縦走に向かった二人ではないか。

奥又白池を背景に いくら何でも今日は明神5峰下でビバークしてるはずの二人が、なんと一日で降りてきたのである。
 なんと強靱な脚力の持ち主なのか全く持って驚きである。
 聞くところによると4峰と5峰のコルから前明神沢を降って来たという。驚愕!。
 上高地の旅館へアルコールを買いに戻り、真っ暗な中テーブルを囲み、改めてお互いの健闘を讃え今回の成功を祝して乾杯する。

 翌日は朝ゆっくりと起床、朝食を簡単に済ませ、始発のバスで駐車場まで戻る。
 朝風呂に入ろうと平湯の森へ行ったが、早すぎて開いていなかった。
 それなら、白山スーパー林道途中にある親谷の露天風呂に入ろうと決まり、飛騨古川を通り天生(あもう)峠越えで、合掌造りの郷からスーパー林道を親谷まで移動、野趣溢れる露天風呂に浸かり観光気分で北陸自動車道・舞鶴道経由稲美町帰着解散。

 良きパートナーに恵まれ、長年の夢であった北尾根縦走を果たし十分満足の山行でした。
  残念ながら明神縦走は果たせませんでしたので、岳沢ベースでのコブ尾根縦走と明神縦走に再度挑戦したいと思います。

第1日目(28日) 稲美町21:00→三木小野・名神・東海北陸―高山―平湯→アカンダナP26:30(仮眠)
第2日目(29日) 6:30出発→上高地7:00→明神8:07→徳沢9:03→新村橋9:35→奥又分岐10:30→松高ルンゼ上部11:55→56分岐12:30→奥又白池13:10→茶臼の頭14:15(泊)
第3日目(30日) 奥又白池5:30→56コル7:35→34コル9:34→3峰中間10:48→前穂頂上11:35→A沢分岐下12:15→前穂12:45→紀美子平13:15→岳沢ヒュッテ16:00→小梨平18:00(泊)
第4日目(1日) 上高地7:30→平湯アカンダナ→古川・天生峠・荻町・白山スーパー林道・親谷露天風呂・片山津→敦賀・小浜→稲美町18:00

山行期間:2005年9月28日(水)〜10月1日(土)

参加者
  CL:雲水、SL明宏さん・航洋さん 計3名