恋次の休日


 恋次の住まいは隊舎の中にある。
 席官やその他の隊士の中にも、恋次と同じように隊舎を住まいとするものもあれば、部屋を与えられても宿直時にのみ使い、普段は隊舎の外に構えた家に帰るものもあった。その多くは妻帯者であったり、やんごとなき地位にあるものだったりする。やんごとなき地位の代表格である白哉がまさにそれだ。
 六番隊が警備の当番にあたっている期間、場合によりけりだがおおよそ十日から二週間は隊舎に詰めているが、普段はそうでもない。朽木家の本宅へと戻り、召使いに傅かれて過ごしているそうだ。一歩家へ戻れば六番隊隊長ではなく朽木家当主であるから、羽織と死覇装を脱ぎ、着物に着替える手伝いから膳の上げ下げ、湯殿の準備などすべて人の手が行うらしい。なんとも豪勢なことで、恋次には想像もつかない世界だ。兄様ともなれば当然のことだ、となぜか胸を張って威張りくさっていたルキア自身も、聞けば白哉と同じ生活スタイルだと言う。さすがに着替えの手伝いは断っているが、と恥ずかしそうに言ったのは、恋次同様、人に傅かれることに慣れていないからだろう。
 しかし幼い頃からそんな状況で育ってきた白哉にしてみれば、身の回りのほとんどのことを自らの手で行わなければならない隊舎など面倒極まりないだろうと恋次は思う。
 隊舎にも一応食堂なるものが存在し、料理人も常駐している。しかし洗濯は自らの手で行わねばならないし、部屋の掃除も当然自分だ。陽が落ちてきて暗くなってきたからと言って明かりを灯して回る女中頭もいないし、そろそろ肌寒うございますから、と暖を入れにくる爺やもいない。
 ではどうしているのかと思えば朽木家から人が派遣されてくるらしい。さすがに明かりを灯しにまではやってこないが、三日に一度、掃除洗濯に女中がやってきてあれこれをこなしていくのだそうだ。
 それを聞いた時、恋次は、そんな馬鹿な、と思わず呟いてしまった。
 聞きとめた白哉が眉を寄せ、何がおかしい、と真顔で尋ねたので、掃除洗濯くらい自分でやったらいいじゃないッスか、俺なんか物心ついた時からずっとやってますって、ルキアも料理以外なら以外とうまいもんッスよ、と恋次は呆れ果てた顔で言ってしまったのだ。
 貴様らとでは生まれ育った環境が違う、と不貞腐れたように告げた白哉の顔が拗ねた子どものようでおもしろく、恋次はついつい、それじゃ俺がやりましょーか、と軽い気持ちで言った。わざわざ掃除洗濯のためだけに朽木家からやってくるのも、瞬歩が使える死神ならいざ知らず、一般の人なら面倒でしょーし、と半ばからかうこと目的のような言葉に、白哉は今までの不貞腐れた顔はどこへ行ったのやら、いつもの不遜な真顔で、では頼む、とそう頷いたのだ。
 後悔先に立たずとはこのことだが、しかし口に出したことを撤回できるほど恋次は器用な性格ではなく、それ以来、隊舎にある白哉の部屋の世話は恋次の仕事になってしまった。
 恋次とて副隊長として重責ある職務がある。なので自然と部屋の掃除などは休みの日にまとめてやることが多くなる。
 まぁ白哉の部屋にはさほど私物がなく散らかしようがないので、そう手がかかるわけではないのだが、二人分の洗濯物を洗うのは厄介だ。結構な量があるので、洗濯は一番にやってしまう。部屋の掃除はその後だ。
 白哉の部屋に入るなり、白哉が寝ていようが起きていようがお構いなしでばしんばしんと騒々しい音を立てながら寝室以外の部屋の窓と言う窓を開け放ち、部屋の埃を払い、着流し姿で豪快に畳に固く絞った雑巾をかける。白哉の部屋は隊長用の部屋であるので部屋がいくつもあり、しかも中庭などと言うものまである。朽木家のそれとは比べようもないが、恋次にはこれがかなり羨ましい。中庭にはいくつか樹木が植えられ、小川が流れている。ぴょいと跨いでしまえるほどの小川だが、ご丁寧にも橋がかけられ、夏には蛍まで飛んでいる。その中庭の手入れも恋次の仕事だ。植木の剪定などは定期的に入る職人がやってくれるが、小さなちまちまとした草むしりや小川のごみ取りをやるのはなかなか楽しい。ついつい花がら摘みにまで手を出してしまう。ジョウロを片手に鼻歌歌いながら、お、綺麗に咲いてきてんなー、とか、もっと頑張って一杯蕾つけろよ〜、とか話しかけてしまう。良い気分転換なのだ。
 恋次が嬉々として庭弄りをやっていると、きっちりと着替えを済ませた白哉が寝室から現われる。物音でとうに目を覚ましていただろうに、恋次が掃除をいている間はあまり姿を見せない。おそらく手伝わされるのが嫌なのだろう。何か書物を読んでいるかして時間を潰しているのだろうが、物音が静かになる庭弄りの辺りで寝室から出てくるので、恋次は一旦そこで手を止め、寝室の窓を開けて布団を干す。その間白哉は、庭に降りて恋次が世話をした花を眺めている。そこら辺に水やっといてください、と言えばジョウロを片手にちょろちょろ水をやってくれることもある。
 寝室の畳に雑巾をかけ終えた恋次が手を洗い、茶を入れ始めるとのっそりと戻ってきて、中庭の見える部屋で二人で茶を飲む。茶請けがあるときもあればない時もあるが、時には白哉が朽木家から持ってくることもある。大抵は朽木家では著しく消費率の低い甘味系だ。ルキアも甘味類は好きだが、物には限度がある。一人で食べきれる量でないときに恋次にもお裾分けがあるのだ。
 これうまいッスねぇ、と珍しい菓子を食いながらそう言うと、そうか、と頷きつつ白哉がそれをチェックしているのを恋次は知っている。次にまた朽木家にその貰い物があれば恋次の分も確保してくれようと言うのだ。
 茶を飲みながらぽつぽつとしゃべり、一段落すると恋次は再び庭弄りに戻る。白哉はその部屋で書物を読むなり、書き物をするなり、気が向いたら庭に下りるか、はたまたはどこかへ出かけて行くが昼前には戻ってくる。そして恋次が庭弄りを終えたところで隊舎の食堂へ出向き昼食を共にする。
 うまい飯で腹を満たし、戻ってきたら恋次は決まって庭の見える部屋にごろりと引っくり返る。あー食った食ったー、と呻いて腹を擦れば、食ってすぐに横になると牛になると言うぞ、と言いながらも白哉は茶を入れてくれる。昼飯うまかったッスねぇ、と言いながら茶を頂く恋次の傍らで、白哉は大抵書物を広げる。最近のお気に入りは昔の偉人の生涯を綴った伝記物らしい。書見台に置かれたそれが、白哉の手ではらりはらりと捲られる音を聞きながら、恋次はいけないと思いつつ、ついうとうとしてしまう。
 午前中は身体を動かし、昼飯を食い、眠くなるのは当然だ。
 一時間か二時間ほど寝入り、目を覚ますと大抵頭は白哉の膝の上だ。書見台やら座布団やら、その他諸々が白哉ごと恋次の側に移動している。白い、男の手には見えないような美しい手が、恋次の髪に、もしくは肩に触れ、気候によっては白哉の羽織が身体にかけられていることもある。
 目を覚ましても尚、恋次はすぐに身を起こそうとは思わない。
 白哉から香るかすかな香が心地よく、触れる手のぬくもりも優しい。書物のたてる音も静かで、眺める庭も美しいのだ。目を覚ましているのなら起きろ、と諭されるまではそのままで過ごし、その後、恋次はまた動き出す。
 布団を取り込み、行灯の油が切れていないか確認し、火鉢の炭を確認する。最後に洗濯物を取り込み、畳み、桐箪笥にしまい、そこで恋次の仕事は終了だ。
 それじゃ、俺、帰りますんで、と言えば、うむ、と返事が帰ってくる。戸口まで見送りにきてくれた白哉にそれじゃあまた明日、と言う風に挨拶を交わし、場合によっては夕食時に顔を合わせてそのままそぞろ歩きに出ることもあるが、概ね、自室へ戻り、自分の部屋の掃除をぞんざいに済ます。
「ってな感じッスね、六番隊に入ってからの俺の休みなんて」
 向かいに座っていた斑目一角と綾瀬川弓親にそう言えば、酒の入った猪口を立てた片膝に置いていた一角は、なんとも曰く言いがたい様子で顔を歪めていた。
「つか、お前、それってよぅ…」
 ちびちびと酒をやっていた弓親も、特徴的な眉をくっと寄せたなんとも形容し辛い表情だ。
「……ねぇ恋次、それってさぁ……」
 いつになく歯切れの悪い二人に、恋次は何か変なことを言っただろうかと首を傾げた。
 久しぶりに顔を会わせた古巣の二人と、そいじゃ一杯引っかけるか、と出てきた居酒屋での出来事だ。ここ最近休みねぇなぁ、とぼやいた一角に、あ、俺、明日休みなんスよ、と答えた恋次の言葉から、恋次が六番隊に移動してから休みに何をしていたのかと言う話になった。そこで恋次はここ最近の休みの日の事を思い出しながら答えていたところ、二人は苦虫を噛み潰したような、奥歯に物が挟まったような、はたまた何か眩暈でもしたような顔をしたと言うわけだ。
「え、何か変ッスか?」
「変っつーか、お前、それ、どー考えてもおかしいだろうがよ!」
 一角がダンッと猪口をテーブルに叩きつける。結構な音がしたが、回りもかなり煩いので特に目立ちもしない。
「なんでお前が朽木隊長の部屋の掃除してんだよ! しかも休みの日に!」
「え、だってしてくれって言われたから」
「布団まで干してんの?」
「え、だって干した方がふかふかで気持ちいいじゃないッスか」
「普通しねぇだろ、庭弄りは」
「だってあれおもしれぇんッスよ」
「しないよね、普通、花がら摘みは……」
「するって、普通。そこだけ茶色って気になるじゃねぇか」
「つか、なんでナチュラルに昼飯一緒に食ってんだよ!」
「変でしょ、一緒にいんのに別々にメシ食いに行くって」
「いや、変なのはテメェらだッ!」
 またもやダンッと一角がテーブルを叩いた。その手にすでに猪口はない。さっきの一撃で粉砕されているからだ。荒くればかりが集まる十一番隊宿舎近くの居酒屋の店主は慣れたもので、新しい猪口を持ってきてついでとばかりに勘定書きに猪口代を加えていく。
 届いた猪口に酒を注いでやれば、一角はそれをぐいっと干した後、呻いた。
「つか、お前は通い妻かッ!」
 勢い任せに手と共に叩きつけられた猪口はまたもや粉砕し、店主がまたもや猪口を持ってくる。それへ酒を注ぎながら、恋次はからからと笑った。
「一角さん、おもしれーこと言うなぁ。俺が通い妻って、ははっ、そりゃねぇや」
「そりゃねぇのは君だよ、恋次」
 弓親も呆れ果てた顔でやれやれと言うように首を振る。ついでに溜息と両手を広げてみせるオプションつきだ。
「あのねぇ、なんて言うか、うん。僕、途中から惚気話聞かされてるのかと思ったよ」
「そーっすか? 今の話のどこが惚気話っぽいんスか。普通の休日の過ごし方ってやつじゃねぇかよ」
「あのねぇ…」
 弓親はぐりぐりとこめかみの辺りを人差し指の関節で押し、頭痛の種を揉み解そうとしているかのようだった。そしてカッと目を見開き、恋次に人差し指を突きつける。
「なんていうか、まず、朽木隊長が花に水やるなんてありえない!」
 弓親の叫んだ言葉に、一角ががくっと頭を落とした。
「おう、意外だな。そこがまず第一かよ」 
「次はお茶請けの話だよ! なに? もしかして恋次の好物が朽木家に届いたら、朽木隊長ってわざわざ恋次にお裾分けしてくれるってわけ?」
「あー、大抵はそっかな。つか食い切れねぇんじゃねぇの。だってものすんごい大量に届くんだぜ。俺は見たことねぇけど、ルキアが金平糖で泳げるかと思ったっつってたし」
「金平糖で泳げ……、そりゃすげぇな」
「違うだろ、一角! どこで驚いてんのさ! 驚くべきは朽木白哉が恋次の好物を覚えてるってことだよ! うまいって言ったものを全部ね!」
「や、全部ってほどじゃねぇと思うけど……」
 恋次は口を挟んでみたが弓親には綺麗さっぱり無視されてしまった。
「それよりも何よりも膝枕! 朽木隊長が膝枕ってのがありえない!」
「おう、俺もそう思った」
 猪口をテーブルに置いた一角が、懐手で深く頷く。どうやらテーブルを叩く役は弓親に譲ったらしい。次にいつ猪口を壊されるやらと待機していた店主が、一角が落ち着いているのを見ると、なんだか残念そうに両手に抱えた大量の猪口と共にカウンターへ戻って行った。
「え、でも朽木隊長の膝枕ってなんか気持ち良……」
「言わんでいいっ!」
 弓親にガッと顔面を鷲掴みにされ、恋次の顔が恐怖で固まる。たおやかな顔を装ってはいるが、弓親も所詮は十一番隊。熱い男なのだ。うっかり目を抉り出しちゃったよなどとも言いかねないので、冷や汗がこめかみを伝う。
 牙でも剥きそうな弓親の傍らで、手酌で猪口に酒を注いだ一角が、つーかよぅ、と眉を寄せた。
「お前、マジで六番隊に嫁に行ったようなもんだな」
「さっきから一角さん、嫁にこだわるなぁ」
 弓親に顔面を掴まれたまま、恋次がへらっと笑えば、一角はケッと悪態を吐いた。
「おうおう、嬉しそうな顔しやがって。てめぇなんざ朽木の嫁に行っちまえ。つか、もう嫁入りしてんのか。いくらなんでも隊長のパンツは洗わねぇわ」
「え、恋次、朽木隊長のパンツ洗ってんのッ?」
 ぎょっとしたように弓親が身体を引き、おかげで恋次の顔面は解放されたが、爪がたっていた場所がひりひりして痛い。
「どうせ自分のも洗濯すんだから一緒じゃねぇ?」
「一緒じゃねーよ。やだよ俺、更木隊長のパンツ洗うの」
「俺だってそれは洗いたくねぇ」
 恋次も思わずそう呟くと、今度は弓親までもがケッと悪態を吐いた。
「更木隊長のパンツは洗いたくねぇってのに朽木隊長のパンツは洗えるってのが嫁っぽいって言ってんのさ」
「どうせあれだろ。帰り際に朽木隊長が見送りに出てくるのだって、別れ際にキスとかしちゃってんじゃねぇか、アアッ?」
 一角が面白半分にそう言うと、恋次の頬がぽっと染まった。カチンと弓親がこめかみを引きつらせ、一角が頬を引きつらせる。
「マジかよ……」
 手酌の傾いた徳利からトーッと酒が落ち、猪口から溢れているのにも気付かず、一角の目は恋次に釘付けだ。傍らの弓親もこめかみに青筋を立てたまま酒の肴に箸を伸ばしていたので、その箸が勢い、ボキッと音を立てて真っ二つになる。
 恋次は赤い顔で俯き、口元を手で覆った。
「べ、別に…ま、毎回ってわけじゃねぇけど……」
 折れた箸を握り締める弓親の手がぶるぶると震え、そしてダンッとテーブルに叩きつけられた。一角のそれなど比にならないほどのそれにさすがの煩い居酒屋も一瞬しんとなる。その一瞬の静けさを突くように弓親の叫び声が響き渡った。
「僕は恋次を朽木家の嫁にやった覚えはないっ! どこの馬の骨とも解らない朽木白哉なんかに輿入れさせてたまるかっ!」
「隊長は馬の骨じゃねぇっ!」
「いや、お前それなんだ。その前に娘じゃねぇっての」
「当たり前だろ! もし恋次が娘だったらまず挨拶に来てもらわなきゃね! どうかどうぞよろしくって頭くらい下げてもらわなくちゃ嫁には出せないねっ! いくら相手が貴族のボンボンでもね! うちの隊長と決闘でもするぐらいの覚悟できてもらいたいもんだよ!」
「おっ、そりゃ面白そうだな!」
「隊長と更木隊長の決闘か〜。ちょっと見てみてぇなぁ。まぁ絶対うちの隊長が勝つけどな」
「なんだと、恋次? テメェ、うちの更木隊長が負けるとでも言うつもりか」
 アアン、と柄悪く下から掬い上げるように睨む一角に、恋次はあっけらかんと笑い言い放った。
「当たり前だ。だってうちの隊長強ェし」
「うちの隊長のが強ぇんだよッ! つか、純粋に力勝負ならぜってー負けねぇぞ!」
「そうだそうだ! 貴族のボンボンなんかに負けるかー! でもってうちの隊長に勝てないようじゃ恋次も嫁にはあげられないね!」
「絶ッ対、朽木隊長の方が強ぇっ!」
 恋次が意固地になって言い返せば、すでに戦闘モードに入っている弓親がガタンと椅子を蹴って立ち上がる。
「んだとテメェ、表出ろやコラァッ!」
「上等だっ、この野郎!」
 負けじと恋次も椅子を蹴れば、一緒になって騒いでいた一角も、俺もやるぞコンチクショウッ、と椅子を蹴る。そして予告通り表で、居酒屋にいた他の客が野次馬兼審判となり、殴る蹴る噛み付くの大接戦となるのだが、お約束として斬魄刀は抜かない。どれだけ酔っ払ってようともそれは不動のお約束なのだ。
 つまり、まぁ、酔っ払いの集まりなわけで、十一番隊隊舎の近くともなればこんな光景はザラにあり、店主は割れた皿やら壊れた椅子やらの修繕費をきっちり頂ければ文句はない。
 目的も忘れ表でドッタンバッタンやった後は、スッキリしてまた飲み直しとなる。だが忘れてならないのがしこたま飲んだ後に喧嘩という名の運動をして、そしてまた飲み直すものだから相当酔いが回るのは早いということだ。
 正体をなくすまで飲んだ連中の回収を誰が行うのかと言えば、他の席で飲んでいた連中だ。一角と弓親を近くの十一番隊の隊舎の適当なところに放り込み、恋次を六番隊にまで届けに行く。
 ふにゃふにゃと気持ち良さそうに寝言を言う恋次を隊舎まで送り届けると、近づく霊圧でそれを知っていたのか、白哉が出迎えにやってくる。手間をかけたと言いつつ、ぐでんぐでんに酔っ払った恋次を受け取り、白哉は仕方がなさそうな顔で溜息を吐く。またお前はどれだけ飲んだのだ、と呟く白哉の声に、恋次がまた幸せそうな顔で笑って懐くものだから、恋次を抱える白哉の手は殊更優しく、そして丁寧なものになる。
 そして部屋へ伴い、恋次が昼間に干しておいたふかふかの布団に寝かしつける。こんな事が度々あるので、白哉の部屋にはもう一組布団がある。押入れからそれを出してきて、白哉は恋次の傍らで眠る。同じ布団でないのは以前、酒を飲んだ恋次に蹴飛ばされたことがあるからだ。だがいつの間にやら恋次が白哉の布団に入り込んでいるので布団を分ける意味はさほどない。
 そして翌日、恋次は白哉の腕の中で目を覚ます。
 存外近くにある、寝入っていても美しい顔に目を細め、胸元に頬を寄せて再び目を閉じ、幸せな休日を堪能するのだ。


これ以降、更木隊内で恋次は嫁に行った認識に…。後日、酒瓶抱えた兄様が更木隊にどうかどうぞよろしくと挨拶に訪れる姿があったとかなかったとか。