ブックカバー写真 『浮雲』
By 二葉亭四迷
現代のトレンディ・ドラマを見慣れた人なら鼻で笑う?
日本の近代文学の曙とまで評価される重要な作品
 今日は久々に日本の文学小説をご紹介しようと思う。時は明治時代、二葉亭四迷による近代文学の草分け的な小説『浮雲』について。
 二葉亭四迷は1864年に生まれ1909年、45歳の若さで没した小説家・翻訳者。こうやって西暦で書くと一体いつよ?という話になるので手帳の年号換算表を見ると1864年は載ってない。結局ネットに頼ったところ元治元年(?)だそうである。しかし何と言ってもこの人の代表作『浮雲』が発表されたのが1887年=明治20年なので明治時代の文豪ということになるだろう。ただし若くして亡くなったことも関係すると思うがこの人の作品、『浮雲』の他には「かた恋」「其面影」「平凡」しかない。
 さて『浮雲』。内海文三という静岡県出身の若者が主人公。江戸時代から明治時代に時が移り武士だった父は事業に転身したものの失敗し借金を残して他界。しかし勉学に秀でた文三は母親の計らいで東京の伯父で債権者でもある園田の家に引き取られ、今は運良く何かの役所に勤めながら借金を返済している。この家にはお勢というそこそこの器量の若い娘がおり真面目に勉学に励んでいるかと思えば、すぐに流行に乗り英語が流行れば英語を、裁縫が流行れば裁縫を習いにいく、といった調子である。お勢の母であるお政は口やかましく意地悪な女性だがやはり実の娘は可愛い様子。文三にはいつも嫌みなことばかり言うが、密かに文三を将来の婿に、と考えているようにも見える。
 文三もお勢に対してはまんざらでもないようだ。だが比較的無口で奥手な彼は思いを表現することが出来ない。お勢にちょっと冷たくあしらわれたり、相手にしてもらえない時があると心が張り裂けそうな気持ちになりぐじぐじする。だがまあ何とか日々は順調に過ぎていったが、ある日大事件が勃発! なんと、文三は役所から懲戒免職を言い渡され解雇されてしまったのである。その理由は定かではないが(一説によると上司の課長に媚びへつらわなかったためらしい。奥手のくせに頑固者なのである)、これがお政の気にいらない。ことあるごとに文三に辛く当たるお政。しかしまだお勢が気にしていないように見えたうちは救われていたが...。
 そんな文三の元職場の同僚で本田昇という男がいた。全く勉強家ではなく手を抜くことばかり考えている輩だ。だがとにかく要領が良く口が達者だ。以前からも時々園田家を訪れていたが、どうやらお勢に横恋慕したか、文三免職事件を境に頻繁にやってくるようになる。お政には巧みにおべっかを使い、夕方に現れたかと思えば最近話題の鰻丼の出前をするなどとにかくそつがない。そんな本田といちゃつくお勢に文三が余計なことを言ったため、お勢まで敵に回してしまった文三、再就職もままならず下女のお鍋にまで邪険にされて万事休す。果たして文三の恋の行方は...?
 二葉亭四迷と言えばこれ、これと言えば四迷というぐらいの代表作である。だが現代のトレンディ・ドラマを見慣れた人なら鼻で笑いそうな内容だ。でも内容はさておいて、この『浮雲』は日本の文学史上大変革命的な作品であったという。それは“言文一致文体”で書かれた当時では珍しい作品だからである。日本の文学はここまで平安時代に完成した“文語体”で構成されてきた。話し言葉に近い口語体で物語を構成された『浮雲』は日本の近代文学の曙とまで評価される。
 それにしても文三、情けねぇー? でも私は文三の気持ちは良く解る。何故なら同じような性格だから。でも思えば私たちが少年だった時代は文三がスタンダードだったのだ。本田みたいなヤツは高度成長期を迎えるに連れて幅を利かせはじめた新種かもしれない。そういった面も意識しながら読むとまた独特の味わいがある小説である。
 ちなみに二葉亭四迷は東京外国語大学ロシア語学科にいたことがあり(途中退学。理由は学長が嫌いだから???)、ロシア語が堪能でツルゲーネフなどのロシア文学に陶酔、「めぐりあい」「あいびき」を邦訳した翻訳者としても有名である。私も某外国語大学でロシア語の単位取りましたけど? どうせ本田みたいに要領かまして取ったんやろ、て? はーお後がよろしいようで。
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