MEMBER'S  PAGE  YOSHIKI(14)
   
一方、YOSHIKIはHIDEとの出会いをどう見ていたのか。『ヒデと俺との出会いって言うのは、結構、強烈でした。知りあった頃、彼はサーベルタイガーってバンドのリーダーで、彼も俺と同じで変な奴ということで有名で、彼とはぶつかるかもしれないなあとは思ってたんだけど、何回か会ってるうちに、ステージではすごいけど本当はいい奴だなと思えてきて、でね、しばらくしてサーベルタイガーもいろいろあって彼もバンドやめて美容師に戻るとかってなったんです。もともと美容師でしたからね。当然、他のバンドから誘いの声がいっぱいかかって、でも全部断ってたらしい。俺もその時はもう彼は美容師に戻るって言ってるから、そうだなと思って誘わなかったんです。でも、ある日、ヒデが、相談があるって言って来て、二人で飲みに行って、その後もう一度飲みに行った時に「]に入ればいいのに」って言ったら、「入るよ」って。』(『月刊カドカワ』1992年1月号p134)。さらに『VISUAL SHOCK』では『リーダーだし、奇抜なギタリストだし。昔ヒデのバンドに「入らないか」ってトシと俺が誘われたことがあるんだけど、2人別々に引っぱられたんだけど。でもそん時]でやりたいもんあったし入らなくて。でまあ、その頃からもうヒデとは知り合いになってて』(『同』p27)。“強烈”という出会いは、YOSHIKIの印象として、俺と同じくらい“変な”奴という同類哀れむじゃなく同類親しむ感を強く持ったんじゃないか。“変な奴”とか“奇抜な”はYOSHIKIのHIDEに対する初出会いの驚きを意味していると思う。初印象から言えば“彼とはぶつかるかもしれないなあ”という予感だが、当時初対面はみそぎのケンカをするのが当たり前のご時世、なにもそんな予感を抱く必要などない。当時のサーベルタイガーと]との落差は、カリスマと呼ばれるHIDEのバンドとボロボロバンド]という雲泥の差の如く歴然としていた。同格か上下近くなら、みそぎは行われていたが、歴然たる格差の違いにYOSHIKI自身もいつかは同じ格に近づいた頃に“みそぎ”(=ぶつかる)の“予感”を抱いたに過ぎない。それより、奇抜というアイディアに自分達にはない一種尊敬というか憧れというか、敵意を燃やす対象じゃなく、打ちのめされた心服感が起こったんじゃないか。HIDEに対しては一目置いた。よってHIDEには『俺は物静かだと思っていたけど。ある面では頑固だけど、いわゆるパブリック・イメージで言われてるようなイメージとは全然違うなあと思ってたの』(『同』p59)という印象となって映っていった。YOSHIKIの心服感というか一目置く姿勢が、HIDEのやさしさに触れるようになって、『何回か会ってるうちに、ステージではすごいけど本当はいい奴だなと思えてきて』(『カドカワ』)となったんだろう。HIDEが]に入ったYOSHIKIの“人間性”は、お互いの好印象の中で培われていった。それはYOSHIKIもHIDEの“人間性”に触れたということだろう。非難されてる]や周囲の評判も気にせず、]の打ち上げに参加していたHIDEもいい所を認めてのことなら、そんな]に格上のバンドの人が来てくれるというのは名誉な事だし、自分達を認めてくれているというのはその人への信頼に通じて行く事でもある。ケンカして仲良くなる、交際が始まるということが多いYOSHIKIの付き会いの中で、特異なコースを辿ったのがHIDEとの付き合いだったと思う。             さて、サーベルを解散して、YOSHIKIに“相談があるって言って来て”という“相談”は、『RANDOM』のリレー対談の出演依頼だったんじゃないかと私は見ている。解散の連絡なら、“相談”ということにはならない。何かを頼む為だったからこそ“相談”。解散して、もう「酒びたりの毎日を送っていたHIDE」(『Pink』p147)には前からブッキングしていた雑誌の対談があった。その対談にYOSHIKIに来てもらって、飲みながら自分のこれからを話し、YOSHIKIに何らかのエールを送ろうと考えていたんじゃないかと思ったりするわけだが、とっぴな発想だろうか。『カドカワ』のYOSHIKIの話では、HIDEは美容師になるんだと思っていて、『そうだなと思って誘わなかったんです』と言っているところから見ると、解散して美容師になる事は知っていたがバンドには誘わなかった。]にもうまいギターがすでにいたから誘う必要がなく、『VISUAL SHOCK]』p27にも『でもそん時は基本的に4人でやりたかった。で、どうしようかなって悩んでたんだけど、まあ、そういう声かけるかけないなしにして、その頃からたまに呑みに行ったりして友達付き合いしてたって言うか。で、その頃ヒデは『美容師になる』って言ってて、『じゃあ美容師頑張ってね』みたいな感じで結構呑みに行ったりしてて』と言ってるとおり、誘う気すらなかった。YOSHIKIのバンドの事情もあるし、4人でやろうともしていたのだし、のちのちHIDEが練習見に行くわけだが、ギターはHIDEの目から見てもうまいと思ったのだから、YOSHIKIにはギターをHIDEに取り替える必要もなかった。そのまま日が経った後、HIDEから“相談”の連絡があった。それがいろんな本で言う美容師になる事を告げた“最後の電話”であり、出演依頼の電話であったんでは。リレー対談だから、自分から次の人を紹介するわけで、紹介の相手には事情と日時と場所とを知らせないといけない。こじつけであるような感じもするが、サーベル解散の激震からしばらく日が経っていたから、無条件に断っていたバンドへの誘いも冷静になるにつれ、よかった思いがふと芽生えかけていた。大部分美容師になる決意の中にも、冷落ち着きの過程では揺れる部分も余裕として出て来ていた。ワンクッション置いたタイミングでのYOSHIKIとの対談が、 雪解けをもたらしたんじゃないか。対談には載っていないが、対談後も続いたであろう飲み話の中で、『じゃ、どう、練習見に来てみる?』と言う話になって行ったんじゃないか。練習みに来て、気が向くんだったらHIDEなら入ってもいいと思ってきたYOSHIKIは、『でもやっぱり一緒にやりたいなあと思って、バンドのメンバーに『ツイン・ギターってどうかね?』って聞いたら『いいんじゃない』って言うから、とりあえず練習見に来てもらおうっていうんで誘ったの』となった。HIDEも『どうせ暇だから行くわ』となって、対談の軽い会話の乗りで、暇つぶしに行っただけだったんじゃないか。入るとか入らないとか、そんなこと頭になく、YOSHIKIが言うんで暇つぶし。そして練習見て、蓋をした熱気があふれ出た。前後不覚になって、美容師の決意も入ることによる恥も、]の悪評判も、忘れてしまった。YOSHIKIの人間性とそのバンドだけがあった。意識の思考決断過程を通らず、YOSHIKIの『ヒデちゃんどうすんの?』(HIDEによれば)『入ったら』(YOSHIKIによれば)に『入るわ(よ)』と反応してしまっていた。 『そこばっかりは今はわからない』(『VISUAL』p59)となるのである。