薪能を楽しむ 土蜘蛛

「驚愕」これが偽らざる気持ちでした。 鼓の乾いた響きと泣き叫ぶような笛の音、謡曲の艶のある声、アップテンポで古典芸能と思えない様なリズム、舞台でパッと舞う白いクモの糸の演出。 どれをとっても、今までウッキーが知らなかった世界でした。 
きっかけは、仕事で出勤することになった晩秋の土曜日に、職場の近くで薪能が演じられることを、当日の朝、たまたまテレビニュースで知ったこと。 小田実流の「何でも見てやろう」精神で出かけてみました。 あるビルのオープン記念の催しで、招待客が主ですが、立ち見なら一般客も無料で鑑賞できたのです。 場所は愛宕山、わずか26mの海抜でも東京23区で一番高い山で、愛宕神社とNHK放送会館がある江戸の名勝の一つです。 

さて会場へ着くと、折り畳み椅子の客席は招待客でほぼ満席。 一般客には脇や後ろの立ち見だけが許されています。 着いてまもなく、狂言に先だって「三番叟(さんばそう)」という舞が上演されました。 舞台の両サイドには薪が明々と炎を上げ、柔らかな光で紅葉を照らし出し、雰囲気を盛り上げています。 さらに、観客席まわりの灯りは、高さが1m位もある大きな提灯です。 
舞が終わって、いよいよ能が始まります。 当日の演題は「土蜘蛛」。 もちろん初めてみたけれど、これがすご〜い。 題名のとおり、クモの化け物が出てきて、糸をパーッと散らします。 おそらく細い紙テープなのでしょうが、これが7〜8mもふわっと広がって、すごい演出効果を上げています。 そして、その土蜘蛛の化け物と武者が戦う場面では、鼓のテンポが早くなり音も大きくなって、謡曲と相まって雰囲気を盛り上げます。 

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ウッキーの隣にいた年輩の女性の方が、「これが見たいから来たのよね」と話していたから、通の間では名場面として知られているのでしょう。 せっかくだから、土蜘蛛のあらすじを紹介しておきます。

源頼光が原因不明の病で床についています。 そこへ僧の格好をした者が現れて、頼光めがけて蜘蛛の糸を投げかけます。 これは実は土蜘蛛の化け物で、病気の元凶なのです。 頼光は刀を抜いて斬りかかりますが、取り逃がしてしまいます。 その話を聞いた従者の武士達が、化け物退治隊を結成して、土蜘蛛の住処である塚を突き止め、それを崩そうとすると化け物が姿を現し、斬り合いになります。 このときにクモが武士達に向かって、4〜5回も糸を投げます。 そして、最後に土蜘蛛は討ちとられるという物語です。
当日の演者は、僧:梅若万紀夫、土蜘蛛:梅若紀長 武者:鏑木岑男 という皆さんです。

当日は、風があって肌寒かったけれど、蜘蛛が散らす糸が風にながされて、まるで煙のようにふわっと広がる様は圧巻でした。 ウッキーが能を見るのはこれで2回目だけれど、能ってもっと静的なイメージのものだと思っていたから、すごいカルチャーショックをうけました。 日本の古典芸能って凄い!

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