REPORT 6

  2008,03,30  X JAPAN攻撃再開2008 創造の夜 東京ドーム  papa

6:25ライトが消える。一斉に歓声がこだました。まだ照明のつかない暗闇に、YOSHIKIのピアノが流れはじめる。中心スクリーンの中だけ、大きなまゆの命が宿ったかのようにスポツトライトがYOSHIKIとToshiを映し出し、スクリーンにも、ピアノ前にYOSHIKIと向かい合うToshiが映し出されている。楽譜を読むYOSHIKIの姿が映る。楽譜に神経が集中されてるように、少しの時間の“間”が入り込んだようにも見えた。伴奏は、すぐにボーカル部分に繋がった。ブロンズ像のように、YOSHIKIを見つめていたToshiが、体を歩き出すようなしぐさをすると、そこに『Tears』の、ボーカルを導く旋律が訪れ、左手をお腹にあてがい、左つま先をステージから立て上げ、「どこにー行けばいい・・」と歌い始めた。今日の第一声に、観衆の大きな声援が湧き上がった。3日目が始まった感慨か、それとも連続3日目の疲労か、「行けばいい」のボーカルに込めた強さが、声をかすれさせた。セキ払いでもしたくなるような声状態に聞こえたが、普通なら{どうしよう}と不安がさらに声の調子をゆがめるだろうが、そこはToshiの大舞台でも障害を難なく克服する能力と言うか、動じない昔の舞台慣れというか、歌いながら調整をしてゆくように見えた。体勢を次第に前かがみへと傾け、歌の世界に入り込めば重心がひとり下がるように、低めた体勢に歌詞に込める頭の動きが加わった行く。ゆったりとした歌調の流れに沿って、ペンライトが同じ周期の動きで前後に揺れてゆく。「流れる涙を・・」という繰り返しに入ると、お腹の手を外へ開き気味に体の緊張を抜き、YOSHIKIのピアノを見つめたが、コンタクトは生じなかった。再び、うつむき姿勢で、歌詞をつないで行く。YOSHIKIは2回目の「DRY YOUR TEARS」で、ピアノを走らせて区切りをつける。Toshiは間を推し量るようにボーカルの歩みを止めて立ち上がって静止、少し間隔を置くと「WITH LOVE」と肺活量の搾り出しの最後のひと息をも吐き終えるように、長く引っ張って静かに体勢を引き起こした。一呼吸置かれたような時間の経過があって、ギターの高音が低音へ滑り落ちる、風が通り過ぎる音階が発せられると、大音量の伴奏が同時に始まり、ステージにはきらびやかな照明が点灯、背後の巨大スクリーンが規則的なライトの光源を光らせ、ステージ上の大きなモニュメントが巨大なXを浮かび上がらせる。大きな中心ステージを囲っていたベールが、大音量の勃発と機を同じくして、落下していった。大音量に抱かれるToshiの声もまた、伸びやかに海を渡ってゆくかもめのように滑り出し、海を泳ぐようにジェスチャーを伴いながら、英語の歌詞を進んでいく。ボンボンが波頭のく崩れ去るしぶきのようにステージ側へなびいていく。YOSHIKIも歌詞を口ずさんで歌っている。大音量の伴奏が、視界を開けさせ、大海原の開放感をもたらした感じがする。「SOMETIMES OUR TEARS BLINDED THE LOVE」のくだりになると、ToshiがYOSHIKIのピアノの椅子に横入りをして、2人が同じ椅子にかけながら、ピアノとボーカルが仲良く合唱している。YOSHIKIがToshiの顔を垣間見る素振りにも、暖かいまなざしが感じられ、楽しそうである。「YOU'D LEAVE ME ALONE」と歌い終わるまで、そこに2人がけしていたToshiが、歌詞の最後を力を込めて立ち上がると、YOSHIKIはその姿を追い、また視線をピアノに落とす。Toshiは立ち上がり際の次の歌詞「TIME THROUGH THE RAIN HAS SET ME FREE」を広げた手をしまい込んで歌い終えると、正面向きの体の右手を前方に軽く押し出し、Vサインを客席に向けたのであった。興に乗って、自分も満たされ,満ち満ちて来たというところか、残りの歌詞をジェスチャー豊かに見せて歌うと、その後ろ姿をYOSHIKIが見つめる中、大きな気合の声を発し、マイクを右上に突き上げて、「DRY YOUR TEARS WITH LOVE」の歌詞を客席に促すのであった。大合唱が会場から発せられる。Toshiは、マイクを突き上げたまま、口パクで歌詞を合わして歌っていった。そして曲間の伴奏となるしょっぱなに「会いたかったぜー!」とToshiの叫びが会場に突き刺さる。スクリーンにはheathやPATAやhide、そしてYOSHIKIの演奏姿が順次、映し出されてゆく。「流れる涙を・・・青い薔薇に変えて」とToshiが歌い、気合の一声を発して、再び会場の合唱を求めた。客席が歌い終わるとToshiは「流れる涙を・・」と歌い出したが、そこで音声が切れた。YOSHIKIが瞬間、すぐに気づいて客席へのToshiの求めだと察知、自らも歌い始めて、歌詞の続きを促すという、Toshiの思いにあわせた協力をしていった。最後の「DRY YOUR TEARS WITH LOVE」を繰り返し、その最後の「WITH LOVE」を渾身の力を振り絞って、息続くところまで引き伸ばして、その反動のようなよろめきを伴って歌は終わった。
「TEARS」が終わると、ステージライトが消え、さらに巨大Xを浮かばせる照明も瞬時に消された。低音の音楽が、音量を増しながら、何かが近づいてくるような音響を創り出し、ステージ上のXのモニュメントが黄色く発色、後方から青い照明が上に向けて動的に照らされ、ドーム天井には、サーチライトの丸い反射円がゆっくり動いている。女性のアナウンスが、「東京ドームショー・・・」を含むナレーションを語り始めると、ステージ上空ドーム天井には、唐草模様の照明が映しだされ、ナレーションが「XJAPAN」の名を告げると、いくつもの「XJAPAN」が次から次からあふれ出すように、「JAPAN」を連呼して、その辺りに漂う空気や音や光を集約させるよう、物事が動いてゆくかのようにステージ照明などが光線の角度を上昇させてゆく。連呼が始まると、期待に膨らんだ胸の吐息が漏れ出すような歓声がひとしきり上ったが、観客のX交差の腕の動きは静止のままで、場内のペンライトの光は、闇のそこに張り付いて止まっている。上昇を続ける光線の角度が垂直に天を向いたと思われる瞬間に、「JAPAN」の連呼の30回目が到達、スパークのようにモニュメントXと天井Xが強力な黄色い照明を輝かせると、無数の発光源のストロボ点滅やレーザー光線が乱射され、『Rusty Nail』のイントロが、高音の金属音のメロディで始まり、ドラムのステックがシンバルを連打すると、大音量の伴奏が始まった。同時にステージ鼻から、火柱が天空にジェット噴射され、その熱線が自分を刺した様に熱く感じた(3日目の席は、アリーナA-4ブロック77番)。ペンライトが一斉に振られ、ステージ内モニュメントが赤く輝き、火柱が空中で白い水蒸気(煙?)へ変身、上昇のエネルギーを引継ぎながら、空中へ白い雲を巻き上げる頃、Toshiの「行くぞー!」の一声、花道へ駆け出してゆく。アリーナの自席からは、しかし、平面と人並みに視界が届かず、スクリーンを見るしか、ステージ等の状況は不明であった。勇ましい音が突撃を駆り立ててくれるかのように、PATAやheathが花道に繰り出してゆく。「記憶のかけらに 描いた薔薇を見つめて」と歌い始めながら、Toshiも駆け出した花道への運動を歩行に変えて、進んでゆく。YOSHIKIが軽やかにリズムに躍動しながら、はつらつと叩き始め、hideは愛嬌を振りまくように、舌を出したり、合図に微笑んだり、指さしたりと明るく振舞っている。ドーム全体は、手送り、ボンボン、ペンライトを送り振り出して、縦乗りを泳ぎ出した。歌い進んで「涙で明日が見えない」と歌い終えるや、Toshi「東京ドーム!」と大きく叫ぶ。「序章に終わった・・・胸に突き刺さる OhーRusty Nail」と進んで行く行程でも、PATAやheathは、晴れやかな表情で弾きながら移動して、活発な曲調に乗っている。Toshiが「OhーRusty 」で切ると、「トゥらー!」とかけ声、マイクを掲げて、客席の合唱をお膳立て、その間Toshiは、スタンド右後方の客席前へ、駆け出して行った。「美しく色あせて眠る薔薇を、貴方の心に咲かせてー」で「おりゃー!」。間奏を移動して、ステージ後ろの通路を左へ、左後方スタンドから振り向き前を向いて「素顔のままで生きて、行ければきっと・・・」と言う歌いだしが、よもや自分の前のステージのブリッジで歌い始めてるとは、はじめ気がつかなかった。群集に埋もれてしまった自分の視界は、目前の巨大艦船のごときステージ左端とスクリーン。ステージや花道の状態などは、目視がほとんど叶わず、スクリーン内に映ってるメンバーがどこにいるのかさっぱり不明。スクリーンを見上げてる視界に、面前の照明が明るくなったような感覚で気づくと、目前の艦船のブリッジ手すりに身を近づけ、Toshiが歌っているのであった。近くで見えるといっても、ステージまでまだまだの距離であり、少し前には、左花道をPATAが通り過ぎても人の歓声で振り向いて背伸びして、頭がちょっと見えて終わり。アリーナは近くて孤独と言う意外な側面に気づかされた。すぐ前のToshiは、奥からのスポットライトに後ろから照らし出され、大きく股を開いて、船首に立って歌っているように見えた。ゆったりした曲調の部分であったので、そのリズムに合わせたボンボンやペンライト、素手が前送りに出されていった。「・・・夜を終わらせて」とバラード的に歌い終えると、その流れの間奏が終わって次の曲調へ変わる節で「行くぞー、コラー」とかすれ声でほえ上げる。PATA、heath、YOSHIKI、hideの演奏姿が満遍なくスクリーンに登場、どれも躍動感ある楽しそうな演奏姿。「記憶の扉を閉ざしたままで 震えて 跡切れた想いを重ねる 変わらない夢に(本当は  青い唇に) Oh-Rusty Nail」と歌って「どれだけ」とかかりを歌うと、マイクを突き上げ客席に次のくだりを進めていった。「Just tell me my life 何処まで歩いてみても 涙で明日が見えない」は自分が引き取り、最後のセンテンスを、左手を開き、マイクを持ち替え、右手を開いて感情を表現して歌い終えると「オリャーー」と一際長くかけ声を引き伸ばして、歌を終え、花道をステージへ駆け出した。
ステージのもどったToshi が曲の終止を打って「オリャー」と叫ぶと、終止からはみ出したYOSHIKIのドラムが、止まりきれずに停止線を何歩かはみ出す様にシンバルを引っ叩いて止まった。叩いた反動で椅子へ乗りあがろうとして、体制を崩したが、かろうじて椅子に立ち上がると、締まった顔には本日のドラムの本番を叩き終えた闘志の残りと体力の限界との狭間で、笑顔を作る余裕はまだない。右肩をぐるっと回し、首筋うなじを左手で触ろうとする。ドキッ!とした人も多かっただろう。かつて名古屋でのライブが、背筋断絶で中止になったときのしぐさに似ていたからで、その手の動きに視点が集中してしまう。心配を杞憂(きゆう)にして1回触っただけで、ゆったりかがめた体を椅子から下ろした。ステージをゆっくり歩くスピードを止めると、Toshi「元気だったかー」と会場に呼びかける。一挙に大きな歓声がその返事のように巻き上がり、すぐに下火になると、今度は叫ばずに入られない心境の堰が切れたという感じで、歓声が次第に盛り上がって大きな一つの歓声になった。YOSHIKIがペットの水を飲んでいる。収まった歓声へToshiのMCが始まった。「いよいよ3日目が始まったぜー」。観衆は歓声と手を伸び上がられてこれに応える。「まさか3日間出来るとは、思わなかったぜー」。椅子に立ち上がっているYOSHIKIが、その言葉に笑顔を見せ、お腹の筋肉を振るわせた。中央花道をどんどん前進しながらToshiのMCタイムが続く。「今日は、10年間分の、愛と、でっかいまごころを込めて、てめえら最後まで、気合入れてゆけー!、こらー!」と声を高音へはずませると、ギターの効果音が首尾よくはいり、ドラムも喝采の音を入れる。「気合入れて行けー!こらー!気合入れてゆけーこらー!」と念押ししたToshi、今度は「スタンドー!スタンドー!スタンドー!、アリーナに負けんなよーおぃ。いいなぁー」。スタンドはやんやの喝采と言う状況。「アリーナ!、アリーナ!アリーナ!隣の奴に絶対負けんなよー、おぃ」。アリーナはこぶしを突き上げ、これに呼応する。「今日は、暴れん坊将軍で行けよー、おぃ」。ドラムとギターの囃子音が入ると会場は暗くなり、「ウィーケン、ウィーケン、ウィーケン・・・・」のイントロが聞こえ出し、ステージ中央からは、夜光虫の光の縞模様が両側へ流れ出した。「ウイーケン」の連続性が2回繰り返されると、YOSHIKIのシンバルが連打音を刻み『WEEK END』が始まった。きっぷうよく「I hear a knock on the door 激しくせまる
失いかけた意識の中で おまえがささやくーオリャー!」。波打つ立て乗りのリズムが突き上げる。スクリーンにはhideの赤とイエローハート、スクリーンの綺麗な輝き具合、綺麗だ。映像がくっきり見え、色のコントラストがすばらしい。YOSHIKIのドラムに反射する赤い色、ステージ全体を包む赤い色、あかりの光り具合がすばらしい。巨大モニュメントの外枠の縁(ふち)の輝き、ステージ内の構造物も赤い光りに照り美しい。
瀑布がリズムを打って落ちるような、ダイナミックな導入部。重量感ある重たげな前奏が繰り返されると、「咲き乱れた hateful black heart 心にせまる」のフレーズが、華やかな重ね着をまとう、云わば殿の奥方が着る重たげな中にきらびやかさの鈍光を光らせて、扉開いた。爆音の中でも磨耗のない気風(きっぷう)な声量、意識は背景と主賓のように歌詞を辿る声量に意識取られる。「研ぎ澄まされたtransient feeling 人波の中」、かなたの叫びを聞き耳たてる自分がいる。背景の重たげだった伴奏は、意識の目先が変わったのか心地よい感触に中和されている。ステージ、Toshiは半身開けた立像に腰添えた手の姿勢から、このフレーズを前かがみに倒して添え手を浮かす。「ヒステリックにざわめく風に 止まらない涙を」と立像にもどし、「胸に抱きしめ 孤独を色どる」をさらに前かがみの力を入れた。照明はウィークエンドリズムで点滅まばたき、波うつ観客の鏡面は、うねる波動の動きを揺らしている。YOSHIKIは黙々とステックを裁き、heathに PATAは、冷静な仕事人の弾き姿。「I've nothing to lose」にすばやく左マイクに持ち替え、右手を大きく胸開く。「(Love me  till the end)」スクリーンにはhideが相唱を勤める姿が見つめ下ろし、「Except your heart」右手マイクに持ち替えて正面向き「I've nothing to rose」右手マイクで左手水平受け手に横差出し、hideの相唱が入って、「Except your heart 」体を前倒しにゆっくり折りたたむ。押さえ気味の曲調に変わると、ステージ最前スピーカーボックスに左足を乗せ「手首を流れる血をお前の体に 絡みつけると一瞬のうちによみがえる記憶の視界を」通して、見えるドームのパノラマを見据えながら、「閉ざされ 笑いながら逃げてゆくおまえの姿を」とheathの相唱が加えられ、「見つめる傷ついたオレが立っている」足載せポーズのままに、左手をお腹の前に織り畳んでゆく。一転物語の顛末を締めくくるように、姿勢は大きく上向き右手の翼を広げ「ウィ ケーーーン」。それはある週末の話しでしたとでも言いたげにゆっくり音声を閉じると、「カッー!」の気合を絶叫、マイクを右上空へさし上げながら、ステージ左へ進み出した。「ウィーケン ウィーケン ウィーケン アマ アト マィ ワィ エン(Week End  Week End Week End I'm at my wits end)」hideとお客との相唱が繰り返され、「アマ アト マィ ワィ エン ウィ ケーーーン」の最後をToshiも歌うと、heathのベースが点描の音符を描くように差し込まれ、「行くぞー」のかけ声もろとも間奏になだれ込んだ。。hideのうつむき加減に見るギターネック、落とす視線の先には、クモの足並が激しく動く指先が間奏の主音をリードしてゆく。「オー」のかけ声でheathの演奏姿、続いてPATAの余裕もなく小刻みな、旋律を走る指先の振動を体に震わすギター演奏が展開する。YOSHIKIのドラム内の空間にも、間奏と言うのにただ叩き続けて舞い狂う姿が続いてゆく。
Toshiは間奏を聞きながら、ステージ右奥(ライト側)から左奥(レフト側)のスタンド側に進み、後方からステージを見つめる観衆に手を振り、「I'v nothing to lose (Love me till the end)Except your heart」の繰り返しを二度リピート、最後を心持音階を上げると、曲始めの重量感ある重たげな伴奏が曲の前半後半を区分けするように差し挟まれる。重たげな伴奏の中、スクリーンの映像には、Toshiが手すりに手を置き、観客に手を振るポーズ。(私)メモするうつむき視線を上げると、前方の小さな手すりの端にToshiが来ていた(当日席アリーナA-4ブロック77番)。まるでディカプリオの「タイタニック」の映画(だったと思うが)の船首のような、船先の手すりから身を乗り出す感じによく似ている。28・29日はスタンドからの観戦で、ステージは眼下の平面に見えたが、今日は前方仰ぎ見る高さ(床面より3m高と思うが・・・)にステージ平面があり、周りの人の壁とも相まって移動するメンバー(YOSHIKIを省いて)の動向がよくわからないと言う欠陥が、アリーナにはあるように思った。Toshiの位置を見てないのは私の特殊事情(メモで半分下向きで、動向を追ってない)でもあるが、スクリーンの画面と前方のスポットライトの明るさで、初めてToshiが前方に来たと気付き視線を合わすと、まさにタイタニックの船首にToshiが立ってる様に思ってしまった。そんな感じにこのアリーナの位置からは、小さく手の届かぬ先に見えたが、この広いドームの中の、数あるステージ(花道も含め)スポットから眼前に来てくれたといううれしさは格別で、近隣の観客が煽られるように歓声と手を上げるのと同じように、航路の先にすれ違うフェリーの、見ず知らずの客に手を振ってしまう懐かしさみたいな、あるいは助けを求める心境にも似たりで、思わず熱く手を振っていたのであった。曲は後半部へ突入、「I hear a knock on the door 激しくせまる」と花道を進んでゆく映像。この花道は3本ある花道の3塁側、すなわち私の右側面向こうにある最寄の花道であるが、ここを通過しながら「失いかけた意識のなかで おまえがささやく」と歌い進むToshiの姿は、声援立った人の壁で見えにくかった。歌詞を小分けするかに右手を軽く上下しながら「冷たい指先のばし 傷口に口ずけ 赤く染まった凶気を抱きしめーるーー」とスローダウン、YOSHIKIのドラムがシンバル、太鼓、シンバルと大きく叩かれ、小刻みなシンバル震打からスローダウンの後を追うと、ステージ後方背倒し巨大Xモニュメントがステージ全体の青い色彩の中で明るく点滅、やがて光度を落として青い色彩に統一されて行く様が5つのスクリーンにも映写され、「ヒョー」というToshiのアクセントが挟まれると、そこは煮えたぎった灼熱の世界から、極限の暗く凍てつく世界にワーク。凍てつく世界にYOSHIKIのドーム水琴窟(すいきんくつ)のピアノの音色がダイヤモンドダストのようにきらめき響く。先走る頭の音色は、その音を予想して鳴り始めるが、本物の音色の前には、もはや何の色合いもない。「鏡を見つめながら ふるえる体に 流れはじめた澄き通る血を 青白いおまえの心に 絡ませ幻覚に消えて行く最後の涙を 拾い集めて血の海にまどろむーー」の語るようなToshiのピアノ音へのハーモニー、聞き入ってしまう美しい世界が広がった。静かな抑え目のピアノの旋律、Toshiの語りにあわせようとチラ見の顔を向けるYOSHIKI、会場には静かな流れに乗ってペンライトがゆっくり泳いでいる。Toshiの気持ちの入れ方、感情のにじみは、歪む体の折れ曲がりやしわ浮かび顔の険しさに見て取れる。それはYOSHIKIの気持ちまでも緊張の張りを伝えていたのか、Toshiの「まどろむーー」の終わりにピアノの旋律を走らせると、ため息なのか緊張を解いたのか肩で大きく息を吐き、会場の方に目をやった。この世界に酔いしれた客の意識がよみがえるように拍手歓声がフェイントのようにワンテンポ遅れて押し寄せる。YOSHIKIは、会場を目礼のように眺め、突如押し寄せた予期せぬ反応に次への間合いを計りかねたのか、自分さえ半分酔っていた正気を得たようにスタッフの反応にすがる表情を見せた。「ウィーケーーーーン」Toshiの音が口先をつく瞬時を捉えて、語るべの世界に終わりをつける駆け上がり下りる旋律を鍵盤に走らせた。最後をひじの鍵盤つつきで4回叩きつけ、ドラムに戻る。ステージには、押し寄せるマグマたまりの圧力か、背倒しモニュメントの巨大Xが黄色く点滅し始め、背景の照明が熱色の発色を息づかせている。シンバル音が連射されると、「Week End  I still love you 」 Toshiの直立の姿勢上空真っ直ぐに伸ばされる右腕、「Week End But I cannot carry on」寄せ上がる歌音に腰かがめ、右手を横に広げて、歌詞の意味を恋人に求める気持ちをジェスチャーで観衆に表現、彼なりのミュージカルを演じてゆく。
「carry on」と広げた手をすばやく胸にしまい込み膝をかがめると、歌詞はリピートへ取って戻る。「手首を流れる血をお前の体に」ステージを進みながら「絡みつけると一瞬のうちに更みがえる記憶に視界を」とスタンド席を漠と指差して2度、指しての右手刀を切ると「閉ざされ 笑いながら逃げていくお前の姿を」披露の右手を広げ、「見つめる傷ついたオレが立っているーうー」とにわかに表情を緩め「行くぞー!」と、持ち替えた右手マイクの手を高々上空に突き上げた。「ウィーケン ウィーケン」と客の通常の合唱を予期して、Toshi自身は自前のアドリブバージョンを合唱にだぶらせ、「I'm at my wits end(アム アト マィ ウィツ エンと聞こえるが、何度聞いてもうまく聞き取れない)」の部分を正常にすべり込ます。繰り返されてゆく「ウィーケン、ウィーケン・・・」。フィナーレの様相に、YOSHIKIのステックが猛々しくドラムに食い掛かり、囲いの中で暴れる獅子がりょうりょうとたてがみを揺らす。Toshiはワンクルーの節々に小気味よいかけ声を注ぎ、hideはマイクに勇み立ち、客のウィ−ケンに箔(はく)を付け加え、PATAは風呂上りの高揚と爽快感に抱えたギターを爪弾(つまび)き、heathは編み込んだ髪を流してバッキンガム衛兵赤衣装に類(たぐい)する体をマイクに合わす。これを4度繰り返し、最後の繰り返しにToshiはアドリブをいれ、「ウィー ケーーン」と空を仰ぎ、力を抜くと支えを失った腕が下がって、終息の空気を吐いた。曲最後の「ウィーケン」の連呼に花を咲かせるよう、観衆の合唱には振り手や光り輝くライト類がステージめがけて矢叫(やたけ)びを放った。息抜くとどめにベースの一弦がはじかれ、激乱の曲終演の残り火がさまよい立ち上ったが、すぐに闇の中に潰えた。ライトが落とされ、5つのスクリーンが青い閃光を瞬かせて闇に呑み込まれ、消え急ぐステージ機器を尻目に余震の躍動を静められずに揺らめくペンライトの夜光がうごめく中、ステージは切り替わったプログラムを走り出した。巨大Xデコレイトが赤色に照らされ、ドームメロンパン天井に、同系の色彩が朝焼けの光り帯びると、ステージには一条のスポットライトが、夜陰の中に突き刺さる。ギターを掻き鳴らす騒擾音が入ると、「ギター、パーター!」とToshiの紹介、頭上の天日を称えるかの如くに愛名器を掲げ、ネックを首つかむ指をヤドカリ足のようにせわしく掻き騒ぐと、体勢は後ろへ反り返り、カーリーヘアーがしだ垂るように顔面は天を向く。「PATAちゃん、パーターちゃん」と照れをくすぐるようにToshiが囃子立てると、すぐに体勢を直立へ戻し、愛器を体芯に、爪弾く指を下へスライドさせると通常のギター構えを作って、ピックをフレッド上位へ掻き上げる。摩擦のギャ音が疾風の響きで通り過ぎ、PATAの面目躍如(めんもくやくじょ)水を得た魚、早弾きショーが始まった。顔の表面を仮面の演技のように動かし、彼なりのリズム感を体感したままに表現して、早弾きショーは、タッチを持ってheathに引き継がれた。
センター花道への降り口に、PATAから引き継いだ身を躍らせてくると、ここでheathは突撃体勢のポーズで一瞬立ち止まり、やわら群集の中の一本の回廊を見据えた。ソロ演奏の高ぶりをと一心に集めた視線を弦にショートさせ、演奏のポーズのまま、人波の回廊を沖へ漕ぎ出すように坂の花道を足早に平坦部へ入ると、立ち止まった左足にリズムを食(は)みながら短い一節を演奏、堪能には程遠いショートで打ち切って右手を掲げる。動き出しては次の一節の演奏と歩幅を進めてゆく。両端花道の先端の塔から、6〜8つのスポットライトがherathを照らし、挙措(きょそ)をうつす。進むうちに衛兵の銃を体に引き寄せ立てるしぐさにベースを直立、また進んで花道先端近くで腰掛の演奏。客に指を手招きして かかって来いよ と気ばむ。PATAもステージ定位置で、heathに助成の演奏。腰掛を、体をひねり上げて回廊への帰還に向かうheath、かすかなクラッシック調のバック音がにじみ始める。途中衛兵の銃立てポーズ。衛兵交代式はこれで終りと言う間合いが過ぎるとライトが落とされ、heathのソロは終わった。暗いホールに、シンバルがはじける軽快音、ベースが跳ね、そしてムードをいざなう管楽器(トランペット?)が口火を切ると、照明が左右にスイング、スクリーンにはヌードの女性が幕開けるシーン、ズームのカメラの先にはハーレムの主人公、蛇の威嚇のように吠えだす。白い煙幕、はべる羽毛のショールダンサー、主人公の無言劇の身振り手振りが踊って、ドラムペダルの鈍いアクセントがリズムを打つと「うっわ!」のかけ声、ステージには華やかな照明が点灯、ゆったりとしたリズムに導かれる「MISCAST」が始まった。
PATAとheathは、さきほどのステージ衣装のまま、Toshiは白シャツに白マフラーを垂らした衣装に着替えてある。それぞれがスタンドに立てかけてあるギター・ベースを体に抱えると、Toshi「どうもありがとよー」と発声、ギターの囃子音が差し込まれる。大きく笑って一息付くと「えーまあーあの、この東京ドームに10年ぶりにXJAPANとして帰ってきて(大きな歓声が湧き上がって来て、次の発言をさえぎる)、こんなにも熱く熱く、みんなに迎えてもらって、俺たちは幸せもんだぜ、おぇ(歓声。一旦鳴り止んだ歓声の会場を見渡すうち、再び盛大な歓声が湧き上がる)。今、流れているこの曲は、僕のソロの新曲です(歓声ではなく、苦笑いのざわめきが起こる)。カッコいい曲だなぁ(PATAが椅子から起立して立ち上がる)。かっこいい曲なんで、またみんなも聞いてくれよなー(PATAがToshiの頭の後ろを、やわらかくひっぱたく。その顔はまじめ半分の、余計な事言うんじゃないぞーの怖さもただよう。たたかれて肩を揺すって笑うToshi)。「あのー、PATAも、まぁこの10年間、あのちょっと僕はやせちゃって心配なんだけど、大丈夫(と言いかけると、会場から大きな歓声が湧き上がり、PATAが必死に顔前で、手のひらを左右にあおって、心配ご無用のジェスチャー)。PATAは、XJAPAN解散してからは、ライン(Ra:IN)と言うバンドをやってました。それで全国ライブ活動続けてきて、PATAも頑張ってきたぜー。PATAの新しいアルバムは、メタルボックスって言う、カッコいいアルバムがあるんだけど、そのアルバム、聴いてやってくれれよなー(PATAが起立直立して、2度お辞儀をして手刀を切る)。そしてheath(歓声が湧き上がって、持っていた白タオルを掲げて応える。すぐに下ろして自分の顔をあおぐ)、heathはこの10年間、やっぱりバンド活動をずっと続けてきて、かっこよくやってきました(歓声、少し身をかがめて合図)。heathの一番新しいCDは、デザートレインという、かっこいいアルバムがあるんで、これも聴いてくれよなー(身をガクンと動かして、合図)。そして今日は、hideちゃんも一緒にいるぜー(後ろのスクリーンを見る)。俺たちは、5人でXJAPANだぜー(大歓声が巻き上がる)。hideちゃんも、新しいライブのCDが出ます(前方を半口あけて、笑みをたたえ見つめる)。YOSHIKIは、いろんなプロデュースしてこないだ、たまたまテレビ見てたらYOSHIKIの、曲が流れてきました。あのー、あれなんだっけ(思い出す素振り、そして噴出し笑いをしてしまって)、あの千の風の人が歌ってました(Toshiも会場も大笑い。heathを指差して「見た、heathも見た」という口調の手振りをしてPATAに反転、「どう、見た?」の手振り)。PATAは知らなかったそうです(耳垢でも掘る様なポーズで、PATA苦笑い)。YOSHIKIはいろいろプロデュースやったりほんと10年間、YOSHIKIもホントに忙しくやってきました。VIOLET UKというかっこいいバンドも、やってます。それぞれのソロもみんな応援してくれよなー。そして、今回、新生XJAPANとなり、これからまだまだ、現役バリバリとして(歓声)、やって行くんで、XJAPANを応援してくれよーおぃ(大歓声)。
と言う事で、今回の、この3日間のコンサート、初日は2時間以上遅れてしまいました。昨日はオンタイムで始めました。オンタイムで始まってほめてもらえるバンドって、いいね(Toshiも笑い、会場も)。この3日間のコンサート、ホントにめまぐるしく毎日毎日、いろんな、とたんになってチェンジがあって、XJAPANのコンサートやるとホントに大変なんだよね。およそ5千人のスタッフが、今日のコンサート作ってくれまいた。スタッフの皆さんありがとよー(テンション高く、呼びかける)。特に言いたい、お礼を申し上げたいのは、イベントを、イベントを作ってくれたオンザラインの西さん、貴方なしではこのコンサートできませんでした、ホントにありがとうございます。そして、XJAPANコンサート実行委員会のマシモさんはじめ、スタッフの皆さん本当に、ありがとうございます、感謝してます。いつもわがままを聞いてくれ、対応してくれる、俺たちがデビュー前からずっと、スタッフでやってくださってる、舞台監督のマシコさん、ありがとうございます。いつもかっこいい照明を作ってくれているイワサさん、ありがとうございます。いつも心と腹に響く、音を出してくれているヨシミさーん、ありがとうございます。それから、もうアマチュア時代からずっーと、バックステージを支えてくれているバックステージの杉本さん、ありがとうございます。ホントに20年間、多くの人に支えられて、こうしてまたコンサートをやる事が出来て、再結成する事が出来ました。ホントにこれまで支えてくれたみんな、ここに今日来てくれてるみんな、ホントどうもありがとう(声を上ずらせて呼びかける、会場からも大きな声援)。そして、10年前、解散してからも、こんなPATAの事をずっと応援してくれていた、PATAのスタッフの皆さん、PATAを応援してくれた皆さん、ホントにありがとう(声、張り上げる)。そしてheathも、10年間支えてくれた皆さん、ファンの皆さんありがとう(heath立ち上がって、敬礼で180度回転)。それからhideの事を(と言いかけると、大歓声)、みな熱く熱く忘れずに、応援してくれてありがとうよー。hideも喜んでるでー。そして、YOSHIKIの、一番大変な、YOSHIKIのスタッフの皆さん(笑い)、僕は10年間離れていたんで、でも帰ってきてからも相変わらず大変でした(笑いが起こる)。そんな変わらないYOSHIKIが大好きだぜー(歓声)。みんな、応援してくれてありがとよー(歓声)。そして僕は、地道でしたが、ほんとにたくさんの、地方地方回ったり、たくさんの施設を訪れたりして、おじいちゃんおばあちゃん達、ホントに感動ありがとうございました。そして、施設の子供達も、いろんな境遇で、ホントに必死に、いろんな思いかかえながら、生きてる人たちとたくさん出会って、生きる勇気と希望いただいて来ました。ホントにありがとうございました(Toshiの感情が微妙に揺れる)。ホントにいろんなことがあって、でもたとえうそ八百で、いろんな羞恥にあっても、大切な人や愛する人が、ぼろくそにやられても、それでも俺は、純粋さを貫いてきたぜー。絶対に負けないで、泥の中でも、はいつくばって生きてきてやったぜーおぃ(声を強める)。だから、世界中の子供達、どんなに苦しくても、どんな逆境でも、どんなにいじめられても、死ぬんじゃねえぞーおぇー。輝いて強く生きてゆけよー。負けないで生きてゆけよーおぃ(この辺の呼びかけには、高揚感がみなぎっている)。じゃ、この曲を、みんなで一緒に、歌いたいと思います。おめえたちの声聞かしてくれよー。(静かに小さく)ワン、ツー、スリー」。PATA、heath、Toshiの3人で演奏し始めたのが、Foever Love。ギターの旋律にベースが深みを与え、Toshiのボーカルが静かに入った。しかし。声がまともに出ない。泣き声が混じっている。高ぶった感情でのどの声帯が変調、姿勢を後ろへひねったり、首をかしげたりで、明らかに対応に苦慮している。伴奏はそのまま進行してゆくうち、会場から同じ歌声が始まりだした。感情の堰は、さらに大きく切れ、声につまり、泣き顔に口元を食いしばる。ゆったりとしたペンライトやハンドウエーブが寄せては返す反復を繰り返し、大きな応援の風が反復のうちわにあおられて届いたのか、曲の中ほど「また 溢れ出す All my tears」が過ぎると、「行くぞー」の大きな気合のかけ声。何かが払われて、声帯はほぼ元に回復したようになった。次のワン小節を正常に歌い終えて「Oh Stay with me」で締めくくると、ギターの演奏が止み、Toshiがスタンドにギターを立てかけ、スタンドマイクのマイクを取り、立って花道を前へ少し歩き、アカペラで歌いはじめた。ワン小節4行「・・・・・Ah 失うものなんて 何もない 貴方だけー」とさっきの演奏位置の戻って、次第に腰をかがめて歌い終えると、そのかがめ腰のまま「カッーー!」と気合、身を起こし「Forever Love・・・」と口火を切って大きく両手を開くと、場内にはボリュームが上げられたheath・PATAの大きな楽曲が鳴り、同じくして大合唱が湧き上がった。Toshiは歌いながら、heathに近付き、右手で肩を抱きかかえるように姿勢を落とし、顔を近づけ並ばせた。次にPATAに近付き、マイクを持ち替え空いた左手で、肩を抱え顔をひっける程横面に近づけて親愛感を示した。その後は自分の位置の戻り、大合唱に支えられて、身振りを交え腰をかがめ、手を空中に這わせ彷徨わせながら、最後の手前まで歌いきった。最後「Forever Love」は歌わず、両手を広げ、片方にマイクを差し出すように伸び上がると、会場からは合唱に続いて拍手と歓声が沸き、静まる頃合にToshiは掲げたて手を力尽きたように落とした。PATA・heathの演奏も程なく終わり、PATAが顔を上げるとToshiがすでににこやかに見つめて、目礼をしながら何事か声をかけた。PATAがぎこちなく、目線を避けたがその表情は緩まったように見えた。Toshi「ありがとよー、お前たち、愛してるぜー」と感謝を叫んで,3人はステージを後にした。ステージを去るPATAの背を、Toshiが押してゆくように2人は去った。
7時21分、3人がステージを去ると、暗転した場内には、クラッシックの静かな曲が流れ始め、青い光がステージ背後の巨大X構築物を中心に光り輝いた。冷めやらぬ歓声が低く漂っていたが、館内の音量が大きくなるにつれ、次の展開を期待するざわめきに取って代わられ、YOSHIKI!の名を叫ぶ絶叫も聞こえる。2分ほど経過すると青い光に照らし出される黒い人影のシルエットがステージ中央へゆっくり進んでゆく。それを確認する歓声が盛り上り、彼を照らすスポットライトが当てられると、鮮やかな薔薇の真紅が両手に握られ、垂れた花弁を前へ進めている。中央花道辺りで、一瞬躊躇したものの急に走り出した方向を左花道(ライト側)へ取り、花道の平坦部までの坂を歩いて再び先端部までを一気に走り出した。先端近くで仰向けに寝転ぶと、黒いシースルーの上着からのぞく胸板やあばらまでもが大きく波打って、栗毛の茶髪をオールバックに道に垂らして瞑想の表情を上に向けた。すぐに半身を立ち上げ、左右を垂れ髪を振り払うように振り向き、立ち上がって花道左右に薔薇を投げ入れる。そして花道を戻り始めてすぐに、片手の薔薇束もろともX交叉に連れ合わせ、くるりと1回転して花道を駆け出した。ステージを駆け抜け、一気に中央花道の坂を駆け下りたが、平坦部へ入るところで足が少しもつれ、すんでの所で転倒を免れた。中辺りまで駆け行き、大きく両手を叫びと共に突き上げ残りの薔薇を投げ入れた。きびすを返して花道を戻る。うつむき加減に、時に髪をかきあげ、左右を眺め、振り返り際手を振って、ステージへゆっくり哲学者のように。登場からここまで、YOSHIKI一人の存在がショーをつくり、視線を集め、歓声を引きも切らずに止ます事はなかった。哀愁を帯びた曲が鮮明になって行くにつれ、ステージまで戻ると歓声は、次のショーとの凪のように静まり、人波の海に吹いた風が、凪の静まりを境に、ステージ上段に置かれたクリスタルの山頂から海に吹き始める瞬間を待ち焦がれるように息を静めた。上段への階段を、革被のしなやかな足で踏み登ると、ステージバックスタンドの観衆に手を振り、一かきの払い髪をして、ペダル位置を確かめ、ピアノに着座。居住まいを正すように上着を直し、髪を払い、袖ながをたぐり上げ、鍵盤に視線を落とす。つづいて鍵盤に手が置かれるシーンが想定内の誰もが思っているところ、かしげ顔を不意に客席へ向け、じっと見つめる。愛嬌の表情に虚を突かれた観衆が、とっさに反応できず、フェイントのような間を経て歓声が押し寄せたが、その反応までの数秒、ニヒルな愛嬌の数場面をつないで、押し寄せる歓声に微笑みを浮かべた。リラックスして、自分を解放して、虚無になって、短い時間に作り変える自分の感情を新たに充填し終えると、深呼吸を吐くかのように大きく首をうなだれ、吹っ切って取り掛かかる意思を確かめるように両指を髪に払い、左手を鍵盤に乗せ、意思を統一、右手を添えた瞬間に音階が走り出した。指慣らしの練習、カノンと言う練習メニューかと思う(あてずっぽうですが?)が、ひとしきり音階を上下にまくし立て、最後に和音的な結束を3度打って、上着の腰下を後ろへ払い、手首をブラブラと振り下ろして、両肩を後ろへ大きく回し、練習の域を終えると、客席からは見計らっての声援、表情を緩め、その柔和な表情を鍵盤に向けながら、Without You の旋律が流れ出した。 
メロディーが始まると、しばし歓声と拍手が湧き上がった。手首の首を操り人形のようにつまみ上げ、そして鍵盤におおい被せる独特のしぐさが、つま弾くメロディーの流れに息づく、2つの生き物の営みに映る。うつむき加減に見つめた視線を不意に背筋立て、hideへの追悼のメロディーに魂がさらに注がれると、Toshiが壇上にゆっくり歩を運び、ピアノのそばにはべった。Toshiがスタンバイした事を一瞬の目線で確認して、入魂の表情に厳しさに宿して、さらにプロローグが進んでゆく。YOSHIKIの弾き姿を見つめ、視線を落としてじっとくちびを開く瞬間をまつToshi。青い光の照明が、安らぎの中に言い知れぬ寂寥を漂わせ、マイナーの響きに連なるピアノの音粒の一つ一つにhideへのメッセージが込められている。やがて音階の起伏がなめらかな水平の表面を進むと、YOSHIKIの顔がゆっくり正面姿勢に戻され、Toshiとのコンタクトが交わされた。歌の始まりの期待かhideへの呼びかけの高鳴りか、会場には次第に歓声が押し寄せ始めて、YOSHIKIが歌詞の始まりの合図に、首をすぼめ口で空歌の歌い出しをジェスチャーすると、腰に手を添え右手ハンドのマイクを唇に接して、わびさびの境地にも似た感情が押し寄せる澄明な、しかし、しわがれたかすれ声とが合わさった響きが、ドームの静まった闇に沁み入った。「歩き疲れた 夜にたたずむー」、直立の姿勢から静かに歌い始めたToshiが、すぐに力を込めた姿勢に腰かがむと、YOSHIKIも肩に力がこもった動揺をもって鍵盤の音勢を強める。「流れる涙を 記憶に重ねてー」、Toshiが正面向きで、左指を開き腕の伸縮を操作すると、次へのステップのように体を延び上げたYOSHIKIが弾ませ叩く鍵盤に促されて「出会いの数だけ 別れはあるけどー」(途中歓声が上るとスクリーンにはhideのつばあり帽子をかぶった振り向きざまのスナップ)、Toshiは上向き視線に会場を視界に捉え、マイクを持ち替えて右手を広げてうつむきたたむと、YOSHIKIの上下の揺れも大きく波打ち、よじった体で会場へ視線を向けた。この歌詞の途中より、スクリーンには若かりし在りし日のスナップ映像が楽しかった日々の追憶をよみがえらせて流れ、「限りない時が 続くと信じてたー」とその日々の永遠を信じた事、紛れもなく心からそう信じた懐かしさを慈しむように、歌はしみじみさを、下げたトーンに表現した。「傷つけ合った 言葉さえ今は抱きしめー」と一際音勢を高めて歌うToshiの背後には、スクリーンに踊るYOSHIKIの腕X交叉の旅スナップ、壊れたギタリストhideがギター弾きながら飛び上がり、駆け出しては叫びおどけるライブ姿、Toshiがメンバーとステージでとびはね、たてがみを振り乱し今にも駆け出す在りし日々。「振り返るだけ アビラのー」「あー ハッシュ ラ ラブ  ハグ ラ ビルWithout You」。このさびの歌詞がわからないと言うのが、深い傷を負ったYOSHIKIの心の痛手が今なお、回復し切ってない闇を象徴するかのように、私たちにも闇となっている。hideやToshi、YOSHIKIのライブ表情のアップが挟まれ、「数え切れない 思い出や時間を 埋め尽くす」と歌い終えると、ライブ終了をメンバーで万歳する場面の近くで5人そろってhideを肩車で上げてるスナップ、赤いベレー帽をかぶった球場リハーサル風景がスクリーンに登場、hideへのコールや歓声が、YOSHIKI・Toshiの競演のすばらしさの拍手も兼ねて、間奏が流れる中、一際巻き起こった。
Without Youの旋律の一端をはじめて聞いたのは、5年前のhideの7回忌、hideミュージアムの献花式の厳粛な式場内だった。耳はピアノを、目は足をくつろぎ投げ出す遺影のhideの顔。ドーム内には、ピアノの間奏が、魂の奥底に届けとばかりに寂寞のこみ上げをいざない、辛く悲しく、一人一人にいろんな場面を呼び覚ましながら、鐘を打つように心打ってゆく。その中に、各人それぞれが最初に聞いたWithout Youの場面も起想したに違いない。真珠の玉を譜面に乗せて、Xやhideへの応援の小旗を真珠に添えれば、譜面の音符は、固いきづなのYOSHIKIの指から皆の心に、真珠の銀白色の輝きを、輝き続けるいろんな場面と共に届けてくれる。悲しみがこみ上げる瞬間に、思い出や楽しい場面が湧き上がる。万華鏡のように華やかな彩り世界が蘇るようで、闇のぞく衝撃の日が覗き込む。ジキルとハイドになったのか。表裏2面を絶えず表情に宿す多性格になったのか。トラウマとハイテンションがうつとそうを同時に住み込ませてしまったのか。ロックと静かなピアノの隔世の世界を同時に行き来する・・・いやこの曲は揺れ動き転がり続ける、得体の知れないXの、つかみようもない性格を併せ持つリーダーの、眼前にうずくまり白い鍵盤に指を食みクリスタルの音色を山頂の頂で奏でるYOSHIKIの、hideへの思い、同時に自分の内面をうつしつつ、ファンへの思い、メンバーや関係者への思い、万人に届けたいとするYOSHIKIの寂寥と感謝をつむぐメッセージかも知れない。深くhideへの感謝や帰依を前面に押し立ててはいるが、深く一個人に思いをはせれば、それに連なるいろんな人が思い浮かんでしまう。今まで会った全ての人が、今の自分を支え、創り、これからも周りにいてくれる。孤独な悲嘆に暮れたあの日から、周りを見れば見捨てず変わらぬエールを送り続けてくれるいろんな顔が、このドームを埋め尽くす。確信なき自信で突っ走った若き日々。しかし、時の移ろいはいつまでも同じ状態を保てず、崩壊へと進む。しかしYOSHIKIにとって想像だにしなかったhideの喪失は、将来の夢を根こそぎ打ち砕いた。ファンにとっても前途絶望に、一縷(いちる)の夢(再結成)は完全に潰えたかに思えた。hide個人の喪失の悲しさに加え、将来の基点の中心人物の喪失と言う現実に、無念極まりない状況に陥った。そこから這い上がってきた長い道のりと執念、いつか願いは叶うの標語を地で行くXストーリー。解散までのサクセスストーリーとは、これまた裏腹のリバイバルストーリー。ファン一個人の内面から、リーダーから、音楽性から、長いストーリーに至るまで、極端な2面性を宿し移す運命共同体。Without Youは、得体の知れないXと自分の、どう影響し合ったのか、影響どころではない自身が得体の知れない人間に変身してしまった話、いわば軒を貸して(聴いて楽しむだけ)母屋を取られる(心底、ほれ込んで生活の中心にすえる)あるいはミイラ取りがミイラになる話を彷彿とさせる逆転の楽曲、よい意味でリバイバルを賛歌する曲に思えてくる。hideが亡くなって時を得ずにYOSHIKIがその心情を楽曲にしるしたと言うこの曲、そこから紆余曲折を辿りながら10年の時を得て、再結成、とたんにドームスリーデイズと超満員を達成、そして世界ツアーへ一気に飛躍するリバイバルサクセスストーリー、Yes,we can.Yes,we did.信じられない!!。間奏はほんの短いピアノの染み入る演奏、その数秒によみがえる場面や感情の数々。一人一人の心の中を走った旋律は、スクリーンに戯れるhideと YOSHIKIの、楽しいドーム終演の大笑い、跳ね回るhideの舞を映しながら、後半部へ入った。
「あなたを愛して あなたに傷ついてー」、スクリーンにはYOSHIKIとhideの底抜けに明るい蜜月とでもいう親密な関係が展開する。リハを終えての引き上げ通路のスナップか、その仲の良い関係に癒される反面、断絶のすさまじさに心痛む。「あなた」とは誰を想定したものか、YOSHIKIだけが知る永遠の謎ではあるが、異性への心情を吐露する場面が思い浮かぶ言葉ではあるものの、頼りにする人あるいは同じ仲間でも楽しく心引かれる存在と言う親愛・仁愛の心に通じる対象と言う意味で仮託を使えば、hideへの思いを一般的な表現に引き直したともとれる歌詞ではないだろうか。「愛という言葉の 深さに気付いた」と、ジェスチャーなく直立姿勢で歌うToshiに比べ、YOSHIKIの体は、次第に鍵盤に引き寄せられるようにうずくまり、心情に埋没するように沈んでゆく。次のセンテンスへ移り際、我を奮い立たせるように伸び上がり、天をあおぐよう、またこぼれ出す涙を吹っ切るように仰ぎ見ると「アッシィ リーメンバー  答えのない明日にー」の歌声に、スクリーンには笑ってるYOSHIKIが、ガキ命令を発してるhideを背負って発進する映像。YOSHIKIの体が大きくスイングするように左右に振られると「夢を求めてた 日々をー」とYOSHIKIに向き直って歌うToshi。そこには視線を交わす気持ちの余裕がないように、おのおのの持ち場に全力を傾ける姿が見て取れた。ピアノの旋律は、力強くた叩かれる鍵から感情がほとばしり、Toshiの歌声はみなぎる勢いを溢れさす。「あー 限りなく広がる空に もいちどー」と大きく右手を掲げ上げて歌うと、スクリーンにはheathとhide・Toshiが並ぶ3人へ、YOSHIKIが背負いあがる場面が流れ、hideの赤いベレー帽は前出のリハーサルと同じ日の公演終了のひとコマ。「もいちどー」と引き伸ばす歌声に、そこから湧き出すエネルギーに体を振るわせながら「生まれた意味 今を生きる意味を 問いかけてー」と右手を胸前で震わせ、こぶしを結んでうつむき姿勢に力込めた。歌詞が終わる寸前からYOSHIKIは仰ぎ姿勢になって、これからのフレーズにこめる自分の意思・願いを空の向こうのhideに届けよとばかりに天を向き、Toshiの歌声にあわせて口ずさんでいる。「あー ハシュ ラ ラブュー  ハグ ラ ビル Without You-」、スクリーンにはYOSHIKIを背負うhideが、棒つき飴玉を口から出しておどける姿。この部分、天を仰いで口ずさむYOSHIKIには、彼の衝撃の闇であり我々には歌詞の闇である、意味ある重要な何かが存在するんだろう。そして歌詞は最後へ至る。「終わりのない 愛の歌を 今あなたにー」、Toshiが静かに菩薩のような姿で歌い終えると、YOSHIKIもバウンドの強弱を織り交ぜ、終息への幕引きをつづった。スクリーンには、hideがYOSHIKIを背負うさっきの飴棒の続きの映像が流れ、客席にさよならの手を振り去って行く2人を曲の終わりにだぶらせる。曲は、始めの2小節ぐらいを再び余韻めくように繰り返し、スクリーンには5人がまさに万歳へ体勢を整えようかと言う場面、ピアノの高音部へなめらかに指を渡らせて終わった。終わるとYOSHIKIは、にこりとして顔をあげ、髪をひとかき後ろへ払い、開けた小口を結んで、不意にかしげ顔でこっちを見る。すぐにライトが落とされた。
消灯は、センチな気持ちを一刀に断ち切り、感傷に耽る間も与えないすばやさだった。闇が緞帳(どんちょう)の平面のように、引かれた振動に揺れてる。数秒後にはYOSHIKIのピアノが、I.V.のメロディーを弾き始めた。ドームの闇に散らばる光りが、ピアノやステージ周りにだけ寄せ集められたように、ここだけ美光に浴している。すばやく指がカノンを走ると、和音の太い旋律がたくましく起上がり、始まった曲の戦う意欲が攻撃のこだまを打ち鳴らす。「みんな、どうもありがとーう」とToshiの感謝が、ステージ下へ歩んで述べられた。控えに戻ったピアノの音量を静かに奏でながら、YOSHIKIが手元と客席交互に視線を落としながら、ゆるやかなメロディを注いでいる。Toshiが外れたイヤホンを右耳に、掃除の要領で差し込み「ゲストのギタリスト紹介するぜ」と声高に叫ぶと、YOSHIKIもその登場が一つの楽しみであるように微笑をステージへ向けた。「スギゾー」と叫ぶと、すでにToshiのそばに立っている彼は、タンゴを踊りはじめるように右手を直立に真上に上げ、熱帯鳥の赤い情熱的な胸羽を誇るように胸を突き出し、その紹介に彼なりの意気を見せた。上げた右手をなめらかに滑空させてギターを弾く体勢を整えると、弦を弾(はじ)こうかという瞬間に、YOSHIKIが駆け下りてスギゾーの前に滑り込み腰を下ろして見上げた。客席と自分の間に、黒いものが急に降って来た事に気付かぬはずもないのだが、ことさら気に留めるわけでもなく、ギターの演奏を続けようと考えた様だったが、見上げるYOSHIKIの視線にたじろいたか、視線をかわすように姿勢は揺らぎ、そこへToshiがYOSHIKIの横に加わり、2人で冷やかし見上げられる視線に、スギゾーも体勢を維持できず、ギターの弾き姿勢のまま崩れ落ち座り込んでいった。崩れ落ちる際には、スピーカーの箱に腰掛ようとしたのかしないのか、箱が横にはね動いた。突然先輩2人の、しかも縦社会の頂点の2人が下から見上げれば、少なくとも自分の見下ろす姿勢を同等の水平位置にまで下げない事には、とんでもない失礼になると思い、慌ててしりもちに崩れたんだろう。大笑いのYOSHIKIとToshi。そしてYOSHIKIは横ひねりに身をすぐ立ち上げ、何をするかと思えば、スギゾーが座り込んだ後ろに跳ね除けたスピーカーを引き寄せ、スギゾーにここに腰掛けるように促すのであった。スギゾーはYOSHIKIが何をしに急に立ったのか、自分の後ろで何をしているのか、ギターを持ちこたえての体勢では振り向く訳にもゆかずわからない。Toshiにマイクを差し出されて「in the rain」と歌い出すその後ろで、YOSHIKIにここへ腰掛けてと勧められて、普通では考えられない出迎えとやさしい対応に、面食らったに違いない。そのほほえましさと言うか手荒と言うか、ゲストと言う表現のゲストなりが、もはや一員になりつつある親しみを含んだもてなし方に見えた。ファンにも彼がhideのパートを受け持つ位置に次第になじみつつあり、違和感のない彼の存在がまた少し確かめられた。YOSHIKIのとっさのやさしさには、それを強固にするメッセージが宿っていたし、この暖かな雰囲気に見えるYOSHIKIの楽しさに、大きな喪失の影を薄める光を見出しはじめてくれているのなら、ファンにとっても光明だ。
YOSHIKIに勧められたスピーカーボックスの指示に、小さく肯いて跨ぎ腰を下ろすスギゾー。YOSHIKIは、スギゾーが腰おろすのを見て、ステージ中央へ歩き始めた。Toshiにマイクを向けられたスギゾーが、「in the rain  〜 find a way〜」と練習している。YOSHIKIはステージ中央のスピーカーボックスの一つに腰をかけ、右足を織り上げ、手はそのひざにかぶせ、或いは耳に這わせて、2人の風景を眺めてる。「おーらい、お前達の声、聞かせてくれよー」とToshiが練習を打ち切ると、ピアノへ駆け上がって客席とステージを見渡し、伴奏を始めた。Toshiが「find a way」と本番さながらに歌って、つぶやくようにin the rain と次の歌詞を先導すると「in the rain」と客席の合唱、雨降り出すときの確かめポーズ(両手を胸高で折り曲げ、雨??と言うポーズ)で客の合唱を促し、自分は中央花道を指導の先生となって進んで、find a wayと小声で先導、客「find a way」と合唱。合唱はさらに続いてゆく気配なのに、ここでYOSHIKIは何を思ったのか急に立ち上がり、ステージ下へ下り始める。レフト側花道の方へ、客席を見ながら歌詞を口ずさみながら、左手は腰ポケットにかけ、反対手を歩幅に反動させて歩いてゆく。YOSHIKIがこっちに歩いてくる!。私の席からは、次第に竜巻が近付くような風と巻き上げる風圧が激しくなり、あっという間に去っていく。レフト側花道の坂を下ったところで、両手を真上に上げてのX交叉。両サイド客席へ視線を投げかけながら、中ほどで再びX交叉、左手は腰骨にあてがわれ、右手は下げられブランコの反復、うつむきかと思えば顔を上げての表情だが客席には積極的なジェスチャーを示すこともなく、花道端から下の通路に飛び降りた。ToshiはYOSHIKIが向こうの通路の真ん中ぐらいに至るまで、状況を把握していなかったのか、歌の教鞭を黙々と続行していたが、花道を飛び降りる頃には、指導は一時中止となってその声は止んでしまった。YOSHIKIが飛び降りると、そこには警備の伊藤さんがスタンバイで待っていた。警備の関係者や黄色いゼッケン「PHOTO」をつけた一団を巻き込んで進み始めると、万歳の手を挙げ、さらに行くと松本裕士も道開けに加わっていく。両サイドから延び出す手や拍手の手が岸洗う磯辺のようにあらわれてゆく。25mぐらいのアリーナ散策のハプニング。客にとってはドッキリハプニングでも関係者にとってはハラハラヒヤヒヤ。始まった曲を一旦やめて、アリーナ真ん中へ散歩に行くと言う、ありえないショーは、中央花道先端で待っていたにこやかなToshiの差し出す迎えの手の中へ、柵に足かけ転がるように身を投げ出して終末となった。転がり込んだ花道に仰向け腰おろしでToshiに向いたが、マイクが突き出されて、姿勢は届かぬように背ばいに沈んで後ずさり、さらに仰向け寝そべってしまった。「ここまで来たんだから・・・」とToshiの言葉もこもって聞き取れないが、ショーの間も静かに流れ続いている客席の合唱に乗り合わせ、歌の教科は始まり「find a way」とToshiが歌うと、自ら気合の一声をマイクの手と共に突き上げた
Toshiのマイクの突き出される危険が去ったと判断したYOSHIKが、半身を起こしてToshiの歌の教鞭を聴きながら、お客の表情を眺めている。「ヘィー!」とマイクを突き上げて、客の合唱を促し求めると、「find a way〜」となめらかな歌声がたなびくように流れる。ここで急にYOSHIKIは立ち上がり、Toshiの上げてる手の腰周りへ右手を指し延べて2人肩組みかわし、道草を連れ戻すように花道を戻り始めた。2人の肩組に歓声が上る。意気投合し合った2人、途中YOSHIKIの左手Vサインから首かしげる愛嬌ポーズや両腕X交叉のポーズをにこやかに挟みながら、戻ってゆく。X交叉からは、肩組は終わり、2人並び平行して戻っていく。Toshiは自由になった右手のマイクで「in the rain」と歌うと、戻りながら両肩まで上げた半万歳のジェスチャーに客は「find a way」とコーラスを返し、Toshiが「in the rain 〜find a way〜」と続けて歌うと、すでにYOSHIKIはピアノへの階段を駆け上がり、シースルーの黒の上着を脱いでスタッフに手渡し、イヤホンをつけてもらったり。客が切れ間なく「in the rain」とつなぐと、Toshi「I'm calling you,dear」と一歩を踏み出し、「find a way 」のコーラスへ、「Can't you see me standing right here?」と進んでゆく。客「in the rain」、T「I'm calling you,dear」客「find a way」T「Can't you see me standing right here?」客「In the rain」T「Life's bleeding from fear」で、Toshiが1回転、YOSHIKIのスタンバイ状況を一瞥する。すでにPATA、heathはスタンバイ。スギゾーは長い長い待ち時間をどうしていたのか、ルナシーの公演では考えられない冗長な時間の遊びを、どう感じたんだろう。まあ、Xの領域に入れば、こんな事は普通の出来事なんだが。「find a way」「Can't you see me standing right here?」、曲の歩調は確実に一歩一歩を歩んでいて、Toshiと客の掛け合いはさらに「in the rain」「I'm calling you,dear」「find a way」「Can't you see me standing right here?」「in the rain」「Life's bleeding from fear」「find a way」「I will give it straight from my vein」とドラムに振り向いたToshiの発声が高音へ登りあがると、その引き伸ばされる声量が尽きるまでには、観衆の大きな歓声が湧き上がり、YOSHIKIのシンバルの連打を合図に、大音量が場内に轟き始めた。大きくリズム立つ伴奏の中へ「行くぞー」のToshiの叫びが切り裂かれ、スギゾーのギターを軋ます騒擾音(そうじょうおん)がどこか押し寄せる不安を掻き立てる。
歌詞の部分が始まると、伴奏の騒擾のにごりが上澄むように、異物が沈殿して透ける。薬品を注ぐようにToshiのボーカルがガラス伝い落ちると、液の中には小さな積雲の渦巻きが、形作るや崩壊の広がりを瞬時に行き渡らせる。ちょっと安心な心持。Toshiの姿勢がワンセンテンスの歌詞の最後へうつむき、次の歌詞には起き上がり、沈んでゆくを何度か繰り返すと「freedom」と込めた言葉に力がみなぎって、何度も練習したコーラス部の、安堵の取り付く島へ辿りつく。途中はわからなくても、ここはちょっと自分が息を吹く返せる。大きなジェスチャーのギター演奏の上に、パフォーマンスの付録がまだあるようなスギゾーも、ここは素に戻ったようにコーラスにいそしむ。流れると言う場面を、見ることは出来ても記憶にとどめることは数少ないものだが、キラッと光るワンショットが得てして残るもの。YOSHIKIのドラムで首を半回転に振り戻す場面に、髪が遠心力にすそ広がりに開いた中を顔の回転が髪を引き絞って反動にまた開くと言うシーン、あーカッコ良いなぁと記憶に見入っている。コーラスが終わると、PATAの弦の振動が目に浮かぶような、粗い目の音質の地底の地鳴りが響いてくる。YOSHIKIがイヤホンを直して両耳を触っているしぐさが、襲い掛かる地鳴りに耳ふさいでいるように、音はダイナミックに心揺さぶって行く。ボーカルから粒拾える「This never・・・・somewhere・・・・injection・・・・my head,my love・・・before・・・・self」と言う単語。ジクソーパズルのピース並べが、今始まったような額の中に、試行錯誤の五里夢中をToshiの歌声が去ってゆくようである。2回目の安堵の島が来た。過ぎるとToshiが不安をあおる悲鳴をいやに吐き出している。スギゾーも遠吠えに歩調をあわせて群れへの警戒を吠えている。PATAとheathが、2人セッションで体を斜交いに重ねているが、危険に寄り添うおとなしい群れ内のメンバーに見える。hideがスクリーンにカメラアップで近付く空中カメラの映像で映り、平坦なリズムを刻むと、あえぎ声が息切らせる効果音が生々しく迫る。どういう場面が展開されてるのか、映像の消えた映画館の音だけの世界に置き去りされているようだ。ボーカルが再び始まると、重要な部分を歌っているようだが、次第にトーンが落ちて静かな世界に、コーラス部が静かに歌われ終わると、再びコーラス部が激しい音調で繰り返され、I..V.は終演となった。
YOSHIKIのドラムが、I.V.の締めくくる振動を小刻みに消えかかろうとしているところから、次の曲「紅」のシンホニーのイントロがかかりだした。盛り上がっている興奮の沸騰を、容器に冷まさずこぼさず手際よく移すように、受け皿を兼ねた新しい容器が、さっと差し挟まれたようだ。中央のステージは赤、巨大デコレイトXは青い照明に色分けられ、Toshiが中央コースを進んでゆく。hideのギターが和音の弦をつま弾くと、ステージスクリーンとデコレイトXクロス部のスクリーンには、凍り顔のhideが映しだされる。歓声がその登場に湧き上がる。寒々しい荒野の月明かりの中と言うスクリーンの世界、何を見つめるのか、彼の好きだった目玉のイミテーションの眼球が動くようにまぶたの奥を移動する。小刻みに顔の動きが出てくると、Toshiの凍てつく氷の断面のような歌声が、月明かりに微光をきらめかせて、忍び込む。暗い場内にはペンライトが可視のリズムを取り、合唱のコーラスが自然と心情を溢れさすように盛り上がって来る。Toshiがこれに譲って耳澄まし、最後の「to find the truth in me 〜」と併せると、ピックを引き取る口元から緊張を解きほぐした顔面に、hideの温かい笑顔が溢れて、すぐにスクリーンは消えた。シンバルが微動音を作って休止。一瞬の静寂に息を潜めて、なだれ来る怒涛の瞬間につば飲み込む。「紅だー!」Toshiの渡る一声の閃光。ドラムがタイミングのシンバルを連打すると、爆音の堰が全面に開かれ、ステージ鼻にはジェット噴出の火炎がすさまじく立ち上がり、天井の庇が亀裂音を発して、白いクモ糸の投網を投げ出す。炎の熱線が肌に感じられる程勢いよく立ち上って、燃えかすが天井から落ちてくるようにひらひらと表裏をねじらせて降り注ぐ銀テープ。ステージ内は赤いライトに照らされ、ストロボに瞬く光の乱射が乱れ飛ぶ。Toshiがステージへ走り出し、アリーナへ向きなおして歌詞の先端を吠え始める。スクリーンには赤衣装のhide、heathの赤に、PATAの黒、Toshiの白衣装にむき出し肌のYOSHIKI。点在するメンバーの個の動きを飲み込んで、ステージの大セットが大きく躍動感をたぎらせ、アリーナ平面は揺すられあら巻く水面の動き。Toshiがスピーカーに片足かけ、歌詞の進行に腕開いたり畳んだりの動作で荒れ狂う水面のしぶきに抗い続け、「すぐそばに いるのに〜」と大きく右手を開いて、高々と伸び上がって、「オェー!」と絶叫を発し、ステージをレフト通路へ走り出す。絶叫に銀テープを鷲つかんだ観衆の手が突き上がる。平坦への坂道から「人波に 消えて行く・・・」と駆け出しのままに歌詞を歌い始めて、「記憶の吐息〜」と走り続けたスピードを落とすと、「愛のない 一人舞台・・・」と片足を踏み鳴らし、「もう耐えきれない」と腰折る姿勢を跳ね上げ、白いマフラーを投げ上げる。
勢い込むToshiの身振り手振りが曲の熱した部分を突っ走り、「溢れる涙に濡れ〜」と歌い終えると、間奏に突入。激しい曲調とToshiのアクションに比例するように、YOSHIKIのドラムは激走に息継ぎも容易ならざるあえぎの小口をゆがめて、ペダルとステックを踏み、躍動の体を回す。hide・PATA・heathは、直立静止にたたずむように、激しさゆえの専心の技量にまい進している。「くゎー!」と一喝して、花道を駆け戻ってステージへ走り出し、YOSHIKIのドラムステージへの階段を駆け上りながら「行くぞー!」と曲間の節に差し込んで、YOSHIKIの後ろに辿り着くと、はずむ息を落ち着かせるように前かがみに俯くToshi。その表情は、駆け戻った鼓動の苦しさににが笑う表情から過激な乗りを楽しむ表情へ移ったかと思うと、YOSHIKIの後ろを数歩移動、「チョー!」とかけ声すると、YOSHIKIのシンバルを手掴む動作に、曲は一瞬の鳴りを潜める静寂となり、そしてドラムの一撃に続くリズム立てのステックが小太鼓を走ると、再び激走の音階を駆け上る。「行くぞー!」と気合を込めたToshiの張り上げが叫ばれると、ステージ後方の巨大なパノラマビジョンには、hideの特別どアップの演奏姿、背景にhide映す前にはYOSHIKIとToshiがヘドハンに上下する首を揺する。大きく笑うToshiの体がYOSHIKIにくっつくと、そこに頭をもたれさせ体を預けるように泳ぎ込むYOSHIKI。Toshiへの信頼と言う目盛りが、懐疑な多くのファンの気持ちを乗り越えて、YOSHIKI自身の今の心境を提示すればもっと先に進んでいることを指し示しているように見えた。それは曙光(しょこう)に見えたが、払拭できない不安は依然として居座るようでもあった。激しい音楽を鳴り止まして、無音の中をその光景は目に飛び込んで、脳裏に焼きついている。「行くぞー!」と声かかると、「紅に染まったこの俺を・・・」と歌いだす正面向きのToshiの体から、右手が高々とさし上げられ、その腕の下では、YOSHIKIが肩怒らせ頭振り乱し歯を食いしばる形相で渾身のドラミングに燃え狂っている。観客も我を忘れて、合唱に声張り上げる者、片手(両手)を振り下ろし体を上下に立て乗り泳ぐ者、全身の筋肉を動員しての躍動が場内を埋め尽くしてゆく。急に真横を指差し「慰める奴はもういない〜」と歌いつなげて、「もう二度と届かないこの思い〜」と再び真上に右手を上げて歌い、「閉ざされた愛に向かい 叫び続けるーー」と上げてた手を斜め下ろすと、「オリャー!」の叫びに下げかかった手を奮い立たせるように天に突き上げ、「YOSHIKIー!」と名を呼び上げる。YOSHIKIの軽快に太鼓を小走るステックさばきの響きが鳴ると、ステージ下に下りたToshiが、歌詞の繰り返しを歌ってゆく。「お前は走り出す 何かに追われるようー」と左手広げて歩きながら、そして片手を上げたその人差し指を一本指立てて「俺が見えないのか すぐそばにいるのにー」と歌い、腰畳むと、「行くぞー!」。「紅に染まったーウォー!」と身を床まで沈めて伸び上がりマイクを突き上げ、客の合唱を促した。
「この俺をーー」、打てば響く客の的確な反応の合唱。高く掲げた右手マイクへ、会場にこだまする合唱の声を集めるようにToshiの左手が下からせり上り、「慰める奴はもういないーー」のお客の合唱に口パクの空歌をあわせて行く。その客の一心な合唱を見つめるhideの映像が、お客さんもっと声上げて!という指差しで、自ら口ずさむ。YOSHIKIの単音のシンバルの響きがモノクロの映像のように叩かれ、その上をアカペラの合唱が渡って行く。単音のシンバルにペダル太鼓が加わり、場面の切り替えを音の変化に感じると「もう二度と届かないー」と歌ってゆくお客の姿に、しっかり歌ってるわ と振り向き、ハンドカメラに話しかけるhideの映像。全国から駆けつけドームに集ったファンと、天国から駆けつけドームに登場したhideが、メンバーと共にここでコラボのステージ。紅(くれない)にかけたhideの思いが、コラボに実現されてるようで、ほろっと気持ちがゆすられる。合唱は「〜この思い 閉ざされた愛に向かい 叫びつづけるーー」と歌い継がれて、その後をToshiの至高の声が、「紅に染まった!この俺を!慰める奴は!もういない!」と切なく絞り出す。呆然とドラム前に固まっているYOSHIKI。この歌詞が、hideを失ったYOSHIKI自身に、当てはまってしまう。「もう二度と 届・・」で止めてしまったToshiを、合唱が引き受け、「〜かないこの思い 閉ざされた」まで合唱が来ると、悲しさ誘うオーケストラ音に、Toshi、「愛に向かい 叫びつづけるーー」とうつむき歌い、うなだれた。
次の瞬間、シンバルの連打が鳴って、PATAのギターがスライド音を打ち上げると、大音量の攻撃が始まり、「行くぞー!くーれないっ!」Toshiの一喝が絶叫され、歌詞が途切れる。振り出される客の手あおりの中、中央コンコースへ走り出すToshi。YOSHIKIのドラムが、全開の勢いで叩かれ、両肩の波打つずれが体をひねり、反動に振り飛ばされて顔面や髪が横っ飛ぶ。右手マイクを空中に掲げて、走るToshi。客の合唱の進行に合わせて「なーぐさめ」と挟んで、マイクを掲げる、「もう二度と」で両手を広げ、「閉ざされた」とこま切れの歌詞を挟んで客の歌唱を持ち上げる。花道の先端辺りまで歩いて「くーれないに そーまった こーの俺を オオッー!」とマイク差し上げ、歌われる後へ「もーいないー」と水平に手を張り出し、「オーCrying in deep red」と歌って、コースを戻り始める。曲が最後の盛り上がりを作って、高音への音階を登り終える頃に、「オェヤー!オェヤー!」と叫んで大音量は終わったが、YOSHIKのペダルが太鼓を離さず、リズムを打っている。その主のYOSHIKIは、気が遠くなるような意識の希薄に表情がうつろになり、体が後ろに倒れ掛かりそうになったが、腹筋の引っ張りに姿勢を回復、ペダルだけが息絶え絶えに続いているようだったが、そこにToshiの「ラストナンバー行くぞー!ラストナンバー行くぜー!ラストナンバー行くぜー!!」と呼びかけながら、ステージまでうまく到達。YOSHIKIは、この合間にペットの水の口をあけ、PATAはToshiの客への呼びかけに、手を上げラストを盛り上げ。「オッケーィ、ゲストのギタリスト、紹介するぜー!ブラックバンドパンツ(はっきり聞き取れないのであやふや)からウィークリーバーガー ウィークリーバーガー! ウィークリーバーガー! イェー!」。heathは紹介するゲストへ、客の視線を振り向けるように顔高に上げた両腕をゲストへ流す振り。YOSHIKIはニヤニヤ笑いで、Toshiのそばまで来ているゲストに微笑みかける。「Do you say something?」とToshiに向けられたウイークリーバーガー、顔に道化師のようなペインティングを書き込んだ彼がマイクを受け取って「ありがとうございます。○○hide!」と挨拶して、後方へ下がった。「オッケー、ガッツ&ロータスからリチャードフォーター!リチャードフォーター!」。YOSHIKIはおさげ髪を手に巻くようなのんびり状態で成り行きを見守っている。ギターを目線に掲げて頭上へ敬礼の合図でフォーター登場。ハット帽をかぶりその下にバンダナ巻きか、赤いすそが見え、フォーマルな黒衣装で、顔にペイントなく穏やかな表情。Toshiに一言求められて「○○ジャパン!」と短く言って自ら拍手で挨拶に応える。「イェー!」すぐに振り返って正面を向き直ったToshi「じゃオメエらの、オメエらの本気 見せてくれよー!」とスピーカーに片ひざついて前かがみにすごむ。「気合入れて行けー!気合入れて行けー!気合入れて行けよーコラー!!」と、こぶし突き上げ伸び上がって反り返って「行くぞーー!」と一際、声を伸ばし続けて叫ぶと、次の楽曲の火蓋が切られた。
Toshiが「行くぞー!」と息続く限りに、叫びつづける途中から、YOSHIKIのドラムが駆け出し始め、伴奏の全員の演奏が開始された。長い発声から身を起こしたToshiが「オルガスム」と短く曲目を吐き出す。ストロボ光線に照明がまたたき点滅、PATAがすばやく身をひるがえし、股を開いて戦闘体勢のギターを掻き鳴らす。ステージ中央からはアラジンの魔法のビンのような大きな白煙が一本吹き登り、ステージ上空に丸い雲の綿帽子を重ねる。速く激しい雑然とする伴奏の中に、一つのリズムが裏打ちされてる様に波打って、Toshiがステージをレフトへ走り出して行く。デコXの手前でスピードを緩めて「わかりきった明日に 怯えるー」と歌いだす。相づち「(Break free)」に客が飛び跳ねる。止めた体を前倒しに「火の消えた心の壁 破れずにー」と歌うと、ステージ中央へ戻り始めて、客席に指さしながら「お前は求めて いるんだろー」。hideがスクリーンに赤い衣装の演奏姿で登場。「刺激に抱かれた Making love」とPATAに近付いて、背に手を添え「身体に布きれ装っても 天国へ 行けないぜ」とPATAに体並べて歌う。PATAは何一つ、表情姿勢を変えずに、ただギターのネックの指運びに集中。ステージ後ろのパノラマビジョンには、酩酊の幾何学模様がひっきりなしに打ち出され、快感イメージを視覚誘導してゆく。Toshiは、少し長い間奏をゆっくりステージを横切ってゆく。ギターメンバーは、演奏に専心の棒立ちに見えるが、heathは体に振りをつけながら、ステージ上に動きを作っている。魔法のビンの残り雲がたち迷うている。ウォークリーとリチャードの前まで来て、アンプに片足を乗せ「自惚れたあいつに 縛られ!身体を駆け巡る 血が叫ぶ!」と視線を遠くに馳せながら歌い、視線を手前の客に合わすように下降して「吐き出す言葉に 爪を研ぐ! 鎖にまかれたPleasure of mind !」。YOSHIKIは横揺れのブレを作りながら、乱髪の渦の中におぼれている。右手にマイクを持ち替えた変化を作り、声のトーンも変化気味に「乾いた砂漠で踊っても 時の檻(おり)破ーれないぜ」と歌い終わって、アンプの姿勢を平常立ちに戻すと、「ガットュー オガスム!」と横振り向くとウィークリー。ウィークリーの背に手を添え「身体 とかせ!」と歌ってマイク突き上げる。Toshiの動作の合間も、瞬時瞬時に歌詞や演奏が続けられ、一瞬の横道で振り落とされてゆくが、そこに戻るのもまたお手の物、進度にタイミングよく横乗りして短い歌詞を渡り飛ぶ。次も「ガットュー オガスム!」と歌って、にこっと笑って、後は客に任せて後ろへ進み出す。「いいかーコラー!」と叫んで2回手を突き上げ、右腕をぐるぐる回転させて前のめりに姿勢が揺らぐ。PATAが間奏に余裕が出たのか、アリーナを見渡しながらステージを小回り円をかくようにひとまわり。Toshiの「ヒョーイ!」という景気付けの声が挟まれる。
Toshiの声が入ると、ドラムソロの場面が短く入り、そしてギターが乗合わし、音階をノコギリ目のようにギザギザしく上ると、一つの到達点が達成され、ギター連は弾き終わりのポーズにギターを大きく揺らして体を躍らせた。一斉にクモの子を散らすようにステージにはじけて行く。YOSHIKIのドラムだけが、前傾のうつむき頭に両腕の掻き出しを必死にもがく。積乱雲が上昇の勢いをやめ、上部から輪郭が溶け出して流れ出すような、そんな横流れの間奏の世界に入った。スギゾーが、タンゴのポーズか闘牛士か、直立に手を真上に掲げて叫んでいる中、Toshiの「オラー!」という弾丸が投げ込まれた。PATAがステージ鼻をレフトへ弾き進んで行く。「オラー!」の弾丸。ステージ上のメンバーは、自由に歩き回って、「オラー!」、続いて等間隔の4回目の「オラー!」が投げ込まれると、ドラムの調子の流れが高まって、4度強くステックが叩かれると、一瞬の空白の中に「ハィ!ハィ!ハィ!」。流れ止まった障害を押し流す勢いで、堰切る大音量が再び、そこに「カッー!」と分け入る稲妻。Toshiのマイク突き上げに再びフェイントの空白。今度は客が「ハィ!ハィ!ハィ!」。YOSHIKIが客の叫びを耳澄ますように静止、そして一息飲み込むようにステックを引き下ろすと、規則的なドラムが走ってゆく。Toshiが中央コースをゆっくり進んで、「オラー、やる気あんのか、コラー!やる気あんのか、コラー!」とどやしにかかる。PATAがレフトコースを両手を万歳しながら進んで、声援に応えている。「行くぞー!」と叫ぶとドラムが強く打たれて、空白にToshi「ハィ!ハィ!ハィ!カッー!」とマイク突き上げ、呼べば応える客の「ハィ!ハィ!ハィ!」が次の一瞬の空白にこぶし揚げで打ちあがる。堰をあふれ出す音量、ギターの伴奏が入りPATAがコースの上で弾いて行く。旋律がステップを踏むように岸洗う波音を漕ぎ出すと、「おーい、オーイ、オーイ!やるときゃ やるときゃやれよ!オーィ!!やるときゃやれよー!やるときゃやれーコラー!」。YOSHIKIが口元引き締め、横揺れにうずくまるように必死なドラム。PATAが波打つ伴奏に精励。heathが中央コースを、弾きながら進んでくるとToshiの引き戻りと鉢合わせ、肩組みだすToshi。肩を抱いて振り向いて「行くぞー!!」と長く叫ぶと、YOSHIKIの必死のかみしめ顔がドラムを4度、力まかせに引っ叩く。「トィ!トィ!トィ!いいかコラー!」客「ヘィ!ヘィ!ヘィ!」。引き戻される波音に、YOSHIKIの上体の揺れが制御不能の波動を描き出す。スクリーンのコースをhideが駆け出してくる。スギゾーが頭抱え両手を客へ投げ出している。「おーい、オーイ、基本はー、腹からー、腹からー、腹から声だせよーおぃ、腹から声だせー!!」。heathがコースのから足を垂らして腰掛け、身を揺らせて弾いている。スギゾーは、手を客席に差し込んで訴え、hideはスタコラ歩きでスクリーンのコースを進んでいる。リチャードはひっぴり腰のおそまつ君スタイルで走る。「行くぞー!」とToshiの号令がかかると、「ヘィ!ヘィ!ヘィ!エェィー!」客「ヘィ!ヘィ!ヘィ!」。轟音玉が投げ込まれて、Toshiの「ヒュー!」と言う囃子が聞こえると、引き上げの合図か、そぞろ繰り出したメンバーはステージへ戻り始めた。
散らばったクモの子が、徐々に古巣を目指す。視界が晴れたようなすっきり伴奏が挟まれ、ダイナミックな衝撃音が間歇(かんけつ)的に地響きを立てると、また規則的なドラムが走り続ける。ウィークリーがペットを投げ入れ、リチャードが大きなジェスチャーで、ギターを引っかく。Toshiが「サァーハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」、リズムだったかけ声をぶち上げ、小休止の音符を挟んで「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」と囃し立て、heathは戻りのコース、ステップを踏んでかけ声に同調のアクションでベースをつま弾く。小休止の間合いを置いて「イヤー!イヤー!イヤー!イヤー!」かけ声の変化を作ると、スギゾーがコースからステージに到達。heathは、コース中にあって、腕振りだし、ステップ踏み、ベースの弾き姿勢にとアクションを繰り出しながら、徐々にステージへの帰還に近付いてゆく。「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」heath先のステージ鼻で、Toshiが両手を万歳してかけ声を発し、heathの帰還を迎えてるよう。「なかなか良いぞー!なかなかいいぞーぉぃ!」。heathがステップ調で近付いてゆく。Toshiがコースへ進み出して、「シェイヘィ!ヘィ!ヘィ!ヘィ!」叫んでバンザイ立ち。PATAがレフトからステージ鼻を真ん中へ戻ってゆく。「ハィ!ハィ!ハィ!ハィ!」heathとToshiがすれ代わる。スギゾー・リチャードが派手な演奏アクション。heathがステージに到着、コース真ん中へ歩み出たToshi、「東京ドーム!、東京ドーム!」と叫んで笑いながらコースを進む。スギ・リチャードに合流したPATA、3人密談のように顔付き合わせたかと思うと花開くように広がり派手なアクション。PATAの口が開いて楽しそう。「シェイ!ヘィ!ハィ!ハィ!」と叫んでマイクを突き上げ、ステージでは各自自由分子のように動いている。突き上げた手の先、指を一本立てして「シェイ!クワッ!クワッ!クワッ!ワッ!」こぶしに変えて吠えると、コース先端万歳で客の反動を促す。「クヮ!クヮ!クヮ!クヮ!」胸からぱっと両手を八の字に開いて、勢い込む。場内は、ストロボ、点滅、レーザー光線、幾何学模様、アリーナは銀テープのこぶし上げ、スタンドはめらめら表面。伴奏リズムは規律正しくゆるぎない。「スタンドー!スタンドー!ここまで届かせろよー!届かせろよー!!」。レフトを向いて「アリーナー!」ライトを向いて「アリーナー!」というと、リズムに合うタイミングを計るように間を考え「狂っちゃえー!行くぞー!」「アィ!アィ!アィ!アィ!」両手を万歳上げして手のひら開く。heathが右手をシュプレヒコールのように繰り出し、煽ってゆく。右手突き上げ「サァーハィ!ハィ!ハィ!ハィ!」大きく両手を開いて、笑顔で見渡す。hideが腰のせのギターを押し出す。Toshiがきびすを返して「サーアィ!アィ!アィ!アィ!」と歩き、マイクを斜め上客席へはわしながら戻って行く。「サァーアィ!アィ!アィ!アィ」。スギゾーが襟(えり)巻きはずすと、それは先割れの革ムチ。コースへ出てゆく坂道で振りしばく。「サー、アィ!アィ!アィ!アィ!」。振りしばいたムチを肩車にのせてコースへ出てゆくスギ。その先にはheathが両手横開きで手のひらしゃくって、客あおり。「アィ!アィ!アィ!アィ!アィ!」スギが構えて弾き、反転して弾き、客に指さす。
少年の笑顔は、一団のスタッフが必死の覚悟で待ち受ける緊張の中へ、はやる心、持ちこたえられずに一瞬で滑り込んでいった。「ヒュー!」Toshiの息抜き。一団の中には警備の伊藤さん、ボンベのLADIESROOM・GEORGEがそこにスタンバイ。まるで獲物をあさるピラニアの群れに身を投じたように、入り混じる黒い人しぶきが移動、GEORGEのヘアバンドとロン毛が見えたかと思うと、噴煙が勢いよく吹き上がり、すぐに止んで立ち迷う煙の白い痕跡がよろめき影を消してゆく。「サーハィ!ハィ!ハィ!ハィ!」レフト通路沿いにアリーナ床右側(真ん中側)を練り歩く一団、客と接触する摩擦のブレーキか、すんなり動かず食いちぎられる肉片の赤いものが見え隠れしながら、押し流され引きずられ、わずかに進むとボンベの筒の奪い合いの様に空中で安定感なく大揺れに動く。客は、手振りが止んで、成り行きとYOSHIKIの所在を追い求めて棒立ち。「サー!グヮ!ガィ!ガィ!ガィ!」再び噴出が始まったかと思うと、すぐに止んで、奪い合いのせめぎあいを演じるが如く、白い確認物は日の目をみない。「オラーイ!」やっと通路へ戻るさ、なだれ込むYOSHIKIの体勢がコースへ届くかという時に、やっと噴出が上空からコースの表面をなめずり起こると、YOSHIKIがコースへよじ登ろうと筒ごとコースに手を付いてのぼりかけ。転がるようにコース平面にまくりあがり、一回転の体を筒をささげて平面にはいずろう。「サー、ハィ!ハィ!ハィ!ハィ!」コースに寝そべり、半身起こしかけの腹の上で、朝立ちペニスに噴出を上げると、背伸びに腹筋を持ち上げるように山なりの弧のアーチ体を作り、筒は背伸びの頭越しに延ばしきった腕の先、執念強く押し頂かれるように握られ、噴煙の棒状がコース平面に激流を作ったが、すぐ絶えた。「サーハィ!ハィ!ハィ!ハィ!」YOSHIKIは、幼児が飽きた遊び道具を投げ出すように、未練なく筒を薄情に置き去り捨てて立ち上がった。総じて噴煙は、YOSHIKIの期待を満足させなかったようだが、その満足に補足をつける予備の筒が動いていて、一瞬に気心が変心した理由を、行き場の失ったその筒とYOSHIKIの変わり身の早さに於いて物語っているようだった。立ち上がるYOSHIKIの手から、まとうテープ(筒のタオル巻きを止めたテープ)が不満の一端のように投げ捨てられた。。「サーハィ!ハィ!ハィ!ハィ!」間断なく激音の中にToshiの叫びが突き刺さる。ブラッと先端へ歩きはじめたYOSHIKI。うつむき様髪が下流れに動き、振り上げる顔を追って髪が横顔を這い上がる。「サー、グヮ!ワィ!ワィ!ワィ!」少しにが笑いに緩んだ表面は、辺りを見渡すうちに真顔に戻り、正面に見据える顔に笑いが差し始めると、それは次の何かを見出したように見えた。「サーカッ!カッ!カッ!カッ!」先端のスピーカーに片足を乗せたYOSHIKI、辺りを見渡し、赤い襟際に見え隠れする小豆の丘の動きを、軽いヘドハンから呼び込んで、5度のヘドハンの反動で体を反転、コースを戻り始めた。「腹から声出せー、コラー!」YOSHIKIは襟元を両脇で持ち直し、一旦おぐって引きよせ、居住まいを正す素振りをつくると急に駆け出した。「腹から声出せー、コラー!」Toshi・YOSHIKI、2つの基軸がばく進中。
左手を虚空に突き上げ、レフトコースを駆け戻るYOSHIKI。ポッキーなエナメル質の黒スラックスを小気味よくカギ送りに走り出し、熱気の風圧に上着が肩先をはずれ背にまとわり出すと、表情も無私な一目散の駆け出しのように口元が開く。客の鷲ずかむ銀テープが、急に風が巻き上がったようにきらめき、自分への視線を勝ち取ろうと殊勝けなげに振られるが、YOSHIKIは返って背を煽られる様に遠ざかるのであった。「シェィ!エィ!ガッ!ガゥ!ガゥ!」助走のスピードがつくと両腕が脇にたたまれ、背にまとわり流れる古網でも引っ張るように前傾の牽引感を作って、速い潮流にすすがれる髪の裾ははためき、上下の躍動が豊かな量髪を揺する。コース途中で左視線をサブリミナルに視覚に刻んで、コースの登り坂まで来ると「シェィ!エィ!エィ!エィ!」疾走のかげりに顔が左に傾き、視線がカーブの注意も兼ねて下降に触れると左手が下に緩みだし、その全体が疲れ感を演出するように坂を越えると、一吐きの息継ぎ、左(レフト)へ向かい出し、デコXのゴシックな彫像脇をまた駆け出す。「オラーィ!」と何の連携もないToshiの掛け声が、別々の思惑で進んでいるのに、関連がらみで聞こえる。それはあたかもYOSHIKIの作る歌詞が将来の彼自身の境涯と予言的に符合してゆくと言う、異時間の符合がドームの空間の符合に関連付けられ意識的に感じてしまうからだろうか。そして伴奏が、激音のポケットのように何度も訪れる視界のはけた鳴りひそめる静かな部分、2度打つ轟音(ごうおん)がコマ送りの画面を見るように轟きのコマを何度か振り落として転がると、YOSHIKIのスピードが落ちて歩く姿勢が急に腰かがみに沈んだ。スギゾーが、そこでムチ振り回して客の気合を引っ叩いているところ。タイタニックという映画の船先でディカプリオと若い女性(ウィンスレット?)が愛の翼を広げる先端をイメージしてしまう私の目の前のスポットで、ムチを振り回すスギゾーは、YOSHIKIの接近などつゆ知らず、前方のあまたの群集を相手に戦ってムチ振り回していたが、そのムチ先をかわしてかいくぐった姿勢にYOSHIKIが沈んだのであった。スギゾーの右脇下をすり抜け、首肩に左手を絡ませると水面に顔上げるようにスギ横顔に顔突き出したYOSHIKI、誰か肩に触った重みと横影に驚き振り向くスギの手が、すばやく頭上に伸びてムチの回転をわしづかんで止めた。その頭上につかまれ所在無く横たわるムチを笑い引っこ抜いて、今度はムチ遊びを思い立ったYOSHIKI。引き抜かれたスギは、ムチ遊びへ傾きはじめるYOSHIKIの姿勢に思わず手を打ち、意外な悪乗りを喝采すると、片足を前に少年の笑顔ですぐムチ振り下ろすYOSHIKI。髪振り乱して、杭打ち込むように反ってムチ持つ手を振り下ろすと、うつむきかかる圧力に、両膝が折れて開いた。
振り下ろすムチ先が、デッキの甲板にはじけ、飛び散る軌跡を追ったが、それは、目に見えて動いたと言うスピードではなく、もっと高速に、動く影が一瞬意識できるかと言う強烈な一投。鞭打ちのシーンに合わせるように、伴奏が伏せて衝撃音がコマ送るタイミングと重ってる。YOSHIKIが鞭打つシーンなど、見れるものではない稀有な遭遇に伴奏のスポットが偶然当って、瞬間の無言劇。振り下ろした前かがみをすばやく立て直し、伸び上がるように背筋立つYOSHIKIの表情、特に背伸びから打ち下ろす間際の一瞬の静止の中に、零(こぼ)れ落ちる喜び楽しさを溢れさせ、口元が餌を飲み込む大魚のように大きく開いた。その視線は、スギに向けられ、ムチ先が当たった訳ではないが、スギも悪ふざけのように、のけぞって反応する。その、まさに振り下ろされる瞬間から、「腹から声出せーコラー!」とToshiが叫び上げ、叫びの中をムチが振り下ろされて、力任せにYOSHIKIの体がのめりこんで沈んでゆく。5万の観衆が、女王様の餌食となって、鞭打たれ、かれた声からさらに絞り出せと命じられ、瀕死にあえいで息絶え絶えに、オルガスムの絶頂のあえぎにもだえる観衆の喜びの表情。YOSHIKIに鞭打たれ、そこに横たわる「私」の背を、ムチの衝撃と痛さが電光石火に体を駆け抜ける。「私」にだけ与えられたマゾの瞬間・・・感じる性感!しびれる体!薄れる意識!・・・ああぁ・・・と漏らした吐息を濡らした人(=「私」)もいたかもしれない。それは絶頂の音楽がすでに幸福の世界に包み込んでる中に起こる更なる夢想の空想。続けて3度目のムチ裁きをしなを作って振り下ろすYOSHIKI。甲板にはじかれた見えない空気のつぶてがスギに命中して行くように、手のひらを盾(たて)出すスギの驚きジェスチャー。機に応じ気転が利く動作を演じるスギの大げさな意識構造、派手好みの女王様に大げさ仕様の執事なら渡りに船の相性も肯ける。ついにYOSHIKIもその気の世界に突入したか、再びムチ振り上げにそりかえる体は気負い立ち、その雰囲気を集中させる顔の表情を後ろに傾け、武者ふるいに揺さぶると、垂れ乱れた髪が両端へ流れ、開いた顔面には光りさすサゾ女王の艶やかな快感に濡れ、将に叫びをあげて鞭打つように開かれた口唇の奥には、ピンクの舌丘がなめらかな唾液の光を放って、叫びのムチを向けてくる。色っぽい!。色っぽさの表情を最後の一投のはなむけに、うつむかせずカメラ視線を保ったままに腰据(す)え振り下ろすと、すばやくムチを高々と万歳上げの両手で掲げ、ステージ裏のスタンド観衆に凱旋ポーズでアピールしながらムチを波揺らす。すぐにスギに向かって同じポーズで向きあい、大きく開けた口元には喜びを痙攣させる影が見て取れた。その姿勢のYOSHIKIの肩先へ、スギが右手をタッチして、ショーの熱演を祝福すると、2人は肩組み交わし(さらにスギは2人を撮っているカメラマンにも肩組に加わらせる手を差し出す。この所作を見るに付け、スギはものすごくやさしく、気が利く人のように見える)、レフトアリーナの観衆の視線にポーズを取るように、ムチを中挟(なかはさ)みに笑顔を向けた。スギの右手がYOSHIKIの肩にかかる瞬間から、Toshiの「サァー、アィ!アィ!アィ!アィ!」と囃し立てが始まり、肩組み終えたYOSHIKIがToshiの最後の「・・・アィ!」の発声と同時に左手を突き上げ、その瞬間2人の身体は離れて、手づたいにムチを受け取ったスギがYOSHIKIの背を軽くタッチすると、YOSHIKIも軽く肯いて、来た道を走り出した。YOSHIKIがムチを奪って走り出すまでのショータイム時間は、約15秒、夜毎の空想に寄与する貴重な1ページになるかも知れない。
ステージのセンターへ向かって、走る走る。「サー、グッ!グッ!グッ!グッ!」。デコXの前を通過。道幅は1mぐらいの狭い通路になってる。デコX(ステージ左右に立つ巨大なXの構造物が彫刻的にデコレイトされているので)の足元には、ライト群が1列に並び、ステージ鼻のアリーナとのエッジにもライト群が1列に並び、その間は約1m。テープで通路幅を明示してあるものの、至って狭い。そこを相当なスピードで駆け抜けてゆく。上着の裾が後ろへ引き絞られるように体を離れ、はためく裾が背中へまくれ上って、YOSHIKIのわき腹や骨盤へ流れるラインの稜線が薄っ平らいお腹周りの急峻さを際立たせて動く。デコXを過ぎ、ドラムへの階段辺りに来ると、両手を上に突き出し、Vサインをつくりながら、車窓の風景を眺めるようにある点を捉えて顔が動いてゆく。「サー、グヮ!グヮ!グヮ!グヮ!」。その一点にはPATAが立っていた。PATAもYOSHIKIのVサインに軽く手を動かして合図。さらに進むと、跳躍(ちょうやく)の踏み切りに歩幅を合わせる様にスピードが落ち、一直線に走るコース上の障害物(スピーカー)を飛び越した。着地のバウンドをしたかと思うと、次に意識的にバウンドを跳ねて、障害物を再び飛び越え、前転の一回転で転がり着地、さらに慣性の転がりを作って地べたに上向き投げ出されてしまった。タイミングよく「アカッー!」とToshiのお愛想(おあいそ)が声かかる。エビが跳ね縮むように腹筋の跳ね上がりをつけて半身起き上がり、腰おろしに両手を後ろへ支え置き、コースに向きかえって、会心の笑顔。胸とお腹のラインが波打ち、その激動の吐息が駆け抜ける口元は、大きく開放状態で止まったまま肩で息をつないでいる。開放に止まった笑顔が次の意識に促され、その場で腰おろしのヘドハンを始め出す。そして上向きに後ろへ背を倒すように仰向けに寝てしまった。YOSHIKIの周りには、リチャード&ウィークリーが寄ってきて、激しくギターを掻き鳴らしてる。べたっと寝てしまったYOSHIKIは、目を閉じ胸板を競りあがらせてへしゃいだお腹のくぼみへ、ポンプの空気を送ってる。「サーアィ!アィ!アィ!アィ!」、Toshiのかけ声を聴くかのように横たわったYOSHIKIが次の運動へすぐに向かって、脇にあるスピーカーに腰掛けた。タカが止まり木に健脚に立つように、獲物目線で遠くを見ながら両腕をスピーカーに突き立て、投げ出した前足の姿を尾びれに例えれば、尾びれが動いたかと思うとすばやく健脚を跳ねて身を飛ばし、ライト方向に滑空し始めた。「サーアィ!アィ!アィ!アィ!」空中の空気をはらむように上着が背中をずり下がり、肩羽(かたばね)の腕を動かす毎に風きり羽(かざきりばね)のように後ろに背まとい流れる。大きく肩羽を畳み返えして上着の背流れを直すと、ライト側船首への坂道をスピードを緩めて登った。「オーィ!」とToshiが声挟む。緩めたスピードから両腕を高く上げて止まりかかると、ライト後方スタンドへ向かって、上げた手で合図して、笑った顔をアリーナに向け直し、手すりにもたれかかり、アリーナや手すりの下をのぞき見た。
「(オーィ)、今日はー、今日はー、無礼講で行けよーー、行くぞー!」。Toshiのどすの効いた腹底の声が、「行くぞー」の気合叫びに串刺されると、デッキの下をのぞきこんでいたYOSHIKIは、しおれたようにたゆたう体を手すりの中に戻した。陸上のインターバル(個別即興間の走行)のように、走ってはアップ(ボンベやムチや寝そべりやのぞき込みの各個別即興)を繰り返してきたので、息が上って緩んだ表情の口元が呼吸にだけ自然にある状態で置かれていたが、戻す体の遠心作用で、襟元が肩先を滑り落ちて妖艶な芸者の色香を、肌に見開かれる素肌の生身から発したように思ったが、それは重ねた即興に疲れてしまったたゆたう彼への同情・いとおしさから来る心迷いだったかもしれない。元気なToshiのかけ声「シェィ、エィ!エィ!エィ!エィ!」が好対照に響き、余裕の笑顔に振り上げられる拳の勢いとは別世界の、疲れを帯びた下向き視線で前進するしおれた表情。ギター連も踊り狂っている沸騰の中へ、びっくり水の疲れを漂わせた冷気が進んで行くようだったが、肩から滑り落ちた上着の襟を冷気から守るように肩先へ軽い回転をつけて被いかぶせた。スギが外人の間に割り入って、開脚の正面向きからギターの掻き手を頭上にツバメ返しに放り上げて叫んでいる。「グゥ!グゥ!グゥ!グゥ!」。被いかぶせた肩先の襟元が、歩く振動と微妙なそよぎに再び左肩を離れるやに見えたが、すばやく右手が襟元を手繰(たぐ)り寄せた。寒さに身震いする時の、思わず肩先へ心の重ね着を羽織る手先のまよいにも似て、そのしぐさの中にも心迷いを感じてしまうのであった。「サァー、グァ!グァ!グァ!グァ!」。さっきは走って通過し、寝そべっても元気だったステージの帰り道は、やはりトーンが冷めた雰囲気の荷を背負い進むが如くにステージの真ん中へゆっくり歩き進んでゆく。YOSHIKIの再登場以来、声はすれど形は見えぬ状態で来てしまったToshiの居場所は、ライトコースを戻りかけてるところにあった。「サァー、グゥ!グゥ!グゥ!グゥ!」。歩くという安定したバランスの中では、何を思っていたのだろうか。走るという不安定な状態では、目先の即興のひらめきに突き進んでいったが、歩く状態の視界には、もっと広い思案がめぐっていたのかも。観衆の盛大な歓声に何か釣り合いの取れるメッセージでも叫ぼうかと思いついたのかもしれない。ゆっくりドラム下のステージ中央まで来ると、スタンドマイクに左手を上乗せして口元との距離を固定させ、正面向きのボーカル姿で「気合入れて行けー、コラー!気合入れて行けー、コラー!」と叫び出した。3回目から「気合入れて行けー、コラー!気合入れて行け、コラー!気合入れて行けーコラー!」と叫ぶ姿勢は、下がっていた右手がマイクに二重重ねに左手甲にかぶさり、気合の筋金が緊張を増して体を硬直的に、マイクに両つかむ手を支点としてYOSHIKIの体は左流れに傾き、裏返りの叫び姿が溺れ始めに沈みかけて、マイクのワラをつかんで沈まず浮き上がったように見えた。
観客に気合を鼓舞したはずが、しおれかかった自分に気合の電流が走ったように振り向きざま、階段を駆け上がった。伴奏がちょうど静かな部分に差し掛かり、まるで静寂な断崖を、俊敏なカモシカの身のこなしで駆け上がるように。が、駆け上がった途端に疲れ切ってる表情に戻ってしまった。ドラムの右側ステージへ駆け上がった位置から、半口をあえぎのように開き、不安定なバランスを保ちながら前へ進むYOSHIKI。ドラムの後ろを通り過ぎると首がガクンと力なく落ち込んだ。その姿勢で数歩進むと、ステージ上に置かれている木槌(銅鑼〔ドラ〕を叩くもの−撥〔バチ〕で打ち鳴らすとあるが、あれをバチと言うのかなぁ?)を右手で拾い上げ、よたつきながら客席を一瞥して前傾から一歩前へ、体勢を後ろへ戻す反動に揺れ動く振幅に載って、バックの姿勢を右回転に半身ドラへ向けて、焦点を見定めた。Toshiのかけ声が「サァー、アィ、アィ、アィ、アィ!」と囃子はじめ、あたかもタイミングが合ったみたいに、見定めたドラの焦点めがけて右手木槌で力いっぱい引っ叩いた。Toshiの「サァー」のかかりはじめの次に、ドラの「バーン」がタイミングよく打ち鳴り、夫唱婦随(ふずい)でもないが、タイミングはそんな息のぴったり感を作ったみたいだった。真横から見えるドラは、やや前傾に傾き、下側が垂直の支柱から少し後ろへずれている。ドラを吊り下げてる横梁の上下の枠と垂直の支柱とで囲まれた四角い枠の中に、やや前傾につりさげられてるドラの太鼓腹のど真ん中を思いっきり叩いた割には、重量感あるドラは、下枠の隙間を20〜30cm広げて力足らずのあざけり笑いの隙間を作ったに過ぎなかった。YOSHIKIは、本来、ドラを引っ叩いた反動に客席側へ反発されていくものだったが、ドラの泰然と静止めいた黙殺の姿勢に、自らの右手の遠心力をドラに吸収させるのに失敗、遠心力の余波をかぶって外へ引っ張り出されるようにドラに平行に前へ、拍子を打つようにトントントンと泳ぎ出していった。泳ぎ出した歩調が、Toshiの「アィ、アィ、アィ、アィ!」のかけ声を歩んでいるようでもあり、かけ声が終わった時点が、ちょうど振り向きざまに再び攻撃を加えようかと言うタイミング。その顔は、ドラの黙殺と自身のふがいなさにむっとした闘志に満ちて、ドラをにらみつけた。観客も自身の立場も音楽も、吹っ飛んだように闘志が表情にむき出しにみなぎり、メンツを黙殺された腹いせの一撃を加えるべく、小刻みに足幅を計って最大限に木槌が焦点にヒットする距離と目印を合わせ、渾身の力にさらに体勢をドラへ傾けかけての一撃を加えた。ドラは、「バーン」とフックに効いた音で鳴り響いたが、YOSHIKIの体は、再びあざけりのそしりに煽られたように、トントントンといなされ、さっきの道を追い返されてるように戻った。
片手で叩く木槌では、ドラの方が泰然自若として厳然と存在している。その前を遠吠えのように、小刀を振り回している小者のようにあしらわれてしまっている。打ち叩いた反動の表れを、トントントンと叩くドラの前を通り過ぎるように二度もいなされて進んでしまったが、この時点ではドラに軍配が上っていた。元の振り出しの位置に戻ってしまったYOSHIKIは、小刻みにステップを整え、今度は焦点を見据えて思いっきり体重をかけて叩いたように見えた。しかし、ドラは前2回ほども後揺れを起こさず、鈍い音をこもらせ、胸を突き出して身構えてるように立っているのであった。唇をかんでる悔しさが見て取れる。遂に彼は、右足のキックをドラの中心めがけて見舞った。ドラは大きく後ろへ飛び出し、びくともしなかった支柱の足元の三角の安定部をバウンドさせながら、基盤を揺らした。ドラは四角い枠の空間を前後へ振り子運動に揺れた。2往復目に自分の前に揺れ動いてきた時、YOSHIKIは支柱をドラの運動の方向である客席側に引き倒そうとしたが、自重で立っているようにドラは倒れなかった。倒れなかったが、ドラの支柱は大きな力とかみ合わさった運動の方向との力で前揺れに弾み、それがドラの揺れを加速して大きく波打って大円盤が宙を舞うまでに揺れた。遂にYOSHIKIは、泰然自若の厳然な壁を揺るがした。枠の中を前後へ揺れ動くドラは、不覚にも小者ごときのけりの一発でバランスを崩しかけたが、そこは威厳を取り戻し、すぐに自重の重さが働いて、揺れは急速に振幅巾を縮めた。体勢をすばやく取り戻し、厳然と立ち尽くす覚悟で基盤の揺れも収まりかけようかとした時、YOSHIKIは基盤とドラの揺れのタイミングを計って、その手前へ揺れ動いてくる一瞬の最傾斜を捉え、思いっきり客席側に引いた。重心が一番不安定な位置の最傾斜ポイントだったので、ドラは枠ともに立ち戻れない傾斜に突入、遂にもんどりうって倒れ、階段の傾斜へなだれ倒れた。ドラの揺れから想像すると、自重は20キロはあるだろうドラとの戦いは、面白半分で見ている限りはユーモラスかもしれないが、じっくり観察すれば、これは相当な重労働になるんじゃないかと推測できる。ライブでは、ドラの引き倒しが興目として出てくるが、音楽的にはさして重要性は高くない様に見えるが、YOSHIKIの興奮をなだめる、或いは高めるアクセサリーとして置く事にこだわってきたのだろうか。いや、つぶさに見れば相当しんどい作業に見える引き倒し、手も足も衝撃がこたえるはずだが、腱鞘炎気味の手首と高速ペダルに負担をかける膝と筋肉を思えば、むやみに重量物を叩いて蹴って悪化を招く事になりはしないかと老婆心ながら思うのである。倒れたドラの躯体、YOSHIKIから見れば倒したドラの獲物に、ゆっくり近付くと、その息絶えた姿を見届け、そこに思いっきり小槌を叩きつけた。てこずらせたうっぷんを吐き出すように、仕留めた獲物へ勝利を叩きつけたようだった。
ドラから視線を離して、振り向いたタイミングで、Toshiのかけ声が「アィ、アィ、アィ、アィ、アィ!」とかかり始める。数歩ドラの消え去ったステージを戻ると、そこにスタンドマイクが立っている。YOSHIKIはすばやく右手で支柱の直立部をわしづかんで持ち上げると、マイク先端に続く2段目の支柱が回転気味に揺れ動き、折れた首先をだらんと下がった。それを引き戻して、マイク先端を捕まえると口元に引き寄せ、「気合入れてゆけ、コラー!」と客席側へ向かって叫んだ。ドラを倒した興奮状態そのままに叫んで、マイクの支柱を足元側から持ち上げ、再び叩きつけるようにステージから階段へ投げ下ろした。さっきのドラと言い、マイクの投げ下ろしと言い、会場の爆音だけがリズムを食んで順調な進行に聞こえているが、YOSHIKIの耳元には、大きなクラッシュ音が瓦解のうめき声を上げていたに違いない。マイクをわしづかんだ瞬間にドラムステージの脇で控えてるスタッフが逃げ腰の反応を猫のように動かすのを見ると、スタッフも見守りと逃げ場確保の体を張っての仕事に命がけ。怪我をすれば自分が100%悪いとののしられるのは明らか。すっかりYOSHIKIのしおれた状態は、興奮のバウンドに体を躍らせ、マイクを投げ捨てた躍動を取り込んだようにドラムへ向かい始めて、羽織っているえんじの薄着を引き裂くように脱ぎかける。脱いだ上着が最後の手首からはずれるころにドラムへ着くと、YOSHIKIの激乱を自爆せぬかと見守っていたスタッフに手首先の上着を引き取らせ、ドラム椅子に駆け上がった。駆け上った動きが狭い円形椅子の中に立ち止まれず、大きく前かがみに体勢が揺らいだが、なんとか持ちこたえ、わずかなバランスの揺らぎを修正して椅子に立ち上がった。立ち上がって仰向きつつに髪を左右にかき分け、正面を見据えて客席に凱旋のポーズ、すぐに後ろに用意されてるペットボトルをつまみあげ、一口を飲み込んで客席めがけて投げ入れた。「シェィ、エィ、エィエィ、エィ!」と進行の歯車のように打ち上げられるToshiの声。椅子上のYOSHIKIは、笑顔を作って興奮から取り戻した自分の立ち位置の不安定を確認したのか、苦笑いにも取れる表情を作って、椅子を上を楽しんでいる。Toshiがheathをステージ右から引っ張り出すように中央へ手を引いている。PATAは、ケンカ逃げ足一番の実践感覚が危難は去ったと判断したのか、自発的にステージ左から中央へ歩を進めている。荒れ狂うY様の時間は、恐竜時代の哺乳類のように、身を隠し嵐の去るのを待つ受身のプレイ。自然の穏やかな営みに隠された世界と同じく、音楽はこともなく続いているが弱肉強食の世界にも似た営みがここでも繰り返されてる、Xのライブに見る生態系という範疇が存在する。
スギゾーにゲスト2人も安全圏を確認しつつ、ステージに戻っている。「シェィ、エィ、エィ、エィ、エィ!」。PATAもheathもステージの定位置に安住したようにプレイにいそしんで行く。「ヒューー、シェイ、エィ、エィ、エィ、エィ、エィ!」。Toshiがステージ鼻で万歳の両手を挙げて、にこやかに笑っている。まるで私には、自分の視界の中に、テレビの画面がアップになり場面が抜かれたりと移り変わるように、目に捉えるものへの集中(これまでYOSHIKIへ集中)が終わって次の場面へ集中(今はステージを見渡し、各メンバー)が始まると、それが生き生きと飛び込んでくる。視覚が捉える場面が頭の中では、アップのように流れてゆく。Toshiの万歳ポーズが、めまぐるしく変動する中にやや長く静止を保って止まっていたが、「オラーーィ!」と叫び上げるや伴奏も静かな部分、スギゾーのギターのきしむ、むせび上げの悲鳴が一際群を抜いて鳴り響く。PATAは無表情に、右手は弦を掻きながら左手は左耳の髪の毛をすいている。「オラーーイ!、東京ドーム!悔い残すなよー!」。ここら辺りからYOSHIKIがドラムのプレイにかかり始め、大音量の中に、遠くのポンポン汽船のような音質(バスドラム?)が混じり出す。「悔い残すなよー!オーイ」さらに絶叫の音階を上げて「悔い残すなよー!!オーイ!!」。Toshiの煽り上げる絶叫の余韻が舞い降りてくるのを眺めるように、微笑を湛えた笑顔で会場を眺めるToshi。「シェィ、エィ、エィ、エィ、エィ!」右手を振り上げ音頭を取りながらのかけ声が始まると同時に、YOSHIKIのシンバルへの点火が始まり、緊褌(きんこん)一番、ドラムのコンビネーション音が始まった。Toshiが左手マイクを虚空に突き上げ、客のかけ声を促してゆく。伴奏も波状音が連続的に波紋を差込み、「行くぞー!ハイ!ハイ!ハイ!」の合図とも取れる節目のかけ声がかかると、Toshiが後ろへ向きかえり、一声、観客が三連発のかけ声を叫んで飛び上がる。ドラムが間合いを取りながら、節目のシンバルだけをきつく指し叩き、何かが始まり出すような笑顔をにじませると、ギターの伴奏が、次への助走のような変化を弾き始める。「今日のよき日に、喜びの歌、行くぞぇー」とういうToshiのご宣託。YOSHIKIの表情に笑顔が満ちて、バス・タム・シンバルを飛び跳ねるステックさばきを始めると、「ヒュー!」とToshiの始まりを祝う感嘆。ギターが喜び勇むように歓喜の歌の旋律を歩みはじめると、会場全体がハプニング的な喜び笑顔に満ち溢れ、世界初ロック調「歓喜の歌」が始まった。
誰もが知ってるベートーベン、年末行事となってる9番合唱付きのイベント。どうでもいいから、ことさら関心を払った事もないが、旋律はそれなりに知っている。X再結成東京ドーム3連発は、喜びを通り越して夢のまた夢とでもいう話で、歓喜・喜びの気分は、それはもう頂点を極めてる。うれしい限りの気持ちを率直に言えば、喜びの歌を打ち上げたいのは誰にとっても自然な気持ち。「今日のよき日に、喜びの歌、行くぞーェッ!」の発声から間髪入れず、明るいにぎやかな伴奏に乗って、スギゾーのギター主旋律をリードに、おいしい所の4小節、約28秒を一つの起承転結にまとめて、大乗りのお祭り騒ぎがスタート。始まる瞬間のYOSHIKIの表情は、笑い出す大きな口元、ステック両手首を腰高でコンパクトに裁き、爆発の身構えに身を縮めスタート待ちから、発進の号令に、力が入って開く大きな口元に白い歯並び、ステック裁きに首がやや傾き、打ち出すシンバルへの両腕の交叉が、瞬間のX交叉を結んで叩かれた。スギゾーは、旋律を弾く事に集中、静止の突っ立った姿勢で、ギターネックは下の方(高音部)を押さえ、その手元を見つめるための下向き。思いっきり叩いて1小節目が終わると、YOSHIKIはシンバルの振動を止めるために手でつかむ。ギター連も、一瞬の間を挟むと、騒擾音に一瞬の静寂、そこへToshiが「ハィ!」と節目のお囃子を差し込む。また賑やかな次の1小節が始まる。同じハイテンポで叩くドラムの演奏中でも、開いた口元に笑顔の表情。スギゾーは、客席を見渡した次に、軽く曲のリズムに首を揺らせて染み入る音色を味わってる。2小節目が終わると同じく一瞬の静寂、Toshiが大きく右手を突き出し、身振り大きく「サァー!」の音頭。3小節目は、曲で言えば「転」の部分で、短い休止音符が曲を詰屈(きっくつ)させ、変化に踊るような節回し。heathは軽やかなステップを踏んで、ダンシングプレイ。PATAは背を後ろへ倒しては戻して、リズムを体感している。YOSHIKIは、小刻みな間断のリズムを打つべく、大きく両スティックを振り下ろして間合いを取りながら下向き加減に叩いている。3小節が終わるとToshi「ハィ!」。そして終わりの節が、1・2小節と同じリズムで展開、最後に「ヒュー!」と感嘆を吐くと、音階を階段状に引き伸ばし上げて行って、高音部から再びオール4小節の繰り返しへ入った。最初より全体のキーを少し上げて、楽しそうにYOSHIKIも乗り乗りにドラミング。Toshiは各小節間に身振りも大きく、両手上げやステップ踏んだりとかけ声プラスの演出を作り出している。「行くぞー」で3周目に突入。キーがまた少し上ってスクリーンにはhideが、前髪を両手でかきあげるシーン。小節間にToshiジャンプ、中央コースの先端で客を煽っている。YOSHIKIは、ヒート気味に、3周目の転を叩く姿は、髪を逆巻き乱し、大うねりのアクションになっている。そして4周目、さらにキーが上がり、ハイテンションにメンバーも客ももれなく乗り切って駆けて行った。最後の階段状に音階が登る辺りに、スクリーンにはhideがカメラにキッスの唇を付きだし、画面が覆いかぶさって、曲調が変化、「オラーーーィ!」というToshiの一声がたなびいた。喜びの歌は終了。ロック版「歓喜の歌」は賑やかで楽しくて明るくて、多くの年末のオーケストラバージョンよりはるかに華やかであった。ただ惜しむらくは、Toshiのボーカルが入れば、もっと良かったかなと思うのである。4小節分の歌詞なら、いつでもお茶の子さいさいというところ。次はボーカル入り、ちょっと期待したい。
もう1回「オラーーーィ!」と叫んで右手を掲げたが、叫び上げた力のために腰がかがんで、うずくまる体勢になった。いろんな演目を出してきたこのオルガスムという曲の、これでその演目も終了とさせていただく挨拶のように、お礼のような短い時間体勢は止まっていたが、さっと立ち上がると、戻りかけていた中央コースを反転、中程の位置から再び先端部へ歩き出した。曲はオルガスムの原曲に戻ったようであった。曲調の変化が事前にあって、もうその流れの中を走り出しているらしいが、どこでどう変わり目があったのか、全く自然な流れでよくわからない(おそらく、hideのキッスが境目)。反転して歩き出してすぐに「ハィ!ハィ!ハィ!」Toshiのかけ声が打ち上げられ、すぐに客の呼応のかけ声を導くように「Yur are!」と声を挟むと、客の「ハィ!ハィ!ハィ!」の歓声がテンポよく打ちあがった。すぐに低いギターの音階が、行きつ戻りつ三段階の和音を上り下り、少しテンポが早まった所から、Toshiの、上り下りする音階をはやし立てるように「ハィ!ハィ!ハィ!ハィ!・・・」のかけ声が間断なく連続にかけられ、次第に伴奏が力強くなって早まり、押し上がって行く。伴奏の音階は一定の高さで行きつ戻りつの形だが、早まり出すテンポと音量の力強さが増すのにあわせ、Toshiのかけ声が少しずつ高音へテンポはやめて上がってゆくために、音階全体が押し上がってゆくような錯覚に惑わされるが、音階はそのままを往復、テンポと音量とToshiのボーカルの影響で、全体が音階を上がってゆくような魔法のからくりを聴いているようだった。YOSHIKIのドラムも弱くテンポを刻んでいたが、力強さを演出するように途中から中はいりのように力強く、次第にテンポを早め、叩く力量を測れば体全体の動きと髪の乱れ方で加速がついてゆくのが一目瞭然、しかしその顔はテンポが速まるにつれ、次第に笑顔が増してゆくという、その乗りで叩かれていった。Toshiは連続の「ハィ!ハィ!ハィ!・・・」のかけ声をかけながら、コースを戻って、ステージに戻る辺りには、ちょうどかけ声の音階も最上部に熟したのか、高音の叫びで「やっちまえ、コラー!!」(と聞こえたが・・)と半そりの体勢仰向けから右手を突き上げ、一つの世界を切り裂くと、事前に一歩前に躍り出たPATAの速弾きが始まった。黒い装飾つきのコートを揺らす事もなく身構えたポーズ、右手は高速で弦をなぶり、左手はギターネックの高音部で指の節が沸騰している。その余裕のなさは、唇の引き締まった形が細く変形、二枚の板が熱に焼かれて口を開けたように、力と熱で細くとがっている。目線は沸騰の指を追っている。スギゾーがそばにやって来て、PATAに援助の伴奏を入れてゆく。PATAの体が少し動くと、PATA・スギゾーが同じ旋律を引き出し(指の位置から)、スクリーンにはhideも同じ旋律を弾く姿。やがて3人は、共同の旋律の終わりを告げるように、ギターの首を上げ、体勢を開いて、定位置へ戻り始めた。
ギター連が、きびすを返した瞬間から、Toshiのボーカル、「ガッ ツー オガースム(Get to オルガスム) 身体とかせ ガッ ツーオガースム(Get to オルガスム)深く突き刺せ」の歌声に、入れ替わった。そのポーズは、右手を一直線に右上空へ突き上げ、“とかせ”“突き刺せ”の歌詞の言葉で妄想する、脳内渦巻き光線パルサーを発する指先を突き出した。本来ここは、「Get to オルガスム Get to オルガスム」を2回繰り返して「身体とかせ」「深く突き刺せ」へ続くところ、2回分の時間を1回言うだけのゆったり目に歌ったToshi、長丁場でやってきた最後の締めに、疲れがしのび寄ったのかもしれない。違和感なく臨機応変に、その場を繕ってゆく技は見事で、本来そういうものかと信じ込ませる自然な振る舞い、あいまい覚えの私には、違和感不自然さは微塵もなかった。足元を気にして前進、前足を掛けるスピーカーの頭に足を置き、客席を見ながら指を突き上げ、リピート部の1回目を終えると、上げた右手を上下にリズムを取り、2回目のリピート「ガッ ツー オガースム 身体とかせ」「ガッ ツーオガースム」と歌って、一呼吸置いて「行くぞーオィ!」と叫び、そのリズムの延長に「オィ」の止めを打って、小さくジャンプ。伴奏が破断のリズムをしゃくると、一声「シャール・・」と叫び上げ、「狂っちゃえ!」とさらに力強く叫んで、ヘドハンをし始めた。ゲストの外人1人も同調のヘドハンを始め、「狂っちゃえ、コラー」とさらに追い打ちを叫んで、ヘドハン。伴奏は終末に近付いて、「ヒュー!」の有終の美をたたえる声が漏れ、スローに移り変わってゆくと、YOSHIKIのドラムも最後へ、同時に大きく両手のステックを振り上げて引き下ろすフィナーレを叩いていく。PATAがギターを体に添わし垂直に掲げて、最後のフィナーレをひくとheathも右手を真上に突き上げてゴールのポーズ。「また会おうぜー!また会おうぜー!」と叫ぶToshiの後ろの大スクリーンには、Xの巨大ロゴが点滅を繰り返している。YOSHIKIのステックが、今度は交互にゆっくりペースを緩めながら叩かれると、Toshi「バイバイー!」と叫んで、直立姿勢で客席に向かいながら、右手を高々と一直線に掲げた。叩き終えたYOSHIKIは、うつむき丸まった体をゆっくり泳がせながら、長い動きのブレーキがかからず止った手と分離、体だけが止まらず浮遊している。Toshiがにこやかに笑いながら客席に向けていた手を下ろすと、場内の音量が急に引いていった。代わりに観衆のざわめきが浮き出され、そして大きな歓声や拍手の大声援が湧き上がった。音楽は無音になり、一人一人の豆粒の声援が大同してドームの外屋根を転がり落ちるような大声援。その中をメンバーがステージから下手に引き上げてゆく。YOSHIKIは一掴みのステックを握り締めてステージに下り、足元をふらつかせながら、右手で2本のステックを客席に放り込み、さらに続けて2本、今度は反転しながら残り全部(4〜6本)を投げ入れた。Toshiの背に続いて引き上げて行くその足取りは、四角い車輪の自転車をこぐ様に、不自然な足取りで、精魂使い果たした放心の中を歩いてゆくように見える。ステージ袖で、スタッフが肩に大きなタオルを被いかぶせた。ステージの照明が、すぐに落とされていって、青い照明だけが闇のステージに残され、鈍くメンバーの去ったステージを照らし続けていくのであった。8時10分第一部終了。
大きなどよめきが、遠くの春雷のように鳴っている。次第に大きく鳴り響くようでもあったが、また遠くを過ぎ去って行くように、どよめきは膨らみ、すぼみかける。12分、アンコールの大合唱が、どよめきの中から生まれ始めた。青い光の照明が、デコレイトX及びステージ天井のXにも灯った。突然、花火のような大音響が場内に轟く。音響設備のアクシデントらしく、場内で物理的な出来事が生じたわけではない。スタンドでウエーブが始まった。ウエーブが二重波となって、スタンドを回ってゆく。一波が行き、次に2波が行く。スタンド1階と2階を、時間差で走ってゆく。結局、4ヶ所で走っている。アリーナにもウエーブがやって来た。17分、スピーカーに雑音。短く音楽も入ったが、ガガー、バリバリーの雑音。アンコールの大合唱と手拍子が湧き上がる。ウエーブは回り続けてゆく。18分、ライトが消える。スクリーンにニューヨークヤンキースのロゴ、NYが重なった文字、h.NAOTOの赤文字が瞬く。VIOLET UKの文字がブルーの背景に白抜きで現れる。ステージには、PATA、スギゾー、ゲストの2人がギターを持って、スタンバイ。音楽が始まり、巨大ミラーボールがYOSHIKIドラム位置の上空で回り始めた。ドーム天井やステージバックには、満天のミラー星。両サイド花道を3人ずつ、ファッションショーのモデルが登場、ステージ中央では、4人の踊り子が、天女の舞を舞いだした。女性のボーカルが入り始める。モデルは、向こうから、こちらの道に入れ替わり、両花道を反対側へ入って戻ってゆく。激しいドラム(Yではない)にギター伴奏、シンセが中央で演奏。モデルが、戻ってきて、6人が中央コースへ入って、等間隔で立ち並んで止まっている。女性ボーカルが、強めた歌い方で歌いだす。Toshiに比べ、伴奏の音に押し負けていて、インパクトが弱い。中央コースに並ぶ6人のモデルの間を縫って、黒いはごろも衣装の踊り子達が、先端までしなやかに踊ってゆく。先端で踊り中に、6人のモデルはステージへ引き上げ、踊り子達も引き上げてゆく。そして終了、暗転(8時27分)。暗転の中、低い音が鳴り止まず、続いている。メンバーを叫ぶ声、歓声が上がってきて、入り混じった。36分、アリーナ・スタンドで、Xや We are Xというかけ声がかかり始める。8時37分、ドラムにスポットライトが当たって、YOSHIKIが立っている。クラッシックの情緒的な音楽がかかり始めた。前方を見つめているが、空(くう)を見つめるが如く、焦点が合ってない表情。上の空で、表情が浮いている。立っている姿勢が、微妙にぐらついていて、その大きな揺れが来た様に、バランスが不安定になって倒れ掛かるが、戻った。正体なく、大丈夫かなと思われるぐらい、立っているのにぐらついている。
1分ぐらい、意識が宙を飛んでいるような表情の中にいた。ぐらつく体の不安定さが続く中、力なく頭の支えが折れ、下ゆれに動いた。反射運動で引き戻されるその表情に、初めて正気の意識が通ったように、微笑みが浮かんだ。軽く首を一回転し始め、回転を進めるうちに笑顔へ変化していって、回転を終えて正面向く顔には、にこやかな笑顔がよみがえった。回転で振られ前髪のほつれ毛を払い、椅子に着座。シートのフィット具合を両手で椅子を引きながら腰を浮かして調節した。うつむき加減に椅子を調節していた顔が前向きに変わって、居心地が出来上がると、ひざ前の小太鼓(YOSHIKIから見て、右がフロアー(タム)、左がスネアー(ドラム)というらしい。YOSHIKIの場合、スネアーが体の正面にあるらしい)に置かれてるステックをそっと持った。一連の体の動きの中で急にステックをつかんでいるので、どこでステックを握ったのか目を凝らすと、スネアに置かれていた訳だ。ステックを握った手で、スネアの下のねじを締めなおしてるような素振り。すぐに終わり、下向きで垂れた髪を振り払うように頭を持ち上げ、そのまま上に背伸びをするように姿勢を正して、天井へ向き仰いだ。上に伸びた体に両腕がX交叉に折りたたまれて胸元に寄り添い祈りのポーズ、握ったステックが両肩近くの手から両耳のそばを上に立ち上がっている。すぐにその姿勢でうつむき始め、胸に畳んだ両腕に頭を乗せるようにお辞儀の姿勢。じっとうつむき黙然。この場面に会場からは、大きな声援が湧き上がって来た。数秒後には、再び仰ぎ見るように天を向き、祈りのポーズ。声援は急に鳴り止んだ。顔の表情が見えてるときは、YOSHIKIの状態が確認できて安心、鳴りは起こらず、YOSHIKIの顔が隠れると不安になって声援に変わって行く。こんな一つの仮説を立てたいが、明日には更改させて頂くかも。誰も考え及ばない楽しみも持ちたいが、明日にはそれも忘れてるかも。X交叉の腕はそのまま、黒いステックが2本立ち、顔の両側を額の細い縦枠になってる。情緒的な哀愁のクラッシックが、YOSHIKIの動作を引き立たせ、見るもの全てに、主人公の美しい演技を心の底から親身に見守り続ける気持ちにさせた。上向きの姿勢から、不意に横向きに変わり、折り畳んだ両腕を解き放つように腕が伸び始めると、右横のシンバルを叩き始めた。小刻みに弱く、振動さすようにシンバルの縁(へり)や中心部をさすっている。シンバルを始めた瞬間から、クラッシックは止んで、シンバルの微弱な金属音がさざなみの音がするように響いている。YOSHIKIの体は、もう叩き始めより、大きく揺れて、前後や横ぶれに、さざなみ以上の風が吹いている。シンバルは、右横の振動を加えてるもの(@)以外に、外側にさらに中段位置に左(A)右(B)2つ、その先に高位置の一つ(C)が置かれているようで、4つのシンバルが軒先に階層を織り成してる。@のシンバルを震わしていたが、右ステックがBをきつく叩くと左ステックが下からAの裏下へ叩きいれる。振動@へ戻って右手がCをきつく叩くと、Aを左手が上から叩き下ろす。振動@へ、再び右手がBへ、左手がAを上から叩く。振動@へ、右手がC、左手がAを上から叩く。振動@を棲家(すみか)に、それぞれの餌場へついばみに寄る。今までのところ右手はBCが餌場、左手はAが餌場。ここまで来ると再びクラッシックが鳴り始め、強めに荒々しく曲調が変わった。
YOSHIKIのドラムソロが始まった。今まで何回となく、ただ、ぼんやり見てきたが、この機会に、えげつなく、一秒何分の一秒を覗き込もうかと、無茶なことを考えた。思いつきなので、思いつかなければ良かったが、「YOSHIKIのドラムソロが始まった。何分間、体力の限界に挑戦し、世界一速いドラムは、たくさんの見せ場を作って、Toshiの歌声に引き継がれた」と書いて終わるのも一つ。もうちょっと踏み込んで、途中から、とてももう書けません というのも、一つ。出来ない事は無理をせず、途中でやめるんです、と、もうじき言わせて頂くつもりでいますので、ご勘弁を。・・・スケルトンのドラムは、TAMA製らしい。透明なドラムの胴体に、青い光が反射して、暗い背景をバックに、YOSHIKIの白い肌が、深海の生物のように獲物を求めて左右に漂い、泳いでゆく。無音の世界にシンバルの振動音。振り出すステックによって、中段高段のシンバルへ餌場を求めたと言うところまで書いた。この段階になって、クラッシックが入った。ややボリュームを上げ、ドラマなんかで危難に面した時に不安を煽る旋律とでも言うか、荒々しく落差のある音階がマイナー音で入ってきた。YOSHIKIの体は、大きく前後して、強い潮流の流れに泳ぐ海草状態。クラッシックが入ると、振動のステックさばきに戻り、餌場へ向かスパンより長く振動に住んでいたが、高段Cを叩くと、その右手がBに行き、ほんの時間差で左手がAを下から裏たたき、右手が高段Cへ延びた。そして振動に短く住み、再びBACの連続プレイを時間短縮に早めて2回繰り返した。大きく体が前後左右に揺れ動いてる中での、的確なポイントヒットは体で覚えこむ以外、意識的に叩けるものではないようだ。私の耳に間違いなければ、振動音を基礎音とすると、ABCのシンバル音はこの順序で少しづつ高音へ変化している。音階的には1音階前後の差しかないように聞こえるが、正確にはわからない。音階差があることによって、振動・中段・高段のシンバルがついばまれる事で、シンバルオンリーの曲が流れていく。実際には、曲とまで聞き取れにくいが、YOSHIKIには、曲として楽譜に表し、それを記憶してこそ、再現が出来る。ランダムにインスピレーションで叩く場面もあろうが、ドラムソロという列記としたドラムショーの中では、クラッシックの入る場所、照明のタイミング、ボリュームの上げ下げ、など、ショーに付随する効果演出が、楽譜どうりの進行でないと的確に出来ない事になる。的確にするには、楽譜がないとうまく行かないだろう。結局、ちゃんとしたドラムの楽譜があるはずで、YOSHIKIが全てを楽譜に表してゆくと、かつて言っていたことはこのことで、同じプレイの再現が可能となり、音階もその長さも、間合いや休止も一つの曲として出来上がっているはず。そんなことも考えることなく、ただ今まで、シンバルは「バン」となる銅板でしかなかったが、知らぬが仏強いものだ。因みに振動音のシンバルは、リズムをキープする目的の“ライドシンバル(トップシンバルともいうらしい)”となるのかな、ABCは曲中でアクセントをつける時に使用する“クラッシュシンバル(サイドシンバルともいうらしい)”になるのかな。材質や製造方法もいろいろあるらしい。「遠鳴り・そば鳴り」といわれる厚さや最も重要視される真円度も重要。シンバルを投げる行為で、変形や真円度が歪めば、音の出方を重視するシンバル製造の基本が、人為的に損なわれ、ドラム奏者にとって非常に非常識な行為になってくるが、一度投げればそれは使用不能になる代物という意味で、無謀な行為に多大な出費、あぁ・・なんと言えば・・もったいない。・・・・さて本題、深いお辞儀を高速で繰り返す動作で、シンバル連続ヒットを叩き終えると、体が急に左へ傾き頭髪が割れるように乱れ、座椅子を基点にサーチライトが円を描くように一周、後ろへ背倒しに倒れ掛かると今度は時計回りに首を回すように一回転、再び大きく体が泳いだが、体を垂直に立て直し、上を仰ぎ見て流れた髪をステック握りの両手でかき分けた。今度は向かって右方向に向きを変え、Aのシンバルの右側同位置に置かれてるシンバルDを右手で引っ叩いた、この瞬間から、クラッシック音のボリュームが下げられた。観衆がステージを見た場合、向かって左サイドへ体をよじって叩き始めたシンバルから、向かって右サイドへ体を半身よじって叩き始めたシンバルに移行した。左サイド中段Aのシンバルに対比をなす右サイドDのシンバルを一叩きしたステックは、右サイド振動音を小刻みにたたき始めた。Dのシンバルを叩いた瞬間には、バスドラムの太鼓音が同時に一発入った。右サイドにも振動音を基礎に、餌場へお出かけするパターンがあって、左右2パターンの住まい(ロスと東京、遊んでは不謹慎かな?)を持ってる振動音の安息住まいの中に、今、ステックは落ち着いている。クラッシックは、低ボリュームに落とされ、振動音のステックさばきが、住まいの生活音を発するように強弱を持ち、音符の長さに匹敵する間断を変えながらシンバルに遊んでる。このシンバル、左サイドの振動音を作ったシンバルより小さい形状で1枚の板。しかもスタンドの軸が、シンバルの中心を突き抜け、上に尖って突き出してる。ドラムセットで言う「ハイハットシンバル」というらしい。奏者の左足側、スネアドラムの直近に専用スタンドで設置すると説明してある。その次の説明が非常に興味をそそる。「ツー・バス演奏時に左足を使用できない状態で、クローズ音が欲しい場合や常時ハーフ・オープンの音が欲しい場合に使用するクローズド・ハットといったものもある。通常は(左側に設置している場合)腕をクロスさせて右腕で叩く(クロスハンド奏法)が、腕をクロスさせずに左腕で叩く奏者も存在する」。ツー・バス奏者やクロスハンド奏法という文言は、YOSHIKIに的中する説明ではないか。またクローズド・ハットという言葉から独断で思いつくのは、ハイハットのシンバルが2枚合わせのバンドも合って、演奏中に2枚が打ち合わさってるのを見かけた。2枚の板がないのがクローズド・ハット(1枚が固定されてる、ハーフ・オープンって言うのが、2枚の板で少し間を開けてる?かな)と言い、その一枚の音をクローズ音というのではないのかと、全くの想像だが思い浮かんだ。じゃ、今叩いている振動音はクローズ音ということになるが、何ともわからない。クロスハンドの時に、このシンバルがどう叩かれるのか、ツーバスのバスドラム音が連続する時に、どうなってるのか、見方を一つ暗示してくれたようだ。小さい円心だけあって、音の高さは、左サイドの振動より少し高く聞こえる。円盤の小ささが、スタンドの軸を頑強に見せて、しっかりしたスタンドに小さなシンバルの安定感がある。サイド左の振動音を作った円盤は、叩くと円盤のヘリを揺らしていたが、ハイハットは円盤がしっかり固定されていて、振動ぐらいの力では揺れる事もない。揺れると揺れないでは、ステックにかかる反発力が異なる。しっかり叩ける手ごたえが、YOSHIKIの体の芯までしっかり伝わったのか、サイド左の叩き方の様には体が泳がず、石仏に祈る姿勢に手を合わせた格好、たまたま手が地蔵の頭を2本の棒で小突いてるという叩き具合で、振動音を発している。7秒ほど振動を叩いていた右手が、Dのシンバルを再び捉え、同時にバスドラムを一発叩き入れた。再びハイハットに戻り振動の住まうが、体の動きが激しさを増して、背伸び上がるように体の芯が伸び上がったり、ぶれの揺れが大きくなった。6秒ぐらいの振動から、2発のバスドラムがなり、右手がDのシンバル、左手が左サイドのCのシンバルの対比位置にある高段のEのシンバルへ延びて、一叩きづつをついばんだ。YOSHIKIドラムセットのシンバルは、左サイドには振動音の一つと中段2つ高段一つ、右サイドには、振動のハイハットと中段高段それぞれ一つあるということになる。3秒ほどで、右手がスネアドラムを一発叩き入れると、かん高い張りの効いた音が響いた。一人前にスネアといわせて頂くが、私の感覚では小太鼓なのである。その音が鳴り響いた。この辺りから、静かめのバック音楽が、オーケストラからピアノの控えめな音量へと移り変わった。3秒ぐらいでDとバスの同時一発。さらに3秒ぐらいで、DEDEDDの連続シンバルに、バスドラムが6発、それぞれ同時に寄り添い鳴り響いた。少し長い振動に住む間、体にエネルギーが満ちて大きく揺れ動き、上下の揺れやぶれ巾が大きくなった。8秒ぐらいの後にスネアを一発、3秒してDEDDにバスを4連続、10秒ぐらいの振動にDEDスネアにバス、すぐにDEDスネアにバスを繰り返し、さらにDEのシンバルにバスを一連的な流れで叩くと大きく波打って叩いた躍動が静まり始めた。するとピアノのバックの演奏音が、ボリュームを上げて行き、ピアノのクライマックスが来た様に感動的な旋律を高々と鳴り響かせる。振動のシンバルに触れるぐらいに叩いている音は、もうピアノに主役を譲ったようにかすかにしか聞こえない。そしてYOSHIKIはドラム演奏から体を離していった。
YOSHIKIのドラムソロ、序章は約1分47秒の体慣らしとでも言うものか。ピアノの演奏時、最初鍵盤を上下に指慣らしのようにすばやく弾いて行く(よく知りませんが、カノンというやつ?)あれに似ているようだ。あれだけ体を揺らし、揺動しながらシンバルの位置を見ないで、ほとんど叩いていた。バンドのドラマーは、激しく叩く時も、体の芯が据わっていて、揺れ動くような事はほとんどない。芯を揺れ動かさず、的確にシンバルのポイントを叩くというのが、基本であろうと素人ながら思う。しかも、シンバルを上から叩くものとばかり思っていたが、下(裏側)からステックで叩き上げている場面もあった。先日のテレビで、ドラムセットは1ミリも誤差なくセットされるように言っていたが、その時は内心半信半疑でもあったが、見ないで叩く上にシンバルのポイントを的確に叩くとなると、ステックのスイングの軌道を体が覚えこんでいて、その軌跡の中に対象のシンバルが置かれてないと的確にヒットしないから誤差のないセッティングが至上命令になるということらしい。どこの世界に、ドラムセットの中で舞踏会を催すドラマーがいる?。それは掟破りの無頼漢(ぶらいかん)で、そんなドラマーはたいした事ないという批判が、多くのドラマー共通の認識じゃないかな。基本をないがしろにしては、まともな曲は叩けない。
見ないで、体を大きく揺らしながら叩く奏法、ブラインドフライスイング奏法(こんな奏法はないです、勝手につけた)、Xファンには当たり前だが、Xの常識は世間では非常識かなぁ、華やかで良いんだが・・。掟破りで思い出した。たぶん、演奏後ドラムセットを叩き壊し始めるのもご法度、セットに飛び込むのもご法度だろう。いくつものご法度が重なり合ってるようだ。まだまだ気付いてないご法度、ありそうだなぁ。 さて、ドラム演奏から体が離れ、体の芯を真っ直ぐ立ち上げ、伸び上がりながら顔を左右に振って髪の毛を払い分けて上を向いた。像が上向き象牙を上げるように両腕がステックをつかんだまま上がってきて、上向き後ろへ垂れ下がる髪を耳からすき流すように動いた。顔は上向きのまま、左手が左顔面にまとわり着く髪を耳下へ押し流し、右手は素直に下へ戻って行った。そして顔の表が向き下がってくると、正面を向く寸前に表情がみなぎり、食いしばる口が開き、力任せに目も閉じられた状態で、ステックを持つ手首が腰の前で激しく乱闘、スネアがけたたましく轟き始めた。太鼓へのステック攻撃が始まった。太鼓についても素人の自分に説明させてもらうと、スネアの右側にフロアータムという太鼓を置くのが普通。スネアーとフロアーのすぐ前にタム(タムタムともいう)という太鼓を置く。ハイタムとロータムの2つを置くのが一般的だが、ハウタムだけとか数多くのタムを置くとかいろいろあるらしい。YOSHIKIは、数多く置いてるようで、ハイとローのタム、さらに左サイド前方Dのシンバル横の中段に一つ。さらに右サイド横下に3つ、左サイド横中段に細長い筒状太鼓が長め2つ短め2つがある。細長い筒状の太鼓までタムというのか言わないのかわからないが、タムというらしい太鼓は合計10個となる。そしてハイ・ロータムの前か下に大太鼓、バスドラムというのを置く。客席から見えるXのロゴが入った大きな太鼓で、ベードラとかバスドラとかいう呼び方もあるらしいが、バスと言う。これはべダル仕掛けの円球つきバチで叩かれ、バスセットが2つ、ペダルを2つ使って連続叩きをするのがツーペダルというらしい。太鼓類は、スネア、フロアー、タム10、ドラム2となる。ハイ・ロータムとフロアードラムは、本来、体の前に垂直に置かれてあるのがドラムセットの図であるが、YOSHIKIの場合、前方中段に、斜めにYOSHIKI向きにセットされている。3つが同じならびにセットされているが、3つ並びのYOSHIKIから見て左側からハイ、ロー、フロアーの順だろう。左サイドの細い筒状太鼓から右サイドの3つのタムまで、音階的には高い音から低い音の順に並べられてるように思う。YOSHIKIが体を時計回りによじりながら、タムの音階を叩き下りてくるのを、“タム階段を下る”という・・・のか言わないのか、私の勝手な表現でした。
スケルトンのタム・フロアー・バスが、たなびく霞のようにYOSHIKIを取り巻いて、霞の向こうで水面下のアヒルの掻き足のように、手首やステックが激しくもがき始めた。水面上に出ている優雅な上体は、アヒルのように済ました冷静さを湛えるというわけにはいかず、激しく筋肉が波打ってほとばしる。スケルトンのシェル(太鼓の胴回りでアクリル製やファイバー製)とへッド(胴に張ってあるフィルムでプラスチック)によって、本来隠れて見えない水面下ものぞき見れるのは、「ライトによっては何色にでも光る」という視覚効果を考えたステージング以外に、ファンにとってはYOSHIKIのプレイをのぞき見れるという副産物も生じて、非常に刺激的なドラムソロを堪能する事が出来るようになった。シェルの構造上の元枠が、オリのような障害をつくっているが、これをスケルトンにするのは無理な要求になるんだろう。本来壁の中で見えないもの(スケルトンでないシェル)が、見えるようになってる(スケルトン効果で)だけで、感謝しなくては。仰ぎ見てる顔面、右手が素直に戻って太ももに着地、左手が迷い毛を下に掻き下ろして、その体勢が次の爆発音を打ち鳴らす姿勢に移るのを、観衆はすでによく知っていて、満ちる歓声が急に押しあがった。YOSHIKIの顔が客席に表を向けるなり、激しい攻撃がスネア一点に加えられた。強烈なアタック音が6秒ほど、最大の手先回転で打ち鳴らされ、一定リズムではなく、打音に詰屈感を作って変化をもたせている。力任せのステック回転、力も手首に一点集中、顔面も苦渋の表情、口元が楕円を押しつぶしたように変形にゆがみ、目は閉じてしまっている。体の芯は、垂直に立って、この時ばかりは舞踏会をお休みとしなければ、気持ちも余裕がない。やや右肩を上げ気味に、リズムの変化を、体の微妙な向きや頭の傾け具合や髪の乱れ具合に見てとれる。スネアだけの音階は、強弱と間合い(スピード)を変えようとも一定音階が鳴り響いていたが、そのスピード感でロータムへ移動、低い太鼓音を連続1秒、さらにフロアへ一瞬の連続打音を打ち上げて、Aのシンバルを一発、すぐに右振動シンバルを軽く叩くと共にツーペダルのバスが低く小刻みに鳴り響く。かかり始めのスネアからAのシンバルまでの8秒ぐらいは、爆音が鳴り響いて他の音を打ち消していたが、振動シンバル2ペダルが低く鳴り響くと、バックにピアノの曲が静かに浮かび出てきた。序章のシンバルプレイが終わる頃に、ピアノのクライマックスのように音量が上げられ、YOSHIKIがスネアへの攻撃にかかろうかという寸前には、低く下げられたボリューム、以後隠れてしまったピアノが、今、バス・シンバルだけの弱音に聞こえ出してきた。その瞬間、YOSHIKIのドラムステージが、上昇を始めた。爆発的な初動を終え、右ステックを振動、バス2ペダルをバックミュージックに、YOSHIKIの“ダイヤモンドステージ”が上昇を始めた。ダイヤモンドステージとは、8角形のドラムセットが載ってるステージを、私が勝手に命名した。光り輝くステージに、光り輝くドラムプレイ、YOSHIKI自身が光り輝いて、その光をまぶしく見つめる5万の観衆、全てダイヤモンドの光とそれを見つめる視線、同じに思えるのである。
2ペダルバスに右サイド振動シンバルへ、入魂の爆発プレイから飛び移ると、すばやく左手が、髪を払いのけた。口をぱくつかせ、少し腰を前倒し、左下に視線を下げたかと思うと、背伸びするように向き仰いだ。すでにダイヤモンドステージは上昇を始めている。上昇を始めると同時に、観衆の大歓声が湧き上がり、ダイヤモンドステージ左右から各2本ずつの蒸気の噴射が勢いよく立ち上がった。通常ステージの鼻から立ち上がる蒸気や火炎と同じ設備を利用した同じ規模の強烈な蒸気の噴射と思ったが、蒸気はステージ上昇の間、ずっと噴出し続けていて、しかも勢いも弱めに感じられる。噴射力を控え、噴射時間を長めに保つ設定となってるようだ。上昇するステージの台座は、8角形の台形状、主に逆四角錐(すい)のとがり部分をはつった逆台形となっていて、水平に台形辺を辿るように4本の骨組みがくまれ、その上にさらに水平に細い骨組みの正四角錐の底辺部分が少し乗っかってYOSHIKIのプレイする平面となってる。2つの四角錐が合わさって下側が半分、上側が1/5を残して切り落とされたステージ台。この台座部分には、横枠に沿って発色体が這わされ、上昇と共に赤いネオンサインのように点滅を始めた。奇しくもダイヤモンドステージは、形状もよく似ていた。低いバス・シンバル音を連続的に打ち続けながら、仰向きの姿勢を戻し、左をすばやく見て、うつむき加減の姿勢に入って、低音を間断なく連続打ち鳴らしている。突然Aのシンバルを1発捕らえて、再び同じ動作に戻った。上昇が続いて、大分上がってきたころに、タムバスへ移りだし、アフリカ原住民の打ち鳴らす野性的なリズムのタム・フロア音が響き出した。ロータムとフロアの2つで、リズムと音色の変化を作って叩いている。リズムの流れが繰り返される節目には、スネアのかん高い響きが一つ挟まる。上昇のペダルプレイには、ピアノの旋律が聞こえているが、タム・フロアバスの大きな音響になると圧倒されて聞こえなくなって行くボリューム量も、計算されているんだろう。上昇は18秒ぐらいゆっくり上がってゆき、12秒ぐらいから、タム・フロアのバスが鳴り響き出した。バスは、上昇が止まった後も同じリズムで叩かれて行く。止まったステージは、しばらく静止していたが、22秒から回転を始めた。時計回りに上昇のスピードと同じスピードで回転が始まった。回転が始まると同時に、水蒸気の噴射が止んで、もやが引きちぎられるように乱れて消えていった。野性味のバスの音色は、戦いの旋律を奏でるように、たくましく聞こえ、YOSHIKIの打ち下ろすステックの動きへ体も引き込まれるように、芯の座った体の動きがリズムの合って前後、口はギュッと閉じられ、叩く振動が頭の俊敏な動きを作る。この時ばかりは、目はバスの表面をしっかり見据えているように見えた。戦いのバスの旋律は、一つの流れが4回繰り返され、回転が始まって4秒後に、ロータムの連続音とシンバル音を1発強打して止んだ。ダイヤモンドステージは、30cm/秒の上昇スピードと仮定して、約5m40cm辺りの上空にUFOのように浮かんだ。
ダイヤモンドステージが上昇、一旦停止、そして回転が始まる。回転が始まるとステージは前進を始めた。中央コースに沿ってゆっくり回転しながら前進をしてゆく。回転が始まってすぐに、戦いの気運を盛り上げていた野生味なドラムは、小休止に入った。お人形髪を両脇へ払い流すように軽く両手を動かし、今度は耳に入った水を流し出すような首の傾げ方を左右に作って、さらに首のコリをほぐすような素振りを左右へ繰り返した。上体はドラムプレイを休止してるが、ツーバスは低くなり続けている。6秒の休息を挟んで、Aのシンバルを一叩き、再び野性味のリズムを繰り返し始めた。ロータムとフロア、拍子と音色で巧みにリズムづくって、再び力強いリズム。さっきは、体の芯が通り、頭の揺れもリズム的に小刻みな前屈でしかなかったが、今度は大きく頭を振りながら髪乱し、上体が飛び跳ねるように叩き始めた。髪はバウンドし、大きく全身が上下を泳いでいる。全くドラムの位置は見ず、ステックの力が体を揺さぶっているかの如くに揺られている。体を揺らしてポイントを叩くというのは、非常に難しくやりずらい。今まで何度も、試みに同じポーズでステックを振るまねをしてみたが、手に力が入れば体が止まる。体を振り動かせば、手先はめちゃめちゃになる。手先と体を、別々の動きであれだけ激しく正確に叩くというのは、出来たものではない。すごい技。2回繰り返した激しいリズム、3度めになると状態を立て直すように、体の芯を立てたように小揺れになり、ドラムの位置を見ているような叩き方になった。4度目の繰り返しは、同じリズムではなく、スネア→ハイタム→ロータム→フロア→右下タム(3並びの最前)へと等間隔に渡り歩く、いわば“タム階段を下りる”叩き方で走り、最後Aのシンバルを打って、戦いの始まり、野性味溢れる旋律は終わりとなった。15秒ほどの戦いの旋律ラウンド2であった。ダイヤモンドステージは、中央コースを前進、「中程で点滅に変わり、アリーナ塔の内側2本(アリーナ後ろに4本の塔がある)の塔より、3光源のスポットライトが点滅しながらYOSHIKIの空中ドラムを照射する。ドラム台が、ネオンサインの様に不規則な点滅で輝き、ドラム台が回転し出す。47分、一つの演奏が終わった」とメモに書かれてあるその演奏の終点が、ここだと思う。演奏が終ると、クラッシックがなだらかな音階で入ってきた。YOSHIKIは、軽く首を回し、まわした拍子にまつわりついた髪の毛を左手で払い、右側へも手を回して払った。ツーバスの低く地響きのような振動音は鳴り止まず、続いている。10秒ほどの小休止、再びスネアの高速振動音が、バス音の中をかすめるように通り過ぎた。
低く流れるツーバスの連続音の中を、スネアの振動音が高速で通過して行く。叩くというのではなく、ステックをスネアのヘッドへ押し当て叩くとと、自然と反発力で小刻みにバウンドするその振動音を、一吹きの疾風のように高速感を出して差し挟む。1〜2秒の間を置いて、再び疾風のスネアの風塵を巻き上げると、その砂塵が去りゆく足音が消えかかる頃に、スネアの振動音から叩く粒を次第に鮮明に浮き上がらせ、鼓笛隊が小太鼓を叩くように大きくスネアのヘッドを叩き始めた。かん高い破裂音が、はじけるように飛び出してゆく。単一のリズムではなく、浪打ち、強弱抑揚を伴いながら花火が暴発、光の光線を四方八方に飛び散らせるように乱舞させている。4秒ほどの乱舞を打ち上げたステックがハイタムへ飛び移ると、低い太鼓音になったように思ったが、続けてロータムへ飛び移ると、さらに一音階か半音階低くこもって太い響きを打ち出してくる。それだけスネアの音色は、高音できっぷうのよさが際立っている。ステック回転を最大限に、ハイ・ロー・スネアのヘッドを行き来しながら、万華鏡の回転を見るように、音の百花繚乱模様を織り成してゆく。高速すぎて、どこをどう叩いているかという事はわからないが、音色の混じる音の模様柄は、スネア・ハイ・ローの自分に正面にあるこれらヘッドの三角地帯を、頻繁に高速回遊して乱舞の打音の繚乱を作っている。この時のYOSHIKIの姿勢は、体の心をしっかり立て、小気味よく両腕を突き出し上下の交互を回転さすように獲物を狙って、自分のリズム感が体の流れを動かすように、頭をリズムのツボにはめている。髪は頭の波動を追うように揺らいでる。8秒ほどの一しきりの3角地帯の高速回遊が、少し変化して、同じ地点にとどまるように叩き始めた。まずはハイタムへ1秒ほど、といっても短い時間の話だが、乱打戦はとどまるところを知らないように打ち乱れたのに対し、少し、ホンの少しとどまってるように感じてくるのである。そしてロータムへ飛び移りまた1秒弱。続けてこのハイ・ローのみを、行き来しながら、低い太鼓音がわずかの音階差のリズム変化で響いてゆく。変化を感じたのは、スネアへの寄り道がなく、2つのタムを行き来するだけの太鼓音、スネアが抜けただけで繚乱感は抜け、同音系の音色が低空飛行の爆撃機の様に鳴り響く。ハイタムを最初1秒ほど叩いた後は2つを交互に仲良く相愛のように睦んで、最後の1秒はロータムを可愛がり、最後にフロアをドコドコ、Aのシンバルを一撃、6秒間の変化部は終わり、短い小休止に入った。最初の疾風が吹き始めた時から23秒、一つの合戦が終わった。この間、なだらかなオーケストラがバックに流れ、ドラムプレイの間も音量が控えられるという事もなく、バックを流れたいた。小休止になって、相対的に浮かび上がった。




間違えた所もたくさん有ると思いますが、最後まで読んで頂いて有難うございますm(__)m