3月1日に想う





     
あれは中1の時のオレの誕生日・・・佐為と出会ってまだ間がねえ頃。




佐為は不思議そうにテーブルの上に置かれたケーキをしげしげと眺めてた。

「ヒカル なんなんですこれ?」

「これはだなあ・・・。」

オレは佐為にケーキは甘くて美味しいってことは言わないで
誕生日を祝う時に食べるもんだってことだけを説明した。


だって旨い〜なんてちょっとでも口にすると、『私も食べてみたいです〜』
なんて恨めしそうに言うんだぜ。

お化けのくせにだろ?
これ以上とりつかれて妙な目に合うのはヤダったからさ

あの頃のオレは佐為を邪険にしてたんだ。


「なんだかとっても柔らかそうですね。ふわふわな雪みたいですよ」

佐為のやつは触れもしないケーキを掴もうとしてた。

「そうそうクリームは雪みてえに溶けるんだ。だから触るなよな。」

うっと喉を詰まらせながら佐為はケーキに触れるのを諦めてた。
まったくこういうところだけは律儀なんだから。

 
「ところで佐為お前の誕生日っていつ?」

聞いてみたのは単なる好奇心だったんだけど、佐為は困った
ような顔をしてた。

「忘れてしまいました。」

「忘れたって?」

あの頭のいい佐為が?歴史や碁のことは千年前のことだって
覚えてる佐為が?自分の生まれた日をしらねえなんて。

そりゃあ、英語は話せねえし、現世のことはからっきし
わかちゃいないってのは知ってたけどさ。

なんだか聞いちゃいけない話だったような気がしてオレは慌てて
話題を変えた。


「そういやお前平安時代に生まれたんなら血液型なんてしらねえよな。」

「けつえきがた?なんですそれは?」

オレは人の体に流れてる血液にはそれぞれ型ってのがあることを
説明した。
佐為は興味深くオレの話を聞いていた。

「それじゃあヒカルは何型なんです?」

「オレはO型。O型はおおらかなやつが多いんだってよ。
筒井先輩もこの間O型だっていってたぜ。」

へえっと関心した佐為が目を輝かせた。

「じゃあ加賀くんは?」

「加賀はA型だってよ。A型は几帳面で自分に厳しいらしい。」

「なるほど。なかなか合ってますね。それじゃああのものは・・?」

佐為がいうあのものとは塔矢名人のことだけど。
そんなことまでオレが知るはずねえって。

オレがそう言うと佐為のやつがっかりした表情になってオレは慌てて
取り繕った。

「でもさ、塔矢のやつはオレAB型だと思う。だってあいつ頭いい上に
2重人格だからさ。」

頭がよくて多面性があるやつにはAB型が多いっていうと
佐為もいかにもってかんじで納得してた。

「では私はどのような血液型なんでしょうか?」

「佐為の血液型?」

えーっと。オレはめいいっぱい頭を張り巡らせてみたけれどどうも佐為の
血液型だけは思い浮かんではこなかった。

「ねえねえヒカル。どうなんです?」

佐為は期待に満ちた目でオレの返事を待ってんだけど。

「う〜ん。佐為の血液型はサイ型ってのじゃだめか?」

言った後オレは適当にでもちゃんと応えればよかったと後悔した。

だってそれを聞いた佐為は呆然として、そのあとうるうると
瞳を潤ませたのだ。

「ひどいです〜ヒカルときたら私をからかったんですね。」

それはまさにお化けに『やらめしや〜っ』て言われているようで
オレは慌て首を振った。

「違う。違うって。ほらもう泣くなよ。」

全くお化けの癖に世話がやけるというかなんというか・・・。

「しょうがねえじゃん。お前の血液型は調べようがねえんだし
そのかわりオレが佐為の誕生日を決めてやるから。」

オレがそういうと佐為はようやく機嫌を直して顔を上げた。
よしよし、いい感じだよな。

「そんじゃあ、サイだから3月1日なんてどうだ?」

言ってしまったあと安直だったか?って思ったけど佐為は嬉しそうな
顔をしてた。

「三月月(やよいづき)ですか。私は大好きですよ。春の訪れを待つ
草花のようで。」

「そっか、そっか。じゃあ3月1日はオレが佐為にケーキを買ってやる。
それで好きなだけ触らせてやるからな。」

「本当ですか?」

「ああ。男に二言はなしだぜ。」

現金なもので佐為はオレの周りを犬っころみたいに跳ね回ってた。







あれからもう6年目の・・・・3月1日。
かげろいでいく佐為との思い出。過去の記憶・・・

そしてこれからも佐為はオレの傍にいないという事実。



それでもオレは叫んでる。
お前はちゃんと存在したんだって、
幻じゃねえって、

これから先もずっと、この道を進むことで。

お前の存在を示したいんだ。

それにお前を追って碁を打ってるやつはオレだけじゃねえんだぜ。

塔矢先生もそして・・・あいつも。だからさ・・・。






不意に思い出したようにオレは聞いてた。

「そういやお前って血液型なに?」

「僕はAB型だけど・・・。」

あの時の会話を思い出してオレは笑った。

「いきなり失礼だな。君は。」

「わりい。そんな気がしたんだ。」

オレがケーキ屋の前で立ち止まるとお前はちょっと驚いてた。

「市河さんへのお土産にケーキ買っていこうぜ。」

そうそうこういう時お前はオレのイキナリな行動にいつもついていけな
いって顔をするんだ。

しかもオレがホールのケーキを選んだのがかなり不本意だったみてえ
で目をつりあげてさ。
それでも付き合ってくれるのはお前のいいところだよな。

碁会所の客と一緒にケーキを食って、その一切れをオレはそっと見えない
相手に差し出した。



誕生日おめでとうな。佐為。



見えないあいつが微笑んだような気がした。




3月1日を佐為の日にするなんて素敵な企画ですね。

そして、思いがけず、佐為の日にお声を掛けてくださったさびる様と
佐為人様に感謝。沢山のお話やイラストが集まるといいですね。

     





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