レンブラントとレンブラント派展

聖書、神話、物語

 

街がクリスマスの飾りつけでにぎわう師走に、本当に久々に、上野の森へ行ってきました。 レンブラントを中心とするオランダ絵画の展覧会が、国立西洋美術館で開催されていたからです。
レンブラントは、自画像や肖像画をたくさん残していますが、それらに次いで、物語の主題による絵画にも情熱を注ぎました。 今回の展覧会は、レンブラントとその弟子達による作品の中から、聖書や神話などを題材にした物語画を収集しています。

訪れたのが平日の午後にもかかわらず、美術館は多くの鑑賞者で埋まっていて、レンブラントの人気の高さに驚かされました。 では、まず、大御所レンブラントの作品から紹介しましょう。

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上の作品は、「聖ペテロの否認」(1660年 アムステルダム国立博物館蔵)です。 イエスが捕らえられた直後に、女中から「この人もイエスと一緒にいた」と指摘され、「私はあの人を知らない」と否定する場面(ルカによる福音書第22章)です。 暗闇の中で、わずかなろうそくの光に照らされ、ペテロの困惑した表情が浮かび上がっています。 レンブラントの真骨頂です。 この、光と陰を効果的に使った手法は、「レンブラント・ライティング」と呼ばれ、写真や映画の世界でも活かされています。

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次の作品(左)は、フェルディナント・ボル(1616〜1680年)という、レンブラントの弟子による「アブラハムの犠牲」(1646年 ルッカ国立美術館蔵)です。 題材は、旧約聖書からとられています。 敬虔な信者アブラハムは、なんと100歳にして神の力により子供を授かります。 ところが、神はアブラハムを試そうとして、その子イサクを生贄にささげるように命じます。 わが子を薪の上に横たえ、ナイフで刺そうとしたその瞬間、舞い降りてきた天使がアブラハムを制止します。 驚きナイフを落とすアブラハム。 父にすがりつこうとするイサク。 背景には、イサクの代わりに生贄になる羊が描かれています。 縦2.6mもある大作で、その前に立つだけで、圧倒されそうになりました。

右の作品も同じくボルによるもので、「ヴィーナスとアドニス」(1656〜58年 アムステルダム国立美術館蔵)です。 ヴィーナスは、キューピッドの矢を受けて、恐れを知らぬ若者アドニスに恋します。 そして、今、狩に出かけようとするアドニスを、すがるように引き止めるヴィーナス。 このあと、ヴィーナスを振り切って森へ入ったアドニスは、手負いのイノシシの前に命を落とすことになります。 ルネサンス以降、数多く描かれてきた神話の名シーンのひとつです。

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最後に紹介する絵は、ヘルブラント・ファン・デン・エークハウト(1621〜74年)の「スキピオの自制」(製作年不明 オランダ文化財研究所蔵)です。 スキピオは、紀元前200年頃のローマの将軍です。 あるとき、戦いに勝利したスキピオの前に、一人の少女が差し出されます。 しかし、その少女に婚約者がいると知ったスキピオは、少女を両親と婚約者のもとへ返すことにし、さらに貢物を婚約のお祝いとして二人に与えました。 オランダでは、この美談が為政者の徳をたたえる逸話として、広く知られていたようです。

絵を鑑賞するときに、描かれている物語を知っているのと、そうでない場合では、面白みが全く違ってきます。 今回は、解説を片手に、背景になった物語を勉強しつつ、楽しみながら回った展覧会でした。

会期 2003年9月13日〜12月14日   会場 国立西洋美術館 (東京 上野)

 

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