季節が木々を彩る時
item3
When the season paints the

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<課題9>
テーマ:初恋
200字原稿×20枚

「初恋は実らず?」

<人 物>
安西遥華(14)中学生
安西雅恵(40)遥華の母
安西努(41)遥華の父

内山翔(15)雅恵の初恋相手
つっちん(15)内山の友達
有紀(14)雅恵の中学時代の友達
伸子(14)雅恵の中学時代の友達

 

○安西家・ LDK(夜)
   リビングのソファで本を読む安西努41)
   キッチンカウンターを挟み、安西遥華(14)と
   安西雅恵(40)が焦げてカチカチのショコラケーキを
   見つめている。
   不機嫌な様子の遥華。
遥華「もう!どうして上手くいかないの!きちんと本の通りに
 作っているのに!」
雅恵「(笑いながら)作っていたら、こんなことには
 ならないと思うけど」
   笑う雅恵を睨む遥華。
雅恵「ショコラケーキ、やめたら?」
遥華「嫌だ」
雅恵「手作りチョコでいいじゃない?」
遥華「嫌だ。やっぱり料理が上手い子に思われたいもん」
雅恵「(ケーキを見て)どう見ても上手いとは言えないわね」
遥華「(雅恵を睨む)・・・・」
雅恵「こういうのは気持ちが込もっていればいいの。
 チョコを渡す事が目的じゃなくて気持ちを伝える事が
 目的でしょ?だったら見た目は気にせず、このまま渡す事ね」
遥華「ええ〜!」
雅恵「それが嫌だったら、余計な見栄は張らないで、
 普通のチョコにすること!」
   リビングのソファから安西のクスクスと声が
   聞こえてくる。
   振り返る雅恵と遥華。
   安西は先程と同じ姿勢で本を読み耽っている。
   向き直る雅恵と遥華。
雅恵「さあ、どうする?」
遥華「・・・・普通のチョコにする。(ケーキを指し
 これよりはマシだもんね」
   遥華、渋々といった様子で板チョコを細かく砕き始める。
遥華「ねえ?お母さんはチョコあげた事ないの?」
雅恵「そうね、大学の時お父さんにあげたわよ」
遥華「もしかして、告白して?」
雅恵「違うわよ。あげたのは、お父さんと付き合い始めてから」
遥華「告白はどっち?」
雅恵「それがいつの間にか付き合い始めていたのよね」
遥華「いつの間にかって、どういうこと?」
雅恵「大学のサークルで初めて会って、一緒にいるうちに、
 それが当たり前みたいになっていたの」
遥華「ふ〜ん。じゃあ、お母さんは誰かに告白したことないの?」
雅恵「いや、あるわよ」
   雅恵、ちらっと横目で安西を見る。
   安西はずっと本を読んでいる。
雅恵「(小さな声で)中学生の時、初恋の先輩に」
遥華「そうなの!やっぱり緊張する?」
雅恵「緊張するに決まってるじゃない」
遥華「どうすればちゃんと告白できる?上手くいく方法は?」
雅恵「ああ〜、ダメダメ。お母さんは大失敗したから」
遥華「大失敗?」
雅恵「そう!大失敗」

○回想・中学校のグランド
   高飛びやハードル、砲丸など練習する中学生たち。
   眼鏡の男子にバトンを受け取り、トラックを
   勢い良く走る内山翔(15)
雅恵の声「隣町の中学校のひとつ上の先輩。同じ陸上部で、
 よく合同練習とかしていたの。走る姿がかっこ良くてね」
   トラック脇で柔軟体操をしながら内山を見つめる雅恵(14)
雅恵の声「何度も告白するきっかけを作ろうとしたんだけど、
 これが全然ダメ」

○回想・同・水飲み場
   練習が終わって水飲み場に駆け寄る陸上部の男子たち。
   その中に内山もいる。
   雅恵はタオルを内山に渡そうと少し離れた所で
   緊張した様子で待っている。
   内山は飲み終わって手で口を拭う。
   近寄る雅恵。しかし、声が掛けられずそのまま内山の横を
   通り過ぎてしまう。

○回想・同・男子更衣室前
   内山が出てくるのを待っている雅恵。   
   陸上部の男子が次々と出てくるが内山ではなく、
   その度に落胆する雅恵。
   そんな雅恵を訝しげに見ながら素通りしていく男子。
   多少気恥ずかしさがありながらも辛抱強く内山を待つ雅恵。
   内山が陸上仲間二人と戯れ合いながら、出て来る。
   慌てて声を掛けようとする雅恵。
雅恵「あ、あの・・」
内山「つっちん!待たせたな」
   内山は雅恵に気付かず、更衣室前のベンチに座って
   本を読む眼鏡をかけたつっちん(15)に駆け寄る。
つっちん「・・・遅せえよ」
内山「わるい、わるい」
   内山、つっちんの肩を叩き、一緒に歩いて行く。
   雅恵の存在に気付き横目で見るつっちん。
   落胆して去って行く雅恵。

○回想・同校門前
   校門前には卒業式と書かれた立て札。
   中学生・先生・保護者といろんな人達で溢れ、
   あちこちで写真を取る姿が見られる。
   その校門前で有紀(14)と伸子(14)に挟まれている雅恵。
雅恵「(浮かない顔)もう、いいって」
有紀「良くない!ここまで来たんだから、告白しないでどうするの?」
伸子「そうだよ!せっかく内山先輩の為に受験のお守り作ったのに
 渡さないなんて勿体ない!ちゃんと渡して、気持ちを
 伝えなきゃダメだよ」
雅恵「でも・・・」
伸子「でもじゃない!これで先輩と会えるのは
 最後かもしれないんだよ。それでもいいの?」
雅恵「(お守りを握りしめる)・・・・」
   校門から中を覗いていた有紀が雅恵の肩を叩く。
有紀「内山先輩が来たよ!」
   胸に大きなリボン、手には卒業証書の入った筒、
   制服姿の内山が陸上仲間四人と一緒に歩いて来る。
   急に緊張して赤い顔が強ばる雅恵。
   内山は何も知らないままドンドン雅恵のいる校門に近付いてくる。
   校門から覗く事もできず、ずっと俯いたまま動かない雅恵。
   内山の様子を見ながら、雅恵を囃し立てる有紀と伸子
   内山は仲間の肩を組んでふざけている
   なかなか一歩が踏み出せない雅恵。
   有紀が業を煮やし、雅恵の肩を掴む。
雅恵「な、何するの!」
有紀「ほらっ!先輩来たよ」
   有紀はそのまま内山に向けて雅恵を放り出す。ぶつかる雅恵。
   雅恵の目の前に、赤いリボンを付けた制服が見える。
   雅恵は恥ずかしさと緊張で顔を上げられない。
内山の声「あ、わるい。ぶつけた」
雅恵「(俯いたまま)いや、悪いのは私で。あ、あの・・、先輩!
 ずっと好きでした!(手縫いのお守りを差し出し)これ、
 受験のお守りです。良かったらどうぞ!」
   雅恵の声に辺りが静まり返る。
   赤い顔を上げられない雅恵。
誰かの声「え、いや、俺はちがうー」
内山の声「おおっ!やったな、つっちん!」
雅恵「え?」
   雅恵顔を上げる
   目の前につっちんが戸惑ったで立っている。
   自体を飲み込み、ますます舞い上がってしまう雅恵。
   青ざめた顔の有紀と伸子
   内山は仲間と一緒につっちんをからかっている。
つっちん「だから、違うって!」
内山「何が違うんだよ?せっかくこう言ってくれてるのに
 無視するのか、つっちん?」
つっちん「違うんだよ、俺は・・」
   雅恵、差し出した手を引っ込める事ができず、
   そのままお守りを眼鏡のつっちんに渡す。
雅恵「(明るく)どうぞ。近くの神社で買った既製品ですけど。
 それじゃあ」
   慌てて逃げ出す雅恵。後を追う友達。
つっちん「・・・・」

○安西家・LDK(夜)
   遥華、チョコ作りの手を休めて、雅恵の話を聞き入っている。
遥華「違う人に告白しちゃったの?」
雅恵「で、そのまま逃げ出した」
遥華「その後どうなったの?」
雅恵「何も。初恋の先輩にも眼鏡の人にも会うことなかった」
遥華「うわ〜、お母さんの衝撃的過去だ」
雅恵「(笑いながら)これ聞いたら、明日少しは気が楽でしょ?
 これよりヒドい失敗はそうないから」
遥華「そうはそうかもしれないけど・・」
安西の声「おい!」
   雅恵と遥華、ソファへ振り返る。
   安西が本から目を反らし、匂いを嗅いでいる。
安西「なにか焦げ臭くないか?」
遥華「あ!チョコ、火に掛けっぱなし!」
雅恵「あ〜あ、普通のチョコもできないの?本当に不器用ね」
   雅恵は呆れて、遥華を手伝う為にキッチンに入っていく。
   その姿を見つめて、微笑む安西。

○同・LDK(朝)
   洗面所から安西が電気シェイバーで髭を剃る音が聞こえてくる。
   テーブルで朝食を食べる雅恵と遥華。
   制服姿の遥華はあまり食欲がない。
遥華「ああ、ダメ。何も喉を通らない」
雅恵「ちゃんと食べないと、決戦の日だっていうのに力出ないよ」
遥華「緊張してそれどころじゃない」
雅恵「だったら、告白しなければいいじゃない?」
遥華「・・・ご飯いらない」
   遥華は朝食を残して、鞄を手に玄関に向かう。
雅恵の声「大事な物、忘れてる」
   振り返る遥華。
   雅恵の手にラッピングされた小箱。
雅恵「当たってみなきゃ、砕けるかも分からないよ」
遥華「(小箱と受け取り)・・・・」

○同・玄関(朝)
   靴を履いている遥華。
   安西が洗面所から顔を出す。
安西「どうした?元気ないな」
遥華「・・・お父さん」
安西「ん?」
遥華「初恋は実らないって本当かな?」
安西「実る事もあれば、実らない事も。二分の一の確率だろう」
遥華「そうかな〜?実ったってほとんど聞かないけど」
安西「お父さんは実った」
遥華「え?じゃあ、お父さんの初恋って・・・」
安西「(微笑む)まあ、その時にすぐ実ったわけじゃないけどな。
 そうだ、渡すものがあった」
   安西、こっそりとポケットから何かを取り出し、遥かに渡す。
   それを見つめる遥華。
   それは少しくたびれたお守りで、縫い目は疎らで、
   刺繍の文字も歪である。
遥華「なに、これ?」
安西「これをくれた人によると、近くの神社で買ったお守りだって」
遥華「この不器用なお守り、どう見ても手作りでしょ?」
安西「しかし、本人がそう言ってた」
遥華「よくそんな嘘が・・・。え、もしかして、これって、まさか!」
   安西、立てた人差し指を口に当てて、微笑む。
遥華「そうなの!?」
安西「お父さんにとっては、大事なお守りだ。初恋の人と
 結んでくれたお守りだから。遥華も頑張ってみるんだな」
   安西、リビングに戻って行く。
   それを見送る遥華。
遥華「(お守り見つめ)・・・やるっきゃないか」
   遥華、靴を履き終えて立ち上がると、勢い良く玄関を飛び出す。
遥華「いってきます!」                          (おわり)

<作者の言い
 シナリオ教室の最後の課題です。ようやく解放されました(^_^;>ホント、毎週毎週課題を書く事がこんなにも大変だとは・・・。解放されて、こんなにも気が軽くなるとは(笑)毎週追いつめられてましたね〜。
 今回、「初恋」がテーマです。200字を20枚に収めるはずが、10枚オーバーです(おいおい)実際の提出分は削りに削ってますが。どうも私はストレートに書かないようです(^_^:;淡い初恋話とか、若さ溢れる疾走感のある初恋話とか、気恥ずかしさがどこかにあるみたいですね〜。でも、そういうものも書けるようにならないといけないんですけど。