a token of gratitudes.
 我らが愛すべきゴーイングメリー号のコックさんのお誕生日は、そりゃあ盛大に祝わなければならないのだと、誰もが思っていた。
 日頃、褒め称えられ傅かれ跪かれ、惜しみない無償の愛を注いでくれるコックさんを、そうであるのに馬車馬のようにこき使う小姑を五百倍に凶悪化したような女共は、いつもお世話になっているもんね、と微笑を浮かべてプレゼントの選択に余念がない。大波小波横波縦波突き上げ波。いかに破天荒なグランドラインの海と言えども、そんな海でだからこそ成立する商売がある。それは傲慢な女共が贔屓にしている通信販売だ。ありとあらゆるもの。赤ん坊のおしゃぶりから棺桶、手榴弾に塩酸。この季節ならではの十段構えのひな人形。食材はグランドラインにあるものならなんでもござれ。カタログを随分前に寄った島で購入し、女共は自分達を磨き上げるのに余念がなかった。
 前回の通信販売で届けられたマニキュアを、互いに塗りっこしながら、魔女、ゴーイングメリー号の優秀な航海士ナミが首を傾げた。
「サンジ君は何が好きかしら」
 赤い縁取り眼鏡をかけている、悪女、ゴーイングメリー号の影の参謀ニコ・ロビンは、ナミの指先に桜餅のようなピンク色のマニキュアの刷毛を滑らせながら、微笑んだ。
「そりゃあコックさんですものね。愛すべきは食材、食器、調理道具と言ったところかしら」
 ロビンが押さえている手は、マニキュア塗り中であり、動かすことはご法度だ。そうでない方の手で、ナミはぱらりと端が少しばかり痛み始めているカタログを捲った。
「珍しい食材なら喜ぶかしら」
「さぁ、どうかしら。それよりも、ねぇ、ナミちゃん。私にとてもいいアイディアがあるのだけれど。一口、乗らない?」
 ロビンがふふと微笑みながら、ちらりと目を上げた。長い睫に影を落とされたアイスブルーの瞳が、メープルブラウンの瞳とかちあった。メープルブラウンの瞳は、可愛らしく跳ね上げた睫の下で、にやりと狡猾に歪む。グロスに輝く唇が、舌なめずりをした。
「儲け話?」
「そうね…。頭の使い方によってはね」
「乗ったわ。一口どころか、十口乗っちゃう」
「あらあら。豪胆だこと」
 細まる目の奥にも、ナミと同じ含み笑いが潜んでいる。
 アイスブルーの瞳を瞬かせながら、悪女はメープルブラウンの瞳を覗き込んだ。
「計画を立てましょう。ナミちゃん」
 シシリアオレンジの色をした髪を、まだ素のままである爪でかきあげ、魔女は微笑んだ。
「そうね。ロビン。折角のサンジ君のお誕生日ですもの」
 悪女は微笑む。
「盛大に」
 魔女は微笑む。
「盛大にね」
 秋島を通り過ぎたばかりで、四季と暦の感覚はずれている。もうすぐ三月だと言うのに、倉庫にはたっぷり秋の食べ物が乗っている。それでも女共は、図太かった。
 荒い波に揺れる船内。
 不気味な忍び笑いが絶えなかった。




 我らが愛すべきゴーイングメリー号のコックさんのお誕生日は、そりゃあ盛大に祝わなければならないのだと、誰もが思っていた。
 実直な嘘吐き男、嘘生産機、小心で勇敢な海の戦士、狙撃手ウソップは、今日も今日とて、毎日の日課であるいかがわしい発明機械に囲まれていた。傍らには無論、彼の助手、青っ鼻の人間トナカイ、ゴーイングメリー号のヒーリング部門担当、船医トニートニー・チョッパーが寄り添っている。中睦まじく、今朝方愛すべき乱暴なコックさんに投げつけられて破損した目覚まし時計を直していた。無論ただ直すだけではおもしろくない。勇敢な海の戦士でもあり、また偉大なアーティストでもあるウソップは、鈍い銀色をしていた殺風景な目覚し時計を、見ればそりゃあ飛び上がって目が覚めるような素晴らしい代物にしてやるのだと息巻いて、何事も素直に受け止めるぬいぐるみ、トニートニー・チョッパーを喜ばせていた。
 きりきりと、ネジをネジマキで螺子巻きながら、勇敢な海の戦士ウソップは口を尖らせる。
「何をやったらいいもんかねぇ」
 きりきりと、ネジがネジマキで螺子巻かれていくのを、愛玩動物トニートニー・チョッパーは首を傾げて眺めていた。
「サンジは何でも喜ぶぞ?」
「だがなぁ、チョッパー。サンジにだって心底欲しいってもんがあるだろうよ。例えばウェッジウッドの皿だの何だのさ。ありゃあ高いらしいぜ。ピーター・ラビットだからな。ミッキーマウスに負けちゃいねぇ」
「すげぇ! 強ェんだな、ピーター兎!」
「ああそうさ! ミッキーマウスも負けちゃいねぇが、ピーター・ラビットには降参するしかねぇ。何しろ奴ときたらとんでもなくすばしっこいんだ。ミッキーマウスは手もでかいし足もでかい。どたばた走ってピーター・ラビットに逃げられちまうのさ」
「すげぇええ! ピーター兎すげぇんだ! ミッキー鼠も負けてねぇんだな!」
「ああそうさ! て言うか、なんでお前、ピーター兎とミッキー鼠なんだ」
「だってラビットは兎って言う意味なんだぞ。マウスは鼠だ」
「そりゃそうだがよ。お前、ラビットってのはピーターの苗字だぜ。マウスもミッキーの苗字だ。それをお前、直しちまうってのは聊か不親切だぜ、おい。いや、親切の押し売りってのか。あれだチョッパー。例えばゾロをだな、親切にも直してやろうとするだろ、名前をな。ロロノア・ゾロ。それがロロノア・揃だ。ルフィなんてもっとひでぇ。猿・D・ルフィ。まるで、猿でルフィ、みてぇじゃねぇか。それにお前、大事な大事なカヤは、蚊帳だ。虫除け網だ。そりゃいかんだろう」
「ああ駄目だ。気付かなかった!」
 きりきりと、ネジがネジマキで螺子巻かれていく様を愕然と眺めながら、チョッパーは口をぽっかりとあけた。
「じゃあサンジの誕生日には何を上げればいいんだ? ピーター・ラビットを絞め殺せばいいのか!」
「……トナカイよ…。お前はどうしてそうも可愛い顔で残酷に夢物語を壊そうとするんだ」
「だってピーター・ラビットがほしいんだろ、サンジは。食うんだろ?」
「ああまぁそれでも構わねぇが。女共のヒンシュク買うのは間違いねぇ。それでもいいのかお前。女共に悲鳴をひとつでも上げさせて見ろ。向こう三日くらい餌の配給は止まるぞ。サンジが臍をまげりゃあこの船は容易に沈没する。底なし胃袋の船長にかかりゃあ、生だろうが肉なんて一瞬でなくなるぞ。俺らが食う分がなくなる。そりゃあいかんだろう。何せナミの推測だと次の島まで向こう一ヶ月はあるときた。こりゃだめだ。一ヶ月も飯抜きじゃあ俺は幽体離脱しちまうよ」
「……ああ…それは嫌だな…」
 きりきりと、ネジをネジマキで螺子巻きながら、勇敢な嘘の戦士は眉を寄せた。
「…俺たちは、とにかくサンジを喜ばせなくちゃあなんねぇ」
「…ああそうだ」
 きりきりと、ネジがネジマキで螺子巻かれていくのを見つめ、愛らしいトナカイは息を潜めた。張り詰めた空気は、溌剌と広がる青空に似つかわしくない。暗雲垂れ込める中央甲板には誰も寄り付かず、ばたばたと頭上では午前中に干した洗濯物たちがはためいている。その音すら、二人には愛すべきコックさんが踵で打ち鳴らす死へのカウントダウンに聞こえて仕方がない。
 ヒーリング部門担当のチョッパーが、らしくなく胃の辺りを蹄で撫でた。
「……何がほしいんだろう…サンジ」
「…しくじるな、チョッパー。しくじったら俺たちの命は終わりだと思え」
「…ううう…」
 じんわりと目に涙を浮かべるチョッパーの背を、勇敢な嘘吐き男は撫でて慰めてやった。
 きりきりと、ネジをネジマキで螺子巻くのが終わる頃、ラウンジから降りてきた魔女と悪女の女共が、昨日からずっと考えてたんだけど、と油断ならぬ笑みを浮かべながら、暗雲垂れ込め稲光さえ轟かせている二人に近付いてくる。
 ヒールの音がふたつ止まるのと同時に、中央甲板には魔女と悪女、嘘吐き男とヒーリングトナカイが漏らす忍び笑いが、暗雲に変わって辺りを支配していた。



 我らが愛すべきゴーイングメリー号のコックさんのお誕生日は、そりゃあ盛大に祝わなければならないのだと、誰もが思っていた。
 思ってはいるのだが実行できない根腐れ男は、一人悶々と船尾甲板で素振りをしていた。光合成にはもってこいの日和だ。誕生日は明日に控えていると言うのに、脳味噌までもが筋肉で汚染された未来型大剣豪には、いいアイディアなどひとつも浮かばなかった。恐ろしいことだ。このままではこの後一切、島に着くまでの間、生命線である食事とは縁を切らなければならなくなる。無論、食事と縁を切ると言うことは、酒とも別れを告げる事だ。誰よりもこの船に熟知している愛すべきコックさんは、どこにだろうと酒を隠してしまう。甲板の板を少し持ち上げた隙間に上等の日本酒を、ラウンジの食器棚の裏にワインを、男部屋のハンモック収容のための巻上げ滑車を支える支点の箱の中にウォッカを、愛すべきコックさんは隠し事に長けている。
 素振りを続けながら、未来型大剣豪、ロロノア・ゾロは鬱々とした気持ちと息とを繰り返す。
 明日は俺の命日だ。
 むしろ遺言状を書いておいた方がいいかもしれない。和道一文字は故郷へ必ず返してくれ。師匠に返してくれ。そして道場の裏にあるくいなの墓に、今、ゾロがそちらへ行ったよと言うように伝言してくれ。でなければ、金になるもの一切合財、萬田銀次郎よりも恐ろしい守銭奴に売りさばかれてしまう。魂の片割れとも言うべき刀があの女の足蹴にされ、あまつさえ声高らかに競などにかけられた日にゃあ、専門ではない呪いもマスターせねばなるまい。
 いやそうではなく。
 未来型大剣豪のロロノア・ゾロは、ぽかぽかと後頭部に当たる陽気な日差しで光合成をしながら悩んでいた。
 何かせねばならぬ。
 けれど何をすればいいのか解らない。
 ひっそりと、人知れず愛しいコックさんのために頭を悩ませる未来型大剣豪の背後に、魔女と悪女が微笑を浮かべつつ立ったのを、未来型大剣豪はまだ気付いていなかった。



 我らが愛すべきゴーイングメリー号のコックさんのお誕生日は、そりゃあ盛大に祝わなければならないのだと、誰もが思っていた。
 勿論、心からだ。
 静粛にて品行方正、心から皆と我との平穏を望んでいる控えめな船長は、偉大なコックさんのお誕生日には、一番におめでとうを言った。それが彼からの誕生日プレゼントだ。
 恥ずかしがりやのコックさんは、おうありがとうよ、とそれは素敵に微笑んで、朝食の準備に走り回りながら、品行方正な船長が少しばかり味見をしてやろうと口を広げたところを、意地悪くも蹴り出した。
 ゴーイングメリー号の専属コックさんは、自分のお誕生日だからと言って特別何かの料理を作るわけでもなく、ただそこに並ぶ料理が皆、クルー達の好物が一品ずつと言うメニューを朝から展開して見せた。おはようと悪女と魔女が揃って顔を出せば、養い親から学んだのは料理の腕と足の切れ、歩くところにホモが集まる金髪碧眼の海の一流コックさんは、両腕を広げてそれはもう天使のような笑みを浮かべた。魔女と悪女がベンチに腰を下ろしながら、お誕生日おめでとうサンジ君、今日はきっと素敵な一日になるわよ、と嘯けば、続いて入ってきた稀代の嘘吐き男と、ヒーリング部門担当のマスコットも頷いて見せる。
 これは何かサプライズが、と心優しきホモ寄せコック、サンジが思わぬわけがない。
 うきうきとしながら食事を終え、その頃になってようやくやってきた未来型大剣豪が席につけば、あのね、と魔女が微笑んだ。
「サンジ君のお誕生日プレゼント、何がいいかしらってすっごく悩んだの」
「ああ! ナミさん! あなたの明晰な頭脳をそんなにも悩ませていただなんて、ぼかぁ、なんて幸せものなんだ!」
「色々考えたんだけれど、コックさん、あなたはこう言うのが一番嬉しいんじゃないかと思って」
「ああ! ロビンちゃん! キミがそんなに僕の事を思っていてくれるなんて! ぼかぁ、ほんとに幸せだよ!」
「俺も、何がいいか解らなくて悩んでたんだがよ、まぁ、ナミとロビンに便乗するって感じだけど、許してくれよな! ああそれから、目覚し時計直しといたぞ。朝鳴っただろ」
「ハナから期待してねぇよ、長っ鼻。とんでもなくクソうるせぇ目覚ましならまた蹴り飛ばしちまったよ。なんだよあのでっかくて赤い目ん玉は。ラフレシアかと思ったぜ」
「おれ、ナミに言われるまで、気付かなかったんだ…。ごめんな、サンジ…本当に欲しい物が……アレだったなんて…」
「そんな落ち込むこたぁねぇさ、トナカイ。誰にだって人の心の中なんざ容易に知れねぇもんだからよ。ナミさんが聡明すぎるだけなんだよ。お前がそのレベルにまで這い上がるにゃあ、後十年は必要だ」
 朝食後の紅茶を飲みながら、未来型剣豪だけは食事をしながら、愛すべきコックさんはみんなから祝福されていた。さぁプレゼントを、と両腕を広げて女共に微笑みを振り撒いた愛すべきコックさんは、はた、と首を傾げた。
「おいちょっと待てトナカイ」
「え?」
「アレってなんだ。アレって」
 眉を寄せ、本気で解らないと言うような顔をする金髪碧眼の海の一流コックに、ヒーリングトナカイも眉を寄せる。
「え、だって、ナミが、アレって言えば解るからって」
 しどろもどろになるチョッパーの頭を、帽子ごとぽんとたたき、ナミが微笑んだ。
「安心しなさい、チョッパー。サンジ君は照れてるだけだから」
「そうよ、船医さん。コックさんは恥ずかしがり屋ですもの。私たちがいたら、きっと……ふふふ」
「そうだよなぁ。いや、悪かった。おら、ルフィ! とっとと行くぞ! 俺たちはやる事があるんだからよ!」
「おうそーか! サンジ! 今日の昼飯肉な肉!」
 控えめな船長と嘘吐き男とヒーリングトナカイは連れ立ってラウンジを出て行った。ごっそさん、と未来型大剣豪が両手を合わせるのに、おう、と無意識に返事を返しつつ、サンジはまだ不可解な顔をしている。それを見た魔女と悪女が、頬を寄せ合い微笑んだ。
「腹ごしらえは済んだかしら、剣士さん?」
「ああ」
「準備は万端?」
「勿論だ」
「それじゃあ、行きましょう」
 悪女が立ち上がり、茫然としつつも恍惚としている海の一流コックの右手を取った。すでに未来型大剣豪はラウンジを出ており、中央甲板を横切り格納庫へ入っていく。あんなところにプレゼントが、とサンジはうきうきとスキップをした。その左手を取り、魔女は肩を竦めつつも微笑んだ。
「やっぱりサンジ君、アレが一番欲しかったのね。狙い通りだわ」
「ああ〜…なんだかよく解らないけど、ぼかぁ幸せだよ〜ナミしゃ〜ん…」
「さぁどうぞ、コックさん」
 未来型大剣豪が入っていった格納庫のドアを開け、悪女と魔女が、サンジの背を押した。昼尚暗い格納庫は、偉大な嘘吐き男が偉大なアーティスト精神でもって製作したシャンデリアに燦然と照らされている。その下には、またもや偉大な嘘吐き男の手によって作り上げられた大きなベッド、おそらくクィーンサイズだろう、に、ヒーリングトナカイの抜け毛も所々使用して詰め物をした枕が二つ。それらはすべて白いシーツで覆われ、細かなレースで縁取りがあった。
 その横に、未来大剣豪が慈愛に満ちた微笑みを浮かべて立っていた。
「苦労したのよ、あのシーツ。私とナミちゃんで作ったの」
「はい?」
「思いっきり楽しんでね、サンジ君。今日は一日、心おきなく乱れてくれて構わないわ。いつも声を憚るのに必死だったでしょう。でも今日だけは心配しなくていいの。ご飯の心配もしなくていいのよ。あたし達、勝手にやっておくから。明日もうんと遅くまで寝ていていいの。ゆっくりして、きっと明日は、疲れていて腰が立たないでしょうから」
「…はいい?」
「シーツや枕が私のナミちゃんの贈り物」
 狡猾な悪女が微笑んだ。
「ベッドとシャンデリアがウソップとチョッパーの贈り物」
 傲慢な魔女が微笑んだ。
「散らかっていた格納庫を片付けて掃除したのがルフィの贈り物」
 魔女と悪女は頬を寄せ合って微笑んでいる。
「そして」
 悪女は海の一流コックの肩に生やした手で、ぐきりと彼の首を曲げ、傍らに立っている未来型大剣豪を見上げた。
「一日中あなたを悦ばせる事が、剣士さんの贈り物よ」
 ぴしりと、まるで音が聞こえたようだった。
 金髪碧眼の海の一流コックさんは、居並ぶホモ達を一瞬で総骨抜きにできるような腑抜けた顔をして、未来型大剣豪を見上げていた。
 悪女と魔女が、微笑んだ。
「ハッピーバースデー、サンジ君」
「素敵なお誕生日を」
 ぱたんと無情にも、ドアは閉ざされた。待機していた船大工班は、すかさずドアをあまり板で打ちつけ塞ぐ。ぎゃあと中から悲鳴が聞こえたような気もしたが、それはうららかな春先の気配にかき消された。
「ああ、春みたいだなぁ。春島の近くを通ってるんだな、きっと」
 ヒーリングトナカイは、大工仕事に滲んだ汗を拭いつつ、爽快に微笑んだ。
「桜でも見えればいいなぁ、チョッパー」
 捻りハチマキも様になっている嘘吐き男が、早速壊された目覚し時計のネジをネジマキでネジマキながら、軽快に微笑んだ。
「春のファッションは、やっぱりシースルーかしら」
 通信販売のカタログを広げながら、魔女が微笑を浮かべている。
「ナミちゃん、フリルも似合いそう」
 赤い縁取り眼鏡をかけながら、同じカタログを寄り添って眺める悪女は、豪快に鼾を立てている船長に目をやった。彼の食事には、彼に邪魔をされては可哀相だからと、ロビンが一服盛ってある。明日の朝まで目覚めないだろう。
 いいお天気だこと、と女共は微笑んだ。
 その微笑は、この後に舞い込む大金への期待だった。



 数ヵ月後、世間の水面下では、とある写真が高値で取り引きされていた。販売主はどうやら海上にいるらしく、すべてが通信販売、すべてが電話と手紙でのやり取り、そしてすべてが金次第だ。
 宝石お宝どんとこい。
 例の通信販売のカタログの、成人指定の袋とじページの最後ら辺。そんな見出しがついた広告には、こんな一節が書き込まれていた。
 売ります。ホモ本番。海賊狩りロロノア・ゾロと、ノースブルー出身バラティエ副料理長サンジの密室での情事。写真あります。動画あります。シュチエーションも各種取り揃えております。まずは電電虫か、お手紙にて。海軍お断り。
 その事実に、ホモ達の永遠の憧れ金髪碧眼の痩身の美がつく海の一流コックが気付くのは、すでに悪女と魔女の手に、巨万の富が転がり込んだ後だった。