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瀬木貴将インタビュー

瀬:瀬木
ス:編集スタッフ


ス:最近の瀬木さんの作品の中で、この『WILDLIFE』が一番好きです。聴いてすぐ「瀬木ワールドだ!!」って思ったんですが、どうしてなんでしょうね。

瀬:僕がここ十数年の間一番こだわってきたテーマで、97年にアマゾンをカヌーで5,000キロ下ってから大自然の中で曲を作るということを続けてきた。特にここ10年は、この「WILDLIFE(=野生動物)」と共にずっと曲を書いてきた。それの集大成なんだな。今一番やりたかった音楽を自由に表現できた。

ス:やりたかったこと?

瀬:大自然の野生動物から与えてもらって、自分の心から湧き出るような音楽。意図的な物は何もない。大自然の中で書いても、テーマが大自然ではなかった作品もあるからね(笑)。今回は「大自然に捧ぐ」というタイトル通り。

ス:瀬木さんにとって、大自然=野性動物ってことですか?

瀬:大自然全てだね。WILDLIFEは野性動物という意味だけど、旅して思った事といえば、僕は高度成長期に生まれ育って、日本が一番成長していく過程をみてきた現代人。建造物を例にとるなら、日本もすごいけどドバイなんて建築技術を駆使した素晴らしい建物があるよね。大自然というのはその好対照で、近代建築も美しいけど、人の手が加わっていなものはもっともっと美しい。飛行機から見るアマゾン、アフリカのサバンナ、ボルネオの熱帯雨林。そんなものが僕にとっての大自然。

ス:間にスペースが入らない「WILDLIFE」という単語を初めて知りました。

瀬:「荒れた人生」って言ったギタリストがいるけどね(笑)。

ス:この作品は全部大自然で書いたんですか?

瀬:テーマは大自然だけど、全曲を大自然で書いたわけではないよ。旅した時のある風景を思い浮かべて書いたものもある。

ス:一番美しい風景を思い浮かべて書いた曲はどれですか?

瀬:2曲目の「WILDLIFE」。雄大な黄金の草原に暮らしているところは本当に綺麗だよ。枯れた草原に太陽が当たって、金色になる。同じ風景の中でライオンがハンティングしていたら激しいビートの曲にするアーティストもいるかもしれないけど、僕にとっては動物達が自由に暮らす美しい景色なんだ。

ス:サファリをしていると危険なこともあると思うんですけど、それでも激しいビートの曲が思い浮かんだりはしないですか?

瀬:うーん。やっぱり思い浮かぶのは美しいメロディーかな。僕を癒し系なんて言う人もいるけど(笑)、激しい部分もあるんだけどね。癒すような曲を書いていても、僕自身が癒されている訳ではないから。

ス:なるほど。誰かの為に曲を書く事はあっても、自分を含む誰かを癒す為に曲を書く訳じゃないんですね。

瀬:僕はとっても不器用で、音楽がなければダメダメな人間だから、曲を書くとその時の精神状態が鏡のように映し出される。そういう内面をどうやって表現していくかが、僕にとっての曲作りかな。

ス:「WILDLIFE」を聴いたとき、曲が違っても全体的に「サファリに行こう」を聴いた時の感覚にすごく良く似ているなと思いました。

瀬:「サファリに行こう」も同じくナミビアがテーマだったからかな。ちょうどサファリに没頭しているところだったから、勢いとかドラマチックさを重視していたけど、今は客観的に見られるようになったところが少し違う。

ス:人としても変わったんですね。

瀬:うん。人として大分変わりました。あの頃迷惑をかけた方達、本当にごめんなさい(笑)。

ス:ところで、テーマが同じだから、受ける印象が似ているんでしょうか。

瀬:テーマもそうだけど、バンドの編成が近い。ギター、ベース、ピアノ、ドラム。曲によってはパーカッション、そしてゲストボーカル。あと、どちらも好きにやらせてもらえたこと。サファリの時は丁度(東芝)EMIに移籍したところで、大体移籍直後のレコード会社は僕の音楽をまだ100%理解していないから、自由にやらせてくれる傾向がある。だからかな?

ス:不思議なんですよね。色々な作品があって、瀬木さんが大自然を好きなのもずっと前から知っていて、「SAL Y AGUA」も「SICAN」も同じ人が作っているのに、「WILDLIFE」を聴いたら、「あ、瀬木貴将だ」と思えた。

瀬:今までCDを20枚くらい作って来たけど、一枚リリースするのに30~40曲くらい書いて、そこから10曲前後を選抜してきた。でも、今回は70曲以上作った。去年の3月に曲を書き始めて、すぐリリースするつもりだったのに、結局その3月の時点で完成した曲は「WILDLIFE」には2曲しか含まれていない。僕が昔共演したことがあるZABADAKの吉良さんという方がいるんだけど、吉良さんは僕からすると天才で、ポップスフィールドにいながら他にない独自のテイストを持っている。4月に吉良さんに再会して、「新曲が自分のこれまでの曲に似てしまう」と相談してみた。そしたら、「それが当たり前」と完全に肯定した答えが返ってきた。例えば、「友人が吉良さんのCDを買いたいと言っているんですけど、どれが良いでしょうか?」と聞いたら、「そんなの、一番新しい物が一番良いに決まっているじゃないか」と自信を持って答えてくれた。それを聞いて、肩の荷が下りた気がした。すごく楽になって、すらすらと曲が書けるようになった。

ス:新曲を書くのは難しいですね。

瀬:うん。新たなものを作らなくては、という苦悩が常にあった。それでも今まで自然体でいられたつもりだったんだけど、吉良さんと話してより自然体になった。吉良さんにはとても感謝している。

ス:今回の作品のメンバーについて教えて下さい。

瀬:今自分が日本でバンドを組もうと思ったときに、ベストなメンバーになるように集めた。ギターの鬼怒さんは僕がデビューする前からの付き合いで、その頃はまだ駆け出しのミュージシャンだったのに超絶技巧の早弾きギタリストで、20年経った今でも一番重要な時には彼に依頼したいと思っている。ピアノの榊原さんは、逆にここ数年一番共演しているミュージシャンで、毎年一緒にツアーして、それぞれの作品にも参加して、今一番僕の気持を分かってくれている人。ベースは僕の中での一番は大先輩であり恩師の一人でもある青木智仁さんだったんだけど、5年前に亡くなってしまった。そしたらポンタさんから「瀬木、今度コモブチと一緒にやろう。瀬木の音楽にピッタリだよ。」と話があった。以前、コモブチさんと共演したことはあったんだけど、ポンタさんの意図はよく分からなかった。コモブチさんはブラジル音楽が得意だから、そういう意味なのかな?と半信半疑に思っていたら、改めて一緒に演奏してみて、コモブチさんが青木さんのスタイルを継承しているミュージシャンだということが分かった。僕の音楽にとっては、という意味だけどね。

ス:確かに、最初はちょっと異色だなって思っていたんですよね。個人的にはコモブチさんの演奏も、あのアーティスティックな雰囲気も好きなんですけど・・・。

瀬:でしょ。今回、実はコモブチさんに全曲フレットレスベースでの演奏して欲しいと依頼してたんだ。

ス:フレットレスで演奏するってことは、どういうことですか?

瀬:フレットレスベースは名前の通りフレットがないから、音程が不安定。その分、遊びや変化の幅が広がる。僕のサンポーニャやケーナの音色には、カチっとしたものよりもちょっと遊びがあって、うねるようなベースサウンドがしっくり来る。音楽のジャンルにもよるけど、全曲フレットレスベースで弾くことは少ないと思う。

ス:コモブチさんは、派手なパフォーマンスはされないですけど、ライブで「ああ!今のかっこいい!!」という素敵なところが沢山あります。ポンタさんはいかがですか?

瀬:日本でのデビューアルバム「VIENTO」にも参加して頂いていて、もう一回本格的に一緒にやってみたいと思ってたから、今回の作品を作るのに一番最初に声をかけたのはポンタさんだった。僕の音楽のリズムを作ってくれたのはポンタさんだし、もはやポップス、ロック、ジャズとジャンルを超えて活躍するレジェンド的存在だね。

ス:ポンタさんのドラムだと、ボーカリストが歌いやすいと聞いた事があります。

瀬:うん。僕も吹きやすい。ポンタさんとの共演は、デビューアルバムから20年経って、自分を再確認するという意味もあるね。

ス:20年前の鬼怒さんやポンタさんはどんな感じだったんですか?

瀬:鬼怒さんはね、とにかく演奏が早くて勢いがあった。僕もそうだったけど、自分以外の人間は信じていなかったんじゃないか(笑)?で、ポンタさんはそんな僕らに「音楽は1人でやるもんじゃない。チームでやるもんだ!俺のことを信じろ!」と諭してくれた。ポンタさんは怖いと思われがちだけど、実はとても優しい人。僕は何かあるといつもポンタさんに相談していたし、ポンタさんはいつも力になってくれた。

ス:ポンタさんのここは凄い!というところは何ですか?

瀬:もちろん演奏も凄いんだけど、ポンタさんは門前払いをしない。一緒にやって欲しいという人と一度は共演してみて、そしたら僕には二度目があって、それが更に20年になった。僕と一緒に演奏するときは、ポンタさんに楽しんで欲しいと思ってます。そういえば、今回のレコーディングで「瀬木、PAINE(12曲目)のリズムはどうしたらいいんだ?」って初めてリズムパターンを相談された。だから、Aメロの8小節はポンタさんのリズム入ってないよ(笑)。

ス:角松敏生さんは、ポンタさんの紹介ですね。

瀬:うん。ゲスト候補が何人かいたんだけど、今回のプロデューサーが角松さんのファンで、ミーティングでポンタさんに相談したらその場で連絡してくれた。僕も角松さんの音楽が大好きで、カーステレオでいつも聴いていたし、角松さんがインストライブをする時に六本木ピットインまで行ったり。最高でしたよ。

ス:角松さんがピットインで??

瀬:歌う時はもちろんホールクラスだけど、インストはあえてピットインを選んでいたんだね。超満員で酸欠状態。インストライブだといわゆるフュージョン系なんだけど、やはりシンガーソングライターだから、どの曲もすごくメロディック。僕が持っている日本人のインストアルバムの中でも、角松さんの作品はトップ3に入ります。

ス:かなりワールドミュージックを取り入れている方ですよね。

瀬:2003年の「INCARNATIO」という作品が素晴らしくて、日本のアイヌ音楽とか沖縄音楽、神楽を取り入れていた。ポップスで最先端を行った方と思われがちだけど、それだけじゃないんだ。

ス:佐山雅弘さんとは久しぶりの共演ですね。

瀬:佐山さんとはここ4年くらい付き合いがなくて、あえて一曲だけ一緒に演奏したかった。リハーサルもなしでレコーディングしたんだけど、佐山さんの演奏は常に新鮮だし、一音一音がエネルギーに溢れている。でも、やはり4年のブランクがあったせいか、今まで佐山さんとのレコーディングはせいぜいテイク2までだったのに、なんと今回はテイク7までやった。

ス:それは意外!!!

瀬:でも、お互いの変化を感じたし、僕はそれが嬉しかった。

ス:昔別れた彼女みたいに、「会ったらなんて言おう」とか考えましたか?

瀬:笑。それはなかったな?。でも、幸いにしてこれから佐山さんと一緒にする仕事がいくつかあるから、すごく楽しみ。

ス:そういえば、鬼怒さんが「BEDOUIN(5曲目)」を聴いて「どうして瀬木君はアラブに行ってしまったのだろう」と言っていましたが、瀬木さんにとってアラブ音楽の魅力ってなんですか?

瀬:アラブにはドバイのような大きな都市もあるけど、大きな砂漠とそこに暮らすBEDOUIN族も大自然の一つ。そして何よりも、アラビックミュージックは今の僕にとって未知の世界で、ものすごく刺激的。あの音階を聴くだけで、違う世界に連れていってくれる。

ス:アラブの何を知っているわけでもないのに、あの音階を聴くとアラブのイメージが浮かびますね。

瀬:それは音楽の力だね。サンポーニャやケーナは楽器の力でアンデスやアマゾンを思い浮かべるけど、アラブはあの音階でアラブというものを想像させる。まだまだ僕はアラビック音楽の初心者だけど、もっと勉強してアラビックバンドと共演してみたいな。

ス:次のアルバムのテーマになりそうですか?

瀬:売れなさそう(笑)。できたら最高だけど。僕がね、最初にやろうとすることはいつも否定されてきた。サンポーニャでオリジナルを作ったり、スタジオミュージシャンの仕事をするのは無理だと周囲に言われてきたけど、これまで僕はやってきたし、45歳になっても続けている。だから、アラビックバンドとの共演もできる日が来ると思う。達成したときの自分を想像すれば近づけるし、出来上がったものを皆に気に入ってもらえるはず!

ス:乗り越えて無事に45歳になりましたね。元々はフォルクローレをやりたかった訳ですよね?

瀬:以前はフォルクローレおたくだよ。クレジット見なくても、どれが誰の演奏か聴けば分かる。でも、異色だと思われようが何だろうが、この素敵な音色でクラシックと一緒に演奏したら、ロックバンドで吹いたらと最初から考えていた。

ス:じゃあ、やはり実現してきたんですね。

瀬:残念ながら、NBAの選手にはなれなかった(笑)。

ス:二つも三つもは叶わないものなんですね(笑)。

瀬:でも、NBAにいたら、こんな素敵な音楽はできていないからね。

ス:トラ・ゾウ保護基金(JTEF)を支援するようになったきっかけは何ですか?

瀬:スキーの和田好正さんの紹介で知り合った弁護士さんで、公私ともに仲良くしている方がJTEFの理事をしていて、それがきっかけ。10代のころはフォルクローレ、20代はオリジナル作り、30代は誰かの為に音楽を書くことに没頭して、40代は野性動物の為に音楽を捧げたいと思って、色々なことをやってみた。アマゾンのピンクのイルカの前で演奏してみたり。イルカは僕の音楽を好きになってくれたみたいだけど、ナミビアのライオンはビックリして獲物を置いて逃げたし、シマウマには無視されたし、キリンは背が高すぎて僕の演奏は届かないし。でも何か僕にできることはないかと思って、JTEFに関わるようになった。去年のJTEF主催のコンサートの打ち上げの時、理事長に「WILDLIFE」の話をして、是非JTEFに協力したいと伝えたらとても喜んで頂けて、それが今回寄付という形になった。

ス:「WILDLIFE」というタイトルは随分前から決まっていたんですか?

瀬:うん。このタイトルで一枚作りたいと思っていた。

ス:コンセプトは限りなく近いですしね。

瀬:違和感なく作れました。野性動物や大自然から僕がどれだけの恩恵を受けたかを考えると、ごく自然で有意義なことだった。なかなか音楽と野性動物って接点がないと思うんだけど、こういう形で実現できてとても嬉しい。

ス:瀬木さんの音楽は、映像なしで音楽だけ聴いて大自然の光景が頭に浮かびます。これってすごいことだと思いますよ。

瀬:今回のCDのジャケットも、全てこれまで僕が見て撮影してきた本物だし、ここも楽しんで欲しい。

ス:一瞬、「これなんだろう?」って思いますね。小さい図鑑か?本か?って。

瀬:こんなジャケット他にないよね。とても気に入ってます。これ以上のものは作れないという気持ちで、ジャケットも中身も作ったから。

ス:7月21日には東京で発売記念ライブがありますね。

瀬:収録されている全13曲のうち、12曲は再現したいと思ってます。

ス:あの難しい「LABERINTO」はフルバージョンでやるんですか?

瀬:やる予定。自分で作った曲なのに難しくて吹けない(笑)。そういう僕の姿も楽しんで頂けるかと・・・(汗)。
発売記念として正式にやるのはこの一回だけだし、日本一のミュージシャンが集まってCD以上にライブバージョンというものを考えてくれて、本当にここでしか聴けないライブになる。アドリブ満載で僕も吹き捲くります。自分もお客様も満足できるライブになりますよ!是非楽しみにして下さい!