<人 物> 森近隆文(49) 原向日葵(18) 木下寿子(56)
◎公園・内 走り回る子供たち。 ボール遊びする親子。 一人、ベンチに座ってその光景を見ている森近隆文(49)。 森近は上着のポケットから既に口の開いた手紙を取り出す。 手紙の消印は三ヶ月前。 森近は手紙の文面を読み返す。 綺麗で華奢な文字。文面の最後に、大事な話があるから 会いたい。できるだけ早く連絡がほしいとある。 森近、再び公園の光景を見つめる。
◎アパート・外観 二階建てアパート。 手紙を手にアパートを見る森近。 森近、中に入ろうとするが、なかなか一歩が踏み出せない。 アパートの入口から箒を手にした木下寿子(55)が出てき 突っ立ったままの森近を訝しく見る。 森近、取繕うように手紙に書かれる送り主の住所を見せる。 森近「すいません。この住所のアパートはここですよね?」 寿子「ああ 、原さんね。でも、原さんはー」 森近「ええ、聞きました。つい先程病院で。一ヶ月前に 亡くなられたそうで。それで娘さんがいると聞いて、 焼香だけでもさせて頂けないかと思いまして」 寿子「それで訪ねて来たのね。でも、向日葵ちゃん、 バイトじゃないかしら?」 森近「向日葵?」 寿子「娘さんの名前よ。変わった名前でしょう? 原さんが太陽に向かい強く真っ直ぐに伸びる向日葵のように 明るく生きて欲しいと思って付けたそうよ。 本当に名前通りの素直で明るい子に育ってね。 母子家庭の大変さを微塵も感じさせないいい親子だったのに」 森近「その娘さん、いくつですか?」 寿子「来春大学に進学するから、十八歳ね」 森近「十八・・・」 寿子「高校生なのに、しっかりした子でね。大人顔負けだよ」 森近「今、一人で住んでいるんですか?誰か親族とかは?」 寿子「あいにく頼れる親族はいないようだよ。本当なら 未成年の高校生に部屋を貸すのはいけないんだけど、 向日葵ちゃんは小さい時から見てるから、私には孫みたいな ものだし、もうじき大学生になるしね」 森近「それじゃあ、今は一人で・・・」 寿子「あ 、向日葵ちゃん!」 手を振る寿子の視線を追う森近。 こちらに向かって歩いて来る原向日葵(18) 寿子「この人がお母さんに焼香したいって」 向日葵は森近を見ると明るく微笑み、軽く頭を下げる。 森近、ぎこちなく頭を下げる。
◎同・向日葵の部屋 向日葵の母の写真の前で手を合わせる森近。 向日葵、お茶をお盆にのせて持ってくる。 向日葵「どうぞ」 向日葵が差し出したお茶を受け取り、森近は一口啜る。 森近、再び写真を見る。 向日葵「あの、母とは?」 森近「・・・古い友人です。もう、二十年程前に職場で知り合って」 向日葵「二十年前?私が生まれる前からか。随分長い付き合い だったんですね」 森近「いや、そんなことはないんです。実はもう、長い間早紀と、 早紀さんとは連絡を取っていなかったんです。それも 十八年くらい。それが突然、三ヶ月前に手紙をもらって」 向日葵「手紙?」 森近、胸の内ポケットから手紙を取り出す。 森近「話があるからすぐに会えないかと。でも、仕事で出張中だった 私が手紙を読んだのが一週間前。今日病院に行ってみたら 既に亡くなられた後で・・・。彼女から話を聞く事は もうできません。だけど、彼女が言いたかったこと、 分かるような気がします」 森近、向日葵を真っ直ぐに見つめる。 森近「病院で初めて知りました、彼女に娘さんがいるのを。 それで・・・・・・、あなたに聞いてもらいたい話が あるんです」
|