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BOY&GIRL


13



またしても飛びました(汗)
ラスト:女の子だった男の子になったヒカルの世界から始まります。




 
棋院からの帰り・・・俺の足取りは重かった。

オレの気持ちをあらわすように
空は今にも雨が降り出しそうな雲行きなのにオレはどうしても
家に帰る気になれなかった。


公園のベンチで腰を下ろすと今まで遊んでた子供たちが親に連れられて慌てて
家路に向かってた。
雨が降り出すのかもしれねえな。

そんな様子をぼんやり眺めながめていたら大粒の雨がぽつりぽつりと
落ちてきた。

やばい。そう思ったときにはもう遅かった。
まさにバケツをひっくり返したような雨が振り出し
オレは慌てて公園の片隅にあった公衆電話のボックスに駆け込んだ。


遮断された雨と音。瞬間視界がぼやけた。

泣き出しそうになる胸を抑えるように俺は雨が来る高い空をみた。
けれどそれは頬を伝い落ちてきた。

「ここの所オレ泣いてばかりだ。」



この大雨の中をカサカサと足音が聞こえてオレは近づいてくる音をみた。

なんとなく見なくてもその相手はわかった。
心臓がドクンと大きく音を立てた。
オレが今一番会いたくて会いたくない人がそこに立っていた。


「とうや・・。なんでお前こんな所にいんだよ?」

そういいながらオレは本当はここで塔矢を待ってたんだって思う。

「どうしても君に今言わなくてはいけないと思ったから。」

くぐもった塔矢の声がガラス扉のむこうから微かにした。

「追ってきたのか?」

オレがそう聞くと塔矢は返事の代わりに笑ったような気がした。

「進藤・・。」

オレはその続きを遮った。

「やめろ。聞きたくねえ。」

「しんどう・・!?」

「頼むからいうな。聞きたくねえんだ。」

お前が言おうとしてる事ぐれえオレだって想像がつく。
けどオレはそれに応えられねえ。
だから・・・けど
オレがさえぎる前に塔矢はそれを言っちまってた。

「進藤、君が好きだ。」

いっそ雨音にかき消されて聞こえなかったことにしてしまいたかった。
けどオレにはそうすることができなかった。

「オレ好きなやつがいる。」

そういうと塔矢の表情が翳ったのがわかった。


「そいつは・・・言い出したら気かねえ頑固野郎でいつだって突然
オレの前に現れる神出鬼没なやつでその上キザでおかっぱでオレの生涯の
ライバルで・・・けど・・それはお前なんかじゃ・・・・」

ない・・・そういう前に公衆電話の扉が開いていた。

「進藤・・」

いきなり強く抱きすくめられてオレは唇を奪われていた。
オレは狭い空間でドンドンと何度も塔矢の背を叩いた。
けど塔矢は許してくれなくてオレはやがて降参するように塔矢の背にぎゅっと
しがみついた。

「とう・・・や。」

「進藤 好きだ!!」

はっきりと塔矢はもう1度そういと堰が切れたようにオレの唇を奪った。

本当はずっとこうしてえって思ってた。
好きだといって欲しかった。
オレはお前の知ってる『進藤ヒカル』じゃねえ。

けどお前は塔矢だってわかってたから・・。


そう認めた瞬間オレの意識が遠のいた。


「進藤、進藤!!」

オレを呼ぶ塔矢の声がする。
けどオレはそれに答えることが出来ない。

応えられない声のかわりにオレが手を伸ばすと
塔矢はしっかりとその手を握りしめてくれた

その手はとても温かかった。






オレが目を覚ました時オレはそこがどこなのかわからなかった。
オレの目の前には白衣を来た看護師さんらしい人と塔矢がいて
オレは事情が飲め込めなくて辺りをキョロキョロと見渡した。

「進藤、良かった。」

突然塔矢が瞳を潤ませてオレの肩を抱いたのでオレは固まった。
いくら婚約者だからってこんな公衆の面前ですることじゃないはずだ。

「あのな塔矢いくらなんでもって、お前なんでこんなに肩濡れてんだ?」

「覚えてないのか?雨の中君が突然倒れてそれで僕が救急車を
呼んだんだ。」

「そうなのか?」

ってあれ?
雨ってなんだ。オレ塔矢と一緒にマンションにいたはずじゃあ??

オレはこの時になってようやく自分が着ている服装に気づいた。
これオレが今日来てた服じゃねえ?

おれは恐る恐る自分の胸に触れてみた。
そこは薄っぺらだった。



オレはストンと何かが落ちたような気がした。
戻ってきたんだ。

嬉しいはずだった。戻りてえそう思ってたんだから。
けどなんだかわかんねえけど寂しさも感じたんだ。


よくよく見るとココは病室の中だった。
塔矢から事情をきくとオレは急に気を失って倒れたらしい。

オレはなんか昔佐為に出会ったときに気を失って救急車で運ばれた時の事を
思い出していた。
もっともあの時も今日も救急車に乗った記憶はねえけど。


オレが目を覚ましたあと医者が来て診察してくれた。
塔矢はその間ずっとオレの傍にいてあれこれ世話を焼いてくれた。

オレはどこにも異常がなかったけど様子見で1日入院することになった。
塔矢が母さんに連絡したっていうからもうすぐくるんだろう。

医者と看護師がさって病室に塔矢と二人きりになるとオレは
黙っていられなくなった。


「オレな、夢見たんだ。」

「夢?気を失ってるときに?」

「ああ、お前の夢。」

夢の話なら許されるんじゃないかって何となくそう思ったんだ。
オレが笑いながらいうと塔矢は言い出しにくそうに言葉を捜してた。

「ひょっとしてさっきの事も夢で済まされるんのだろうか。」

「さっきの事?」

オレが聞き返すと塔矢は困ったように表情を落とした。

「僕が君の事を・・。」

オレは塔矢が言おうとしてることがなんとなくわかった気がした。
そっか。あいつも想いを告げたから戻ってこれたって事なのかも
しれねえと。

だとしたらオレは塔矢が何と言ってオレに告白したのか気になったし、
あいつがなんと返事したのかも気になった。
だからなんとなく意地悪くいっちまったんだ。

「そうだな。それも夢にしちまおうかな。もう1度塔矢がはじめからオレに
ちゃんと言ってくれねえとな。」

案の定塔矢は顔を真っ赤にしてた。
けどオレの誘いには乗ってこなかった。

「進藤、君は僕をからかってるのか?」

病室で怒鳴り声を上げた塔矢にオレは苦笑してシ〜と指を立てた。
塔矢は我にかえって気マズそうにしていた。

「それで君が見た夢っていうのはどんな夢だったんだ?」

オレはやっぱりこの夢は言わないでおこうと思った。
だっていっちまったら本当に夢になっちまう気がして。

「内緒。」

「進藤!!」

今度は声を抑えてたけど相変わらずその声は大きかった。
オレは苦笑するといってやった。

「そうだな。いつか俺たちが祖父ちゃんに
なってもずっと一緒にいたらさあ、そん時話してやるよ。」

「まあお前が覚えてたらだけどな。」
オレがそう付け加えると塔矢は顔を真っ赤にした。

「進藤・・・それはつまり・・・・・。」

ますます顔を真っ赤にしてうろたえる塔矢にオレはそんなに変な事を
言っただろうかと考えてみる。
そして改めて気づいた。
ひょっとしておれすげえ事いった?『祖父ちゃんになってもずっと
って』・・・プロポーズみてえじゃん。

オレは自分の言った意味に今更気づいてあたふたした。
すると塔矢が笑った。


「ああ。君とずっと一緒に歳をとっていくよ。そしていつか必ず聞く。
サイの話も含めてね。」


俺たちは顔を見合わせてもう1度笑った。







それからっていうかオレはたびたび向こうの世界のオレと入れ替わるって
その都度周りを巻き込む事になっちまうんだけどそれはまた別のお話。






                                           END
   

 
 





あとがき

書き終えて最初から読み直してみました。
それで読者が私一人つうのも悪くないかなあ〜などとと思ってました。
何となく贅沢な感じがしませんか?(いえ、まあ強がりです 笑)


そうですね。もし何かご縁があってこのお話を最後まで読んで下さった方が
いらっしゃったら大変ありがたいです。それで些細な事でも心に留める所
があれば嬉しいですね。時間の無駄だったっなて思われなければそれで。

・・・まあそんな感じです(笑)


                     2006・9月1日 堤緋色

 
                           





 
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