<人 物> 仲川鈴(28)会社員 米田七海(29)その同級生 浦野那津(28)その同級生
○山間の道路・俯瞰 脇に雪が積み上げられている道路。 車が走り抜ける。
○車・車内 運転席に仲川鈴(28)、助手席に浦野那津(28) その間を後部座席に座る米田七海(29)が 身を乗り出している。 七海「まだ着かへん?」 那津「出た!七海の『まだ〜』が。ホンマ、せっかちやね」 七海「お腹すいたから、サービスエリアにと思って聞いただけやん」 鈴「もう、ひと山越えたらスキー場だから、あと三十分くらいやで」 七海「三十分か・・。それなら我慢しよ」 七海のお腹がグルグルと音を立てる。 七海「やっぱり我慢でけへん!」 那津「(笑い)後ろにある私の鞄にお菓子入ってるわ。 食べるんやったら自分で出して」 七海「やった!頂き!」 車がトンネルに入り、車内が暗くなる。 七海、那津の鞄を開けて手で探る。 七海「ん?何これ?」 七海の手にリボンの付いた小箱 。 鈴・那津「ハッピーバースデー!」 七海「そうか、すっかり忘れてた。別にええのに。 ありがとう!早速開けちゃおうっと」 七海、リボンを外して箱を開ける。 箱 には腕時計が入っている。 那津「二十代最後の一年を刻んでね〜」 七海「嫌なことを思い出させてくれるな〜」 鈴「来年三十路か〜」 七海「三十路って言わない」 那津「じゃあ 、負け犬?」 七海「もっと言葉悪いわ!」 鈴「(笑い)来年三十ってことは、タイムカプセルを 開けるのも来年ってことやんね」 七海「タイムカプセル?」 鈴「ほらっ、高校卒業する時に三人でタイムカプセル埋めたやん。 三十歳の自分たち宛てで手紙書いてさ」 七海「思い出した!香春公園の一番大きな桜の木の下で 来年の春に集まるんやろ?」 那津「そう。その時鍵忘れたらあかんで」 七海「鍵?」 鈴「もしかして、無くした!?三人それぞれの鍵が揃わんと 開けられへんねんで!?」 七海「冗談やん。ちゃんと持ってます」
○雪山・俯瞰 辺り一面が雪に覆われている。 車がトンネルから出てくる。
○車・車内 鈴「うわ〜、真っ白!」 那津「まさしくトンネルを抜けると、そこは雪国だった、 って感じやね〜」 七海、手首にはめた腕時計ばかり見て、嬉しそうに 手をかざしている。 七海「どう、似合う?」 突然、大きく車が揺れる。 鈴「!」 鈴、慌ててハンドルを切る。
○雪山の道路・俯瞰 急カーブで車の後輪がスリップし、車の後部が大きく 振られている。 車はそのまま大きく蛇行を繰り返し、反対車線の壁に 衝突して止まる。
○車・車内 鳴り響くクラクション。 散らばるガラスの破片。 ハンドルと座席に挟まれている鈴。 鈴、うっすらと目を開ける。 エアーバッグに寄り掛かったまま動かない那津。 那津の足下で倒れ込んでいる七海。 七海の腕時計のガラスは割れ、針は止まっている。 鈴「那津・・・?七海・・?」 鈴の視界が白く霞んでいく。
○香春公園・俯瞰 満開の桜並木。 その沿道で賑やかに花見をする人達。
○同・桜の老木の前 沿道から外れてひっそりと立つ老木。 まだらに咲く桜を見上げ、一人佇んでいる鈴。 鈴「約束の日やで。・・・・でも、私だけじゃあ、あかんやん。 私一人だけおっても開けられへんやん」 鈴の手に小さな鍵が握りしめられている。 鈴「三人一緒じゃなきゃ・・・・。那津・・・。七海・・・。」 視線を落とす鈴。 誰かの声「鈴!」 背後からの声に振り返る鈴。 その目に涙が溢れる。
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