<人 物> 尾上玲奈(22)新米看護士 杉原早知(35)先輩看護士 古西毅(67)患者 古西弘子(62)古西の妻
◎病院・病棟の廊下(真夜中) 電気が消された真っ暗な廊下。 病室の引き戸はすべて閉まり、廊下は誰の姿もなく、 静まり返っている。 その廊下の奥から明かりが見える。 病室の一室から明かりが漏れている。 その個室だけ電気がつけられ、引き戸の小窓から 明かりと共に二人の看護士の姿が見える。
◎同・病室の中(真夜中) 尾上玲奈(22)が先輩看護士の杉原早知(35)と共に ベッドに横たわる古西毅(67)の体を拭いている。 杉原「よし。次は背中拭こうか。尾上さん、古西さんの体支えてくれる? その間に私が背中拭くから」 玲奈「・・・はい」 玲奈の表情はどこか暗く強ばっている。 玲奈、古西の肩の下に右手を入れ、左手で古西の腰を持ち、 抱き起こすようにして古西の体を右に向かせる。 杉原「声掛け忘れずに。いきなり動かしたら、古西さんが ビックリするでしょ」 玲奈「・・はい。すいません」 玲奈、支えている古西の顔を見る。 古西は目を閉じたまま、何の反応も見せない。
◎同・外来ロビー(真夜中) 真っ暗なロビー。 公衆電話で話す古西弘子(62) 弘子「・・・・それじゃあ 、よろしくね」 弘子、受話器を置いて小さく息を漏らす。 歩き出す弘子。
◎同・病室の中(真夜中) ドアをノックする音。 杉原「はい」 弘子が病室に入ってくる。その目は赤い。 弘子「よろしいですか?」 杉原「はい、今終りましたから」 ベッド脇で古西を見つめている玲奈。 古西は新品の浴衣に着替え、胸の上に手を組んで 横になっている。 弘子、玲奈の横に来て古西に呼びかける。 弘子「まあ 、すっかり綺麗にしてもろて。良かったね」 弘子は古西の手に自分の手を重ねる。 弘子「・・・・お父さん、よう頑張ったね。ほんまによう頑張った」 それを見た玲奈は咄嗟に上を見上げて天井を見つめるが、 すぐに古西に背を向けて顔を伏せる。 杉原、玲奈の様子に気付く。 杉原「尾上さん、ここはいいから、これらの道具を片付けてきてくれる?」 玲奈「・・・・・はい・・」 玲奈、顔を伏せて汗を拭うような仕草をしながら 道具をまとめて抱え、病室から出て行く。
◎同・ナースステーション(真夜中) ナースステーションの奥のパーテーションに隠れ、 玲奈が必死に声を殺して肩を震わせている。 杉原が戻って来て、椅子に座って一息付く。 杉原「奥さんの話によれば、もうじき親族の方が来るらしいよ。 明け方には葬儀業者が」 玲奈「・・・・・」 杉原、立ち上がって玲奈の元にやって来る。 杉原「ほらっ!しっかりせな!初めて受けもった患者さんやろ? 見送るところまで仕事やで。そんな顔でどうするの? それで古西さんを送り出すの?」 首を振る玲奈。 杉原「そんな顔してたら、古西さんにまた先輩に怒られたんかって 笑われるで」 玲奈、笑い出しながらも増々涙が溢れる。
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