続・BOY&GIRL

(ヒカルとヒカル)









     
 
緊張も、気恥ずかしさも心地よい疲れの前に消えていく。
オレは慣れない腕の中で微睡に落ちようとしてた。


お前はオレを選んだけど・・・。

もし・・・今この世界にオレとお前が同時に存在したらオレは
やっぱり塔矢の事諦めたろうか?

あいつは女だし、塔矢と一緒になるのは自然な成り行きだと思う。
だからオレはハナっから諦めて二人の傍で一人で勝手に傷つくのだろう。

想像するだけで胸が痛く・・・傍にいるはずのアキラが遠くなる。

そんな事を思って自笑するように笑った。
そんなのはあくまで仮定だ・・・・。





引き込まれるように落ちたその先は、どこか見覚えのある公園の入り口
だった。




「なあ、ヒカル、こっちこっち」


風を切って通り過ぎた自転車が高くて、見上げるように追いかけた。
それでやけに目線が低い事に気付いた。
オレは誰かに手を引かれていた。

「待てって、そんなに慌てなくてもいいだろ」

そう言ってオレの手を引く相手の背を見た。
見に覚えのありすぎる小さなその背。髪・・・声、しぐさ。

「ひょっとしてお前・・?」

「なんだよ、どうかしたのか」

オレの手を引いていたのは小さなヒカルだった。それも女の子だ。
どうしてそんなことが分かったかって。それはオレそっくりだったから。
そして彼女はちょっとませたワンピースを着ていた。

「全く母さんたちサイテーだよな。オレたちの事邪魔だって追い出してさ。
もっと家の中探検したかったのに」

この先の公園・・・この記憶・・・。
オレはこの時になって思い出した。

母さん方の祖父ちゃん家に行った時のだ。確か法事でオレが家の中を
走り回るから邪魔だって追い出されたんだ。
でもなぜヒカルと二人?

ヒカルが足を止めオレの顔を覗き込む。

「なあ、ヒカルってさっきからぼっとしてどうしたんだよ」

「えっ?ああ、別にこれ夢だよな?」

またあいつと夢を、記憶を共有しているのだと思ってオレは納得する。

「何言ってるんだ?」

ヒカルは笑って取り合おうとしなかった。ヒカルが腕を思いっきり
ひっぱった。

「ほら、早く行こうぜ」

それはまんまオレの仕草だった。



二人は公園の前で足を止めた。

公園には自分たちと同じか、少し大きな子供たちが遊び回ってる。
その子どもたちには付き添いの親が傍で見守っていた。

それにオレは少し戸惑いを覚える。
行き慣れた公園ではない。
どこかよそ者のような気がしたのだ。これは大人のオレの感覚
かもしれないが。
だがヒカルはそんな事気にしてる様子はなく、興味しんしんだ。

「ここの公園色々あるぜ、行こっ」

無理やり近く引きづりこまれてやむなく相手をする羽目になる。

まずは滑り台を何度かすべり砂場へと場所を移し砂で山を
積み上げる。一生懸命『ああだ、こうだ』と砂を積み上げる「ヒカル」
は、せっかくの洋服を砂だらけにしてる。
きっとこの後母さんに怒られるだろう」とヒカルが思ったのは
単なる記憶なのかどうかわからなかった。



ふと顔を上げると公園の入り口に長身の青年に
手を引かれたおかっぱ頭の子供が入ってきた。

オレは息を呑んだ。
一目見た瞬間分かったのだ。あれは子供の頃のアキラだ。
小さなころのアキラなど見た覚えもないし、今まで
想像もつかなかったが、あいつはそのまま子供になったような風貌で
内心苦笑した。

オレはヒカルを突いた。

「あっち行こう」

「えっ?ヤダよ、もう少しで山が出来るのに」

アキラと長身の青年は公園を見回りながらやがてこちらに足を向ける。

胸がドキドキ高鳴る。
こんな記憶をオレは知らない。

オレは目が合わないよう下を向いたがこちらに向かってきた足音で
ヒカルの方は視線を上げた。
長身の青年が話かけてきた。

「君たち双子かい、二人とも女の子・・・?じゃないか?」

女の子と言われた事にカッとしたと同時に、長身の相手の声で相手が誰だか
わかった。
緒方だ。
アキラはすぐにわかったのに緒方は声を聴くまでわからなかった のは
雰囲気が今と随分違ったからだ。



「オレたち双子だけど、ヒカルは男の子だよ」

ヒカルの返答にオレは内心で「えっ?」っと思う。
当然のようで必然ともいえるかもしれないが。オレとヒカルが双子
だと受け入れるのに少しかかった。

「性別が違うのにそっくりなんだな。名前は?」

「二人ともヒカルだよ」

当然のようにそういったヒカルにオレは唖然とした。
双子で同じ名前なんて安易でややこしすぎる。

「僕は塔矢アキラ」

一目見た時からわかっていたはずなのに心がドキドキする。

「でも双子で同じ名前なんて面白いね。ややこしくない」

当然の指摘を受け、手を差し出したアキラにヒカルは微かに頬を染め、
握り返す。

オレはそれにあまりいい気せず目をそらすと今度はアキラはオレの前に
も手を差し出した。

「ヒカルくんも」

「えっああ」

やむなく砂のついた手を払いアキラの手を握る。
相変わらず子供のくせに律儀で礼儀正しいのがアキラらしい気がした。

「アキラくんはあまり同じ年頃の友達がいなくてな。よかったら
友達になってくれないかな」

「友達がいないのか?」

ヒカルのその質問にアキラは苦笑した。

「うん、僕あまり公園に遊びに来たことがないから。君たちは
ここによく来るの?」

「ううん、オレたちも初めて、祖父ちゃん家のほーじとかで。オレたち
邪魔なんだってさ」

「そうなんだ。僕と同じだね。」

「アキラもほーじなのか?」

「僕は法事ではないけれど、大人の話し合いには入れてもらえなくて」

ヒカルとアキラがすっかり打ち解けて会話するのをオレはなんとなく
やり過ごす。
すごくやりづらい。
なのに空気を読めないヒカルはオレの服を引っ張ってくる。

「ねえねえ、ヒカルってばさ、さっきからなんで入ってこないの?」

「えっ、だってさ、」

「ひょっとして妬いてるとか?」

「はああ!?」

すっとんきょんな声を上げたのはそれが満更違うとは言えないからで。
だからって肯定するわけにもいかない。

「な、わけねえだろ」

オレが顔を真っ赤にすると、アキラがくすりと笑った。

「仲がいいんだね」

「うん、オレとヒカル仲良しだよ。ここだけの話だけど・・。」

ヒカルが小さく声を潜める。

「オレさ、大人になったらヒカルと結婚するんだ」

隣でオレは吹き出した。

「・・・しねえよ、そんなの」

いや、出来ない・・・と心の中ではっきり断言する。

「なんで、結婚するってチューするのに」

ヒカルは本気で顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。
チューって・・・。
同じ顔の、同じ声で・・・オレたちただのナルシストだろ!!
そんな突っ込みをして、ヒカルを見ると泣き出しそうだった。

「えっと、あのヒカル・・」

今更ながらオレは失言だったかもしれないと思う。

「あっいや、だってさ」

とはいえ、どう宥めていいかわからずオレは頭を掻いた。

「人前で恥ずかしかったんだよね?」

アキラにフォローを入れられるとは思わず、それに相槌つ。
なんか色々複雑だ。

アキラはオレとヒカルの手を取ると、手を握らせた。
その手はまだ小さくて柔かかった。

「これで仲直りだ」

「うん、」

嬉しそうに笑うヒカルにオレは「まあいいか」っと思う。
これはこれで三角関係と言えなくない。

「じゃあさあ、次は鬼ごっこしよ、アキラも一緒に」

さっきまで泣き出しそうだったヒカルはもうケロッとして、
唐突に決めてしまう。
それは子供らしく、自分らしい気もした。

「鬼はヒカルな」

「オレ?」

ジャンケンで決めないのか?と思いながら自分は大人なのだから
細かい事を気にしちゃいけないだろうと心を宥める。
もっとも今は体は子供なわけだが。

「わかった」

アキラがオレの顔を覗き込む。

「いいのかい?」

「ああ、別にオレ追いかけるの嫌じゃねえし」

言ってしまった後、なんか妙な気分になった。

『追いかけるの嫌じゃない・・・か』
心の中でもう1度つぶやいて苦笑した。

「ヒカル、オレたち逃げるぜ」

「ああ、」

数を数えるふりをして二人の姿を追う。楽しそうに笑うアキラもヒカルも
小さすぎてやきもちすら湧かなかった。

もうそろそろいいだろうと思って歩き出す。

確かこの辺に隠れたはずだと、ヒカルはチューブの並ぶアスレチックを覗く。
大人ではもぐりこむのに大変そうな大きさだ。
たまには子供に戻るのも悪くないかもしれない。

オレがチューブに入り込むと、カンカンと走り去る音がした。
音を察してチューブから出たかもしれない。他の子供たちもいて暗いし・・・。
狭いチューブで走るのは危険だと思い、用心深く歩く。

『ヒカル〜いるの?』

チューブ内にヒカルの声の甲高い声が響く。
鬼ごっこで『いるの?』と聞かれて『いる』と返すのは子供だろう。
その後、アキラの声もしたが
跳ね返った声は何を言ったのかわからない。
どうやら二人は一緒にいるようだ。

そのまま歩き進めると角で唐突に人の気配がした。その瞬間オレは
その人物とぶつかりそうになり身を引いた。

「えっ!?」

柔らかな感触が唇に当たる。

なんで?ぶつかるって言ったら普通頭か顔だろ?
咄嗟に後ろに下がろうとしたらそいつは事もあろうに前に前進してきた。
なんとか唇は解放されオレは怒鳴った。

「だ、誰だよ。お前?」

パイプの中で音が反響する。

「ヒカル・・・くん?」

声の主でアキラだとわかってオレは体中がカっと熱くなったようだった。

「お前今のわざとだろ!!」

「なんの事」

「とぼけやがって」

来た道を戻ろうとしたら後ろからすでに別の子供が入ってきており、
アキラが塞ぐ道を行くしかない。

「どうしたの。アキラ、ヒカル?」

姿は見えないがアキラの背後からヒカルの声がする。

「なんでもねえよ。鬼はアキラになったからな」

オレはそう言うなりアキラを押しのけその角から外を目指した。
今の感触ってオレの勘違いか?オレの意識しすぎか?
でも・・・。

外が見えて一気に外に出ようとしたら、眩しくて今度は思いっきり
頭をパイプに打ち付けた。

「痛え」

思わず頭を押さえて蹲る。後ろから追って来たアキラとヒカルが駆け寄る。

『ヒカル!!』

『大丈夫か!!』






オレは気づいたら、公園のベンチで頭を冷やされ寝かされてた。

「大丈夫か?」

オレの目の前にはアキラと緒方の姿があった。

「あれヒカルは?」

「お前の片割れなら、お前の親を呼びに行った。半泣きでお前の
事すごく心配してたぞ」

その光景は目に浮かぶようだった。

「うん」

今更ながら一番オレが大人気なかったような気がした。
アキラは何か言いたげに口を開けたが緒方がいた為か
濁した。
それに気づいたのか、緒方が立ち上がった。

「タオルを取り換えよう、冷やしてくる」

緒方が立ち去った後、アキラはようやく口を開いた。

「ごめん、僕のせいだ」

「オレのこの怪我の事か?だったらオレの不注意だから
お前が気にする事じゃないだろ」

「でも・・・。僕が・・」

「だったら聞くけど、あの時お前・・・その・・・」

オレは聞こうとしたことがあまりにも恥ずかしすぎて
口ごもった。それに・・・。
当たったのが唇だったとしてもそれはただの事故だ。
キスじゃない。

「あれは・・・」

アキラの言葉を最後まで聞く前に公園の入り口からヒカルと
母さんが走ってくるのが見えた。
アキラの口が僅かに動く。

「・・・偶然じゃない」

「えっ?」

見上げるとアキラは顔を朱に染めていた。オレは小さく溜息を吐いた。

「お前オレでいいのか?間違えてるだろう」

「君だからだ」

胸が熱くなる。

オレの夢だからオレの都合よく出来ているのかもしれない。
けど、その言葉を聞けただけで今はいい。



「ヒカル大丈夫なの」

走り込んできた母さんはオレが思ってる以上に大きくて、若かった。
そういや子供のころはこんな髪型してたっけ?

そんな悠長な事を思う間にもぶつけたおでこを母さんが擦る。
後ろから来た緒方が事情を説明して、とりあえず病院に行くことに
なりそうだった。

ヒカルは心配そうにずっとオレの傍について手を握ってくれた。
本当にオレの事が心配で堪らないのだろう。自分の出来ることを
必死にやってくれた。

「ヒカルごめんな、心配掛けたよな」

ヒカルはぐすんぐすん目に涙を潤ませてた。
その健気な姿に可愛いと
思ってしまったオレはやっぱりナルシストかもしれない。

「泣くなよ。オレこのぐらい平気だから」

「チューしていい」

「はっ?」

オレは思いっきり間の抜けた声を上げてしまった。
断る間もなくヒカルがオレにキスする。
それもマウス テゥ マウスのちゃんとしたやつだ。
動けないオレはまんま、ヒカルのキスを受け入れた。

その様子を見ていた緒方が苦笑した。

「これはアキラくん諦めた方がよさそうだな」

「それは貴方の方では?」

「オレはお前が選ばなかった方を選ぶさ」

「ご冗談を、僕は二人とも幸せにしますよ、もっとも今は
まだ・・・。」

アキラはオレを見た。その姿はオレの知ってるアキラで、
ぬけぬけとそんな事を言ったアキラが急に憎らしくなる。
さっき言ったことはウソだったのかよ?

「馬鹿だな、お前、ヒカルはオレが幸せにする。
結婚の約束もしてるんだからな。お前にやんねえよ。
もちろん緒方さんにも・・・」



そういうとオレは自分からヒカルにキスをした。





                                     おわり
   

                                


BOY&GIRLシリーズより、ひっそりさんのリクエスト
『男の子ヒカルと女の子ヒカルのヒカヒカなカップリング』という
事で・・・。ヒカル×ヒカルのCPです(滝汗)

それにしてもお客様の発想力って逞しいな(嬉)
ありがたいことです。

さて次は何を書こうかな〜。
次の作品も縁ある事を願って     2013 11 1 緋色

 
 



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