マルク・シャガール展

ポンピドーセンター&シャガール家秘蔵作品

 

2002年4月から7月7日まで東京都美術館でマルク・シャガール展が開催されました。 シャガールが1985年に亡くなって以降も、彼の絵は世界中で愛され続け、開催される展覧会も膨大な数に上ります。 その中で、今回の展覧会の特徴は、シャガール作品の屈指のコレクターであるポンピドーセンターから、名作が出品されていることです。 さらに、全ての作品が油彩画であること。 数多く出回る版画と違い、唯一無二なので実物を目にする機会も限られるから、必見の価値がありました。

ロシアとロバとその他のものに」(1911年) 詩人アポリネールは、シャガールの作品を見て「超自然だ」と評したそうです。 確かにこの絵のように、人が空を飛び、赤色の牛が屋根の上で、緑色の子牛と人の子供に乳をやる。 しかも、女性の首は胴体から跳ね飛んでいく。 こんな光景なのだから、超自然というのも当然でしょう。 しかし、シャガール自身は、自分の絵を「これは私の思い出、私の人生そのものだ」と説明したといいます。 彼にとっては、超自然などではなくて、頭のなかの思い出をそのまま描写しただけなのです。 これは彼の図録でよくお目にかかる有名な作品で、タイトルは親友だった詩人のブレーズ・サンドラルによって付けられました。

白い衿のベラ」(1917年) この女性はシャガールの妻ベラです。 彼は1915年28歳で、良家の子女だったベラと結婚し、1944年に死別するまで睦まじく生活を共にします。 この作品をはじめ、彼の多くの絵に登場する最愛の伴侶でした。 絵の下に小さく描かれているのは、愛娘イダと、その娘の手をとるシャガール自身です。 最初、彼らの結婚に反対したベラの両親とも、イダの出生後うち解けるようになり、シャガールが家庭の幸せをかみめている頃の作品です。 

盃をかかげる二重肖像」(1917−18年) シャガール自身と、新妻ベラを描いた作品です。 自ら幸福を誇示するかのように、グラスを高く掲げ、二人とも空中に浮かび上がった構図で、その上からは天使も祝福してくれています。 世相的にはロシア革命から第一次世界大戦の頃ですが、シャガールの家庭にとっては、至福の時期だったのでしょう。 この作品は故郷のヴィテブスクで制作されました。 今回の目玉的作品の一つです。

イカルスの墜落」(1974/77年) イカルスのギリシア神話に題材をとった作品です。 迷宮に幽閉されたイカルスが、脱出しようと羽を蝋で固めて翼を作り、見事に羽ばたいたものの、太陽に近づきすぎて羽の蝋が溶け、海に墜落してしまうという場面を描いています。 シャガール晩年の大作で、大きさが213cm×198cmもあります。 この絵は塗りがすごく薄くて、まるで水性画の様にキャンバスが透けて見えるほどです。 同年代に描かれた、ドンキホーテの作品もありましたが、やはり同じタッチでした。   

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