おがふる的職業カタログ?
軍隊編?





 馬鹿な奴だ、と男鹿は目の前で縛られた男を見おろし笑う。
 銀色の髪に白い肌、明らかに自国民とは違うその容貌のままで偵察部隊として本隊に潜り込もうとしていたらしい。白い頬には殴られた跡が痛々しく残っている。頬だけではない。唇が切れ、瞼も腫れ、軍服に覆われた肌は恐らく痣だらけだろう。折角の綺麗な顔が台無しだ。
 どれだけ痛めつけようとも口割らないこの男を、軍部はもてあまして男鹿に寄越したのだ。
「名前は?」
 男鹿が手の中で、男の腰に下がっていたサーベルを抜き取り弄びながら尋ねると、男はにぃと唇の端を引き上げた。
「まずは自分から名乗るのが、礼儀ってもんだと思うけど?」
 挑発的なその口調と、まっすぐにこちらを見やる灰色の目の強さに、へぇ、と男鹿は目を見張った。
 軍部の力任せの拷問を乗り越えただけあって、さすがに肝が据わっている。一睨みで射すくめられると評判の男鹿の眼力にも恐れはないようだ。
 男鹿はひょいとサーベルを返し、男を縛り上げる縄をぶつりと切った。
 自由にしたところで何の支障もない。閉じ込めた取調室のドアは外から錠が下されているし、見るからにひょろひょろですでに体力を消耗している男が男鹿に勝てるとも思えない。
「俺は男鹿辰巳。諜報部だ」
「おがたつみ」
 灰色の目が驚いたように見開き、ふぅん、と男鹿は唸った。
「知ってんのか?」
「アバレオーガだろ。有名じゃねぇか。知ってるに決まってる」
「そりゃ光栄だ。で? お前は誰なんだ?」
「…………古市」
 あっさりと男鹿が名乗るとは思っていなかったらしく、男は悔しそうに小さくぽつりと呟く。聞こえた名に、へぇ、と男鹿は笑った。
「古市貴之か。焔王軍の参謀で、智将ってのはお前のことだろ?」
「………別に参謀になりたくてなったわけじゃねぇんだけどな……。それで? 縄を切ってくれたってことは解放してくれんの? 俺、さっさと帰りたいんだけど」
「帰すわけねぇだろ」
 男鹿は再びサーベルを閃かせる。古市の纏う、男鹿と同じ軍服の前がはらりと切れる。上着もシャツも切り開きはしたが、古市の肌には傷ひとつついてはいない。
 いや、軍部の拷問を受けているのだから痣などは当然残ってはいるが、男鹿が使ったサーベルによる傷はない。白い肌が露わになり、古市が少しばかり気まずそうに頬を歪めた。
 もう一度、サーベルを振り下ろせば、軍服のズボンを止めるベルトが切れる。
 諜報部に属してはいるが、男鹿は本来こそこそと動くことより自ら動くことを好むのだ。できれば自分は前線に出たい。そうしないのは諜報部を任せられる人間がいないからに過ぎない。
「お前から情報を引き出すのが俺の役目だ。何のために潜入し、何の情報を得たのか、引き出さねぇとな。職務怠慢だって言われちまう」
「言っとくけど俺に拷問は通用しねぇぜ? それなりに訓練は受けてるもんで」
「だろうな。だが、俺がやるのは拷問じゃねぇんだよッ!」
 男鹿はサーベルを放り投げ、古市の喉をぐっと掴み上げた。椅子に座っていた古市がうわっと悲鳴を上げるのも構わず、勢いに任せて壁に叩きつける。背中を打つどっと言う鈍い音が聞こえるか否か、男鹿は喉を掴んだまま古市の開いた唇をぬるりと舐めた。
「な、にす…っ!」
 ぐっと喉を圧迫し気道を塞ぐ、開いた口の中に舌を突っ込んで舐め回し、嫌がる舌を引きずり出す。抗う手をひとまとめにして頭上で束ねた瞬間、がりっと舌を噛まれた。
「……イテェな」
 ベッと唾を床に吐き出すと、噛まれて溢れた血が混じる。
「何すんだ変態!」
「何って……言っただろ、情報を聞き出すって」
「だだだだからって、なんで、ききききキスなんか!」
 慌ててどもる古市に、案外すれてねぇんだな、と男鹿はおもしろくなった。
「拷問以外にもやり方はあるんだよ。おら、口開けろ」
「あっぐ……ッ」
 顎の関節に指をめり込ませる。力技で開いた唇の中に再び舌を突っ込み、今度は思う様、舐め回してやった。歯列、舌の表面、裏側、側面、口蓋、そして喉の奥にまで舌を伸ばせば、涎をだらだらと垂らしながら古市が呻く。
 そうしながら白い身体に手を這わせる。
 思った通り、きめの細かい肌は滑らせた男鹿の手に吸い付くようだ。そこらに残る拷問の痕が痛々しい。それを労わるように撫で、薄いピンク色の乳首に指を這わせる。指の腹ですりすりとくすぐった後、ぎゅっとつまみ上げれば薄い身体がびくっと竦み上がった。
「なんだお前、乳首敏感なんだな」
 古市の尖った顎に溢れた涎を舐めて笑うと、うるさい、と頬を赤くした古市に睨まれた。そうすると、さっきまであった美人と言う印象が、可愛いと言う印象に変わる。
 男鹿は舌なめずりをして、切れたベルトごとズボンを引きずり下ろす。髪よりも濃い灰色の陰毛の下で、古市のペニスが力なく垂れ下がっている。それをちらりと見た後、男鹿は無理矢理に古市を壁の方へ向いて立たせた。乱暴にしたせいで肩をぶつけたらしく、痛いと文句を言っているが、気にはしない。
 今にそんなことを気にしている余裕などなくなるのだ。
 男鹿は自分の軍服のポケットに忍ばせていた小瓶を取り出す。蓋を指で押し開け、背を無理矢理押したせいで突き出された古市の尻に、小瓶の口を捻じ込んだ。
「なっ…なにやってんだよ!」
「だから言っただろ。拷問以外のやり方で口を割らせるって。黙ってろ。すぐに効いてくる」
「効いて……って、何入れてんだよッ!」
 慌てる古市の耳元に口を寄せ、男鹿はふっと笑った。
「お前が気持ちよーく、何もかもしゃべっちまう薬だよ」
 行きがけの駄賃とばかりにべろりと首筋を舐めると、ひっと古市が息を飲む。
 古市も焔王軍の諜報部にいるのなら、それなりの知識はあるはずだ。尻に入れられ使う薬など、わずかしかない。
 小瓶が空になったのを確認し、古市の尻穴から抜き取ると、収まりきらなかった薬がだらりと太腿を伝う。粘性のあるそれがねとねとと落ちて行くさまは実に淫靡だ。
 男鹿はひとまとめに掴んでいた古市の手を、無理矢理後ろに回させる。後ろ手で手錠をかけ、怯える眼差しの古市にふっと笑った。
「後でもっかいくるわ」
 そんじゃな、とひらりと手を振り古市から手を離した。
「なに……何入れたんだよ……何の薬だよ、これ……なぁ…」
「あー? 言っただろ、気持ち良くなる薬だよ」
 男鹿はそれきり、狼狽した様子の古市には取り合わず、取調室を出た。ドアを閉めた途端、鉄のドアにどんとぶつかる音が聞こえたが、そんなものでがたつくようなやわなドアではない。
 逃げ出そうにも、唯一の窓には鉄格子がかかっている。
 懐中時計の蓋をぱちりと開き、大体三十分ってとこかな……、と検討をつけ、男鹿はにやりと悪魔の笑みを浮かべた。