MEMBER'S PAGE YOSHIKI(13)
境遇が同じでないと理解できない部分と言うのがある。置かれた状況が同じだからこそ、言わずもがなの部分。HIDEがリーダーのサーベルタイガーを解散し、美容師1本で行くとの最後の連絡をYOSHIKIにしたのは、バンドメンバー脱落や解散の悲哀を、YOSHIKIならその言い表せぬ悔しさ、無念さの全体を身をもって理解してくれる唯一の人と思っていたからかもしれない。前に『RANDOM』14号の、サーベル解散の連絡をしたHIDEとYOSHIKIとの電話内容を、対談の中の話としてあげましたが((8)で)、笑い話のトークこそがその奥に横たわる悲惨な現実を分かり合える仲間と言うスタンスがにじみ出ている。この苦しい胸のうちを、わかる人に分かってもらいたい。YOSHIKIの人間性に惹かれつづけていたHIDEが、自分のすべてを注ぎ込んで作り上げてきたサーベル・タイガーの終わりを、最後にわかる人に聞いてほしかった。その『RANDOM』のリレー対談“友達の輪っ!”は、HIDEからの紹介でYOSHIKIであった。取材をした上田優子のコメントは「HIDEの紹介してくれた友達は](エックス)のヨシキでした。まるで漫才でもやってるかのような2人の絶妙な話し振りに、爆笑につぐ爆笑。音楽談義もどこえやら・・・で、やっぱり大好きなお酒の話に花を咲かせた2人でした。」と。HIDEがYOSHIKIを紹介すると言うのが、この時期HIDEの心のうちをあらわしている。そして自分の最大の危機を乗り越え、吹っ切れたすがすがしさの対談が繰り広げられている。対談と言う設定も忘れ、2人が仲良く遊び会話を楽しんでいるのである。記事の最後には、HIDEについて「この対談後、なんと、エックスに加入!!」と記されている。その対談が、HIDEのYOSHIKIへの信頼をさらに深めた一つの出来事であったに違いない。その会話の解散の部分を再度あげると、 YOSHIKI『でもそういうのって、かえって触れたくないんだよね。このへんの気持ち他 の人には分かんないね』 HIDE 『君が一番分かると思うよ』 YOSHIKI『オレはメンバーチェンジには涙ものんだしね。ファンっていうのは、全く分 かってくれないんだよね。こっちがどんなに深刻な事だったかっていうの も、結局クビにしたとか言われちゃうでしょ。つらいものがあるね』 『君が一番分かると思うよ』に言い尽くされているHIDEの心情。YOSHIKIの言う『このへんの気持ち他の人にはわかんないね』『こっちがどんなに深刻な事だったかって言う』の部分が、HIDEの当時の心境にぐさりと届いていたはず。それは、HIDEの「もう一つ上を行きたい」欲求と友達を裏切れないやさしさのはざ間で苦しんでいたサーベル時代の苦しみを言い当てている。サーベルもご多分に漏れずよくメンバーチェンジを繰り返していたようだ。1986年と1987年の2回の解散。しかし前者は、新生サーベルを作る為の発展的解散。2つのいきさつは、「当時の練習方法や音楽性の違いから、あるメンバーと少しずつうまくいかなくなっていた。人間的には何の問題もない、とてもイイ奴だったし仲も良かったのだが、音楽的にもう一歩上に行くためには別のメンバーに変えなければ、ということになったのだ。だが、HIDEは、『アイツを辞めさせるのはイヤだ』と悩んだ。そして、考えついた方法が、「一度解散して、全員辞めることにしよう! 一から新しいメンバーを探して、やり直そう!」という事だった。・・・いったんバンドを解散させてしまったHIDEと俺は、猛烈な勢いで、新たなメンバー探しを始めた。まず、ドラムのコースケと、ベースのトキヒコが決まった。・・・HIDEのメガネにかなった腕利ききである。・・・(やがてボーカルkyoも決まる)・・・しばらくすると、またメンバーの選択に関わる問題がHIDEの心を悩ませることになったのである。ベースのトキヒコは申し分なかった。テクニック、音楽的才能、リズム、どれを取ってもピカイチだった。その彼と比べられたコースケは、・・まだ少しリズムが甘い所があるのと、練習も最後の方では惰性で叩いているところが感じられる、というのが当時のHIDEと俺の評価だった。・・・何より、人懐こい性格で、気持ちの優しい、ほんとうにいい奴なのだ。あくまで完璧を求める、という観点から見て、その時は物足りなさを感じていたのだと思う。そこへ、HIDEがテツという、とてつもないドラムを見つけてきたのである。・・ベースのトキヒコと並ぶくらいの逸材だった。「テツとトキヒコなら、関東最強のリズム隊ができる!いや、念願のスーパーバンドがついに実現する!」HIDEと俺は興奮した。だが、コースケに、言い出せない。やがて、俺の大学の学園祭に“SAVER TIGER"が出演することになり、リハーサルに、テツが遊びに来ることになった。テツがリハーサルにやって来てもまだ、HIDEは、コースケに言い出すことができないのである。そのうち、トイレからなかなか帰ってこないコースケに代わって、テツがドラムを叩いて、リハを進めていた。そこへ、コースケが戻ってきたのである。黙ってテツのドラムに耳を傾けるコースケ。しばらく叩いていたテツは、コースケに再びスティックを返した何事もなかったように練習を再開するコースケ。HIDEは、目をそらしたまま黙っている。だが、その時、コースケはさすがに何かを感じ取っていたのであった。大学祭でのライブが大盛況のうちに終って、聞きに来ていたテツも交えて・・打ち上げを始めた時だった。HIDEも俺も、落ち着かない。2人で視線を交わしては、「言わなくっちゃ・・」と内心呟くのだが、どうしても言い出せない。するとその時、コースケがぽつり、と切り出したのだ。「・・・オレ、サーヴェル、辞めるよ」 俺はハッとして、コースケを見つめ、続いてHIDEの方を見た。HIDEは、蒼白な顔をして、うつむいたまま、白くなるまで唇を噛み締めている。「このあいだ、テツのドラム見たけど、うめーよ。サーヴェルは、メジャーになれるバンドだから、テツの方がいいと思うんだ。オレは限界あるけど、サーヴェルのこと大好きだから、オレの分まで頑張ってメジャーに行って欲しい・・・」 HIDEが物凄い勢いで店の外に飛び出していったのは、その最中だった。俺があわてて追いかけたが、店の入口の外にはいない。なおも必死で探していると、店の駐車場の裏手で、うずくまったHIDEを見つけた。HIDEは、声を上げて泣いていた。暗い駐車場の地面にしゃがみ込んだまま、「オレ、もうヤダ! 人をこれ以上、裏切れないょ・・」と泣きじゃくっていた。・・・(新しいバンドになって)彼の中で、これだ!という確かな手応えを感じていたのだろう。メンバーチェンジのたびに辛い思いを繰り返し、去った人間も自分も血を流しながら、ようやく理想のメンバーが揃ったのである。さっそく、レコーディングの予定を決め、スタジオを押さえ、写真集をを作ろう!いろんなプロモーションやろう、曲もどんどん作らなくちゃ!と、毎日そんな話ばかりしていた。・・・そんなある夜、俺のアパートにHIDEから電話がかかってきた。HIDEは泥酔しているようで、半泣きなのである。俺が「どうした?」と訊ねると「サーヴェル解散しよう・・」と、一言呟いたきり、絶句している。驚いて詳しく事情を聞くと、メンバーの一人が抜けるということになったのだ。俺もショックを受けたが、とにかくHIDEと会って話を聞く事になった。HIDEは心底落胆していた。「ツケが回ってきたんだよ。裏切ったら、裏切られるんだ」 俺から見れば、HIDEは決してメンバーを裏切って来たわけではなく、リーダーとしてやむを得ない選択をして来ただけなのだと思うのだが、彼の中では自分は人を裏切ったのだ、という気持ちが強かったのだろうと思う。とにかく、その落ち込みようは、ひどかった。1週間後、話し合いを持ったが、抜けたいというメンバーの意思は堅かった。結局、“SEVER TIGER"は解散することになった。・・・したたかに酔ったHIDEは言った。「俺、カタギになるんだ」。(この最終の解散は、著者の“学生”という身分が、抜けるメンバーの早急にプロを目指す路線と合わなかったのが原因。HIDEはその事を知っていたはずだが、言わず、解散を選択したようだ。『Pink Cloudy Sky』(天国にいるhideの35歳のバースディに・・)荒木“REM"雅彦p125〜p142) バンドの悲哀を知り尽くしての解散。自分が作るバンドの宿命を思い知らされての解散。傷心のHIDEがどのように自分を吹っ切ったのか、大変厳しい悟りの中をさまよったに違いない。新しい道への決意を固め、立ち直るよすがを美容師とYOSHIKIにたくしたかった。バンドで自分ができなかったメジャーへの夢を、YOSHIKIに託したかった。対談の相手に選んだ事、対談の会話のフレーズに、いわずとも知れた思いをYOSHIKIが汲み取っているのが、先の会話のようでもある。『君が一番分かると思うよ』に言い尽くされているHIDEの思い。YOSHIKIの“人間性”にほれていた証かと思う。