〜甦る栄光の歴史〜  エミール・ガレ回顧

 

初秋のさわやかな日に、名古屋市の大一美術館を訪ねました。 モダンな建物の美術館で、ガラス工芸の企画展を鑑賞してきました。 透明感ときらびやかなイメージのあるガラス工芸の世界へ、翳りと象徴性に富んだデザインを持ち込んだ、アール・ヌーヴォーの旗手、エミール・ガレの回顧展です。

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19世紀末、芸術上の行き詰まり感からアールヌーヴォーが生まれ、伝統にとらわれない新しい形が求められました。 その結果、植物的モチーフによる曲線を多用した、いままでになかった装飾的な芸術に至ったのです。 エミール・ガレは、1846年にフランス、ロレーヌ地方で生まれ、1904年に白血病で世を去るまで、アール・ヌーヴォー・ナンシー派の指導者として活躍し続けました。 植物学などの自然科学にも造詣の深かったガレは、多様な技法を駆使して、観る者を魅了する作品を次々に生み出していきました。

今回の展覧会から、2つの作品を紹介します。 1番目の作品は、ガレがこの世を去った年の作品で、蜻蛉をモチーフにした「蜻蛉文脚付杯」(1904年)です。
息絶え絶えの蜻蛉と、燃え尽きようとしている自分の命を、オーバーラップさせています。 彼は持てる技法を全てつぎ込んで、この小品を完成させたと言われています。 最晩年の傑作です。

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次の作品は、この美術館の秀逸な所蔵品の一つ、「ジャンヌ・ダルク文花器」(1889年)という作品です。 ガレは同郷の出身だったジャンヌ・ダルクに、特別の思い入れがあったようで、いくつかの作品の題材にしています。 愛国心も強かったガレは、ダルクの姿を借りて、その思いを表現したかったのでしょう。 暗澹とした色彩を用いて、死や不安、憂鬱等を表現しようとしたのもガレの特徴の一つです。

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ところでガレは、これらの作品を自分自身の手で作ったのではありません。 美術デザイナーやガラス職人を指導して、作品に仕上げていったのだそうです。 また、ガレは日本通としても知られ、展覧会では鯉をモチーフにした、日本趣味の強い作品も有りました。 そして、その裏にはガレに影響を与えた日本人の存在もあって、この辺りの事情も興味深いところなのですが、また別の機会に。

会期 2003年4月29日〜11月3日   会場 大一美術館(名古屋市中村区)

 

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