おふろでちゅっちゅ!







 寒い寒いとぶつぶつ言っていたら、お風呂沸したから入りなさいよ、と男鹿母に笑われてしまった。どうせ泊まってくんでしょ、と美咲にも言われ、それもそうかと腰を上げる。今更遠慮をする家ではないので、それじゃ先お風呂頂きまーす、と声をかけて、男鹿の部屋に着替えを取りに行く。男鹿も後からついてきて、部屋で漫画でも読んで待っているつもりかと思ったら、なぜか一緒に風呂場までついてくる。おまけに服を脱いでいる。
「何やってんのお前?」
「あ? 風呂入んだろ?」
「いや、入るけど、なんでお前も一緒に入るんだよ」
「時間短縮に一緒に入れって姉貴が」
 まぁ美咲さんがそう言うのなら仕方ないか、と古市は納得する。男鹿の背中に張り付いていたベル坊の姿はなく、聞けばヒルダに預けてきたそうだ。最近のベル坊はヒルダと一緒に風呂に入りたがるらしい。羨ましい限りだ。
 あの巨乳を目の当たりにするのかベル坊は、と歯軋りをして悔しがっていると、男鹿はさっさとトレーナーを脱ぎ、中のTシャツを脱いでジーンズに手をかけている。早く脱げよと言われて、セーターを脱ぎ、中のタートルネックを脱ぐ、それから長袖のシャツを脱いで、更にアンダーシャツを脱ぐ古市を見て、お前なぁ、と男鹿は若干呆れ気味だ。
「何枚着てんだよ。玉ねぎか!」
「あんだと? 寒いんだよ!」
「そんだけ着てて寒いってお前どんだけ寒さに弱いんだよ。フィンランド人の癖に」
「フィンランド人じゃねーよ。お前、フィンランドにシルバーブロンドがいるって解ってからそのネタばっかだな」
「シルバー?」
「俺みたいな髪のこと!」
「おお。お前のそれ綺麗だよな」
 何の気負いもなく言われる言葉に思わず頬が赤らみそうになるが、すっぽんぽんの男に言われても微妙な気分になる。本当にすっぽんぽんで剥き出しなので、見たくもないものまで目に入る。
「……脱いだんなら、風呂入れば?」
 思わず目を背けつつそう言うと、男鹿はくるりと背を向け戸棚の箱を漁っている。
「今日は何入れるんだ?」
「ん、ああ。美咲さんは何も言ってなかったから、何でもいいと思うぞ。あったまるの何かねぇの?」
 脱衣所の戸棚には美咲が趣味で集めている入浴剤がある。古市も嫌いじゃないどころかむしろそう言うものは好きなので、ドラッグストアに行くとついつい買ってしまうので、男鹿家の戸棚に放り込んでは風呂に入るときに使っている。
 男鹿は箱の中を漁っていたが、これがいいんじゃねぇの、と袋を取り出す。
「ショウガ入りだってよ。ぽかぽかあったか。ミルクの香り」
「お、いいじゃんそれにしようぜ」
 古市がジーンズを脱いでいる間に、男鹿が浴槽に入浴剤を放り込んでいる。靴下も脱ぎ、さてパンツも脱ごうかと言う時、脱衣所の外から美咲の声がかかった。
「たかちーん、入浴剤入れた〜?」
「あ、入れました! ショウガ入りのやつ」
「あ、そうそうそれ。たかちん冷え症でしょ、あったまるかと思って買っといたのよ」
「ありがとうございます」
「そんじゃごゆっくり〜」
 今度こそパンツを脱いで洗濯機の中に放り込み、浴室へ入ると男鹿がすでに湯船に浸かっている。ミルクの香りと言うだけあってショウガ入りの入浴剤は乳白色だ。ふわんと香るミルクの匂いの中にちょっぴりショウガの匂いもするような、しないような、微妙な感じだが、ドラッグストアで買うような入浴剤だからそんなものだ。
「おい男鹿、ちょっと端寄れ」
 ど真ん中にいる男鹿を足で蹴飛ばすと、男鹿がちょっとだけ端に寄る。長方形の湯船の端と端に座る感じで浸かるとざーっとお湯が流れてしまったけれど、冷えた身体に熱い湯が気持ちいい。
「あー、ぬくいー!」
 恍惚の笑みを浮かべると、伸ばした足の先に男鹿の足が当たる。おっと足を上げて男鹿の太腿の上に乗せるのは、昔から一緒に風呂に入っているせいで得た両方が身体を湯船で足を伸ばすための秘策だ。こうすればお互いが足を下しているときよりもよほど広く湯船を使えるのだ。だからいつも通りそうしたのに、なぜか今日は男鹿が、うわっ、と悲鳴を上げた。
「ん? どした?」
「古市っ、テメ、どんだけ冷たい足してんだよ!」
 男鹿がお湯の中に手を突っ込み、古市の片足を掴む。指の先をぎゅっと掴まれるが冷えた足は熱い湯に浸かったせいかぼんやりしていて感覚はあまりない。
「えー…だって今日寒かったし。そんなもんだぞ」
「いや、こりゃねーわ。死んでんじゃねーか?」
「いやいや生きてるって」
 男鹿の指が丹念に足の指を撫でる。男鹿の手の温かさも相まってとても気持ちいい。
「あ、男鹿、足の裏揉んで」
「あ? こうか?」
 ぎゅうっと思い切り足の裏を指で押され、ぎゃっ、と古市は悲鳴を上げる。
「アホ馬鹿イテェ! 力入れすぎ! もうちょい加減しろよ!」
「うっせーな、こんなもんか?」
「あーもうちょい強くてもいい…あ、それくらい、そんなもんがいい」
 ぐっぐっと足の裏にやや力強く押し込まれる指が気持ちいい。あー極楽極楽と笑うけれど、意外にも真剣に足つぼマッサージをしている男鹿は言葉も返さない。ちょっと悪戯してやれ、と古市は男鹿に掴まれている方とは逆の足をそろりと動かす。まだ完全に温まっていないので冷たい足をぺたりと脇腹に押し当てると、うわっ、と男鹿が飛び上がった。
「てめ、びっくりすんだろうが!」
「あははは、すげー声!」
「そっちがその気なら……こうしてやる!」
「ぎゃーっ、やめて笑う超笑うからやめてくれーっ!」
 足つぼマッサージをするために掴まれていた足の裏を、こちょこちょとくすぐられる。ぎゃあぎゃあと悲鳴を上げて大笑いをし、湯船のお湯をはね散らかしていると、ぐっと腕を引かれる。力任せに引っ張られたと思った瞬間、首裏を引き寄せられる。
「う、わ」
 体勢を崩して倒れ込むと、ちゅっと鼻先にキスをされた。気付けば男鹿の胸に向い合せにもたれるようになっている。男鹿の肩に手を置くと男鹿の顔がすぐ近くにあって、古市は近付く顔に思わず目を閉じた。濡れた唇がちゅっと軽い音を立てて触れる。一度目は軽く、二度目は深いキスに酔いながらも、なんとなくお尻の辺りがすーすーすると古市は思っていた。多分お湯から出てしまっているのだろう。引っ込めようと腹に力を入れても大した違いはない。キスをした後で体勢を整えようと諦め、二度キスした後で額をぐりぐりと寄せられて目を開くと、男鹿がにやりと笑った。
「古市」
「んー」
「ケツが出てるぞ」
「うん、ケツが冷えてる気がした」
 男鹿の手が腰を引き寄せたおかげで、古市の両ひざが湯船の底につく。男鹿の足の間に正座するような体勢だが、お尻が冷えるよりはいい。肩が出てしまったので、男鹿がばしゃばしゃと手でお湯をかけてくれる。そうしながらも向かい合って、またもう一度キスをする。
「もう上がるか?」
 古市の白い頬がぽおっと赤くなっているのに気付いたらしい。男鹿の指が頬を辿り、古市はううんと首を振る。
「もうちょっと……」
 あ、と口を開くと、無言の要求を察した男鹿がふと笑い唇を寄せてくる。男鹿の首に両腕を絡めながら、甘いミルクの香り漂う風呂で、古市は何度もキスを繰り返しねだった。






おがふるふえろをおがふるふろえろに見間違えた誰かさん達へ。
おがふる風呂エロに持ち込みたかったけど、エロまでかけなかったよー。
エロって難しい。