危険を承知でトラックを駆るマリオとジョー... 『恐怖の報酬』
1953年・フランス制作
ある種ニュー・シネマ的な雰囲気も漂うエンディング...
フランスで生まれた古典的なサスペンス作品
 このコーナー、今日は初のフランス映画の登場である。私が生まれるよりも前に公開された古典的サスペンス作品、『恐怖の報酬』をご紹介する。
 科学が進歩した現代においても火災は恐るべき現象である。先だって東京都で山火事に対する消火訓練が実施されたが、実際に火災が発生すれば簡単に消せるものではない。ましてや油田の火災になると火のネタが尽きるまで消えることがなく、資源を守るためには爆破による圧力で炎を吹き飛ばすしかないのである。『恐怖の報酬』もことの起こりは油田火災の発生である。
 ラス・ピエドラスは南米にある貧相な町である。ここは世界中から流れてきた、日々提供される日雇い仕事で稼いだ金を一晩で飲み代に使ってしまうような男達のたまり場であった。コルシカ人のマリオもそんな一人であったが、酒場の看板娘リンダと恋仲で、いつかは大きなヤマを当てて二人で新しい生活を始めたいと考えていた...。
 主役のマリオを演じるのはイヴ・モンタン。なかなかの優男でさぞかしアイドル的人気者だったのだろう、と思いきや、それだけではなく、歌手として下積みをつんだ彼はシャンソン界の女王エディット・ピアフに高く評価されるエンターテイナーでもある。なんといっても映画「枯葉/夜の門」で歌った主題歌「枯葉」は誰でも知っているスタンダードとして今でも人気が高い。一方リンダに扮するのはブラジル出身女優のヴェラ・クルーゾー。当時多くの作品でモンタンと競演した人気女優で、この映画の監督を務めたアンリ=ジョルジュ・クルーゾーの奥さんでもある(残念ながら1960年、40歳半ばの若さで心臓麻痺により死去)。
 そんな時、ジョーという男がパリから流れてくる。親分肌のジョーに男気を感じたマリオは行動を共にするようになる。そんなある日500キロはなれた油田で火災が発生。死者が大量に出るなど大惨事になっている状況で石油会社は爆破による消火を決定する。そして険しい山道をトラックでそのためのニトログリセリンを運ぶ有志を募り始めた。報酬は4千ドル。かくして選考の後、マリオとジョー、ルイジとビンバの2組が2台のトラックで現地を目指すことになった。だが次々と襲いかかる様々な困難... 不用意な振動を与えればニトロが爆発してしまう。巨大な石が道路を塞いでいる場面では万事窮すかと思われたが、ビンバの機転で何とかクリアできた。比較的平坦な道に出てホッと一息つくマリオ達。だが突然大きな音とともに爆風が吹いた。前を走っていたはずのルイジとビンバが乗ったトラックは跡形もなかった...。はたしてマリオ達は無事ニトロを現場に届けることが出来るのか?
 ジョーに扮するのはシャルル・ヴァネル。サスペンス物に多く出演した彼は『恐怖の報酬』時点で60歳を越えており、押し出しの強い貫禄のある人物にみせかけながら実はからきし意気地のないジョーという人物を演じて非常にいい味を出している。一方このあたりからの監督アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの演出もまた見事である。実にありがちな障害を正攻法で乗り越えていく人間達の姿をきっちりとしたカメラワークで捉えていく。その過程でマリオとジョーの立場が逆転しマリオの姿勢が微妙に変化していく様もまたきっちりと描いている。結果として『恐怖の報酬』はカンヌ映画祭でグランプリと男優賞(ヴァネルが受賞)、ベルリン映画祭でも金熊賞などを受賞した。
 非常に有名な映画であるから敢えて結末を書かせてもらうが、ジョーは途中で事故死しマリオだけが現場にニトロを届ける任務を達成する。報酬を受け取り上機嫌でリンダの待つ町へトラックを走らせるマリオ。だが何という運命なのか? 山道でハンドルを切り損ねたマリオのトラックは崖下に転落... 壊れた車体のサイレントな映像... ある種ニュー・シネマ的な雰囲気も漂う印象深いエンディング。尚、この映画は1977年、「フレンチ・コネクション」や「エクソシスト」で名を売ったウイリアム・フリードキン監督によりリメイクされた。本作でマリオだった役柄をロイ・シェイダー、ジョーだった役柄をフランシスコ・ラバルが演じた。物語は役名も含めかなりいろいろ変更されていたが運ぶのはやっぱりニトログリセリン。やはり油田の火災は吹っ飛ばして消すしかないのである...。
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